旅してみたくなる昔の日本

昔の日本って、実際どんな感じだったんだろう? 
逝きし世の面影』を読んで、その一端がちょっと味わえた気がする。

この本は、江戸時代ごろに日本を訪れた外国人が日本をどう見ていたかという内容だ。彼らが書き残した文章を集めて、テーマごとに考察している。

むかしの日本って、ユニークでいい世界だなあ」と思った。イメージしていた江戸時代とちょっと違って、庶民は健康的で、笑顔にあふれ、おおらかな性格の日本人の姿が描かれている。

もちろん外国人から見た日本なので、バイアスがかかっているかもしれない。それでも、そのように映った世界が確かにあったという事実には目を向ける価値がある、と著者は書いている。しかも、多くの外国人は日本だけを見ているのではなく、中国や東南アジアなど他の国も訪れているはずなので、少なくともそれらの国と比較した印象としては信頼できるだろう。

当時の日本の地方に行くと、生活は質素ながら人々は健康そうで、冗談を言い合って笑いあい、実に楽しそうに暮らしている姿があった。庶民にまで礼節の文化が行き届いていて、行儀がよく愉快な人々だったようだ。

これは現代の自分が、東南アジアに旅行して受ける印象と似ているかもしれない。そういう地域の地方に行くと、人々はにこやかで、あいさつも気軽に交わしてくれる雰囲気がある。そこに礼儀正しさが加わったのが、当時の日本の特徴だったのかもしれない。

一方で、外国人からは奇妙に見えることもいろいろあった。

女性のお歯黒は気味悪がられていたし、人前で平気で裸になって行水したりするのも理解に苦しんだようだ。彼らの記述によると、若い女性も普通に人から見えるところで裸で水浴びをし、暑いからと言っては着物を脱ぎ、公衆浴場での混浴も普通だった。また、馬があまり訓練されておらず、暴れまくって困ったというのは、欧州と比較できる外国人ならではの見方だろう。

個人的にいいなあと思ったのは、江戸には自然がたくさん残っていたことだ。

外国人は江戸に来て、最初は大都市なのに大きな建物がないことを知って落胆するが、そのうち独特の魅力を持っていることに気がつく。それは自然と調和し、共生している田園都市の姿だ。江戸に来た外国人は、たいてい北部近郊の王子に行くという。そこには自然に囲まれた美しい茶屋があったそうだ。

「町から遠ざかるにつれて田舎家はいっそうまばらになったが、田園はいっこうに文明の様子を失わない」と記述にあるように、田舎の風景だけど、単なる農村ではなく、都市のトーンを保っていた。それが田園都市としてのユニークさだった。

自分なりにまとめると、外国人が驚いたのは、人々の礼儀や、自然を愛でる文化が、階級や場所を問わずあらゆる人々に行き届いていることだった。言い換えると、それが文明ということかもしれない。昔の日本は、なんだか旅してみたくなるような世界だなあと思ったのだった。

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