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ジェームス・ブラウン/最高の魂(ソウル)を持つ男〜伝説の裏に隠された真実と友情

『ジェームス・ブラウン〜最高の魂(ソウル)を持つ男』(Get on Up/2014年)

「ゴッドファーザー・オブ・ソウル」「ファンキー・プレジデント」「ショービジネス界一番の働き者」「ソウル・ブラザー・ナンバー・ワン」などの愛称で知られるあの「JB」こと、ジェームス・ブラウンの伝記映画『ジェームス・ブラウン〜最高の魂(ソウル)を持つ男』(Get on Up/2014年)。

ライブシーンが圧巻のエンターテインメント作品というだけでなく、これまでの数々の伝説の裏に隠された真実が描かれつつ、一人の苦悩する男の人間ドラマとして実に見応えあるストーリーとなった。

ジェームス・ブラウンは、俺にインスピレーションを与えてくれた。たくさんのことを彼から学んだよ。彼の動きを真似るということではなく、彼の態度、仕事ぶり、そうしたものを学んだ。彼が成し遂げたことを尊敬している。彼の伝記映画の作り手となれて光栄だ。(ミック・ジャガー)

『ジェームス・ブラウン〜最高の魂(ソウル)を持つ男』パンフレットより

プロデューサーの一人としてローリング・ストーンズのミック・ジャガーが参加。監督はテイト・テイラー。

16歳から63歳までのJBを演じるのはチャドウィック・ボーズマンで、独自のダンスやシャウト歌唱、南部訛りの話し方、派手な衣装や髪型、スプリット(股割り)まで見事に再現していて凄い。

そして『ブルース・ブラザース』でJBと共演したダン・エイクロイドが、マネージャー役で出演している。映画はジェームス・ブラウンの音楽を知ったうえで観ると、当然何倍も楽しめる。

日本公開時の映画チラシ
ダン・エイクロイドがマネージャー役で出演

1956年に「Please, Please, Please」でデビュー。その後「Try Me」などのR&B/アーリーソウル・バラードを連発していくが、決定的なヒットには恵まれなかった。

しかし、1962年にアポロ劇場でのライブ録音をレコードにするアイデアを思いつき、会社が反対したために自費で制作したところ、これが大ヒット。「誰かのやり方を追ったり従うのではなく、自分の道は自分で切り開く」信念が本格化する。

ステージでのマント・パフォーマンスも見どころの一つ

1964年にはファンキー・ソウルの出発点である「Out of Sight」、翌年には「I Got You (I Feel Good)」や「Papa's Got a Brand New Bag」などをリリース。同時代に一大勢力となっていたモータウンのノーザン・ソウルに、唯一対抗できるサウンドと言われた。

「It's a Man's Man's Man's World」「Cold Sweat」「Say It Loud – I'm Black and I'm Proud」「Give It Up or Turnit a Loose」といった黒人聴衆のためのファンキー・ソウル群は、公民権運動と関係しながら60年代後半に全盛を迎える。

JBの影響力は大きく、70年代の黒人音楽はその血を受けたファンクが主流となった。1970年の「Get Up (I Feel Like Being a) Sex Machine」は、代名詞である「Get on Up!」のシャウトが聴こえる有名な曲だ。

やがて70年代半ば〜後半のディスコの時代に入ると、人気に衰えが見え始めるが、1980年にはジョン・ベルーシとダン・エイクロイドの映画『ブルース・ブラザース』に牧師役で出演して話題に。

そしてMTV時代の「Living in America」での復活。90年代にはヒップホップ勢のリスペクトを受けながら、過去の音源がサンプリングされまくった。118曲ものシングルをソウル・チャートに送り込み(歴代1位)、史上最もサンプリングされたアーティストでもある。2006年12月25日に死去。享年73。

映画は1988年のジョージア州オーガスタ。自らの事務所で行われている保険のセールス会でショットガンを撃ち、警察とカーチェイスするところから始まる。そこから幼少時や思春期、シンガーとして栄光を掴む過程や挫折の風景にフラッシュバックしていく。

ジェームス・ブラウンは1933年5月3日、サウスキャロライナ州バーンズウェルで生まれた。森の中の小屋に住んでいた極貧の幼少時代。両親に見捨てられると、親戚のいるジョージア州オーガスタへ移住する。靴磨きなどをしながら生活をするが、16歳の時に車上荒らしでスーツを盗んで少年院に。

そんなある日、慰問に来ていたゴスペル・グループのメンバー、ボビー・バードと出逢う。これが彼の人生を変えることになり、出所後にボビーの家族と親交を深めるうちに、ゴスペル/ブルース/R&Bなどの音楽に目覚めてボビーたちと共に「フェイマス・フレイムズ」として活動するようになった。

ボビー・バードとの友情物語が泣かせる

メンバーとの確執、離婚、税金、差別、ドラッグなどのトラブルと向かい合いながらも、ジェームス・ブラウンという生き方、あり方を貫くタフな姿勢は、1968年4月5日のステージが象徴的だった。

前日にキング牧師が暗殺されるという最悪な状況の中、暴動寸前になる観客に向かって「黒人としての誇りを持て」とその場を冷静にとりまとめるシーンが忘れられない。

また、自分を見捨てた実母との再会、恩人でありながらいつの間にか使用人扱いをして離れていった親友ボビー・バードとの友情は、この映画の最大の感動だ。

文/中野充浩

参考/『ジェームス・ブラウン〜最高の魂(ソウル)を持つ男』パンフレット

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