仕事は効率化して、地域を楽しむというモチベーション

徳島県の神山町の名前をしばしば耳にする。山間の地方に都会のIT企業が続々とオフィスを移し、移住者も増えている。そういう印象がある。

そういえば、数年前に四国を旅行したときに神山町にも立ち寄った。そのときは温泉に入って、商店で買い物をしただけで、とくになにか先進的なものは感じられなかった。椎茸がたくさん売られていたのを覚えているくらいだ。

実際のところ、どんな感じなんだろう? そう思って
神山プロジェクト 未来の働き方を実験する』という本を読んだ。

この本は、神山町が今のようになった経緯、現在の様子、そして将来の展望までをまとめたものだ。著者は日経ビジネス関連の記者(編集者)で、実際に神山町に足を運んで、キーパーソンから話を聞き、その雰囲気と実情を伝えている。

意外だったのは、神山町の取り組みを支え引っ張っているのが、言ってみれば地元のおじさんおばさんたちだということ。てっきりもっと若い、例えば30代くらいの人が主導になっているのかと思ったら、中心となっているNPOののメンバーは主に50〜60代の人たちだった。その人たちが何年も前から「神山をオープンにしよう」「世界の神山にしよう」と地道な活動を続けた結果、今に至っている。

NPOの中心人物である大南さんは、学生時代シリコンバレーに留学していたことがある。神山町での活動はシリコンバレーで感じたことの影響が大きく、「グリーンバレー」というNPOの名前もそこから取られている。サテライトオフィスを構えるIT企業の社長にもシリコンバレーで働いた経験を持つ人が紹介されていた。そういうシリコンバレー的なものと日本の地域性をうまく融合させているのが、神山町なのかもしれない。

移住者の多い地域というと、なんとなくヒッピー的な人が多かったり、勉強の一環といった若者が集まってそうなイメージがあるけど、地元のおじさんおばさんが中心というのは土台がしっかりしている。著者がまとめているように「ベクトルと継続性」がしっかりしていれば、変化は起こるということなのだろう。それはB級グルメのような一過性のものではなく、持続可能なものだ。「おもしろい人が循環していけば、新しいことはいくらでも生まれる」と大南さんの言葉には説得力があった。

また、著者が「日本のオフィスワーカーの生産性は、世界に比べて低いと言われている。この問題と地方の衰退の問題をまとめて解決する答えが、神山で生まれるかもしれない」と書いているように、「効率化」と相性がいいのもおもしろいと思った。ふつうは地方に移住というと、農業や地域おこしのような活動をイメージするけど、神山ではあくまでビジネスはビジネスであり、IT企業の経営者にも「経済的合理性で考えてくれたらいい」と伝えている。ビジネスとして他と差別化できて優位に立てるから神山に来る、という流れができつつあるのかもしれない。

前に読んだ『クリエイティブ都市論』にも書いてあったように、企業は同じ方向性を持つ企業がいるところに集まる傾向がある。だからシリコンバレーにIT企業が集まるし、ニューヨークに金融が集まる。まさにそういう感じでグリーンバレーにも新しい働き方、ビジネスのあり方を求める会社が集まってきているのかもしれない。

ある企業の話では、対面営業を重視する顧客の比率がどんどん下がっているという。だから営業部隊も、神山のオフィスで働くことができるようになっている。

なんというか、お金を稼ぐ仕事はITを使って効率的に進めて、それ以外の時間を、地域を楽しみ、良くしていくために使う。もし自分がこういう世界に入っていくと考えたら、そういうモチベーションが働くのではないか。仕事と遊びの境界をなくそうというコンセプトではなく、仕事は仕事としっかり分けて効率化をどんどん図っていく。そして、それ以外の時間を自然豊かな環境のなかで充実させる。そういうスタイルが今後、増えていくのではないか。自分もそういうスタイルを漠然と考えているのではないか。そんなことを思ったのだった。

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