今読んでもすごく面白い150年前の紀行文

『マレー諸島―オランウータンと極楽鳥の土地』という本を読んだ。ダーウィンと同じ時代に活躍した博物学者ウォーレスによる、マレー諸島の調査探検紀行だ。

マレー諸島とは、今でいう東南アジアあたりのマレーシア、インドネシア、フィリピン、パプアニューギニアなどの島々のことで、この本を読むと、1850〜60年ごろのその地域の様子がよくわかる。今度ボルネオに旅行に行くにあたって読んでみたら、とても面白い本だった。

内容は今から150年ほど前の話だけど、ほとんど古さを感じない。飛行機やインターネットといった交通と通信の話をのぞけば、現代の旅行記と変わらないくらい新鮮に思える。古い時代のことが今では目新しく感じられるということもあるだろうけど、それよりもこれはウォーレスの、裏表紙の解説の言葉を借りれば、「驚きと尊敬と知性に満ちた視線」によるものだと思う。躍動感がありつつ客観的な文章に、引き込まれてしまった。

ウォーレスを有名にしたのは、その名も「ウォーレス線」の発見である。バリ島とロンボク島のあいだに、この地帯の動物相を大きく分ける線があることを、この旅で発見した。2つの島は地図で見るとすごく近くにあるけれど、西のバリ島はアジア、東のロンボク島はオーストラリアの動物相なのである。

これはつまり、この地域に無数にある島々は、その西半分は東南アジア半島から、東半分はオーストラリア大陸からそれぞれ分離してきたことを示している。たとえば、ボルネオとパプアニューギニアは地形的にはとても似ているけれど、住んでいる動物は全く異なっているそうだ。

ということを、この本を読んで初めて知った。なるほど、と思ったけれども、今度の旅行で行くボルネオ島はつまり東南アジアに似ているということで、東南アジアには何度も行ったことがある。新しい場所を見に行くという意味では、オーストラリア側の島に行くべきではなかったか、という思いも湧いてきた。

が、ウォーレスによると、マレー諸島全体について「旅行者はやがて、この地域が世界の他の部分とは異なり、独自の人種が住み、自然も独特の側面を見せている、ひとつの地方として見るようになるだろう」と書いていて、旅心がかきたてられるにはこのコメントで十分だ。ユニークな場所と言われると、それだけで行ってみたくなる。

というか、ウォーレスさんはやたらほめ上手で、シンガポールも面白そうに思えてきたし、今回は行く予定のないジャワ島なども絶賛していて、行ってみたいところばかりが増えるのが困りものなのだった。

マレー諸島

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