ファンタジーだけどリアルな旅情

これぞ旅だという感じがした。新しい東南アジアの国を発見した気分になる。

『高丘親王航海記』という本を読んだ。

時は昔、平城京の時代に、日本の親王が天竺を目指して旅に出る。まず船で中国に渡り、そこから南方へ海路で移動する。その船が嵐に遭い、方角を見失い、そんなときジュゴンが海の上に顔を出し、人間の言葉でしゃべりかけてきた……というところに来て、あれ?これ実話じゃなかったの!?と気がついたのだが、まあここまで来れば、そんなことはどっちでもいいだろう。

そんな調子で、親王とお付きの3人の旅の一行は、未開の東南アジアと出会っていく。架空とはいえ実際の地理とリンクしていて、カンボジアのトレンサップ湖やアンコールワット、インドネシアのボロブドゥールを思わせる場所や、雲南の奥深くにある王国など、かつて本当にこんな世界があったかもしれない、と想像力をかき立てられる世界だ。

自分が進む先にどんな世界があるかわからない、という状態で旅をしたら、実際こんな感覚だったんじゃないだろうか。動物と人間が合体したような生き物、本当に夢を食べるバク……あり得ないと言ってしまえばそれまでだけど、でも、たしかに初めて蟻塚を見たら何じゃこれは!?と思うだろうし、ラフレシアの花を見ても驚くだろう。未知との出会いは恐ろしくもあるけれど、何かワクワクするものでもある。

親王の幼いころの思い出の女性の影が、旅のところどころに顔を出すのも何かリアルな男の旅情という感触があった。ファンタジーだけど、旅の神髄を表現している本。こういう旅がしてみたいような、してみたくないような……

高丘親王航海記

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