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ロック・オブ・エイジズ〜一緒に歌えるロックミュージカルの最高傑作!

『ロック・オブ・エイジズ』(ROCK OF AGES/2012年)

とにかく楽しくて、思わず歌いたくなる。そして、人には夢と希望があるから前向きに生きられる。こんな何でもないことを言うのは簡単だけど、これを一級のエンターテインメント作品に仕上げるのは、とても難しい。

しかし、『ロック・オブ・エイジズ』(ROCK OF AGES/2012年)は、それを物語として魅せてくれる。ブロードウェイで大ヒットしたミュージカルの映画化で、舞台にはないオリジナルのキャストや曲も登場する。

音楽を聴くだけでなく、“観て聴く”ことが最初になった時代。そんな1980年代に10代を過ごしながら洋楽やMTVに慣れ親しんだ人なら、理屈抜きに真っ直ぐに突き刺さってくる作品だ。

1960〜70年代のオールドロック、90年代のオルタナロック、ゼロ年代のダウンロードや2010年代のストリーミング環境といった、他の世代が持つ音楽的風景とは明らかに違う、あの時代特有の“視覚的興奮”がスクリーンいっぱいに広がっていく。

この『ロック・オブ・エイジズ』には、日本の音楽メディアが「産業ロック」「商業ロック」と揶揄して、まともに取り上げることのなかったような曲がふんだんに使用されている。でも、それが一体どうしたの言うのだろう?

キャッチーなメロディのハードロックやパワーバラードが、登場人物や観客の心境を見事に捉えつつ、一つの確固たるムードや世界観を貫き通している。

こういうものを作ろうとした発想が素晴らしい。そこに余計な批判や否定は無粋というものだ。

日本公開時の映画チラシ

物語の舞台は、1987年のLA。人気の『バーボンルーム』では、ロックンロール・ドリームが今夜も大音量で奏でられている。

有名なライブハウスできっかけを掴み、人気や歓声を受けてレコード契約することがサクセス・ストーリーそのものだった時代。その象徴であるサンセット通りには、夢とチャンスを求めてやって来る若者たちで溢れている。

田舎町から出てきたばかりのシェリー(ジュリアン・ハフ)も、そんな憧れを胸に抱いた女の子。同じ目的を持った同世代の男の子ドリュー(ディエゴ・ボネータ)と出逢った彼女は、『バーボンルーム』のウエイトレスとなって現実の厳しさや恋の喪失を体験しながら、やがて“その時”を掴もうとする。

本作品には、サクセス・ストーリーとボーイ・ミーツ・ガール的な要素のほか、クセのある豪華キャストが登場して枝葉を広げる。

あのトム・クルーズが、ステイシー・ジャックスという大物ロックスター役で出演。富と名声の代償である退廃と空しさを背負う。

アレック・ボールドウィンとラッセル・ブランドは、『バーボンルーム』のオーナーと店長役。ビジネスとロックの狭間で葛藤する。キャサリン・ゼダ=ジョーンズは市長夫人役。街の浄化運動として、ロックを根絶しようとするが、彼女にはワケありの過去がある。

ほかにマネージャーや雑誌記者などが絡みながら、音楽業界の政治や妥協、一方で良心や救済も描かれる。メアリー・J・ブライジの出演も話題になった。

また、キャストの歌や振り付けだけでなく、細部まで拘り抜いたというセットやファッションにも注目だ。

タワーレコードのシーンは、ただそれだけで音楽ファンにはたまらないだろうし、ドリューがせっかくレコード契約を掴んだのに、デビューの条件が「Zガイ〜ズ」なるアイドルポップグループだったという件は、あの時代の「ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック」がチラついて思わずニンマリしてしまう。

曲の使われ方が絶妙なのは言うまでもない。田舎町から都会へ走る夜行バスの中では、シェリーが突然ナイト・レンジャーの「Sister Christian」を口ずさむ。トム・クルーズがフォリナーの「I Want to Know What Love Is」を歌い上げ、アレック・ボールドウィンとラッセル・ブランドが、REOスピードワゴンの「Can't Fight This Feeling」をデュエット。

そんな中でひときわ印象に残るのは、街の浄化推進派とライブハウスを支持する若者たちが、道路越しで応戦するシーン。スターシップの「We Built This City」とトゥイステッド・シスターの「We're Not Gonna Take It」がマッシュアップ(複数の曲が一つに)されるのは、この映画における名場面の一つ。

そして、この映画最大のメッセージ「夢を諦めないこと」を伝える、ジャーニーの「Don't Stop Believin'」がキャスト全員によって歌われるクライマックス。“みんなで歌えるロック”が最高潮に達する瞬間だ。

さらにエンドロールに入ると、クワイエット・ライオットの「Cum on Feel the Noize」が流れてきて、この映画が音楽愛に満ち溢れた大傑作であることを歓喜する。

文/中野充浩

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