オリーブオイルの産地を旅したくなる

『エキストラバージンの嘘と真実』という本がおもしろかった。タイトルは不正を暴くというような感じだけど、中身は「オリーブをめぐる旅」といった趣きで、紀行文のように楽しめる。装丁もおしゃれで、イタリアやギリシャなど、オリーブの産地を訪ねて旅したような気分になった。

作者はイタリア在住のジャーナリスト。オリーブオイルのエクストラバージンといえば、最高品質を指す言葉だったけど、今ではマーケティング用語になり下がっている。低品質なオイルでもエクストラバージンと表示され、しかも安く売られるために、高い品質のオイルを作っている生産者は経営が苦しくなっているそうだ。

本来エクストラバージンオイルと認められるためには、化学的な基準と官能試験をクリアしなければならない。化学的な基準について、ヨーロッパでは遊離化オレイン酸が0.8%以上、過酸化物価が1kg中20ミリグラム以下、と決められているが、これはかなり低い品質のオイルでもパスする緩めの基準だそうだ。

そして、エキストラ如何を問わず、バージンオイルとは化学的に精製されるのではなく、オリーブの実から機械的、物理的に製造したオイルのことをいう。

しかし、これらを満たしていない「バージンオイル」が大量に出回っている。ランパンテ(ランプ用オイル)と呼ばれるもともと食用ではないグレードのオイルを脱臭加工して、そこに少しのエキストラバージンを加えて香り付けをして販売する。また、他の植物油にオリーブオイルを混ぜたものを、「オリーブオイル」として売る。そのようなことがが横行している。

それをきちんと見張る機関がないことも問題で、例えばアメリカのFDA(食品医薬品局)も、健康被害がないものについては積極的に取り締まりをしないそうだ。オリーブオイルにも、ワインのように等級やグレードをはっきりさせるべき、というのが高品質オリーブオイルに関わる人たちの願いだ。

なおイタリアでは、1980年代にワインにメタノールが混ぜられていたことにより26人が死亡、20人が失明するという事件が起こった。ワインを水増しするために危険なアルコールが混ぜられたのだ。この事件をきっかけに当局はワインの取り締まりを強化し、その結果、イタリアのワインは質から量へと変化して健全なものになったという。オリーブオイル業界は、ワインでいうところのこの事件以前の状態だという。

希望もある。オリーブの産地といえば、地中海地方が有名だけど、近年は産地がアメリカやオーストラリア、南米、南アフリカにも広がっていて、その新しい生産者たちには、独立した新しい認証機関を立ち上げ(旧来の機関は大手オイル業者と密接な関係にある)、本当に品質のよいオイルを作っていこうという流れがあるようだ。

品質のいいオリーブオイルは体にも良さそうだ。実際、体に良いと言われるオリーブオイルの有効成分は、高品質なオイルに多く含まれ、低品質のものにはほとんど含まれていないという。

しかし、なんといってもオリーブオイルに魅了された人たちの話を読んでいると、その魅力に自分も触れたくなる。イタリア南部、ギリシャのクレタ島、サンフランシスコなど、オリーブオイル文化のある地域は、なんだか暮らしも豊かそうだ。オリーブ畑や、オリーブが作られているところ、オリーブが盛んに食べられているところを巡ってみたくなった。

オリーブオイルは単なる作物ではなくて、文化とか精神的なものにも結びついている。これから注目すべきはオリーブオイルなのではないか、と思ったのだった。

エキストラバージンの嘘と真実

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