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ムーラン・ルージュ〜“秘密の歌”とボヘミアンたちの世紀末

『ムーラン・ルージュ』(Moulin Rouge!/2001年)

人がこの世で知る最高の幸せ
それは誰かを愛し、その人から愛されること

ナット・キング・コールで有名な、「Nature Boy」の歌詞の一節に導かれて物語が始まる『ムーラン・ルージュ』(Moulin Rouge!/2001年)は、ちょっと変わった作りの悲喜劇でありながら、永遠の愛を謳った忘れ得ぬミュージカル映画だった。

この作品の撮影に入る前に私がしたことは、脚本を読んで頭の中のイメージを絵本にしていったんだ。20世紀のあらゆるものを切り取ってコラージュした。

例えば、ニコール・キッドマン演じるサティーンは、1940年代の映画スター、グレダ・ガルボやマレーネ・ディートリッヒ、あるいはマリリン・モンローなどのイメージを使って生み出したんだ。(バズ・ラーマン監督)

『ムーラン・ルージュ』パンフレットより

監督のバズ・ラーマンが言うように、この映画の舞台は1889〜1900年という、19世紀末のパリであるにも関わらず、ヴィジュアルも音楽も20世紀の既存のポップカルチャーから数多く引用されている。

台詞も名曲の歌詞から取られているので、観る者は耳慣れた歌の言葉によって、感情移入しやすいという利点が生まれた。

また、ジャン・ルノワールの映画『フレンチ・カンカン』、ブッチーニのオペラ『ラ・ボエーム』、ギリシャ神話『オルフェウス』からのインスピレーションも強い。

日本公開時の映画チラシ

あらゆる文化に触れた結果、企画から完成まで4年の歳月を費やしたという。このような過去作品へのオマージュから創作を組み立てていく世界観は、思わずゴダールの『気狂いピエロ』を思い出した。

人生とは愛する人の死やうまくいかない人間関係などで自分にはコントロールできない出来事を僕たちに投げ掛けてくる。オルフェウスの神話によると、人はそのような出来事によって破滅するか、アンダーワールドに入ってそのようなことに直面し、成長して地上に戻っていくかのいずれかだ。(バズ・ラーマン監督)

『ムーラン・ルージュ』パンフレットより

監督が話すアンダーワールドとは、つまり「ムーラン・ルージュ」(赤い風車)のこと。1889年にパリのモンマルトルに開場したナイトクラブ(ダンスホールやキャバレーとも呼ばれる)だ。

退廃的な世紀末において、そこは金持ちと権力者が、若者と美女と文無しに出逢う場所でもあった。

そしてモンマルトルの安アパートには、画家、小説家、音楽家、詩人、劇作家など多くの貧しい芸術家が住んでいて、毎晩のように禁断の酒アブサンを酒場で傾けながら、真実・自由・美・愛といったボヘミアン精神を胸に創作活動に励んでいた。

あの画家ロートレックも、ムーラン・ルージュやそこにいる娼婦たちを愛した一人だった。踊り子の劇場ポスターを描いたことで有名なロートレックは、「人間は醜い。しかし人生は美しい」という言葉を遺している。本作でも、ロートレックは印象的な役割を果たしていた。

(以下、ストーリー含む)
19世紀末、パリのモンマルトル。安アパートに移り住んできた、作家志望の青年クリスチャン(ユアン・マクレガー)。

ある夜、ロートレックたちとの出逢いがきっかけで、享楽の夜の象徴=ナイトクラブ<ムーラン・ルージュ>向けのショーの台本を書くことになる。主演するのは店のナンバー1であり、女優を目指すサティーン(ニコール・キッドマン)だった。

一方、ムーラン・ルージュのオーナーであるジドラーは、深刻な経営悪化を乗り越えるべく、パトロンを探していたサティーンを金持ちの公爵に差し出すことで、莫大な資金援助を受けることに渋々同意する。

しかし、勘違いがきっかけで、お互いに恋に落ちてしまったクリスチャンとサティーンはそれ以来、劇作家と女優の関係を装いながら、公爵の目を盗んで密かな愛を育む。

ショーの舞台はインド。美しい女と貧しいシタール奏者と金持ちのマハラジャの三角関係を巡る台本は、サティーンとクリスチャンと公爵の現実そのものだった。

サティーンがあらゆる口実を作るので、なかなか自分のものにならないことに不信感を抱いた公爵は、二人の関係に気づくと、クリスチャンを殺すとサティーンを脅迫する。

クリスチャンを救うために別れを告げるサティーン。何も知らないクリスチャンは絶望と嫉妬の世界をさまようが、ロートレックたちの支えもあってムーラン・ルージュのショーの本番に向かう。

結核に冒されて死期が近いサティーンは、去って行こうとするクリスチャンに向けて、二人だけの“秘密の愛の歌”を囁く……。

この“秘密の愛の歌”である「Come What May」は、映画のために新しくプロデュースされたが、デュエット系ラブソングの最高峰として記憶されるべき、感動的な曲となった。

文/中野充浩

参考/『ムーラン・ルージュ』パンフレット

【映画で使用された主な既存曲】*アーティスト名はオリジナルを記載
○ナット・キング・コール「Nature Boy」
○ラベル「Lady Marmalade」
○ニルヴァーナ「Smells Like Teen Spirit」
○T・レックス「Children of the Revolution」
○マドンナ「Material Girl
○デバージ「Rhythm of the Night」
○エルトン・ジョン「Your Song」
○クルセイダーズ/ランディ・クロフォード「One Day I'll Fly Away」
○ビートルズ「All You Need is Love」
○キッス「I Was Made for Lovin' You」
○フィル・コリンズ「One More Night」
○U2「Pride(In the Name of Love)」
○ポール・マッカートニー&ウイングス「Silly Love Song」
○ジョー・コッカー&ジェニファー・ウォーンズ「Up Where We Belong」
○デヴィッド・ボウイ「Heroes」
○ドリー・パートン/ホイットニー・ヒューストン「I Will Always Love You」
○マドンナ「Like a Virgin」
○ポリス「Roxanne」
○クイーン「The Show Must Go On」

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