科学的かつ現実的でいこう

エネルギーのことを、もっと知りたいと思っている。

震災、原発事故以降の日本のエネルギーをどうしていけばいいのか……ということではなく、もっと基本的なこと、人間が他の生物を食べて、活動して、生きていくときに、エネルギーがどう動いているのか。そういうことを知りたい。

例えば、いま家庭菜園をやっているのだけど、肥料を投入せずに暮らしていけるだけの食糧を得ることは、エネルギー的に可能なのか。具体的にはそういうことを知りたいと思っている。

そんなことを考えていたので、
文系のためのエネルギー入門』という本を読んでみた。英語の原題は、Physics for Government Decision Makersで、つまり「政策決定者のための物理学」である。著者はカリフォルニア大学バークレー校の物理学の教授だ。バークレー校ってよく名前を聞くけど、バークレーは人口10万人だったかで、思ったよりかなり小さな街なことに驚いた。

そんなバークレー校での物理学の講義をまとめたのが、この本である。エネルギーをテーマに、ムラー教授による5回の講義の内容がまとめてある。

読んでみると、この本は自分が知りたかった、畑のエネルギーみたいなことを教えてくれる内容ではなかった。どちらかといえば、日本はエネルギーをどうする?というレベルの話である。まあ、「政策決定者のための物理学」だから、そっちの視点になるのは当然ではある。

まず「原発を止めた日本はどうしていけばいい?」という問いに、ムラー教授は「天然ガスに移行すべき」と、きっぱり答えている。シェール層からフラッキング技術で採掘できるようになった天然ガスが、今後世界でもっとも有望なエネルギー源だという。太陽光や風力なども可能性はあるけれど、すぐにすべてを置き換えられるほどの発電能力はない。

でもそれより、私たちができる最も重要で、最も大きな影響力を持つことは「ネガワット」、つまりエネルギーを節約することだと教授は言う。現在の消費エネルギーの4分の3は、無駄使いなのである。個人レベルでは、住宅にいい断熱材を使ったり省エネ冷蔵庫を買ったりしてエネルギーを節約し、効率を高めることが最も大きな「発電」になる。「ネガワット」とはそういう意味だ。

その他にも、911でビルが崩壊したのは熱のせいで鉄の強度が下がったからだとか、二酸化炭素によって地球温暖化が起こっているのは確実だとか、科学的にクリアに説明されていてなるほどと思った。(ちなみに、地球温暖化は確実だけど、気候変動との相関は見出せないそうだ)

科学とは「すべての人間が同意すべき、または同意せざるを得ない知識」だという。人はよく「自分にとって信頼できる人を見つけて、その人の言うことをすべて信じる」という方法を取ってしまうけど、それは間違いだとムラー教授は言っている。具体的にはデータを取って、それで人を納得させることが科学的アプローチだ。

また、おもしろかったのが、エレベータートークの演習。学生が大統領や国家主席といった人物とエレベーターで乗り合わせたと仮定して、短い時間で何を訊ね、何を助言し、どう説得するかを実践する擬似トレーニングだ。先生が大統領役になってこのシミュレーションをすると、強い意見を持っていた学生もしどろもどろになってしまう。それはアイデアが現実的かどうかが問われるからだ。

科学的で現実的。この2つが重要なのだろう。この本を読んで、そのことがわかった気がする。まあ、その上で味気なさを補う何かも人生には必要だと思うけれど。

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