爆速!初恋ぐぬぬ。

女性と話す勇気のない義務教育期間だった。田舎の小学校といえど各学年3クラス、男女比は半々。60人の女性がいる学年で男しかいないような素振りを撒き散らしながら、常に女子を意識したヘンテコな男児だった。

ある日私は足が速くなった。通学路を歩いている時に野良犬3匹に追いかけられた夢を見た朝、外を走ると爆速だった。病弱な母が買ってくれた靴はいつも通り臭かった。しかしアスファルト蹴飛ばし、身体は空気の重さに耐えきれず、後ろにのけぞるほどだったと記憶している。自分の脳内はスパークした。足が速い男はモテる。小学生男児なら誰でも知っている常識、むしろ道徳や倫理とも呼べるくらいの現実が自分の身体に宿った。体育の時間を待つばかりだった。季節は春。北海道の4月はまだ雪が路肩に残っていた。

秋真っ盛り。運動会も終え、体育では一位を独占した。女子と話す機会は全く無かった。足の速い転校生が僕のことを睨む中、私は女子と話す機会は全く無かった。脳内は理想と現実の乖離に漏電していた。女子と話す機会は全く無かった。

ある日の帰りの会。席替えが行われた。念願かなって片想いしていた女性の隣の席になった。給食を一番取りに行きやすい席である事を高らかに喜ぶフリをして、圧倒的に隣を意識していた。黒目は1分間に15回くらい隣の女性と前の席の男を往復し、目が悪くなった。心臓は爆裂し続け、人食い鮫登場1秒前くらいドゥンドゥンドゥンドゥンと鳴っていた。

消しゴム貸してが言えなかった。言いたかったけど、言えなかった。仕方ないから筆箱に入っていた輪ゴムでテストを乗り切った。

我がクラスには1時間の発表回数を示す装置が各生徒の机に備えられていた。発表するとそれを1に、2、3、4と積み重ねていくことは優等生の証明であった。私はいつも1だった。自分で定めた最低1回のノルマをこなし、牛乳パックに画用紙が貼られて作られたその装置を机から出すと、中から紙が出てきた。

「好きです♡ 〇〇より」と隣の女性が書いたお粗末なラブレターを発見し、視界が揺らぐ。脂汗が吹き出し、足が震え、情緒が狂い、心臓は取れた。

そこから小学校卒業までの記憶は今ではもうほとんどない。僕は小学5年で卒業したのかもしれない。未だに後悔だけが募る。あの日あの時話しかけていれば、何かが違った。選択を間違えたのである。中学に入って彼女はギャルになり、どんどん遠い人になった。その姿を見て、人生は毎秒選択の連続であり少なくとも一回は選択の仕方を失敗してしまった事を理解した。一つ上のヤンキーの怖い先輩に連れられて、大声を出して下品に笑う友人たちに囲まれて幸せそうにしている彼女はその日も変わらず美しく、あの日のように僕はその子が好きだった。

もらった手紙はもしかしたら女子が仕掛けたトラップじゃないのかと、勘ぐり悩む時間は今となっては無駄だと思う。でも今では別の女性と結婚出来ました。それもこれも爆速で動く事の大切さを知ったおかげ。とりあえず動くのが吉らしいですので、どうか後悔なさらず。


#あの失敗があったから

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