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ローズ〜すべての歌い手とロックを心から愛する人々に捧ぐ

『ローズ』(THE ROSE/1979)

その圧倒的な演技力と歌唱力で、観る者の心を完全に魅了してしまう女性エンターテイナーが稀に存在する。

映画ファンや音楽ファンなら、まずはバーブラ・ストライサンド、ライザ・ミネリ、そしてベット・ミドラーの名を挙げておかなければならない。バーブラの『スター誕生』やライザの『ニューヨーク・ニューヨーク』も素晴らしかったが、何と言ってもベッドの『ローズ』(THE ROSE/1979年)には心打たれた。

スーパースター歌手の愛と激情と孤独な魂を描いたこの作品は、よくジャニス・ジョプリンの伝記映画と思われているがそうではない。主人公のモデルの一人になっていることは確かだが、1960年代後半という、激動のロック時代を築いた複数のアーティストのスピリットが全編に漂っている。

ベット・ミドラーはこれが初めての主演映画で、いきなりアカデミー主演女優賞にノミネートされた。

ハワイ生まれの彼女は、映画のエキストラ出演がきっかけで女優を目指すことを決意。NYへ渡った後、劇団やブロードウェイの舞台、バス会社の娯楽興行やナイトクラブ巡業、レコードやコンサート活動と着実にキャリアを磨いていった(この間、トニー賞とグラミー賞も受賞した)。

『ローズ』では、そんな彼女を通じて、ロックスターの傲慢、純真、不安、絶望といった様々な表情を見ることができるが、演技の幅広さ、リアルさには思わず痺れてしまう。

また、歌声もたまらなく魅力的で、これぞロックという曲から、味わい深いソウルバラードまで見事に歌い上げる。エンディングで流れるタイトル曲は余りにも有名だが、それ以外の「Stay with Me」や「When a Man Loves a Woman」などすべての曲に耳を傾けたくなる。

映画には3つのコンサートシーンが収録されているが、その迫力と熱気、セックスアピールが凄まじい。

日本公開時の映画チラシ

物語は、すべてに疲れたスーパースター歌手であるローズ(ベット・ミドラー)が、「1年間の休みを取りたい」とマネージャーに懇願するところから始まる。

しかし、ロックが一大ビジネスとなった状況ではそんな甘えは通じるはずもなく、契約通りにツアーを続ける羽目になる。取材陣に笑顔でリップサービスするローズの心は、すでにズタズタだった。

セックス、ドラッグ、ロックンロールの日々を送り続ける彼女は、ある夜、ダイアーという軍隊を脱走してきた男と出逢って恋に落ちる。激しく求め合う二人。

ダイアーはローズたちの自家用ジェット機で移動するツアーに同行することになるが、ロックスターの気まぐれな言動や生活に馴染めない。かつてのレスビアンの愛人との現場を目撃したダイアーは、憤慨してローズに手を出してしまう。

故郷フロリダでの公演当日。ローズは、高校時代に自分を遊び道具にした連中を見返してやりたい気持ちもあって地元のクラブを訪れるが、逆に侮辱を受ける。戻って来たダイアーはそんな連中を蹴散らすが、ローズは口論の最中に彼を殴ってしまう。二人の愛の終わりだった。

禁断のヘロインに手を出してしまった彼女は、コンサート会場へふらふらになりながら辿り着く。それでも歌うことをやめないローズ。歓声とスポットライトを浴びながら、最期の時は来た。「何処へ行くの? みんな何処へ行くの?」……。

文/中野充浩

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