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第二回偽物川小説大賞 結果発表&講評

 お待たせいたしました。2020年10月11日から11月末日にかけて小説投稿サイト「カクヨム」において開催され、45作品のご参加をいただきました第二回偽物川小説大賞、結果発表のお時間です。

大賞発表

 では早速。栄えある大賞は!ラーさん氏のコーム・レーメです!おめでとうございます!

 作者様より受賞のコメントをいただいております。こちらになります。

「よもや!よもや!の大賞受賞となり、大変驚いております。「死」という決して軽くないテーマで書かれた数々の優れた作品の中から大賞をいただけたことはとても光栄です。「コーム・レーメ」の構想は以前から頭にあったのですが、本作が形を得たのは偽物川小説大賞という企画と「死」というテーマがきっかけでした。本作がこのように日の目を見たのも、企画を運営してくださった評議員の方々、参加者、読者の皆様方のおかげとなります。厚くお礼を申し上げます。ありがとうございました。」

 大賞となったこちらの作品には、ジュージさん謹製による素敵なイラストが進呈されました。こちらです。背景の花はナターシャが(線画ですが赤の)バラ、コルレッタがホタルブクロで、それぞれ花言葉が「愛」「正義」を意味しているそうです。

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各賞発表

 では次に、各賞の発表に参ります。まず、金賞。

金賞は、灰崎千尋さん『死にたがりのメアリー』です!

 おめでとうございます!

 次に、銀賞が2本です。

銀賞は、 上村みなとさんの『かげの唄』と、ささやかさんの『めんどくさいから死ぬことにした』、以上2作品(順不同)です!おめでとうございます!

 さらに、今回は銅賞というものを設けました。銅賞も2本です。

銅賞は、2121さんの『透明の指輪に口付けを』と、鈴野まこさんの『ゴロちゃん先輩が死んだ』、以上2作品(順不同)です!おめでとうございます!

 まだ終わりではありません。さらに、各審査員特別賞の発表です。これは3本で、こちらも順不同になります。

偽のネオトコロザワ選出、ヨイデワ・ナイカ・パッション・ネオトコロザワ賞、草食ったさん『カノン』!

偽の教授選出、青春タイフーン賞、富士普楽さん『タキシードミー・マーメイド』!

偽の武王選出、列侯賜爵、@dekai3氏『押すと何処かで誰かが死ぬボタン』!

 第二回偽物川小説大賞の受賞作は、以上9作品となります!

全作品講評

 では、これより全作品の講評を発表して参ります。作者名は敬称略となっております。なお、各評議員の素性ですが、偽の教授は説明不要として偽の武王は武州の念者/おおはがちさん、偽のネオトコロザワは藤原埼玉さんです。

五匁六分とあと少し 偽教授

偽の教授:一番最初に書いておきます。今回、わたし偽教授はエントリーされた順番に従って作品を読み、そして講評を書き、しかるのち次の作品を読む、という手順を原則的にとっております(他二名については別に同じことをするように言ったりしていないし多分していないと思いますが)。さて、一本目、しょっぱな私が書いたやつ。作品としては、レギュレーションの隙間を突いて「死」よりも「死の主体とは何か」についてをテーマにし、そして主人公に最後の台詞を言わせたかった。そういう作品。ちなみに、他の川系大賞ではどうしているか知りませんが、偽物川小説大賞においては偽の評議会の三名は作品を提出することはできても受賞の権利を有さないということに最初から決まってます。さて他に書くこともないからここに裏話を書いていきますが、この話の元ネタは昭和三十年代に日本で実際に起こった事件で(時代がかった文体はそれに合わせています)、事実関係そのものはほぼまんまです。カテゴリを歴史・時代やノンフィクションにしなかったのは、流石に当事者が存命であるかもしれないこういう事件を勝手にノンフィクション小説にするのは気が引けたから。二審で「不同意堕胎罪」の不同意とは何を指すかということについて重要な判断が示されたので、いろんなデータベースや引用などでその判例を見ることができます。

偽の武王:セルフ一番槍(自らの主催企画で一番槍を取る行為)を決めてこられた偽教授さんの作品。「兵貴神速《兵は神速を貴ぶ》」ですねぇ……今回は堕胎を巡るお話です。
 生殖行為に関わったことのない(そして多分これからも関与しないであろう)私は堕胎を巡る問題や議論について確たる意見や思想を持っているわけではなく、そうした方向性での講評を書くことはできないので、多くを言及することはできません。なのでそれ以外の部分について書かせていただきます。
 何というか、これは所謂現代の自然主義文学なのかも知れません。世の中の、少なくない人間が顔をしかめてしまうようなことを覆い隠すことなく文章上に表現するさまはまさにそう感じられます。騙されて罪なき命を奪うことに加担してしまった主人公の身を切るような悲しみや後悔がひしひしと伝わってきて、読んでいると辛くなります。
 一番目からこれを投げ込んでこられるとは……と思わせるトップバッターでした。

偽のネオトコロザワ:企画者自らによる一番槍です!!!安定のきょうじゅ!!速!!!
…くらいの軽いノリで読み始めたらものすごい重た豪速パンチで黙らされました(※上の冒頭文は読み始める前の私の遺言です……)。主催者自らが初めにこのタイトルを置きに行ったところに【死】という今回のテーマに対するものすごいストイックさを感じます。「おい…お前らわかっとるんやろうな?今回のテーマ、「死」やで?ナイフで刺されたふぎゃー死にましたで済まされるものちゃうぞ?死ってものの重さ、それを描くことの覚悟ゆうもんをわかっとるんやろうな…?」と私の中のイマージナリー教授(なぜか関西弁)が申しておりました…。ものすごい重たくて救いらしい救いは描かれないのですけれど、やはり死というものの説得力といいますか…ドラマ的なところはかなりソリッドに削られているからこそのテーマのパンチ力がものすごいです。「死」というものの重さを読者に届けると同時にそれを読者に問いかけてくる…。ハードボイルドな歴史小説から一人称小説、ライト文芸と来て、今回は正しく文芸のかほりのする作品を上げてきたきょうじゅ、その今後からは目が離せません…!

人類の遺言 辰井圭斗

偽の教授:直近で行われた同じ川系、第一回神ひな川小説大賞で大賞を取っている辰井圭斗さんが事実上の一番槍を飾ってくれました(主催者は事前にテーマを知ってるのでノーカンです)。作品としてはいわゆる一つの『人類滅亡もの』。人類が滅亡する、原因は巨大隕石、回避手段なし、そこまではスタンダードなプロットとして、では次はそこからどの要素を掘り下げてくるかが問われるわけなんだけど、この作品はとにかく明るい。「人類が遺言を残す」という一大セレモニーを行う、そこに焦点が置かれる。ただ、「死」と言うテーマを「人類滅亡」と解いて受けるのはいいしそれを暗くせずに明るく終わらせるのも別にいいんだけど、ちょっと一つ難点を言うと群像劇の形を取るなら字数的にはもうちょっと広げた方が良かったかな。根本的な問題として、掌編と群像劇はそれ自体で食い合わせが悪いので。作品としては、その明るさでもって何を照らすかというと人類への「いとしさ」みたいなものなんですが、それがひたすらまた優しいのよね。

偽の武王:二番目(評議員を除いた参加者の中ではトップバッター)は神ひな川では美青年と美少年の主従を描いた至高の耽美主義小説「イスマイール・シャアバーニ」で大賞を受賞された辰井圭斗さんのこちらの作品になります。
 今回は巨大隕石が地球に衝突するまでの三年間を過ごす三人の人間を描いたお話です。所謂終末SFといったようなものですね。
 遺言というものはそれが個人のものであっても重みがあるものですが、この物語における遺言は地球人類全体の遺言とも言うべきもので、その重さは想像を絶するものです。人類全ての遺言、遠い未来にそれを受け取ることになるのはどのような存在なのか……という想像も膨らみます。
 滅びゆく者たちの最後の営みを描いた、壮大な、しかしもの悲しさもあるSFでした。

偽のネオトコロザワ:人類滅亡のお話。リアリティラインの描き方がものすごいお上手で堅実なSFものという印象の読み応えのある作品でした。キャッチコピーにもあるように、人類が滅亡する前日まで私達人間はきっと同じように愚かでどうしようもなくどこか愛おしい、そんな存在であるのだと思います。群像劇としての描き方もここで描かれている人にフォーカスしすぎない、人間という存在を俯瞰して描く物語ととてもマッチしているように感じます。最後の落とし方もとてもお上手だなあと思いました!人類は滅亡するとしても、きっと私達人間はその終末のどこかに物語性、ドラマ性を希求するんじゃないかと想像するんです。だからものすごい納得感がありました。意味があるかどうかも分からない私達人間が紡いできた歴史という物語、それでもそれらを残しておきたい。それは誰かに届くメッセージとなるのか、ただの墓標となるかもわからない。その未来は未完に終わるからこそここで描かれている人類はどこか救われているように感じます。

枯渇 saw

偽の教授:えー、プロフィールによると高校三年生の方だそうです。それにしては達筆なのできょうじゅは感心しました。一人の家政婦の目を通じて浮き彫りにされる、ある奇妙な男の語る自序。プロット自体は非凡というほどではないものの、語り口がうまいのでかなり引き込まれて読まされました。物語としての落ちの後、男が決意を変えることはないのでしょうが、家政婦の女はこの家に戻ってくるのか来ないのか。そんな余韻を感じさせるのがいいですね。

偽の武王:とある家政婦と、彼女の雇い主である眉目秀麗の男性のお話。
 よく「晩節を汚す前に辞めれば美しい思い出だけを残せたのに」と悪態をつかれるほどに無体を晒してしまうスポーツ選手がいます。ファン心理としてそう願うのはわからなくもないですが、コンディションの絶頂期に辞めるという決断はなかなかしがたいものです。スポーツに限らず、たとえば為政者でも長生きしたばかりに晩年に大きな混乱をもたらしてしまう君主なども歴史上に存在したりします(晋の武帝司馬炎、梁の武帝蕭衍など……)。「絶頂のうちに終わらせる」「晩節を汚さない」ことが如何に難しいかは歴史が証明しています。
 「悪くなる前に、絶頂の状態で終わらせる」本作に登場する雇い主は他者の命でもってこれを実践してしまった人間といえます。
 思想自体はあながち理解の及ばないものではないにせよ、他者の命を使って行ってしまったことはどう取り繕っても常軌を逸しているとしか思えず、自死を決めた主人の後始末を頼まれた家政婦の怯えはまさしく真っ当な反応でしょうし、背負わされたものはあまりにも大きすぎるものとであると言えましょう。
「死」と「終わり」について考えさせられる、重厚な作品でした。

偽のネオトコロザワ:すごい丁寧に文章を書く人だと思いました。文体で世界観を紡ぐのがお上手だな、と。高校三年生!?すごい。ぜひぜひ書き続けてくださいね!「美しいのに勿体ない人だと」という文章に漂う色気とか、「不幸というものは影の様に付き纏いますが、幸せは煙の様に匂いだけ残して消えてしまうんです」というさらりとした文章に薫る詩情もさることながら、なによりも男⇒親友に対するクソデカヤンデレ感情よ…これはとても良いBLですよ…。無垢で美しいものを見た時に、心が癒されると同時に、心もとない不安な気持ちになるのは分かるような気がします。男は不幸な生い立ちにあるからこそ早計な行動をしてしまいますが、そこには男自身も気が付いていないようなものすごい質量の感情が渦巻いているようにも想像できてしまいます。複雑に絡んだ嫉妬や健全な家族というものへの怨恨に近い感情…それも含めて色々と想像が膨らみます…。個人的には死にきれなかった男が淡々と十数年生き永らえたのち、自らの親友への愛に近い感情を初めて自覚して死に悶えるような愛の地獄を味わって欲しいと思いました…。ものすごい自分の生に対して執着のない人じゃないですか?そんな捉えどころがなく、何かに執着することを無意識に避けてるような人が、自らものすごい感情トラップに引っかかって地獄を見るのとか…ものすごいいい…と、長々と勝手なことを申してしまってすいません…ここで描かれている諸々がとても大好物なので…。すごい、最高でした…

天使の笑顔 山本アヒコ

偽の教授:そんなに濃密にぺガサスしているわけではないけど、しかしこれはペガサスの系譜に連なる作品ですね。4作目にして「ペガサスキター!」という感じです。ええ、自分でこのテーマにした時点でペガサス大繁殖は望むところですから。ちなみにペガサスというのは、本家本物川小説大賞で生まれた用語で、死とかなんとか中二病要素もりもりの作品を指して用いられます。さて、本作品ですが、天使のような美しい顔をした天使(同語反復)が死神みたいなことをやってるホラーです。彼は本当に天使なのか、天使の姿をした邪悪な何かなのか、明示はされてませんがそれもまたペガサスだね。

偽の武王: 鬱屈とした日常から逃れようと自死を思う少女と、その彼女を助けた天使のような少年のお話。
 まず天使くんの造型がいいですよね。謎めいた、ミステリアスかつ何処か不安さを煽るような美少年ってそれだけで素敵ですね……彼の最後の行動も含めてめちゃくちゃ好きなキャラ造型です。口調は穏やかで柔らかいのに、冷たいところも感じさせるのは流石です。
 誘う少年と、誘われるままについていく少女、「一体どこに誘われるのだろう」と思うごとに膨らんでいく期待と不安、そして待っていた結末は……すごくドキドキで、そして冷たい恐ろしさも感じました。講評とはいえネタバレするのも惜しいのでここまでしか明かせませんが、とにかく楽しかったです。

偽のネオトコロザワ:うおわーーーーー!!!!????(感情のフリーフォールの高低差に脳がバグった)
物語の最初からどこかしら不穏な空気があってその正体に???となっていたらあれよあれよという間にそれが確信となっていき「お……おい……やめ………や……ヤメローーーー!」と……(藤原はもう動かない…すでにしかばねのようだ)。い、一体なんなんですかこれは……となって色々と調べたらなるほどカクヨム短編コンテスト…そうか…そういうのもあるのか…。最初の引きのダークさからの正統派少女漫画の如きシンデレラ感、そこからのホゥラーーーーーへのどんでん返し…総合的にものすごい計算して描かれていることに感服致しました。少年のルックスとかの現実感のなさというか、そんな上手い話があるわけが~笑……みたいなところの「違和感」!!!。これがきっちり伏線になっていて最後のどんでん返しが「お……おい……やめ……(二回目なので略)」感につながっているんですよね……。やられました……うう…うう…つらい……。

同じクラスに死者が出た 白里りこ

偽の教授:率直に死と言うテーマを「ネガティヴな意味」で捉えて(別にそれが悪いわけではありません)演繹した、死霊が悪さをする系ホラーですね。この手のホラーの難しいところは一度読んで種を知ってから再読すると読後感が大きく変わるということで、ただ初読時に出先で読んだんでこれ二回目読んで書いてるんだよなぁ……というわけで初読時の感想をいまどうにか反芻しているところです。たしか、正直に言えばあまり怖くはありませんでした。原因はどこかというと、物語の中核をなすサヤカという最初の死者、彼女のキャラクター造形がいまいち弱くて、悪霊として小物感が拭えないからではないかと思います。もうちょっと字数を使って生前の人物像を掘り下げるか、一文でいいからインパクトのある描写を添えるか、まあ方法論は色々ですが何かもうちょっと見せ方を工夫した方がよかったかと。

偽の武王:交通事故で死者が出たクラスのお話。イジメと怨霊を描いた、暗くじめっとした作風のホラー作品です。怪異そのものの恐ろしさに社内政治ならぬクラス内政治の残酷さが加わって、「怨霊の怖さ」と「人間の怖さ」がダブルパンチで襲ってくるさまに、読んでいて凄くしんどい気分になりました。まさにこれぞホラー!って感じです。
 この「怪異が連鎖する」っていうのが怖いですよね。一過性のものではなく「続いていく」こと自体に怖さが内包されている……とでも言うべきでしょうか。巻き込まれて犠牲になっていく人々も、加害者であるが望まざる形で悪事に加担してしまった消極的加害者であるところがまた救いのない部分です。
 如何にもホラーらしい、恐ろしく嫌らしい読後感の小説でした。

偽のネオトコロザワ:ホラーーーーー!!最後のオチまでばっちり決まっております……
続編第二作目の小説なので、前作を読んだ上で読んだ方がより不条理さとかいろいろなものが染みるような仕組みにはなっていると思いました。誰も悪い人はいないという不条理よ…。つらい…。
心理描写と展開に無理がなくするっと読めてしまう筆力の高さ、中高生向きのテーマとホラーとしての落ちも非常に決まっててすごいと思いました。
ただ個人的に白里さんの「金平糖」の物語にぎゅっと凝縮されている情感とか描写の高い密度がものすごい好きだったので、中高生向きというテーマのせいかかなりライトな読み口になっている気がします。なるほど…中高生向き…たしかに…なるほど…。次回は中高生相手に容赦なく全力パンチしてみるのはどうでしょう?ぜひぜひご検討くださいませ!


ボウリング場に行かなくても死なない 千石京二

偽の教授:……凄かった。本偽物川小説大賞で「死」をテーマにした小説を募集したのは他でもない私なのだけれども、そういうテーマを軽々しく選んだ自分を反省するとともに、やはりこのテーマを指定して良かったのだ、という思いも新たにしました。物語としては、「職場のスポーツ大会がボウリング場で開かれることになったので全力で断る」ところから始まって、ボウリング場に紐づけられた主人公の過去が語られていく、という構成で、筋書き自体よりは全体を通じて展開されていく死というものに対する内省それ自体に作品としての重みを感じさせられる印象の、そんな作品。いちおう物語としてはハッピーエンドであり、希望を感じさせる終わり方になっているんだけれど、それを押してなお、突き付けられたものがずっしりと重い。ボウリング場には行かなくても死なないが、そう、死というのは絶対なのだよなあ。総合すると、よくこれを書いてくれた、ありがとうございました、という言葉を捧げたい一品です。

偽の武王:震災によって大切な人を失った主人公が、凄惨な震災の記憶と向き合うお話。ところどころ実話とあるので所謂私小説のようなものでしょうか。
 紹介文に実話とある故に「軽々しくものを言ってよいのだろうか……」という気後れが生じて上手く講評をかける自信がないのですが、生と死、肉体と霊魂について真剣に向き合った結果紡がれた文章なのだということが伝わってきます。
 重厚で、ともすれば読む側が押し潰されてしまいそうな重たさのあるテーマの作品ですが、救いを感じさせるような結びになっており、爽やかな読後感があります。重野さんの下の名前を聞いたときの、「百合の花を見た時、あのボウリング場の記憶ではなく、彼女の顔が思い浮かぶようになればいいと思った。」という部分がとても印象的です。凄惨な過去は変えられないが、まだ如何様にも変えられる未来はどうか……という希望を感じさせてくれました。

偽のネオトコロザワ:ホラーがどちらかというと苦手な私ですが、千石さんの描くホラーの手触りについての所感というのをずっと語りたかったところ、丁度偽物川に来てくださったのでここで色々語らせてくださいませ。千石さんの描くホラーというのは流石平山夢明先生を愛読されているだけあってホラー&グロっていう描写もかなり盛り盛りされていたりするのですが、不思議と優しい印象のある物語が多いと感じています。今回の物語についても「死」というテーマに参加の方々の中でもかなり真正面から向き合われている感じがあって評議員としても非常に素直に好感が持てるところ。死とは?死に対する救いとは?そんなことを物語の中の対話を通して丁寧に考えられて探られている感じがありました。作品の印象もそうですがご本人のツイートなんかも見ていると内省的で心優しい方なのかな、なんて勝手に思っております。ホラーの中には如何に読者に不快感を与えるか、後味を与えるか、ということをテーマにされている方など様々ですが、千石さんの「恐怖」や「死」に対する向き合い方というのはホラー書き手さんの中でも割と独特な感じがあって、人や家族の絆といったところにもかなりフォーカスされる方という印象を持っております。(川系のホラー書き手さんしか知らない私が言うのもおかしいですが…)『心優しいホラー書きさん』。…なんか非常にまんまですが、こう表現するのが今の自分の力では精一杯です。というわけで御作非常に良かったです!重野さんが可愛いのが救い!


死にたがりのメアリー 灰崎千尋

偽の教授:理由は分からないけど死ぬことができない(死んでも死んでも生き返ってしまう)メアリーという女性を主役にした作品。ジャンルは現代ファンタジー扱いですが、まあ現代を舞台にした奇譚とでも言うか。設定として置かれた奇妙な構造以外は、世界の反応といい何といい常識的に進んでいく物語なんだけど、筆捌きの巧みさもあって引き込まれる作品でした。物語の構造上はあくまでも添え物ではあるもののしかしいい味出してる大家のおばさんがいいですね。オチはかなり唸らされた。結局、死にたいと願っている人間が不死になる、という時点で呪いである上に、それを破る方途が「他人の手で殺してもらうこと」というのは二重の呪いですよね。禍々しくてグッドです。取り立ててひっかかる点もなかったし、これは大賞候補作の一つとみて間違いあるまい。しかしこれを書いている今はまだ偽物川小説大賞も序盤ですので、この先どういう判断になっていくかは分かりませんが。

偽の武王:自死を願い実行に移すも不死の体質故に蘇ってしまい、何度も自殺と復活を繰り返す特異体質の少女メアリーのお話。
 不死は不死でも死の際の苦痛にはしっかり苦しめられるため、いわば大仰な自傷行為をしているようなもの。けれどもその苦しみがために自殺をやめることができないぐらいに苦境に立たされているところにメアリーという少女の悲しみがあります。
 メアリーを取り巻く周囲の反応が生々しいです。便乗して商売しようとする人、絶対に出ますよね。結局それはあまりうまくいかなかったらしい(便乗商品が大して売れなかったところから)という部分まで含めて「ありそう」って思えます。
 絶対に復活するメアリーを死なせる(つまり、復活を防ぐ)方法は何処か一休さんの頓智話のような発想を感じますが、確かになるほどと思いました。最後の一文が余韻を残してくれます。クラーク医師……

偽のネオトコロザワ:おおー!!!すごい作品でした!!短編小説としては非常にジャンル横断的な多彩さで色んな場所に連れて行ってもらいつつものすごく綺麗にオチをつけられている…という印象でとても面白く読める好きなお話でした。
最初、淡々鬱々としたメアリーの語りに不安感にも似た鬱屈とした印象を覚えるんですけど「死にたがりのメアリーミートパイ」の辺りから…ん?みたいな感じでブラックユーモア的な要素がぞろぞろと出て加速してその要素がそのままSNS社会を皮肉った社会派な作品へと徐々に面舵一杯トランスフォームしていく様も非常に痛快で面白いですし、最後の最後にまさかの…!!ダークでドライなミ○オンダラーベイビーだ…まさかのラブストーリーだったとは…素敵です…
今回の灰崎さんのお作での死というテーマとの距離感の取り方?とか加速の付け方が面白くて、大澤先生の作品に近しいものを感じます。例えば『清潔な白い骨』とかの「えー!?そっちに行くの?!それでいてそんなにきれいに着地するの!?どうなってるのこれ…?」感…。死というものを美化もしていないしかといって冷笑的でもない。「生者による死への意味付け」とか「誰のための死?」っていうあたりがテーマ?着想?になるのかとちょっと想像したんですけど、作者さん自身もメアリーの死に意味付けをしないでお話を締めてて、ものすごい冷静かつ現実的で地に足がついて書いている印象でした。でもその中で、マクレーン夫人とクラーク医師の記憶の中に留まり続けた、っていうこのあくまでリアリティラインの内側にあるロマンティックさがすごいすきです…読者を納得させる強さと救いがあるオチ。本当に素敵でした。

ハレーションで『あなた』を裏書きする。 河童

偽の教授:いかにも文学で小説という感じがする、いい意味でも悪い意味でも非常にオーソドックスな作品。特に指摘するほどの悪いところはないんだけど、かといって個人的に高く評価するかといえばそれほどでもないかな、と言ったところ。ただ喫茶店を舞台にした小説ってのはいいですね、何が良いのかと言われても困るんだけど個人的に好きなので。

偽の武王:喫茶店を舞台にしたお話。
 別離の悲しみの話だと思いました。もっといえば、別離の悲しみを味わう者を、その外側にいる第三者の視点で観測するお話ともいえるなと思いました。
 オチ自体は非常に分かりやすいというか、「ああ、前半の彼女がああなってこの男の人は残された側なんだろう」というのは容易に先読みできるのですが、青年の悲しみが最後の置手紙をきっかけに堰を切ったかのように暴溢するシーンは、まさにゾクっとしました。そりゃ泣きますよね……あの手紙は……
 手紙の書き出しがあたかも未来予知のようなものであることから、これを書いた側(香織)の悲しみや懊悩といったものも伝わってきます。
 死と別れを描き切った、短いながらも心に残るお話でした。

偽のネオトコロザワ:作品を見終わった後、気になって作者さまのプロフィールを見に行ったらミステリ書きさんということで確かにロジック、トリックを先に組み立てて描かれているという感触があったのでなるほど!と思いました。
読み進めていくと不意に謎解きパートが入って読み進める手をゆっくりにしながら考えていたらいつの間にかすっぽりと物語の世界に誘われていったので、してやられた!という感じがありました!この構成いいですね…。
その他愛のない謎解きをする関係から最後にビッグクエスチョンを残されて二年…と…物語は進んでいきます(ここから先はネタバレなので本編読んでね…!)。
最初読んだときは米倉さんが敢えて店主さんに手紙を渡す蓋然性みたいなのがちょっと見えづらい気がしたのですが、再読してみると米倉さんのサバサバとしてて風の様に捉えどころのないミステリアスな魅力にふわっとくるませることを意図されているように感じたので、なるほど…なるほど…と思いました。
なので米倉さんやマスターのキャラクターの魅力もそうなんですけど、二つの謎解きと物語全体の構成に乗せられたのが悲恋という感情だったというところにこの作品のギャップがあってそれが素敵だと思いました。バリバリの男子が繊細で切ないラブソング歌ってる感じのギャップというか…。あとタイトルのセンスがいいですね!すきです!

手袋 尾八原ジュージ

偽の教授:高度な文明の存在する、しかし処刑方法は古式ゆかしい斬首刑という方法を取る架空国家の、引退した死刑執行人を主人公に死について考察するおはなし。物語の中核には主人子が巻き込まれた五年前のテロ事件というのが置かれていて、そしてそれが理由で本来なら正体が隠されていた処刑人の身元が世間に知られてしまい、そのため主人公に取材しに来る若い子なんてのもいて……と、いろいろな要素を持つ作品です。ただ、書き手自身の死生観の提示法を含めて、ちょっと作品テーマの見せ方という観点からは煮詰めが甘い部分があるかな、という印象を受けました。現代的であるようでどこか懐かしさも感じさせる、独特の雰囲気を持った架空国家の雰囲気作りはなかなかうまくいっていると思います。

偽の武王:架空の国を舞台とした、かつて職務として公開処刑を行っていた元刑吏のお話。作者のジュージさんは神ひな川参加作「月と酔っ払い」で華麗なミスリード誘引をしてくれました。上手い。
 事故死や病死、他殺、自殺など死というものは多様性に満ちていて、それはその一部を成している処刑であっても同じ。その処刑を罪人にとって安らかな形(なるべく苦しめないように斬首する)で行う主人公が、ある事件をきっかけに生と死を見つめなおすといった内容ですが、死という現象を間近に感じてきたからこその懊悩が描かれています。
 死刑は極刑と呼ばれるようにこれ以上ない最高位の刑罰(実際には連座制の族誅などのさらに重い刑罰があったり、逆に本人の名誉を慮って自殺という形で死を与える賜死などその軽重には振れ幅がある)なのですが、その範囲内で比較的人道的なやり方で行おうという主人公のある種の善性が、結果として悲劇を招いてしまったところに皮肉めいたものがあります。勿論爆破の犯人がしたことはただのテロリズム以外の何物ではないのですが、「穏当な殺し方」に納得がいかない心情自体は自然に抱きうることもまた想像がつきます。
 処刑人という特殊な職業の人物の目を通して生と死を見つめた、意欲的な作品でした。面白かったです。

偽のネオトコロザワ:ご本人は世界観設定で迷走されていると仰っていたけれどそんなの全然感じないくらいかなり現実寄りで「死」というテーマ性にかなり寄り添った形で書かれたハードボイルドな内容でした。誠実にテーマと向き合いつつ考えながら書かれていると感じるので、評議員としては好感度高いです!!ジュージさんは以前のお作を見た時にも感じたのがキャラクター憑依力や情景描写力が高いと感じています。特に情景描写力は絵を描かれているのが関係しているのかと思うんですけどこれもすごい高いように感じています。イレーヌちゃんのポンコツでありつつ誠実なとこかわいい!全体としては死刑制度の是非とかすんごく重たいテーマがあると思うんですけど、作者さんは問題提起というよりも多様性のある人の気持ちに寄り添いながら人の心に灯る何かしらの救いを一匙掬い上げようとしたように感じます。バルブロの身に起こったことがただの不条理で爆破犯を悪人と仕立ててしまうことは物語の筋や作者さんの意図ではなく、バルブロ自身もそれは諦観の中で誰を責めるでもなくじっと考え続けていたことだと思います。バルブロの身に起こった事実を公にしようとするイレーヌとの関係性がユニークで、イレーヌは世間に問題提起するためにこうゆうことをしていると思うんですけどバルブロに対する研究対象としての興味が先立ちながらも”匿名の死刑役人”ではなく一人の人間としてきちんと相対している。匿名の存在だったバルブロはこれを機に自分自身とも向き合うきっかけになったと思うんです。手袋っていうモチーフを敢えて象徴的に解釈するなら、”私はあなたのことを一人の人間として見てます”ってことなのかなと思います。個人的にはバルブロとイレーヌの関係性を必要以上にロマンチックに書かなかったところがすごいよかったです。あくまで一対一の人として向かい合ってる。でも、最初頼りないポンコツ少女だと思ってたイレーヌがヘタレつつたぶん自立した考えを持った人なんですよね。自分がやるべきことをきちんと考えた上で実行に移せる人で、自分の業務や常識の範囲を逸脱しないバルブロと対照的な気がします。なのでイレーヌが実はバルブロにとって重要な人になったところで最初の関係性が逆転してて、ここの関係性がこの物語の中ですごいエモだと思いました。

だけど死ねない そのいち

偽の教授:肝試しで出くわした女幽霊に恋をした挙句、同じところに行こうと自殺に挑戦する、なかなかにクレイジーな男の話。これ、小説として見たとき最大の特徴は「ヒロイン(?)」であるところの幽霊が全く喋らない、ということ。落ちからしてディスコミュニケーション的なものを描写するためにあえて喋らせていないのかもしれないけど、さすがに主要人物で喋るのが主人公だけという状態で読者に間を持たせるのは厳しいものがあるので、せっかくヒロインであるところの幽霊に片言とかたどたどしくとかでもいいから少しは喋ってもらうか、どうしてもそれが嫌ならもう一人くらいキャラクターを配置した方が良かったかなという気がしました。全体のテーマとしては結局、これは死を自我親和的なものではなく遠くに置いて拒絶するという物語構造なわけだけど、それ自体は悪くなかったです。

偽の武王:心霊スポットから憑いてきてしまった幽霊の女性に恋をした、生者の男性のお話。
 憑いてきてしまった女性の例をまるで家に招いた女性のように遇する主人公の行動にはどこか滑稽味さえ感じますが、そうした面白味とは対照的に主人公は恐らく大真面目なのでしょう。そのようなある種のギャップ……読者と登場人物の心情のギャップ(とはいえ、これはあくまで私個人が滑稽味を感じたというだけなので悪しからず……)が面白いです。
 始まり方が始まり方なだけに「もしかして女性の霊に誘われてしまったのでは……」と思ってひやひやしていたのですが、そうではなくてほっとしました。
 「心霊スポットで出会った霊に恋をしてしまう」という奇抜な発想の物語でありながら、一人称小説の特性を活かして主人公の懊悩がしっかりと書き込まれていて面白いお話でした。

偽のネオトコロザワ:怨霊に恋する男の話。
軽い遊び心で心霊スポットに行ったら本当に憑かれちゃった的なホラーを主人公が一方的に幽霊を怖がる関係性をラブな関係性にひっくり返すというアイディアで書ききった感じで軽妙な語り口も相まりラブコメちっくな様子でぐいぐい読ませてくれる序盤~中盤はとても読みやすいし幽霊も主人公もキャラ立ちがよくて面白いな~なんて思って読み進めると最後の最後でテーマに深く切り込みつつホラーでありながらすっきりとしたこの後味…とても良かったです。

デッド柿 武州人也

偽の教授:うーんこれはバカパク(古い)だね。読み終えた後に虚無しか残らないし、いろいろどうしようもないんだけど、そういう風に計算して書かれているということはよく分かるから取り立てて改善点がどうだとか不足分がどうだとか賢しらぶったコメントもできないし、うーん何を言えばいいのかなー。この企画を立ててお題を「死」にしたとき、ぜったい一人くらいは「ホッケーマスクのゾンビがアベック(死語)を鉈で惨殺しまくるからテーマは死」みたいなものを投げてくるだろうと期待&予測はしていたわけなんだけど、まさかアタック・オブ・ザ・キラー・トマト(&デッド寿司)が来るというのは予測していなかったできょうじゅ。でもまあ面白かったよ。ちゃんと娯楽として成立している。

偽の武王:拙作。箸休め的な作品を目指してエンタメに振ってみました。

偽のネオトコロザワ:キャッチコピーのつよさよ…それに加えて小ネタがたくさん差し挟まれているのでとても楽しく読めましたw サメ・エーガとB・Q・エーガの息子がZ・Q・エーガ…概念が魔合体されてZ級映画息子が誕生している…w
内容ははがちさんのB級映画小説にも出演されているメイスンさんと時雨さんがメインで活躍するのかと思いきや、神崎さん(概念ではない)とシオリさんの百合がきっちりエモく展開されてる内容でした。シオリさんのストーリー悲しい…。あとビアンバーとかベッドシーンとかの描写がさらっと出てくるんですけど、その蜜月が研究所の思惑で破綻してシオリさん闇堕ちから再び、今度は敵としての邂逅って…殺伐とした関係性の中にちらりと見える愛情の残滓がとってもよきでした。そのストーリーの大筋に加えてデッド柿のやっつけ方とかきちんと上手いことかっこよくアクション映画されていて、B級じゃないじゃん!いや、着想はB級映画のそれなんですけど…普通に楽しく読んじゃえるやつ!
最後のオチも納得感があってよかったです…。面白かった…。

葬儀屋にて @styuina

偽の教授:本文を開いたとき正直絶句してしまったんですけれども、一応応募要項は満たしてますね。はい。なので正式に受理した上で講評を書いております。普段はこれを始めると際限がないのでやらないんですが、これに限っては作者さんの別作品までチェックを入れたり、他の川系大賞でどういう評価を受けてきているかとか、一通り調べました。その上で、率直に申し上げましょう。あなたの作品には、評価する価値すらもありません。百点満点で言うときっぱり0点です。凡作とか駄作とかそういう評価を下すべき次元を下回っております。正直、何か他意でもあるのかと疑うレベルなのですが、邪推はほどほどにして私がやっているのは小説大賞ですので、これは小説として投稿されたのだという当然の前提に立って話をします。本作品においてみられる擬音の多用という表現技法は、安易かつ陳腐であり、作品の価値を無に帰せしめています。確かに、知ってるか知らないか知りませんが例えば夢野久作の『ドグラ・マグラ』などのように文学界で高い評価を受ける作品で部分的に擬音を多用する例は絶無というわけではありませんが、あれは他の部分が小説として成立していて初めて機能する超高等技法です。まあ、多分久作の真似をしているわけではないでしょうから、この話はこれくらいで止しますが。さて、本作品にはほかにももう一点、注目すべき点があります。それはこの葬式で葬られている死者の名です。トマス・チャタトン。ジャンルが現代ファンタジーになっているのが問題ですが、名前の由来自体はまさか偶然の一致とも思えないので、18世紀英国の実在の贋作詩人、Thomas Chattertonと見て間違いないでしょう。もし仮にこの作品が、孤独と幽愁のうちに自死した詩人トマス・チャタトンの死を描いた歴史小説的なものとして企図されているのだとしたら、そこにはある種の文学性が発生しうる余地が無きにしもあらずではあるのですが、正直なところトマス・チャタトンなんて名前を説明なしで投げてこられても分かる人は少ないので、これも非常に稚拙な技法であると言わざるを得ません。なんとなれば、私は自他ともに以て鳴る博覧強記ですが、トマス・チャタトンなんて言われても誰だか分からないからググって調べたのです、この作品を読んだ後に。で、もしもこの作品が実在の詩人トマス・チャタトンの葬儀を描くという前提で書かれているのなら、ですが、せめて数行程度でもいいからトマス・チャタトンの人となりなり人物像なりについて、何処かに書かれなければなりません。それが書いてあったら、まあ0点の小説が100点満点で3点くらいにはなる余地があったでしょう。まあ、論じられる点としてはだいたい以上でしょうか。では最後に私から一言。小説ナメてんじゃねえ。

偽の武王:詐欺師の遺体を埋葬する葬儀屋のお話。
 天気の悪い日に詐欺師が死んで埋葬されたということが台詞から語られているのですが、文章に占める擬音の割合が大きすぎて物語があまり動いておらず、お話の書き込みが必然的に薄くなってしまっているようにも思えます。大量の擬音はある種の前衛芸術のようですが、一方で単なる一発芸に終わっている感も否めません。
 最後に出た人名「トマス・チャタトン」は若くして自殺した実在のイングランド人詩人とのことです(調べました)が、彼がどうして「詐欺師」と呼ばれたのかはよく分かりませんでした(もしかしたら名前を被せただけで本人ではない、のでしょうか)。
 字数にはまだ大分余裕があるので、もっと情報量を増やして物語を動かしてみては如何でしょうか。

偽のネオトコロザワ:擬音!!!!!!笑
若干のやけくそ感すら漂う擬音の嵐…それを完遂する胆力がまずすごいです笑
内容は詐欺師の死体が無縁墓地に入れられるというストーリーです。
詐欺師が自分の悪事のツケを死を持って贖ったという形で、開幕の時点で既に物語はある意味での勧善懲悪が完結しています。
詐欺師の名前やバックボーン、ストーリーは一切語られず、それゆえの哀愁が二人の会話の間からにじみ出る。
名もない詐欺師の死。面白い構造のお話だと思いました。

メサイアコンプレックス 川谷パルテノン

偽の教授:正直なところ何が何だかよく分かりませんでした。とりあえず把握できた(と思う)ことを書くと、妻と子を事故で失った男が、彼岸と此岸の狭間にある、人ならざる者たちの暮らす奇妙な街に辿り着いた。そこで出会った一人の奇妙な少女に導かれて、「この街の者たちが死んだときに辿り着く、終着駅であるところの廃病院の建物」に到達する。そこで彼女は主人公に対し、実は彼が妻子の死を自ら願っていたのだという事実を突きつける……。こんな感じかな?唐突に妻との出会いの話が差しはさまれたりなど、全体的に取っ散らかった印象を受ける上、最終的にこの物語が何を語るための物語なのかという肝心な点が私には把握できかねました。根本的に何がしたくて書かれた話なのか分からないので、改善点というのも思いつきません。三千字強で書く小説には三千字強で書く小説なりの難しさというものがあるので、まずは情報を整理して読み手に伝える工夫をするところからかな、と思います。

偽の武王:妻子を失った男が、葬儀を済ませた後に人ではないものが闊歩する見知らぬ街に迷い込むお話。
 タイトルの「メサイアコンプレックス」は「メシア(救世主)」と「コンプレックス」を組み合わせた言葉で、「自分の欲求を満たすために人を救おうとするコンプレックス」のことだそうですね(調べました)。
 「人ならざる住人の跋扈する街」舞台設定からして不気味さを醸し出していて、「これから怖い話が始まります」というのを知らしめています。ジャンルは現代ファンタジーとなっていますが、ホラーの雰囲気を存分に持っています。
 死んでしまった妻子と、街の正体、それらが明かされる部分は如何にもホラーらしい「嫌らしさ」を存分にまとっていてよかったです。

偽のネオトコロザワ:幻想と現実、死後の世界と現実の世界の回想を行ったり来たりする内容でした。
どう読めばいい作品なのか非常に悩みました…っていうか進行形で悩んでおります…。
感覚的に読もうとするには余りに理路整然としている印象なんですけどそれらのモチーフや断片をどうつなぎ合わせればいいのか全然わからない…。
なので以下は講評の体をなしていないです。本当に申し訳ありません。
『メサイアコンプレックス(救世主妄想)』というタイトルが意味するところもむずかしい…分からなかった…。
奥さんと子供に超然的な力で死んでほしいという思いはどこから来たのかなれそめからはちょっとわからなかったです。
キーワードとして罪悪感があるのかななどと思いました。そしてそれがこの物語のエモであることも感じるんですが上手く言葉にできない…。
読む力が足りず本当にすみません。。。
【ここからスーパーカンペタイム】
え…あ…?「すまなかった」ってそういうこと…?あと最後の一緒に住んだことがあるような…ってセリフは海星の女中二人のセリフなんですね…なるほど…色々と理解できました…
たしかに…これは完全に「死」を描いた小説ですね…えぐいけど描かれている感情描写の切れ味がすごいのときっちり因果応報になってるから完全に納得させられるやつ…
情報の開示の仕方が難解でかなり玄人向けな感じはありそうですが…やっぱりはちゃめちゃに小説が上手人(うまんちゅ)でござる…めちゃすきです。


波羅蜜 私は柴犬になりたい

偽の教授:何ですかね。仏教的なモチーフの、死者を彼岸に送る話なんでしょうか。文章表現に凝っているのは分かるのですが、具体的に何が起きているのか分からない部分が多くて、理解に苦慮させられます。作品の雰囲気どうこう以前の問題として、主人公が何者でこの物語では何が起こっていてといったようなことを読者に理解させることはとても大切ですので、そこをおろそかにはしない方がいいと思います。

偽の武王:いわゆる妖怪譚のようなお話。墓地という舞台設定と不釣り合いな少女の登場からすでに不穏な空気を醸し出しており、現代が舞台でありながら、言葉選びから江戸怪談(たとえば牡丹灯籠のような……)の印象を受けます(仏教風というタグから、多分江戸時代というよりは仏教的な世界観を意識したのだと思われます。仏教については不勉強であるゆえにあまり突っ込んだことは言えないので申し訳ありません)。
 文体は流麗で素敵なのですが、そうでありながら凄惨なゴア表現が描き出されており、そういった「美しさ」が怖さや嫌らしさを増幅しているように感じられて、読み手にグサグサ来るようでした。
 「死」を汚らわしく書かない所は、きっとタグの「死/は救済」と密接に関係しているのでしょう。なるほどそう捉えるのであれば、このような表現の仕方は非常に理にかなっているなと思いました。

偽のネオトコロザワ:私は柴犬になりたいさん…私も柴犬になりたいです(???)…。
めめめちゃめちゃ小説上手い人ですね…!?すごい…官能的でありながらものすごい死を感じさせる筆致…本当にすごい…そしてエロい…しゅごい…(それしか言えなくなるやつ…)。こうゆう瞬間瞬間を濃厚に切り取るような文章ものすごい憧れる…いつかやってみたい…映像的な表現が幾重にも幾重にも重ねられて、その美しくて妖しげな文章の連なりを見ているだけで恍惚とした気分になってきます。本当にすごい掌編&作家さんです。すごい。

生環 縋 十夏

偽の教授:ちからづよく羽ばたくペガサスという感じの作品。ありがとうございます。遠慮なくネタバレしていきますが、業病を患い生と死について考えていた少年が、水難事故で子供を助けて死に、その元恋人が彼のことを偲ぶ、という構成からなる作品ですね。小説作法的な面から始まって改善の余地はいろいろあるのですが、しかしそれも含めてペガサスだと思うのでここで細かいことを言うのはやめておきます。よいペガサスでした。

偽の武王:カマキリやシカ、野草などの生き物を通して生と死を見つめるお話。
 生と死という対置されている二つの概念を真正面から見つめたお話と言えます。このテーマは、人間がこの地球上に存在する限り語られ続けるであろうテーマであり、多くの人々が思索に耽ってきたものでもあります。それゆえに陳腐になりやすく、扱うには技量がいるものでもある(と考えております)
 けれども、本作は見事にこの題材を書き切っていました。一人称小説の強みを存分に活かした心情の書き込みが優れており、また視点が変わった後の顛末も寂寥を感じさせつつ、その先には前に進む力強さのようなものもありました。決して明るい話ではなく悲劇を描いたお話なのですが、それでも陰鬱になりすぎない締めくくりでした。
 何というか、あまりうまく講評を書けている気がしないのですが、とにかく小説が上手かったです。

偽のネオトコロザワ:虚無的な思想を持った主人公が自死を選んだその日に少年を助けるという筋書きのお話。
死をテーマにしているだけあって生と死の円環の哲学的なイメージがぐるぐると回っていきます。生きる意味とは?死とはなにか?
そんな感じで主人公の一人語りメインで進んでいく物語なんですけれど、この小説のエモポイントは普段虚無的な主人公が最後に少年を助ける時に頭をよぎったのがかつての恋人の言葉だったという点だと思いました。以下がそのくだりです。 
>『世界はさ、続いていくんだよ。どんなに悲しいことがあったってどんなに苦しくたって、世界は続いていくの。続いていく世界の中で私たちはほんの僅かな間、ちょっこっとだけ世界に私達の歴史を紡いでいく権利を与えられるの』『その歴史をね、どう紡ぎたいのか、どう紡ぐのか。人間なんてそれくらいの違いしかないんじゃないかな』
生死というのはそもそも意味なんかないかもしれない。そんな虚無に立った上で改めてどう生きるかというのを主人公が選択した瞬間であり、同時にそれが主人公が死んだ日であった。
切ないけれど心温まる短編でした。

コーム・レーメ ラーさん

偽の教授:異世界を舞台にした仮想歴史もの。よく二万字の制約の中でこれだけの世界観を練り上げたものだと感心しました。脇役まで含めると登場人物がとても多いのだけど、主要人物は主人公コーム・レーメと女処刑人コルレッタの二人だけであるという構造がパリッと引き締まっていて、「歴史もの特有の分かりにくさ」を抑えているのがいいですね。コーム・レーメとコルレッタの紡ぎ出す主題は、これはあれでしょうか、ロマンシスというやつでしょうか。ロマンシスというのはブロマンスの対義語で、女性同士の友情を越えた友情みたいなものを書くやつのことです(ブロマンスは男同士)。ロマンシスって概念だけは知ってたけど、実際作品になっているものを読むのは初めてですね。コーム・レーメの独特なカリスマ性みたいなものの描写も巧みで、これは一定水準以上の作品だと判断します。

偽の武王:処刑人一族の女性コルレッタと、「コーム・レーメ」と呼ばれたファム・ファタルな高級娼婦の話。この二人のお話でありながら架空国家の政治史を綴った物語でもあり、国家の歴史の一部を覗いているような趣があります。
 まず目を引くのが書き込みの細やかさ。コーム・レーメと呼ばれた女性の容姿描写であったり、処刑人の信念であったり、処刑の際の臨場感あふれる情景描写であったり、とにかくそういった細やかな書き込みが架空国家と人物たちに実在感を与えており、存在を際立たせています。そういった細やかさは読んでいて見習いたいと思った次第です。
 処刑人と美女の話もさることながら架空国家の政治史としても興味深く、面白いです。実際に史書の一部を覗き込んでいるようです。おそらく仏革命の辺りをモデルにしているのだと思われますが、王族や貴族、民衆の動きであったり、政治思想の対立であったりと非常にリアリティがあり、「あるある」と思わせる所があります。
 重厚で読み応えのある、素敵なお話でした。凄かった……!

偽のネオトコロザワ:やばたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!!!!!
めっっっっっちゃよすぎた…
すべてが良すぎた……すべてが良すぎたんだ……まず登場人物が全員魅力的過ぎるんです……
※ここから多分にネタバレを含むので未読の人は一旦読んでから読むことを推奨いたします。

まずコームレーメたるナターシャの人物造形が物語が進んでいくにつれいい意味でものすごく裏切られるんです…
どんな男も破滅に陥れるファムファタルのようなイメージから

>私は、ナターシャ様に対して言われる世間の数々の毀誉褒貶が虚飾に過ぎないものだと思いました。彼女は、私の心に近づきたくて――簡単に言ってしまえば、私と友人になりたくて、このようなことを訊ねていたのです。

そして次のセリフ。

>「わたしは永遠に美しくはないし、幸運はいつか星を離れる――。色々な土地で色々な人を見てきたから、わたしはそれを知っている。『運命の輪カルミナは常に等しくは回らない』のが人生の理ことわりだから――」

ここからナターシャは享楽に身を委ねがらもそんな自らを俯瞰できる女性で、さらには与えられるものをただただ従順に開け広げなほどの自信と他者への信頼の元に受け取っているだけで、そんな現状に執着しようとしていない。卑屈さからくる媚びなんかなくて純粋にあふれ出る愛を周囲に与えている、そんな女性であることが伺えます。ものすごい器量と胆力と人生を達観した知性が伺えます。人生10度目くらいですかね…?実際に読んでみるとここで印象が覆されるのがものすごく心地いいんですよね…

あと台詞のセンスも一々全部神がかりに良くてですね…以下、皇太子とコームレーメのやり取りなんですけど…

>「はい。できれば二人きりで」
>「しかし、あれは不浄の一族だ」

この不浄の一族っていうの普通にディスなんですけど、高貴さから来る矜持と両面になっている台詞でもあってそれがまたシビれるんですよね…下腹にクる…!!

そしてそして何より、コルレッタというキャラクター…!!!この人一人だけで既に勝ちが確定しているんですよ…!!!
最初の処刑のシーンの外連味溢れる描写!!!誇り高い女騎士のような美貌の女処刑人コルレッタ…そりゃあご当地でアイドルにもなりますって…一生推せる!!!!!!

そして歴史絵巻的な重厚さのあるドラマ!!!説明過多になってリーダビリティになってしまうどころかこれら魅力溢れるキャラクターの魅力が相乗効果で更に引き出される仕組みとは余りに小説がお上手に過ぎませんか…!?
政治体制が不安定になり、それでも自らの正義=法の剣に徹するという矜持に少しの陰りが見えるところ…2020年最エモ賞を進呈させてくださいませ…5不可思議点をあげちゃう…だいすき…本当に最高でした…優勝です…優勝…愛している…

>「彼女は悪女ではありません。聖女でもなかったけれど……語ることで守られる尊厳も確かにあるでしょうね」

見送る沙耶 洞田太郎

偽の教授:彼岸に渡る前の死霊を家に招いてカウンセリングする、沙耶という霊感を持った女性の話。死をテーマにするということは生について語るということ、まさにメメントモリですね。語られている死生観と作品の纏う雰囲気がマッチしていて全体的に悪くなかったです。幽霊がものを飲み食いする描写が割と独特でいい感じでした。

偽の武王:夜道で出会った男のお話。幽霊譚であり、必要不必要といった概念を生と死の論議に接続したお話ともいえます。
 「紅茶って人が作るけど、葉っぱは人が作るわけじゃない。そりゃ今は栽培してるけどさ、一番最初は勝手に生えてきたはずなんだよね。たぶん世界が葉っぱを必要としたんだ」という一言が好きです。紅茶に限らず穀物や野菜、家畜なども皆最初はそうであり、農耕や畜産といった人類の営みの歴史に思いをはせることができます。そこから主人公の独特な死生観につなげてくる辺りが上手く、読んでいて面白いところでした。

偽のネオトコロザワ:凄い…五億点あげちゃいたい…。一読して今回のコンテストの中で死というテーマと向き合いここまで誠実に優しい回答を引き出したのは類まれなことではないでしょうか。
死というもの不条理な断絶の手触りをきちんと見据えた上でそれを何のてらいもなく自然と世界のひとくくりの中で捉えてみせる。これはもう技巧が云々というものではなく、作者様の持つ人間的な包容力ゆえのものではないでしょうか…。本当に宇宙的な包容力を持っているひたすらに優しい、すごい作品です。

死を題材にした小説のための構想 あきかん

偽の教授:構想じゃなくて作品を書いてくれ。それも、(主催とはいえ)ほかの参加者の作品をネタに拾ったりしていない、自分の作品をだ。……全体としては小説の体裁をなしていない散文であり、その上明らかに私の『五匁六分とあと少し』から拾ったと思しきネタが含まれているのですが、正直申し上げまして、内容どうこう以前のレベルとしてそういう真似をされると不快です。以後慎まれたし。

偽の武王:中絶に関する論議と、子殺し、信仰のお話。
 前述の通り私はこの手の論議について何か語れるような言葉を持っておらず、したがってあまり踏み込んだ形の講評を書けないことにはご容赦ください。
 二話目とラストの間のつながりが不明瞭で、私見ですがここはもう少し説明を増やした方が良かったかな、と思いました(字数にもまだ余裕がありますし)。キャッチコピーに「小説ではないかも」とあるように何らかの実験作のようなものでしょうか。その辺をくみ取れなくて申し訳ありません。

偽のネオトコロザワ:あきかんさんご参加ありがとうございます!!
パーソン論、私は全然存じ上げなかったのですが一話の「中絶」の部分は非常に読んでて面白かったので小説を読む手がとても進みました。これは小説だろうか、という躊躇いがTwitterを見てても度々あられるように見受けられるあきかんさんですが、これはもう小説でいいと思います(断言するスタイル)。自信もっていいよ!
ただ二話以降は少し説明不足感があり、一人称で喋っている人物の特定と1-3話の関連を読み解くのが難しいように感じました。
あきかんさんは物語性をどう織り込むかというところで手探りを続けられている感じですが、それもあきかんさんの持っているロジカルな強みというのが元々あってそれをどう出力するか、というハードルがあるからなのかと感じてます。つまり元々出力する・したいベースがあるということで、これはあきかんさんの強みなんじゃないでしょうか?
これからあきかんさんの世界がどう広がっていくのか楽しみです!

十三回忌 佐倉島こみかん

偽の教授:いわゆる、「死者に呪われる系」の話。ここで言う死者に呪われるとは悪霊に攻撃される的なことではなくて、死んだ人間が遺した言葉などが心に残ってその後責め苛まれるとかそういうやつですが、きょうじゅはこういうのが割と好物なのです。文章力をベースとした小説ぢからがかなり高い作品で、なかなか引き込まれて読まされましたが、肝心の呪いがそんなに強い呪いではなかった感じで解決が意外と早く、そのせいもあって終わり方がちょっと唐突な印象を受ける感じだったかな。初読了時には思わず「あれ?終わり?」と声が出てしまいました。といってもだから悪いというわけではなく、まあ12年も経てば呪いが解けもするわな、そんなにひどいお姉さんでもなかったみたいだし。全体としては良い作品だったと思います。

偽の武王:病弱で長生きできず十二年前に死んだ姉と、姉に対して複雑な想いを抱いていた妹のお話。
 すごくよかったです……! 妹の姉への想い、姉の妹への想い、去っていく者から残された者へと残すもの、かけられた呪い……それら一つ一つが要素として調和していて、読む側の感情を揺さぶってきます。
 「そうして、私より大きかった姉は、私より小さな骨壺に納まってしまった」という部分に無常観をしみじみ感じます。物質的な大きさの対比を利用した表現に舌を巻きました。
 死者を中核に据えた物語だけあって全体的に重く暗いのですが、同時に呪いを解くお話でもあり、ラストはトンネルを抜けたような明るさと晴れやかさがありました。感情に訴えかけてくる、読んでいて面白いお話でした。

偽のネオトコロザワ:>誰よりも私の誕生を願ったのは姉だった。でも私は、誰よりも姉の死を望んでいた。
この冒頭がこの物語のすべてを物語っていると思います…

”死を乗り越える”というより、自分の恨めしい気持ちにまつわる罪の意識を乗り越えるお話。主人公の心理描写がすごくてひりひりしたむき出しの感情が伝わってきます。つらいのは姉が妹に与えようとした言葉はおそらく完全に善意だったという点。お姉ちゃんは妹の気持ちを類推できるくらいには優しいし”姉”だった。でも妹にも愛されたかったし許されたかったんだと思うんです。それが故に妹への贖罪を亡くなる前にしようとしたんだと解釈しました。それだけに妹はやりきれなかったと思います…自分の醜い感情のやり場が自分自身以外どこにもなくなってしまったんだから。そういうお互いは概ね善人であるのに生まれてしまう孤独でどうしようもない空白、ある意味での地獄。本当にすごい描写だと思いました。そしてそこからの落ちもリアリティラインの内側で最善と言っていいものだったと思いました。言葉として自分の感情を表出できるくらいに主人公は成長したし、言葉にすることで自分の中に溜めていた姉に対する負の感情すら、元々全部姉を想うが故に我慢してきたためだったという気づきもあった(これからある?)んじゃないかななどと思います。エモの詰将棋を見ているような本当に見事なお手前の小説でした……!!!

夢見るフランス人形 シメ

偽の教授:流しの女ギター弾きというなかなかに渋い設定チョイスの主人公が、奇怪な店で奇怪な体験をする話。そんな舞台背景で性描写あり、というのが強調されていたからかなり構えて読んでしまったけどそんなに強烈ではないというか、世間的な意味での性描写とはちょっと違う、かなりフェティッシュな趣向のやつです。掌編小説としてはよく書けていて、インモラルな雰囲気も悪くないのですが、「死」というテーマの消化についていえばちょっと弱かったかなという印象は受けた。文字数的には余裕があることだしあそこで終わらせず、あのあと章分けするなりして不思議ちゃんヒロインのバックボーンや簡単にでも後日談を語らせるとか、そういうのがあったらもうちょっと高評価につながったかもしれない。でも嫌いか普通か好きかでいえば既に好き。そんな感じですね。

偽の武王:居酒屋でギターを手に歌う女性が体験した何らかのお話。
 嫌らしいというか怖いというか、あまり光景を想像したくない光景が想起されてしんどさがありました(耐性が低い)。店の主であるカコさんが何故このような店を営んでいるのか背景は全く分からないのですが、謎めいているからこその不気味さや怖さがあります。
 怖い話ではありますがホラー的な後味の悪さはなく(後々尾を引きそうなものは残っていますが)、「その横顔からは小学校に上がった子供のような喜びをほんの少しだけ感じられた。」という部分からは確かな救いが感じられます。彼女ら、その後どうなったんでしょうね……

偽のネオトコロザワ:流しのギター弾きというのがリアリティラインすれすれのところにある存在な感じがして、こういった世界観の物語の冒頭として非常に上手いな~丁度良いな~なんて思いました。
作者様の他の作品も読んでみたのですが、死と血と性、猟奇表現などを主にモチーフとして使われている方のようで今回の作品もそういった趣で作られたものかと。
山崎ハコさん存じ上げなかったのですが、まさか実在の人だと思わず検索してみてビックリしました。薄っぺらい感想になっちゃうのですけれど寂とした独特の世界観がすごいよかったです。講評と直接関係ないですが作者様の音楽への造詣の深さを感じます。あと『山崎ハコが好きなロリータ少女』っていう存在がものすごいアングラ感があっていいです…。歌詞を読んでみるとミララが自身の行き場のない感情を投影した感じにも納得感があってエモかったです…。(最後の「バイバイ」という呟きは『気分を変えて』のラストの歌詞のオマージュでしょうか)
弾き語りのシーンは語りの密度がぐっと高くなって主人公の緊迫した心情の表現が巧みですごいよかったです。ここからアクセル踏んで加速度がぐっと高まる感じも爽快感があります。全体的に感情の動きの描写が巧みで引き込まれました。すごいよかった。

水竜の涙 三谷一葉

偽の教授:龍神に生贄として捧げられた女の話。類型自体はよくあるフォーマットなので、そこからどう料理するかが作者の腕の見せ所となるわけですが、割と予想外の方向に引きとオチがついて、かなり良かったです。ネタバレ入りますが、水竜が激怒している理由が投げ込まれた石のせいで卵が割れたから、というのはいいですね。予想外でしたし、「死」というテーマの一つの消化にもなっている。そして、死産経験のある生贄の女が水竜の心に触れることで、そこにシンパシーが生まれるという構図も美しい。一般論的にいえば「救いがない」オチにも、主人公と水竜の悲劇性によって説得力が与えられている。完成度の高い掌編だったと思います。

偽の武王:水竜の怒りを鎮めるための生贄に選ばれた一人の女性のお話。
 割合とストレートで古典的な人柱モノのお話といった印象でした。結局何も解決しないどころか事態がさらに悪化するのはこの手の話ではある種様式美のようなものですね。
 見どころは生贄となった主人公が水死体となるまでの一連の描写(一話の最後の部分)で、ある種のゴア描写の連続なのですが、その悲惨な有り様が生贄という因習の残虐性を物語っているように見えました。変容する人体の描写がそのまま因習そのものの残酷さを強調しているかのような描き方は効果的で優れていると感じます。
 ただ、二話目の「水竜さまの大切な娘御の命を奪った」の部分はよく分かりませんでした。村長の息子とその取り巻きのいたずらがどうしてそこに繋がるのが不明瞭だと感じました。

偽のネオトコロザワ:この物語のすごいところは、完全にカタストロフなんですけど読み終えた時に感じるのはカタルシスなんですよね…。映画『ジョーカー』にも通じるような闇のカタルシス…。それはこの非情でドライな男尊女卑的な世界観が前提にあるのだと思います。それをひっくり返す爽快感がものすごい。
あと三谷さんの描くファンタジーはやはり世界観の作り込みとかイメージの広がりが特徴的だと思います。世界観の魅力だけでぐいぐいページを手繰らせる力があります。
今回の作品は少し東洋的な要素があるファンタジーなのも個人的にはすごいよかったです!!!(最後のオチでキャッチの伏線を綺麗に回収しているところもよかったです。キャッチがまたいいんですよね…この物語のエモがぎゅっと凝縮されていて…。とても良質のファンタジー作品です。

狂将と炎剣 七橋

偽の教授:一万五千字に渡って展開される峻烈なるサイバーパンク。ちゃんと全文読んだ上で言いますが、話の内容はほとんど理解できませんでした。冒頭でいきなり「実の母親である主君を暗殺する」というところから始まるロケットスタートぶりには「おっ?」と思わされましたし、文章表現力もなかなかのものだとは思うのですが、基本的に短編小説としてやってはいけないことが片手で数えきれないくらい作中行われており、総合的に言えば小説としては「非常に未熟な作品」です。しかし、原石の輝きのようなものを感じさせられたのもまた事実。たくさん読んでたくさん書いて、上達しましょう。あなたにはもしかしたら素質があるかもしれません。保証はしませんが。

偽の武王:和風世界におけるロボットアクション。
 中だるみすることなくテンポよく進みます。が、テンポが良すぎて駆け足な印象もあります。お話の規模が大変大きく、この規模のお話を展開するにはやや字数が窮屈な気がしました(私的見解ですが中編や長編向きだと思います)。
 現代日本ではない異世界で、異なる制度や軍事技術を持っているが故に初出の単語が羅列されているのですがそれらに対する説明が不足していて読む側が翻弄されてしまいます。なのでお話の規模を小さくするか説明を増やして中編辺りのボリュームを狙う(もっともそうすると企画参加自体が不可能になってしまうのですが)などした方が良かったのかな、と思いました。

偽のネオトコロザワ:うわーーー!!!めちゃめちゃ面白かった!!!面白いしカッコよかった!!!ネオ日本な世界観のSFロボット大戦、っていう藤原の語彙だと全然伝わらないのが悔やまれるのですが本当にセンスがすごくて名前のセンスとかが神がかりによいのですよね…逆樹って姓名すごいすき!!!ロボット同士の闘いがブレードなのもすごいエモエモだし設定周りは初見だと少し難解な感じがあったんですけれどキャラクターが誰もみんなすごくたっているのでぐいぐい読ます力があるしそれでいてその魅力に筆者さんが頼り切ってない感じ?もすごいいいです。オチも納得感がありますよね…因果応報というか…というよりえ、これ続かないの…?50000字くらいなら全然読みに行くので是非続き書いて欲しいです…お世辞ではなく本当に面白かったので…小説フォローしておくのでご検討ください…。

ゴロちゃん先輩が死んだ 鈴野まこ

偽の教授:講評を書くために読んでいる、という事実を忘れて読み込まさせられました。小説としての瑕疵はないし、それだけの力のある作品です。物語の主題である、ゴロちゃん先輩なるキャラクターの人物像構築がうまい。とてもうまい。単に「同情してしまう」というんじゃなくて、悲しくて哀れだけどある意味ではイヤな人でもある、というところまで含めて、キャラが立っている。佳作だと思います。

偽の武王:人間の弱さ脆さと無常観に真っ向から向き合った作品と思いました。字数にして4000字未満なのですが、そうとは思えないほど内容に厚みがあります。
 ゴロちゃん先輩こと五楼里美という人間の人物像や、それを取り巻くコミュニティの描写にはリアリティがあり、生々しさを感じさせます。彼女の内面の歪みとその末路を赤裸々に綴る様は、かつての自然主義文学のような趣がありますね。
「だって、彼女たちには各々の世界が広がっており、そのすべてをゴロちゃん先輩が覆うことはできない。彼女にできるのはかつての友人たちの時間を遅らせることぐらいで、いずれ記憶の底に置いてけぼりになる。現に亡くなってから一ヵ月も独りぼっちだったじゃあないか」という部分に感じる無常観が特に好きで、「人間は二度死ぬ、肉体が滅びたときと、人々に忘れられたとき」という出典不明な(しかしそれなりに知名度があり度々引用される)格言をそのまま再確認させるようでした。

偽のネオトコロザワ:つらい…!!!「人間」だ…人間の手触りがものすごい…!!!これ実話だって言われても信じちゃいますもの…!!!
>マウントの取り合いとは程遠い、自己主張しな人たちがタイミングを逃し続けていた故の流れだ。だがそんな時に限って、普段は一番に主張をするゴロちゃん先輩にはなにも告げることがなかった。彼女はとっさに恋人と別れた事実から目をそらし、在りし日の幸福を語り、帰宅して現実を見た。

ここがつらすぎてつらい…誰一人として悪意を持った人はいないのにちょっとした各々の営みやお腹の中になる何某かに縊り殺されてしまう世界…いや、完全に自滅ではあるんですけど先輩も先輩なりに必死で生きてきたのに…その最後がこんなにささやかな復讐心と功名心で死んでしまうなんて…すごい…本当につらい…

あと、ほんのりとまぶされる百合がよいです…これがほんのりしょっぱくてほろ苦いけど救いになっててとてもすきです。

さよなら、手を振るその前に 担倉 刻

偽の教授:スラップスティックなコメディですね。楽しく読ませていただきました。テーマのせいでとかく重くなりがちな(俺のせいだが)今回の偽物川小説大賞の中に吹く一服の清涼剤のようでした。主人公が死んだ(死んでなかったが)のが落ちてきた死神にぶつかったせいだというのはすぐに分かったけれども、ほのぼのとした結末は予想を裏切られて、なんというか暖かい気持ちになりました。スケール感を考えると登場キャラが少し多いかなという気はしたけれど、それも取り立てて悪いと言うほどではなかったです。

偽の武王:死人の面接会場から逃げ出した、自分は死んでいないと主張する男のお話。地の文が少なく会話文が殆どを占めており、会話劇のような形でお話が進んでいきます(ただし、地の文を完全に排除しているわけではない)。
 「死亡動機」と「志望動機」をひっかけたダジャレが好きです。単なるダジャレではなく二人の認識のズレを表すことにも機能しているところが上手いです。
 ただ、状況説明が少なく、一度読んだだけだと状況が掴みづらかったです(その辺は地の文が少なく会話文が多い小説全般で起こりやすいことでもありますが)。

偽のネオトコロザワ:正しくキャラの魅力が光っているラノベ!という趣の作品でした!(『なんとかなるなる』はググってみたんですけど元ネタはプリキュア?)
男主人公と四人の美少女が画面狭しと暴れまわるOVAアニメを幻視しました…シンヤくんはCV福島潤さんがいいと思います!ロリにブザー押されて慌てるところでは笑いましたw。
キャラの掛け合いがとてもテンポよくてボケツッコミの塩梅もとてもよく面白く読めます。
話し方でのキャラの立たせ方が巧みなキャラ文芸のマナーをきちんと踏襲しておりそこら辺もリーダビリティの良さに通じているのかと。
最後〇〇〇ちゃんがまさかの〇〇〇だったなんて…っていうのはエモ…そしてとてもえっちです…。
とても面白く読ませてもらいました!ありがとうございます!

押すと何処かで誰かが死ぬボタン @dekai3

偽の教授:うーむ。先の読めない作品だった。そしてかなりちからづよく直球で「死」を話の中核に取り上げた内容でした。はじめは子供の戯れから始まって、最後は人類の破滅にまで至る、表題通りの神か魔か正体不明の仕掛け。ところでこの作品を読んだ後(というか小説大賞参加作品に対しては全てそうしていますが)「応援する」ボタンを押さなければならないわけですが、物語の仕掛けによってその手が一瞬止まるんだよね。これは計算でやってますよね?エピソード分けをしていないところも含めて。実に巧妙な、読み手に対するトリックでした。秀作です。

偽の武王:タイトルの通り、『押すと何処かで誰かが死ぬボタン』という名前の不気味なボタンのお話。
 凄く上手いホラーでした。ボタンを巡る人間たちの争い諍いが物語のテーマだと思うのですが、人間側の行動に妙なリアリティがあるところが嫌らしく恐ろしいです。田舎の空地に設置されたたった一つのボタンがどんどん事を大きくしていって雪だるま式に騒動や被害を世界中に広げていく様は災害パニック映画のようでもあります。
 種明かしも単なる種明かしにとどまらず、最後に巻き込んでくるところなどは本当に嫌らしかったです……
 絶妙にいやーな気持ちにさせてくれる、優れたホラーでした。怖い。

偽のネオトコロザワ:でかいさんの小説!今回はどんな物語が展開されるのか…と思ったらまさかのディストピアもの…!!!ほぼほぼ会話劇はないのですけど初めのインターネット的なよくありそうなノリの話からの物語の加速の仕方が終始本当にすごくて最後まで面白くぐいぐい読まされてしまいました。
ラストの落とし方もホラーとしてすごく秀逸です…不条理さを現実のものとして読み手に引き寄せる手腕がすごい。
結構な人が死んでなお、語り口にインターネット的なノリがまだ差し挟まれていてなんとなく緊迫感が中和されるんですけどこの演出がまたすごい良くて、なんとなく日和見で日々を過ごしていたらいつの間にかものすごい窮地っていえるくらいのディストピアが完成していた…という感じを読み手に与えるのでものすごい…おそろしい…
作者さんの鋭い時代感が感じられる、すごい面白い作品でした。

Welcome to the Dead ろじ

偽の教授:恐ろしく現世に執着のない人間が“手違いで”三途の川に辿り着いてしまい、しかし生き返らせてもらえるわけでもなく、そして現世に執着がないまま三途の川べりで自分も死神として働くことになるおはなし。まあ、綺麗にまとまった掌編だと思います。ただ、それだけにどうしても気になるんだけどこのタイトル……何か意図があってあえてこうしているのでしょうか。正直なところ、英語としてかなり変な気がするのですが。

偽の武王:ただ働くだけの男が手違いで殺されてしまうお話。「終わりは突然に」「始まりも突然に」という二つの話のタイトルが全てを物語っています。
 字数が下限に近いこともあって割とあっさりお話が終わってしまう印象があるのですが、それでもこの主人公の為人(もっと踏み込んだ言い方をすると、ある種常人には持ちえないような特異性)を説明するには十分でした。多分彼でなかったらそう易々とは割り切れなかったでしょう。最後の一行がまた恐ろしいですが、彼ならそれでも不満を言うことなくやり遂げてしまいそうな謎の安心感(?)がありました。

偽のネオトコロザワ:弥吉のキャラ立てがものすごい良いですね。悪っぽいんだけど面倒見がいい感じ。セリフ回しも魅力的でなんとなく和を感じさせるファンタジー的な世界観の造形も映像として浮かんでくる感じがあるし、作者様センスがとてもいいと思います。名書(ながく)、帳番係(ちょうばんがかり)っていうネーミングセンスもキレが合ってかっこよい!!!一応異世界転生ジャンルになるのでしょうか?死後の世界がさらっと描かれているんですけど終わりというより物語の始まり的なワクワク感、開けた感すらある終わり方がとてもいいと思います。センスのいい方なので次回は設定の上に事件などを挿入することで魅力的なキャラ達が活写されるのは如何でしょうか?是非見てみたい!

SF´(スコシ・フシギ) こたあき

偽の教授:全部読んだけど(全部読んでいない作品があるわけではないが)まったく話の内容が理解できませんでした。何がやりたいんだかさっぱり分かりません。これは小説大賞の講評であって小説講座の添削ではないのでこまごまと瑕疵をあげつらうのはやめておきますが、ともかく読んだ結果としてクエスチョンマーク以外のものは残らなかったので、その旨ご報告しておきます。以上。

偽の武王:分かりづらい……というのが読後の印象でした。この物語をどう咀嚼してようのやら、足りない頭であれこれ考えていたのですがついぞ分かりませんでした。ごめんなさい。
 周りが滅びてしまった後のことを描いたディザスター物なのでしょうか……? 養蚕と絹織物を想起させるところから蚕を主役としたお話かと思ったのですがそうでもないような気がする……

偽のネオトコロザワ:最初の語り口の軽妙さから断片的なイメージが紡がれていく。そこから一貫性のある物語を読み取るのは難しかったんですけど、語りのセンス、ワードのチョイスのセンスにキレがあって確かなドライブ感があるんですよね。それがものすごいかっこいいしエモいです。
例えば『韓国』っていうワードが舞台として不意に出てくるところとか個人的には非常にしびれました。ボイラーマン、白昼夢で喋り出すチップ&デール、『生者の為に施しを死者の為には花束を』…無限にかっこいい!!!
サイバーパンク的な世界観?すごいかっこいい短編でした。

かげの唄 上村みなと

偽の教授:恐ろしい小説ぢからだ……。と、最初の方ですぐ思いました。いや、過去作を読んだことがあるので力量は知っているのだけれども、それにしても。最後まで読み終えてやはり思うのですけれども、0話が凄いです。何がすごいかというと、「高校生なみの文章力」だからです。ほかのエピソードとは明らかに文章力の塩梅を意図的に変えてある。これ、言うだけなら簡単だけど実際に筆に乗せるとなると相当な高等技術です。正直言って私にはできません。それだけでも戦慄ものです。作品全体としては、いかにも「文学!」という感じの文学力を感じさせられました。そういうものは読み手側の読解力や理解力などを問うてくるので、とかく平易なものが求められがちなWEB小説界隈では滅多に見かけないんですよね。ただ、あえて難点を言うならば、これを「一つのまとまりとしての短編作品」としてみたときの構成、そのパンチ力、そういう部分にはまだ向上の余地があったかなとは思いました。

偽の武王:姉をなくした高校生女子が文芸部で評論を執筆するお話。
 神ひな川の「現代lemonismの諸問題とその超克について」も読みごたえがあってすごく良質な小説でしたが、こちらもそれに負けず劣らず傑出した作品でした。
 「現代lemonism」と同様に地に足のついた現代ドラマとも言うべき話です。死を扱いながらそれを個性の発揮に関する論議に接続させる手法は見事そのものなのですが、見どころはそこばかりでなく、妹本人の懊悩や、彼女を取り巻く人物たちの描き込みも素晴らしく、小説としてのレベルがかなり高いです。
 個人的に好きだったのが仲澤先生と姉妹の関係性で、「ああ、そう来たかぁ~」と感心してしまいました。
 今回も素敵な話をありがとうございました。

偽のネオトコロザワ:もんのすんごい上手くてすごい小説…読みながら何度も唸りました…
真っ当な成長譚なんですけど、王道ではあってもありがちではない。どうやって主人公を立ち直らせるか、という視点でものすごい理知的に考えながら主人公を困難に立ち向かわせている感触があります。仲澤先生のどこかアウトローでありながら生徒のことをよく見守り導こうとする父性(母性ではなく)はキャラクターとしてとても魅力的だと思います。上村さんご本人は教育者ということをTLで拝見していたのですが、論理的で厳しくもこの愛のある視点は正に教育者であられる上村さんならではのものであるような気がいたします。最初の序文は演出として主人公が如何にしてここに至るのか、というワクワク感に引っ張られて読むうちに物語に没入している、構成がばっちり決まっててすごい。かっこいいしものすごい勉強になります。

思い出を噛む 神崎 ひなた

偽の教授:美しい作品でした。この一言で講評を終えたいくらいですが、さすがにそういうわけにもいきませんので、もうちょっと言葉を連ねますとですね、ゲロです。ゲロを吐くところから始まります。しかしそれすらも小説として美しいのです。小説のロケットスタートにもいろいろありますが、これは強烈なロケットスタートでした。掌編ですし、ストーリー的なものは物凄くシンプルなのですが、それだけにかえって達人に日本刀で斬りつけられたような鮮やかさがあります。特に、4話目の演出。こういうの、迂闊にやると陳腐になりがちなので非常に扱いが難しいのですが、この作品においては成功してします。ところで読み始める前、4話構成だと思って読み始めたのですが、読み進めていくと5エピソード目がある。そういう叙述のマジックも鮮やかでした。総じれば、一つの掌編小説のお手本と言うに値する作品だと思います。

偽の武王:酒を飲みすぎた老人のお話。冒頭いきなり酔いが回った挙句のゲロシーンから始まったのですがこれの描写が中々面白くて笑いました。ゲロシーン……Z級映画……うっ頭が……
 ちょっと「おや?」と思わせるところがあり、普通の老夫婦の話ではないのだろうなというのは何となく察せられるのですが、それでも感じ入りざるを得ない結末でした。最後の余韻の引き方がまた素敵で、しみじみとした趣があります。
「昨日みた夢のように 酔いどれの記憶のように すべてはただ過ぎてゆくだけで どうやっても元の形に戻りません」という部分が非常に漢詩的だなと思いました。
 文章表現にも目を引く部分が多く、帰巣本能と搦めて鳩を酔っぱらった自分の喩えに使うところなどは小粋で素敵な表現でした。ここ気に入ってます。ガムをタイトルにひっかけてくるところも良いですね。
 ひなたさん、こういうしっとりとしたお話得意なんだな……と再確認しました。

偽のネオトコロザワ:ひなたんの短編です。「死」という重厚なテーマを取り扱いながらこの完成度とここで表現されている感情の瑞々しさ、リーダビリティの高さ、やっぱりすごいなあ、力のある作家さんだなあと改めて思います。ひなたんは普遍的な関係性や人の中から特別でキラキラとした感情を見出して取り出す力が本当にすごい。これは技術を超えた人間性とか作者さんのキャラクターに根差した天性に近いものなんだと思います。死と同じかそれ以上に記憶、というキーワードが頻出する作品で、おそらく死とは何か?というところから着想された物語なのかと想像します。いつか過ぎて行く時間、やがて消える命の灯、いつかなくなる記憶、生きるということのシビアさの中、それでも”あなた”や”私”が生きた、ということに付随する鮮烈な感情はそれそのものが紛れもなく生きるということなんだと思います。”死”、”喪失”というテーマを扱いながら限りなく眩しい”生”を切り取ってみせたひなたんはやっぱり紛れもなく光の人ですね。すごい。

テキーラ・ウルフが死んだ。 宮塚恵一

偽の教授:第二回偽物川で一番長い作品、つまりジャスト2万字。しかし読破して思うことは、「これ二万字しかないの?」「よく二万字の制約の中でこれだけ書きましたね」ってことです。すっげえ密度だ。さて、ヒーローものです。主人公は一応バットマンモチーフ(といってもキャラクター性は全く違う)らしいですが、個人的には「××が死んだ」から始まる構成は『WATCHMEN』を思い起こしましたね(といってもストーリー性は全く違う)。アメコミインスパイア系って、書きたい人書きたがる人は案外と多いんだけど、本当の意味で「書ける」人は滅多にいません。しかし、この作品はハードボイルドなアメコミ風小説を「書けている」。それだけでも賞賛に値します。カッコいい。文章力もすごいです。ただですね、短編小説で豪壮な世界観を構築する系の作品に惜しむらくは必然的に付きまとう問題なのですが、主人公はともかく死んだテキーラ・ウルフなる人物や、真犯人であるところのキャラクターのキャラクター性が、いまひとつこう、もうちょっと濃密であったらよかったかなと(無理な要求なのは分かっていますが)思わずにはいられませんでした。というか、この世界観、この主人公で、長編を読んでみたいですね。本気で。書いたら教えてください、読みに行きます。

偽の武王:とある大物ヴィランの不自然な死と、その件に関してヴィランの孫娘に依頼を受ける殺し屋のお話。いわゆるアウトロー小説とアメコミヒーローの世界観を融合させたような感じのお話です。
 やや冗長で動き出しが遅いところは否めなかったのですが、良いハードボイルド小説でした。下手人にあの人物を持ってくるのも小粋でいいなと思いました。立場もそうですが能力の対比(非戦闘系の能力しか持っていない者と戦闘能力にパラメーターをガン振りしたような者)も面白いです。バトルアクション描写もかっこよく、文章力の高さが見て取れました。
 物質的な死(肉体の死)と社会的な死(ヒーローとしての死)を対置させてヴィランとヒーローの死を描いた部分も、「死」というテーマの捉え方としてよかったです。

偽のネオトコロザワ:商業型ヒーロー達と悪の対立という構造があった上でこの作品では元暗殺者家系の落ちこぼれのアウトローのダークヒーローが主人公という一風変わった設定が光ります。とある指定暴力団組長であるテキーラ・ウルフが死んだところから物語は始まります。それぞれのヒーローや悪役のキャラ造形がとても魅力的で読んでいてワクワクしました。ヒーローと悪との関係も複雑な関係である設定もリアリティがあってよかったですし、主人公の影のあるキャラ造形も非常に好みです!!外連味のあるセリフ回しにもシビれます。良質のエンタメ小説でした!!

形見 しゃくさんしん

偽の教授:ううむ。凝った文章を書かれる方だなとは思いましたが、ちょっと内容のわかりにくさが目立ちました。「生まれたものと思っていた自分の子供が実は(堕胎されたとかそんな事情ですらなく)最初から存在してすらいなかった」というアイデアは悪くありませんでしたが、そこからもうちょっと話を引っ張って、なぜ女がそんなことをしたのか、どういう人物像の女だったからそういうことをしたのか、それが見えてくるような物語になっているともっと良かったんじゃないかと思います。

偽の武王:刹那的な快楽を貪る主人公と、その相手の女のお話。
 端然とした筆運びが目を引きました。低温多湿な雰囲気を、やや婉曲な言葉選びによってうまく演出していました。こういう演出力、見習いたいところです。
 自分を粗末にしていた女の顛末を、それほど熱を込めずに冷淡に書き切っているのですが、ある意味人の死というものはそういう呆気ないところがあって、それを再確認させてくれるようなところがあります。そうでありながら男の側には(主にあの赤子の話がきっかけとなって)決して浅からぬ爪痕が残ってしまっているであろうことが何となく見て取ることができます。
 暗くじめっとした空気感を優れた筆さばきで表現した、素敵なお話でした。

偽のネオトコロザワ:今回実は藤原がお誘いさせていただいた散人さま(元・谷林呆酔さま)です!草たんにも刺さっていたようでよかったです…
文章自体はカッチリカッチリと短くハードボイルドでありながら、この匂いたつ耽美!!破滅!!快楽主義!!って感じが個人的にストライクな作家さんなんですよね…
>気儘に破れかぶれに転げまわり、ふと息つく間に死のうとする危うさを、女は抱えていた。死をひと思いに求めることさえできないようだった。
こう言ったはっとする様な切れ味の文章の表現力、それでいて非常に直感的に”わかり”が発生するのが凄いんです。それがそこかしこにちりばめられていて、すっと自然に作品の一部になっている。終始鮮やかさを感じさせてくれる筆致がとても心地よくそれでいてある種の陶酔感や緊迫感があります。

>一緒に死んでやると言ったのは、そうでも言わぬと生きてくれないと知っていたからだった。言葉は偽りで、心は真実だと、私はのんきに考えていた。
> しかし女には裏切りに見えたらしかった。もとより言葉も心も彼女にはないのだから。言葉は心で、心は言葉の、直線的で透明な魂だった。私はそれに惚れ込んだのでもあった。
こことかも男と女が詩的でありつつものすごい鋭く生々しく表現されていてすごい。

一対一の男女でありながら途方もない断絶がある。それは男と娼婦という関係性ゆえなのかもしれないですが、もっと男女としての人間としての普遍的な関係性すら表現されているように感じます。それはきっと人間の持つ性と死の狭間にある何某かなのでしょうか…。すごいよかった。


タキシードミー・マーメイド 富士普楽

偽の教授:まず最初に読む前に思ったんですけどタイトルがいいですね、これは。インパクトがあり、かつ洒落ています。そして読んだわけですが、一万字を越えるボリュームの割にはさらりとスムースに読め、それでいてしっかり内容が心を打ちます。独特の死生観を孕んだユニークな世界観がしっかり「現代ファンタジー」していて、そして予想の斜め上を行く結末へと着地する。死魄が人魚となって宙空を舞う、という幻想はとても耽美的でよかったです。こんなことを思ったのはこの作品が初めてですが、ちょっと「これをジュージさんの絵で観てみたい」と思わされてしまいました。まあ、私一人で大賞決めるわけじゃないし、これを書いている時点ではまだ全作品の講評も終わってないし、どうなるかは分かりませんけれども。

偽の武王:死によって分かたれた二人の少女と、人魚のはく製のお話。
 「死」という不可避の現象が帯びる意味に一つの答えを出しつつ、さらに宗教論につなげてくる辺りがテーマに真摯に取り組んでいるのが感じられて好きなのですが、それでいて良質な百合作品に仕上がっているのもまた見事です。元百合の民であった私も大満足の百合小説でした。
 「死」というテーマに接続されたもう一つのテーマとして「忘却」というのもあります。死を悲しんだりする感情もいうなればナマモノのようなもので、鮮度が落ちれば当然ただの思い出になってしまうわけですね。そして、そのような懊悩を強いられるぐらい、カナのことを思っていたということがまた何とも心に響きます。
 重厚にしてエモーショナルな、素敵な百合小説でした。

偽のネオトコロザワ:先ずタイトルからしてはちゃめちゃにエモかっこいいいい!!タイトルも小題からにじみ出るセンスよ…タイトルは和約すると『剥製のマーメイド』。SF的、サイバーパンク的な鋭めのセンスを感じる気がいたします。外連味あるストーリー、そして何より勢いと強さを感じる物語でした!!!作者様の志向される物語がすごい力でキャラクターをけん引していってる感じです。
>魚は海に、人は陸に。ならば、その両方である人魚は陸でも海でもなく空に。そう考えると納得はいく。
こことかもう最高ですよね…理屈なんてどうでもよくて断言する強さとポエジーの生み出すエモとその勢いでぐいぐい書き手に引っ張られていくこの感じ。ついていきます!もっとやって!ってなる。
主人公の激しさを考えるとラストは納得感があります。世を儚んで、とかそういうレベルではない激しさ。感情の総量が多すぎて人を想うのも死ぬのもすごい激しさがある。このエモは読者から見てすかっとします。生命力がありまくるので生存したんだろうなあ…。こういうエモなキャラクターを描けるのは才能です。エモで勢いがあってテンポもよくて世界設定からして詩的でばっちり決まっているワザマエな小説でした!!!

めんどくさいから死ぬことにした ささやか

偽の教授:「死」というテーマで小説を書いてくれ、とやったのはこの私ですが、これは直球ではなくデッドボールですね。死だけに。読者に対してボールをぶつけているという意味ではなくて、主催者であるこの自分に向かって球が飛んできた感じ。小説としては、うまいです。タイトルそのままの内容をしっかり掌編小説にまとめている手腕は見事なものだと思います。ですが私はこの作品を高く評価したくないです。一つには「作品として投げっぱなしだと感じるから」です。しかしこれは作品がよくない、という意味で言っているのではありません。この作品に対して、「もっとこうするべきだった」「もっとああするべきだった」みたいなことは一切言いませんし、言うべき余地はないと考えています。さらに言えば「道徳的にダメだ」と言いたいわけでもありません。ですが、それでも私はこの作品を高く評価したくないです。あえて言えばnot for me、いや、これも違うかな……要するに作品の主旋律が私の死生観と相いれないということです。以上です。

偽の武王:自殺が正式に制度化した世界で、生きることが面倒になりログアウト(自死)を選んだお話。
 この「めんどくさい」という動機、軽んじられがちですが意外と強制力が強いんですよね。それこそ「めんどくさい」という理由でやらなければならないことを後回しにしてしまったりとか……とにかく何らかの選択を取らせる強制力を働かせてくるものですから、「めんどくさいから死んでしまいたい」という心情も決して突飛なものとは言えないんですよね……。克明な心情描写の書き込みが、そうした彼女の心情に説得力を与えています。
 とかく「生きる」という行為にはコストがかかりすぎる。そのくせ生というのは決して望んで手にしたものではない(いわば押しつけられたも同じ)であるというところにある種の嫌らしさがあるのですね。
 勿論、生きることは苦しみばかりではないのですが、彼女の最後の選択を思えば、そうした小さな楽しみもこの主人公にとっては生きることにかけるコストを帳消しにしてしまえるようなものではなかったということなのでしょう。
 凄く引き込まれた小説でした。面白かったです。

偽のネオトコロザワ:何か”わかる”って感情がずっと続くこの感じ…本当に不思議なんですけど、”物語”っていうとやはり”如何に生きて如何に死ぬか”っていう主題があってのものだと思うんですけど、この作品の中では死というものが完全に救済として位置づけられていてそれが本当にわかりしかないんですよね…これだけ物語の主人公に心変わりすることなく安らかに死んでほしいと願ったことはない気がします。それだけ死というものが甘やかな休息であるかのようにゆっくりゆっくりと作者様の筆力、描写力によって心に落とし込まれていく。日本という国は特に宗教が根強くあるわけではないのに自死を悪とする風潮があって、その枷を軽やかに外してみせることで何だかものすごくやってやったぞ感があるんですよね。あらゆるものに雁字搦めにされて、それでも最後の一つの救済であり自由を掴んでみせた、というアナーキーな感覚、読んでて本当にカタルシスがある。それはある面で自己放棄の甘やかさなんですけど、それを断罪するほど確かなものが私の中に、あなたの中に、人々の中にあるかと言われれば、思慮の深い人ほどううむと悩まれるところなのではないかなと思います。
色々書いてしまいましたが、SFディストピア的な設定でありつつそれが嫌な感じがなく、本当にすっきりと安堵感すらある読み心地。重厚なテーマがあるエンタメ小説、それでいて軽くてふわりとした筆致でとても読みやすくて良質な面白い小説でした。

カノン 草食った

偽の教授:非常に洗練された作品だと思いますが、時系列や人間関係などがかなり複雑に入り組んでいて、また難解でもありました。読み終えてから振り返って文字数を見たら7500文字しかなくてびびる。7500文字。小説技巧的なことなんぞは私が言うような筋の書き手さんではありませんからあえてフィーリング的な感想を書きますが、投げつけられた死というテーマに対してまっすぐにバットを振り抜いてハットトリック(どんな競技だ)、といった感じの印象です。また、今回の小説大賞では実に色々な方の色々な死生観を見せて頂いておりますが、「深さ」という点ではここまで読んだ中で随一かもしれません。

偽の武王:複数人の人物が死ぬまでのことを綴ったお話。
 一見ぶつ切りのように見えて最後まで読むと全てつながる構成が上手いです。読み進めている内はハテナマークが頭に浮かんでくる(特に二話目の夏の部分は少々難解で繋がりがあまり明瞭でなかった)のですが、最後まで読んで「おお」と思わされました。仏教やウェルテル効果などを取り入れているのもいい効果を加えています。
 「四季」と「死期」がかかっているのも粋なはからいですよね。こういう掛詞というか、言葉遊び的な要素すきです。兼好法師の徒然草に「四季はなほ定まれるついであり。死期はついでを待たず。」(四季には順序があるが、死期は順番を待ってはくれない。)という何ともメメントモリな一節があるのですがそれを思い出します。思えば徒然草のこの一節もこの作品のテーマに合致しているように思えますね。
 「そしてすべてが起き出す春を迎える」というラストも良い締めくくりでした。

偽のネオトコロザワ:カノン…輪廻の話でした…ビバ仏教…手塚治虫先生…(??)
光の裏には影があって、誰かの罪の裏にはひょっとしたら救いがあって、一言では言えない因果があって、そしてラストのパンチラインで確実に仕留められました…
すごいなー、やっぱり小説が上手い人はきちんとテーマに対して向き合っているし、そこにいくつものツイストが仕込まれている…カノンというタイトルと春夏秋冬と題された四つの小題を見た時はまさか仏教の話になるなんて思いもしませんでした。オムニバスなんですけれど、きちんと構成が考え抜かれている感じがあって1.2日で書かれたものとは到底思えない…オサレ…。あと、草たんの描く死のイメージは質量があってエッジが効いててとても好きです。死と痛みのイメージはズドーンとダウナーに描く人もいると思うんですけど、草たんの描くそれは読んで第一声がかっこいい!って感じなんですよね…。耽美とも違う、独特のエッジが効いた感じ。たぶんですけどこれはロックですね。ひょっとしてアシッドマン聴けば私もこんなオサレなの書けるように…?めっちゃカッコよくて好みの作品でした!!!!とにかくおしゃれだし超かっこいいです。

カサンドラの寵愛 狐

偽の教授:ちょっとニューウェーブ(にわか仕込みSF用語)みを感じる、サイバーパンクSF。具体的に何がどうなってるのかは正直申し上げていまいちよく理解できなかったんですが、わずか8000字強の文字数ながらソリッドな文体から紡ぎ出される幻想的かつサイバネティックな世界観は痺れるものがありました。一つわたし的な難点を言うと、カサンドラのキャラクター性というか、ファム・ファタールというからにはとてもその人物像(人ではないがそれにしても)が重要になるわけですが、そこにもう一味効いてるともっと良かったかもしれない。これは趣味の問題かもしれないけども。

偽の武王:マンドラゴラ農家のお気持ち表明で本物川小説大賞のバズレースに乗った狐さんの参加作品はサイバーパンクにウィルスディザスターを融合させたような鮮烈な作品でございました。
 「産まれ直し」という技術で個体の死がそのまま精神の死を意味しなくなった世界で、コンピュータウィルスのキャリアを狩る仕事をする主人公が「ウィルスデータそのもの」と称される女性と出会うお話なのですが、まず第一印象として「かっこよさ」を感じますね。
 最後の終わり方は若干後味悪くはある(少なくともハッピーエンドではない。破滅を予感させるような締めくくりになっている)のですが、それが本人の選択なのだから仕方ない、と納得させられるような説得力がありました。カサンドラ……怖い存在……

偽のネオトコロザワ:サイバーパンク!!!サイバーパンクだ!!!めちゃくちゃかっこいいんですのよこの小説…あふれ出るサイバーパンク語彙の多彩さ・ドープさに加えて世界観も非常に映像的かつかっこいい描写でサイバーパンクのバックボーンに乏しい藤原もするっとこの世界観のとりこにさせられてしまいました…思考が電子ドラッグでオーバドライブすりゅ…
藤原はサイバーパンクって攻殻機動隊しか知らないくらいのレベルなんですけどこの作品はそんな藤原がサイバーパンク作品書きたい!!!って思うぐらい良かったのです
パラ・ライフル!!!サイバネティクス!!!電子アーカイブ!!!頭よさそう!かっこいい!!!
この重厚な世界観で鋭角フックで殴ってくる感じ…個人的には鍋島さんに近いくらいの威力です!!!外連味溢れる台詞回しもばっちり決まってます!!!

ディストピアに近い記憶を消去することで精神をケアする管理型の社会で、それに相対するのがカサンドラというウイルスそのものの存在。でもこのカサンドラちゃんがめっちゃ魅力的に描かれているのですよね…
そして流石の狐さんはエンディングも完璧でした…もうこれ以外、これ以上のエンディングはないですわね…
めちゃかっこいいサイバーパンク小説でした!!!

(死が二人を分かつまで、)煙草を吸う こやま ことり

偽の教授:ボーイズラブですね。一点の曇りなくボーイズラブです。はい。ちなみに私はこの手の作品には特に抵抗はありません。一つ指摘しておくと(それが理由で賞レースから落ちるというものではないですが)ちょっと日本語が拙いかなと思うところが何か所かありました。全体的にはちゃんと小説として読める水準ではあるのでそんなに問題ではないですが。物語としては、ベタだけど口当たり良くそして甘い、スッと喉を通る作品でした。よいBLだったと思います。

偽の武王: 魔法の存在するファンタジー世界で、兄に命を狙われる少年と殺し屋が出会うお話。
 タグに「ダークコメディ」とあるのですがまさにその通りで、緊迫した場面であるにも関わらずどこかおかしみを感じてしまうような台詞運びになっています。それでいてエロティックなBLに仕上がっていて読んでてにんまりしました。
 読後感もすっきりしたものがあり、良いハッピーエンドでした。それと同時に、「(死が二人を分かつまで、)煙草を吸う」というタイトルの回収の仕方がよかったです。()付きの意味が分かった時はなるほどそういうことか……を膝を打ちました。やっぱBLって良いですねぇ……

偽のネオトコロザワ:世界観がはちゃめちゃ好み…!!!
最初の能天気(でちょっと頭のよわめの)誘い受けとクールな攻めの会話がテンポよくてすごい楽しく読めます。スパダリ賢者様は大正義…眼鏡黒コート黒髪長髪で白手袋なとこも最&高ですし星空を眺めるロマンチストなところとかキャラ造形がめちゃくちゃ素敵OF素敵なんですよね…性癖こそパワー…ジャスティス…
そんな感じでさくさく展開が進む前半から後半。テンポのために敢えて世界の倫理観を下げているところもぐっとリーダビリティが高く技術にシビれます!世界観的に結構殺伐とはしてるんですけどテンポとかコメディ的な空気感とかビタールのキャラとかで上手く中和されています。非常によみやすく料理されていてすごいお手前だ…。
世界観は前述のとおりはちゃめちゃに好きなのですが、会話パートの中の世界観の説明が少し分量多めに感じたのでそこは破綻しない程度に少し省略しても良かったかもです。(あくまで好みの話しですが)
この作品は何よりもキャラの魅力が立っていますよね…会話の掛け合いがすごい面白い印象でした。
とても面白くて勢いのあるエンタメ小説でしたーー!!!

ワタシと助手君とお菓子の昼下がり。 夜長月

偽の教授:今回はテーマがテーマだからなのか意外と少ない、変化球が来ましたね。外角高めのスライダーと言う感じです。といっても実は野球用語をあまりよく知らないので適当なことを言っています。さて、人の等身からではなく、ヒトならざるものの視界から俯瞰される「シ」とは何かに対する対話篇。小説として見るというより、出題者に対して投げかけられた挑戦という印象を受けました。まあ、お題を出した人間(私のことです)は作品提出者より高いところにいるわけではないので、こういう返歌の仕方もありでしょう。楽しませていただきました。

偽の武王:死の概念を持たない存在が「シ」(死)を研究対象とするという面白い発想の小説でした。彼らが喪失して久しいと思われる「シ」という現象に対して物質的な意味合いのみならず社会的な死について「存在の意味消失」という定義づけをしているところがまた興味深いところです。
 最後の部分で一転、作品の雰囲気ががらりと変わるのですが、最後まで読んでからもう一回最初に戻って読んでみると各所に怖い場面があって背筋を冷やしてきます。「人を喰ったとき特有の笑み」という部分が比喩ではないところに上手さを感じるとともにゾッとしました。
 お題の捉え方が面白い、そんな一作でした。

偽のネオトコロザワ:う、うそつきーーー!!??(タグの件)
ネタバレになるので詳しく書きようがないんですけども二回目読み返してみると序盤からそれとなく慣用句を使って伏線張られているところとかもとても憎いですね…!!!
どこかトンチキな博士と助手くんのほのぼの日常系…このやり取りがとてもほのぼのとしてよいのですけれどそこは、あれです…察してください…。
この不穏な幕引きが個人的にはギャー!!!とはなったのですが、好きな人とかギャー!!!ってなりたい人は絶対にいると思います!っていうかいますよね!
雰囲気がガラっと変わるところ、最後の留めでそれまでのほのぼのの意味が一転してしまう手法。すごいなあ…。

底辺物語 @aoibunko

偽の教授:いやはやこれまたムッチャ暗くて何の救いもない話ですね。しっかり序破急があってちゃんと掌編小説として書けてはいるのですが、とにかく本当にタイトル通り底辺で(地位だけでなく、主人公やほかの登場人物たちの精神性も極めて低いところを流れているというニュアンスでそう言っています)、特にオチ、いや確かに底辺物語です。ただ、この暗い手触りのようなもの、ある意味では私の死生観に「近い」かもしれません。

偽の武王:孤独な少女と、彼女に暴言を吐く少年のお話。タグにある通り、いじめやスクールカーストといった少年少女の世界の残酷な部分を切り取った、救いのないお話です。救いがない、というかとにかく後味が悪くてうわぁ……という気分にさせられました。
 そう、とにかく救いがないんですよね。決して魅力的な登場人物が出てくるわけではなく、ある種「底辺」と呼ばれるような人々の言行やその顛末を、道徳や理想視を交えずありのままに書き綴った(所謂かつての自然主義文学のような)ものと言えます。島田という少年の悪辣さ(自らも弱い立場でありながら同じように弱い立場であろう者に対して攻撃的な行動を取りまくる)には、あたかも小さく弱い肉食動物がより弱小な相手を襲い食らうような生々しさがありました。
 締めくくりもただひたすらに陰鬱でどうしようもない、やるせなさの残るような読後感でした。多分これは狙い通りなのでしょう。「底辺物語」というタイトルが全てを物語っていました。

偽のネオトコロザワ:物語の流れとしては一片の救いのない正にタイトル通りのストーリーなんですけれど主人公の少女の静かな語りが物語に面白い色どりや熱を与えているので、凄惨な内容ながら最後までとても読みやすかったです。
主人公の少女は確かに不器用なんですけれど、卑屈さを感じさせない語りで所々理性とか理知を感じさせる洞察が挟まれるので語り手としてすごく好感が持てる。なので安心して読み進められる感覚がありました。
語り手の少女は物語の中心ではなくただ一つの死の傍らにいたというだけなんですけれど、その死というものが日常と地続きになっている感覚にぞっとする。一歩間違えれば自分がそうだったかもしれないという。
自分とはほぼ無関係のはずの死であるのに、それは紛れもなく彼女の一部の死であり、死というものの唐突さ不条理さが微かにその口を覗かせた瞬間だったのだと思います。死というものの深淵を傍らから覗くような…そんな恐ろしくもテーマに沿って描かれている端正な短編です。

オフィーリアの残像(原題=メメント・モリ) ナツメ

偽の教授:一話目を開いた直後に「久々にペガサスキター!」と快哉を叫びました。開催した甲斐があるというものです。さて、作品ですが、具体的に作中で何が起こって主人公が何をしてどうなるとかそういうものがほとんどなく、まあ死への想いみたいなものが随想的な感じで綴られていきます。とてもペガサスです。好きです。葬式上げさせてください。これは「偽物川小説大賞」としての公式な賞ではありませんし、何より私は全参加作品をまだ読み終えてすらおらずにこれを書いているのですが、ここに「ペガサス流星拳賞」の進呈を宣言します。なお、何も出ません。

偽の武王:本企画のテーマである「死」という現象を美醜の概念に接続して思索したお話でもあります。
 死がまだ遠い若い時分への死こそが美しく、年を重ねて「死」が近づいてくるともう「死」そのものが美しさを帯びず、したがって無価値なものとなる……という思想には共感できなくもなくて、寧ろ若くして悲劇的な死を遂げた者に対する世の中の反応を思えばそうかも知れないよな……と納得できるところがあります。
 本作においていっとう目を引いたのは何といっても描写力。空気感の作り方が大変上手くて、冷たくじめっとした低温多湿な感じがするのに、羽毛のような(ある種地面から足が離れているような)ふわふわ感が両立していて、淡泊であるように見えて底の部分には熱も感じる……と、何だか不思議な感じがしました。そうした空気感を演出してしまえるところに、文章の力を感じました。

偽のネオトコロザワ:ナツメさんの小説、作品の着想が私は本当にいつもすごいなあ…と驚かされてしまいます。本当に尊敬してますし好きです。
オフィーリアを通じて死を想う短編。
死の美醜などについて一人称で語られる作品で人によってはギリ小説という体だとは思うんですけれどポエティックなパンチラインの語りがこれでもかと噴出しまくって心臓に襲い掛かってくるのがあまりにすごくて…これは詩であり小説です(断言)。とにかく読んで体験して欲しい。すごいから。
という訳でここの限られたスペースで紹介したいんですけれど…

>手記の彼女は、薄張りの皮膚かわで世界に触れて、その粗雑さというか、乱暴で、混沌で、理不尽で、美しくないその世界のあり方を目の当たりにして。そこに迎合して、分厚い荒れた、足の親指の付け根の角質みたいな、そんなふうになるのを、拒んだんだと思うんです。やわらかく、血管が透き通るようなその、儚くみずみずしいままであることを選んだんだと思うんです。

>その行為に、美しさを感じました。物語、と言い換えてもいいかもしれません。若く、前途のあるものの死というのは、どうあがいても悲劇的で、美しい。

死を美醜で語るというのは作者さんも仰られているようにたしかに色々な意味でとても危険なことであるように思うのですが、とはいえそこに拘泥する気持ちもものすごくよくわかる気がするんですよね。その感覚は本当に年齢に関係ないものだと思っています。そして同時に『あの時死ねずに今を生き永らえるしか出来なくなった自分』への諦観や憐憫みたいなものが行間から出てくるんですけれど、これがまた生きるアティチュードとしてはかえって非常に美しいものだと思いました。凶器を持たないが故の人の美しさ。人が持つそんなものに想いを馳せさせて頂きました。ありがとうございます…。

平成一幸せな死に方 ポテトマト

偽の教授:この講評はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。さて、冒頭すごく「言わでもがな」なことがわざわざ1エピソード割いて書いてあるのでなんじゃこりゃと思って次のエピソードに進んだら、いやまったくなんじゃこりゃ。私の知識では名前も分からないのが半分くらいですが、たぶん登場するミュージシャン全部実在の……ゲフンゲフン、何らかの何かへのオマージュなんですよね。はい。わかります。オマージュです。便利な言葉ですよね、オマージュ。さて、「人間が自分の死後の世界を見ることのできる世界。しかも、見える死後の世界は人によって違う」というアイデアをベースに、ほぼ二万字みっしり書かれた作品なわけですが、正直に言ってしまうと、ちょっとこのアイデアを全体的に生かしきれずに終わっている感があったかな、というところです。発想そのものはユニークでよかったですけどね。

偽の武王 死後の世界が観測できるようになり、それによって自殺者が激増した世界を舞台とした、正社員を目指して就職活動に励む主人公のお話。人口減少で就活が売り手市場化していたり、それによってAIロボットの活用が推進されたりといった社会の変化も描き込んでいるのが好印象でした。
 テーマの捉え方が面白く、加えて摩訶不思議な世界観を、決して持て余すことなく描き切ったことに賛辞を贈りたいです。それに加えてタイトルの回収も鮮やかでした。あのラスト、とても感動的ですよね……
 ただ一つ気になったのが、存命中の実在の人物が自殺したことになっているなど、ややセンシティブな部分が見受けられる点です(私は当該アイドルに特に思い入れがあるわけではないので目くじら立てるようなことはしませんが……)。ここはもじった名前にするなどして建前上別物としておいた方が良かった気もします(実在のグループの名前を出さなければならない何らかの意図があれば話は別ですが)。

偽のネオトコロザワ:この短編の特徴的なところのひとつは時代感の描写が優れているところだと思います。LINEの会話の表現とか、ディストピアの描き方がとても時代感に沿っているのでとても”わかり”が強いんですよね…。自殺することが容認されている社会という設定ものすごい納得感があります…。だから一見ディストピアだけどユートピアにも見えてくる設定の妙…不思議です。
あと構成と演出の仕方が独創的で会話劇と歌詞が同時進行するところ、描写とLINEの会話劇が同時進行する構成、エモいと思いました。
あくまで個人的な感想ですがポテトマトさんは音楽に造詣が深い方なので、それが独特の演出の着想にも繋がっているのかな?などと思ってます。
TRICOTってバンド実在するんですね…!聞いておきます!

悪路の丘 こむらさき

偽の教授:別にそれが悪いというわけではないですが、小説を書き馴れている人が手癖でささっと書いた小品という感じの掌編でした。タイトルは最初読めなかったんだけどDir en greyのメジャーデビューシングル、「アクロの丘」からですね(いまGoogleで調べて知ったことをさも元から知ったような風に言ってみる実験)。死生観がどうたら、という掘り下げ方をしている作品ではない感じだから話の方向性をこっちの方に引っ張ってみるのですが、ヒロインのお姉さんはちょっと魅力的だったのでよかったと思います。

偽の武王:メンヘラ小説の名手(と私が勝手に認識している)こむらさきさんの作品。こむらさきさんの十八番とも言える、精神が不安定な女性とそれを何とかハンドリングする(けれどキャパシティオーバーになり耐えきれなくなった)男性が登場します。「あ、また来たか!」と読んでいてにやにやしました。
 「一緒に死んでくれるか」という問い、所謂心中のお誘いを主人公が受けるのですが、心中のお誘いって中々重たいですよね……。心中モノといえば(それこそ心中モノの古典といえる曾根崎心中のように)想い合った二人であったり、あるいは生活苦などでもうどうにも行かなくなった家族であったりしますが、初対面の相手に持ちかけられるところに型破りなものを感じます。それでいてその突飛さをただの一発芸にすることなく物語としてきちんと成立させているのは流石です。
 決して暗くはないけれど、それでもそこはかとない不穏さを感じざるをえない締めくくりでした。あの二人……その後どうなったんでしょうね……

偽のネオトコロザワ:雪国でのメンヘラ会話劇!!そしてメンヘラからの逃避行の後なんかネアカっぽい人と遭遇!!おお!!ここから主人公の心の闇解決パート!?と思いきや…?!
そしてモノローグから徐々に明らかにされる主人公のメンヘラとの距離感というのが興味深くて、母親がそういう人ならまあそうなるよな…という設定があった上でメンヘラというものの弱さ、依存性を憎み軽蔑しながらもそこに依存している。でそんな主人公にとって今まで会ったことのないタイプの人と出会ってなんとなく明るい未来みたいなものが見えてきた…よかった…と思いきや、ラストでまさかのタイトルと伏線の回収…なんてこった…
感情が追いつかないジェットコースター的展開で胃壁が何度もキュンしました…よかった…(ダイイングメッセージ)

死にたくない 新吉

偽の教授:ド直球のタイトルだ。それはさておき。これは正直に赤裸々な事実を書いてしまいますが、一通り読み終えてから「小説は書き始めてそんなに長くないとか、そういう感じかな?」と思ったので、カクヨムのプロフィールページを見に行ったら作品数が100とあったので衝撃を受けました。しかも完結済み14万字の長編とかもある。どうしよう。そうなると、書くべき講評のありようが大きく変わってくるわけですが。うーん……。すいません、いい言葉が浮かびません。まあ、その、なんだ。ちゃんと作品の内容について触れていくとしましょう。なんか、兄の死がトラウマになっているらしい青年が、怪しげな研究者たちに殺害されてしまう話ですね。全体的に稚拙な上に、主人公の心情の描き方などもあまり上手ではありません。私はそのように感じました。以上です。

偽の武王:何らかの実験と、その被験者となった者のお話。
 自殺志願者を対象とした非人道的な実験が行われており、そのために自殺志願者の失踪が急増している……といった内容の物語です。が、説明が省かれている故に全体像が掴めず、どういうことなのかよく分からない、というのが第一印象でした。もっとよく読んでみれば分かるのかも……と繰り返し読んでみたのですが、やっぱりよく分かりませんでした。すみません。紹介文から察するに何らかの元ネタがあるようなのですが……

偽のネオトコロザワ:これは夢うつつの狭間のような物語と解釈して読む感じでしょうか。語り手がぽんぽん変わったり文法のパーツがマイナスワンされてたりで頭が付いて行かずちょっと迷ってしまいましたがラストの誤字とかからは意図的なものを感じました。
四つの小題を見てみるとおそらく言葉遊び的な感じが先行していてそこに物語を付随させた感じでしょうか?
ご本人のページ飛んでいったら詩を書かれる人ということなのでこの読み方が正解な気がします!
何回か読み返しているうちに、この言葉遊びっぽいギミックの裏にあるちゃんとした物語がようやく読み込めてきました。総じて重たいお話です。死にたい、死にたくない、どうせ死ぬなら誰かの役に立って死にたい。切実であるはずのそんな想いがそこかしこにあるはずなのに容易く踏みにじられてしまう。とても切ない短編でした。

Fixe et Actif(固定と活動) @Pz5

偽の教授:途中で出てきた固有名詞から検索してかろうじて突き止めたんですが、1832年にパリで起こった蜂起、通称「六月暴動」を題材にした歴史小説、ということのようですね。これは歴史小説における非常に難しい問題なので、突き付けるのは酷だというのは分かってはいるのですがしかし書きます、何を描いている歴史小説なのか、ということが作中の描写だけからでは分からない(つまり、検索してWikipediaまで読んでようやくわかる)というのはあまり褒められたことではありません。まあ、私も歴史小説書きのはしくれとして同じ失敗をしていないとも言い切れないので、自戒の言葉でもあるのですが。

偽の武王:復古王制期のパリを舞台とした、政治活動家と未亡人のお話。
 当時のフランスの姿が筆致を尽くして描き出されており、ここだけでもう小説として優れていることが見て取れます。
 個人的な着眼点として、正規軍と革命軍との戦闘シーン(六話)があります。軍人の声と地の文での状況描写を組み合わせることで、銃砲弾の飛び交う戦場への臨場感を生み出しています。まるで硝煙の匂いが感じられるようでした。かっこいい戦闘シーンを描けていたと思います。野砲隊を動員して火力をたのみに圧倒する正規軍と、砲火力の前に押される革命軍といった戦闘の推移の書き込みが良いですね。
 リアルで重厚、それでいて鮮やかに時代を描き出した、優れた時代小説でした。

偽のネオトコロザワ:ヘビー級の筆致で描かれるリアルダークサイド『時には昔の話を』。時代的な描写の説得力がまずものすごい安心と信頼のPZさま…。
青春と理想、現実と無残さ、それぞれの対比が淡々と描かれていることで水のようにすっと心の深い部分に入ってくる感覚があります。悲劇なんですけど語り手のどこか醒めた俯瞰した感じが悲劇というより歴史の絵巻物の一部を見ているような感覚に陥ります。なので物語というよりは時の流れの無常さと世の不条理さをしみじみと感じさせてくれる。このクレバーな読み口、ドライなのど越しがクセになる感覚です。高すぎる理想を持った情熱にあふれる未熟で美しい若者たち。その破滅の描き方が一切の容赦がなくて、つまりは美化がなくて、それでいてクライマックスの虐殺の描写にカタルシスというかある種の危うい破滅の美しさを感じてしまう。どうなっているんだこれ…すごいです。リアリティのある描写を含めてとても面白くて剛腕!なつよつよの作品でしたわ!!!

その扉だけは、開けないで。 一志鴎

偽の教授:ホラーというジャンルでのエントリーなわけですが、正直申し上げまして読んでいて「怖い」と思うより「?」と思うシーンの方が多く、最後の場面ではちょっとギョッとはさせられましたがそれにしてもやはりあまりよくできたホラー作品ではないと感じました。タイトルになっている「扉」というのも、どういうニュアンスが込められているのか分からなかったです。「読み手の解釈に委ねられている」という感じでもないし、正直うーん、というところです。

偽の武王:不気味な鉄の扉を前にした人物のお話。
 奇っ怪な現象が起こるのですが、そこに何らかの因果があるのか全く分かりませんでした。何か仕掛けがあるのでは……と思い読み進めてみたのですが、そういった話でもありませんでした。
 どう講評すべきか分からないので、正直にお話が分かりませんでしたと申し上げておきます。ごめんなさい。

偽のネオトコロザワ:死のイメージ、無限に続く悪夢をそのまま書き起こしたような臨場感ある筆致の作品です。
差し挟まれる擬音が本当に効果的で、断片断片で提示される血や死のイメージのリフレインと重なってそれこそ死よりも恐ろしいイメージが読み手の脳内に広がっていきます。死そのものは描かれないのに読み手は勝手に負のイメージを広げていくのでより恐ろしくなってしまいます。あれです、あのホラーゲームとか映画で直接的に”それそのもの”は登場しない時が一番怖いやつ!!!落とし方もなんか非常にクるものがありますわよね……悪夢から目覚めてエアコンの音にビビるのわかりみが深すぎる……ここからはネタバレになるので書かないんですけど悪夢のイメージが徐々に現実の他愛ないところから侵食していって遂に……って感じ……こわいっすね…こわいっす…!

透明の指輪に口付けを 2121

偽の教授:最後の作品です。何が最後ってエントリーされた順番で最後です。最終日の午後10時投稿ですね。いや、そんなこたどうでもいいんだけど、私が講評を書いている順番でも最後になります。それもどうでもいいか。さて、神様に恋した少女と、ひそかにその少女を愛していた神様の、報われない愛の物語です。ところで双子とかロリババアとか私好みのモチーフがいろいろ出てくるんですが、偶然ですよね?偶然だよな?物語全体の構成にはほんのちょっとだけ粗さを感じるんですが、ラストシーンがとても美しかったので好きです。あと神様(男の方)の心情描写も好き。私好み、という意味でこれは推しの作品ですね。

偽の武王:トリを飾ったのは2121さんのこちらの作品。神と人のお話であり、人間と人外との寿命差を「死」というテーマに接続した物語ですね。
 この手の話はある意味テンプレート的な所があって、ありきたりであるからこそ書き手の調理の腕が試されるのですが、薬指の落書きをいい具合に使っていたのが好印象でした。何か、二人の間柄を象徴するものを残したまま去っていくのっていいですよね。それがある限り去っていったものを思い出さざるを得なくなる……人に描いたものは消えるのに、神様に描いた方は消えないという対比が面白いです。代謝という生理現象の有無であるという形而下的な捉え方もできましょうが、有為転変の人間に対して変わらずそこにある神との対比という見方もまたできるでしょう。
 ラストも夜空の暗さと薬指に落書きされた左手が底の知れぬ寂寥を感じさせるようで、このお話にぴったりと言える締めくくり方でした。

偽のネオトコロザワ:神と人の悲恋……これだけで五億点です……本当に好き……尊い……最高すぎますわ……大好きです……
もう…この…何…?この絶妙な距離感…?幼馴染の悲恋に異種間恋愛要素を足して脳内をシェイクされた様な甘甘甘甘ビターなテイストで藤原大混乱です……え、本当に好きすぎるんですが…!??!?
双子の妹の神様と交互に活動している設定も非常に生きていますよね…この設定じゃないと飛び出ないエモがたくさんでものすごい……
必ず一か月の半分は寝てしまうというところとか一度寝ると絶対に起きないところとか、確実に人間である主人公とは存在としての大きな断絶があってその距離感がまた切ないんですよね…
普段はあれだけ気安く接しているだけに、その埋めようもない隔たりが本当に切ない……異種恋愛ものでこんなに刺さったの初めて……物語の基調がほのぼのほんわかしているだけにその厳然たる断絶が本当に倍加してすごいエモ切ない……
そして指輪のくだりで藤原は無事死亡しました……もう何この……最高過ぎひんですか……???
本当にめちゃくちゃ好きです……最高でした……


選考会議

 もっかい説明しますが、評議員メンバーは以下の通りです。

教:偽教授
武:武州の念者/おおはがちさん
ネ:藤原埼玉さん

 なお、検索性を高めるため、作品タイトルに触れるところではほぼ例外なく正規表現を使っております。

 会議開始

教:時間だ 答えを聞こう!(しょっぱなからおもむろにム〇カの画像を張り付ける主催)
ネ:バルス!!(早押しクイズ的な)
武:目がぁ!目がぁ!
ネ:ノリがよいww

教:ではさっそくですが、大賞に推す三作品を「せーの」でお願いします。せーの!

ネ:『かげの唄』『コーム・レーメ』『カノン』。
教:『死にたがりのメアリー』『コーム・レーメ』『タキシードミー・マーメイド』。
武:『コーム・レーメ』『押すと何処かで誰かが死ぬボタン』『めんどくさいから死ぬことにした』。

 この瞬間、大賞が決定しました。

武:お、一つ決まりですね。
ネ:おおお 『コーム・レーメ』!!!つよい!!!
教:ぶっちぎりで『コーム・レーメ』大賞に決定!

 ここからまず金賞選定に入ります。


教:『かげの唄』『カノン』『死にたがりのメアリー』『タキシードミー・マーメイド』『押すと何処かで誰かが死ぬボタン』『めんどくさいから死ぬことにした』全部一票ずつか。
ネ:ばらけましたね…各自プレゼンタイムしますか?
教:その前に……今、大賞に推す三つのほかに何作品か「予選突破」として選んでいたのと照合してみたのですが、自薦の2つ以外の4つ、一つも重なっていなかった。
ネ:すごいwww
武:おお…
教:ちなみに、総評として書いてある文章があるんですが……「さて、全部読んだので総評を書いています。他の評議員の講評、大賞推薦三作品はまだ確認する前です。わたくし偽教授が推すのは、ずばり『死にたがりのメアリー』、『コーム・レーメ』、『タキシードミー・マーメイド』、以上三作品となります。そういうのを決めるというルールはありませんが、いちおう次点も挙げておくと『透明の指輪に口付けを』をピックアップしておきます。感情の問題として純粋にどれが好きかで言えば『透明の指輪』が一番好きなんですが、「小説大賞だと言う以上は、小説としての完成度をしっかり見させていただきます」とあらかじめ宣言しておりましたので、総合的な完成度の方を優先して前記三作品の選出といたしました。この三作品は、切り口や作風はまったく異なりますがいずれ劣らぬ力作であり、おのおの大賞の名に十分値するものと判断するものであります。その他全体的にいえば、今回は第一回偽物川の三倍の数が集まったにも関わらず、少なからぬ数の力作が集まったこと、主催者として幸甚の至りであります。さて、ここまで書いたところで、私は大賞選定会議を待つモードに入ることといたします。」

ネ:>次点も挙げておくと『透明の指輪に口付けを』
  まったく一緒ですwwwめちゃすきなんですよね…そのうえで次点にした理由も同じ…  実は個人賞で推そうとひそかにもくろんでおりました…(懺悔)
教:わたしもです(懺悔)
武:最後の作品でしたっけ。指輪の落書きの対比が面白い作品で私も好きです。

教:しかし、ここまで割れるとは。
武:『コーム・レーメ』強すぎましたね。
ネ:本当に『コーム・レーメ』は強すぎる…
教:トラックで轢いていく系。
武:僕も候補の作品は横に☆つけたりしてたのですが『コーム・レーメ』はその中でもいの一番に推そうと思ってました。
ネ:わたしもです。『コーム・レーメ』大賞じゃなきゃちょっとやだまでありましたね…教:武さんの☆も他の4つと被りなしですか?
武:なかったですね…
教:ネさんはどうですか?4作品の中に推しがあったりしませんか?
ネ:強いていえば『めんどくさいから死ぬことにした』『死にたがりのメアリー』はどちらも好きな作品ですし、両方とも賞レースに絡んでくる可能性ありそうだと思ってました。


教:ふむ。ではまず、各自いま2作推しているわけですが、片方選んでください。
ネ:かしこまりです!『かげの唄』にします。
武:私は『めんどくさいから死ぬことにした』で。
教:それじゃあきょうじゅは『死にたがりのメアリー』。では、ハイパープレゼンタイムに参ります。

ネ:『かげの唄』、推薦した理由が二つありまして。もちろん文章上手い…っていうのは根底にありつつ…講評にも書いたんですけど、最初の物語の始まりのところで「主人公はこうゆうものを書くようになりますよ、書けるようになりますよ」っていうゴールみたいなのが示されて、そこから結構長く主人公は煩悶している訳なんですけど、そのゴールを目指している成長譚であるっていうのが提示されているのと、文章力の高さでぐいぐい読まされる感じがとてもよかったです。痺れました。あともう一つが(これはかなりTwitterバイアスになっちゃうんですけど…)作者の上村さんも教育者をされているというところで、その作者さんの教育にかける思いとか、理想とかそういう熱い思いが込められているのが個人的にとてつもなくエモいポイントでした。あと上村さんの女性一人称語りすきです、人間の手触りの解像度がものすごく高い……簡単ですけど、以上です!

武:上村さんそうだったんですね(道理で教育実習とかの解像度が高いと思った)神ひな川の講評で「教職課程経験者でしょうか」なんて書いたのだけどガチだったんですね。
ネ:おおー!さすが。当たってたんですね。

教:では次、私。『死にたがりのメアリー』。この作品を選んだのは、小説としての完成度はもう前提にあるんですけど、その次はエンターテイメントとしての力の強さからです。今回、テーマ上、エンターテイメント方面に振ってくる作品ってそんなになかったんだけど、この作品は二重の意味で(メタ的にも、作中でも)死をエンターテイメントとして昇華しつつ、それを皮相な切り口で描き切っている。Twitterでの反響も大きかった。短いですけど、以上になります。

ネ:>今回、テーマ上、エンターテイメント方面に振ってくる作品ってそんなになかったんだけど  たしかに…!(今気づきました…)確かにエンタメ上等!な作品よりは哲学的な内容の作品が多かった気もします。死の描き方はちゃんとしているのにエンタメしてるって確かにすごいですね。

武:ではラストいきます。『めんどくさいから死ぬことにした』これを選んだのは単純にお話として面白かったのもそうなのですが、「めんどうくさい」という心情に対する理解というか、そういうものが深かったなと思いました。私自身、実はそんなに主人公の女性に強く共感しているわけではなかったりします。何となく「分からなくもないな…」と感じる程度です。でも実際、彼女の生きた世界と同じ場所に私が放り込まれたら今頃この世にいなかったかも…と思わせられました。それほどに「生きるのがめんどくさい」に説得力を感じました。ただ、やはり人を選ぶというか、人によっては受けられないこともあるだろうな…とも思いました(教授さんもNot for meとおっしゃってましたし)。以上です。

教:では、各自自薦ではない2作品のどちらかに投票を。私は『かげの唄』。
武:『死にたがりのメアリー』。
ネ:『死にたがりのメアリー』。

 この瞬間、金賞が決定しました。

武:お、被りましたね。おめでとうございます。
ネ:おめでとうございますーーー!ぱちぱちぱちぱち。

 で、銀賞なのですが

教:順当に、『かげの唄』と『めんどくさいから死ぬことにした』でいいですかね?
ネ:おけです!!!
武:そうですね。

 金賞とほぼ同時に決定しました。

教:『カノン』と『タキシードミー・マーメイド』と『押すと何処かで誰かが死ぬボタン』は、推してるのが個人だから個人賞にしましょうか。そして次点が二票入った『透明の指輪に口付けを』に銅賞。これでどうでしょう?
武:はい。
ネ:おお、いいと思います。

教:では次のお題。大賞受賞作『コーム・レーメ』について語らってみたいと思います
ネ:『コーム・レーメ』…よかった…わたしはキャラがみんなそれぞれの矜持をもっている感じがすごく好きです。みんなかっこいい…
武:キャラも立ってますし、背後の政治劇も物語に厚みを加えていました。
教:タイトルがもう強いよね。固有名詞系タイトルってよほど自信がないとできるものじゃない。
武:確かに映画と違ってweb小説でキャラの個人名をタイトルにするの不利な感じしますよね。

教:コーム・レーメって言葉だけど、ググってもかからないし、多分造語なのかな。でも、もう片方の主役コルレッタが頑なに「コーム・レーメ」と呼ばないのも強い。わざわざタイトルに使った上で、それを使わない。逆に強い。
ネ:なるほどーーー今気が付きましたそれ…エモ…
武:確かにそうでしたね。

ネ:コルレッタの登場シーンだけで勝ちが確定しますよね。
教:非常に演劇的な美しさがありますね。
ネ:演劇的!!まさにという感じです!コームレーメが殺される理由が不条理すぎるのもすごいリアルでよかったです。悲劇だいすきなもので…すごいツボですね…
武:講評にも書きましたが架空国家の政治史としても興味深く面白かったです。史書の一部を覗き込んでいるような趣もありました。美しさ故に身を亡ぼすの楊貴妃じみてますよね。
教:古代ギリシャ悲劇にも見られるモチーフですね。美は魔性。美しいだけで神に呪われる話とかたくさんある。
武:自らの美しさと当時の政治的な事情によって犠牲になった美女というのは中国の古典にもしばし現れますね。神の嫉妬とかも神話によくありますよね。
教:アルテミスとかアテナに嫉妬されるとヤバヤバ。よくて星座にされる。
武:ヘラもヤバいですね。
ネ:よくて星座…w あとその歴史の中で苦境に立たされるコルレッタとコームレーメの最後のシーン……エモエモすぎて本当にやばかったですのよ……歴史の不条理の中でよりキャラたちの魅力が浮き彫りになる感じもすごいよかったです…
教:不条理は史学の華。
ネ:名言ですね…!
武:ですよねぇ。そういった意味でも『コーム・レーメ』は大変「歴史」っぽいですよね。

教:では次のお題。総評行きますか。私的に意外だったのは『ゴロちゃん先輩が死んだ』が賞にかからなかったこと(※脚注 会議のこの段階ではまだ銅賞に選ばれていないのです)。
ネ:わたしもそれ思いました!!!
武:ゴロちゃん悩んだんですよね…(一応候補ではあった)
教:ゴロちゃん良かったよね。
ネ:すごかったですね…つらかった…ホラーとかつらい系の話は基本あんまりなのですが、それでもあの小説の力は半端ではないと思いました…誰かが大賞推すだろうと思ってました。誰も悪い人が出てこないんですよね…それがまたつらい。
教:私も一票くらい入ると思ってた。
武:確かに私も誰か挙げるだろうなと予想してました。昔の自然主義文学的なキツさがありますね…

教:ちなみに私が大賞に推した三作以外で「予選通過」に選んでたのは『ボウリング場に行かなくても死なない』『水竜の涙』『ゴロちゃん先輩が死んだ』『思い出を噛む』『透明の指輪に口付けを』。

武:『思い出を噛む』もよかったですね…神ひなさん。
ネ:神ひなさんは安定していいですよねー。
教:文章の美しさならトップクラスだった。

武:私が☆を付けたのは、三作を除くと『ゴロちゃん先輩が死んだ』『Fixe et Actif(固定と活動)』です。Fixe et Actifの六話の戦闘シーンめちゃくちゃツボなんですよね。これは私の性癖みたいなものなのですが、火砲の火力の恐ろしさとか、野砲の砲火力でゴリ押す正規軍と奮戦むなしくやられていく革命軍が哀れみを誘ってすきでした。戦いは火力だ。
ネ:『Fixe et Actif(固定と活動)』は作者さんの歴史のバックグラウンドが剛腕って感じでした…わからせられる…
教:確かに少佐(※HELLSINGの)の演説的な美学を感じるな。哀れな抵抗者達が雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたのを80cm列車砲の4.8t榴爆弾が都市区画ごと木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える!
ネ:ヘルシングきた…!!!(手がふるえる)理想を胸に目をキラキラさせている美男子たちが散っていくのいいですね…悲劇ばんざい…
武:砲兵部隊に指令を飛ばす文も性癖に来ました。

教:ネさんもなんかあります?賞にかかってない中でまだ語っておきたいやつ。
ネ:『カサンドラの寵愛』と『狂将と炎剣』です。
教:サイバーパンク系すな。
ネ:SF全然詳しくないしむしろ苦手なんですけどこの二つはすごいよかったです。それこそ攻殻機動隊ぐらいしか知らないんですけどこの二つはすごいよかった…サイバネティクスとか横文字の奴がかっこいい単語が脳に叩き込まれる感じがすごいすき…サイバーパンクの美学、みたいなのの一端が分かることができました。おすすめです。
武:カサンドラ私も好きでした。サイバーパンクにウイルス災害物をぶっこむのいいですよね。カサンドラがまた怖いというか嫌らしい…
ネ:侵食してくる感じが厭らしさがあっていいですね…パニック小説という見方はなかったですそういえばw武さんならではの着眼点。
武:ウイルスディザスターinサイバーパンクみたいな捉え方してました。教:『カサンドラの寵愛』は幻想的でしたね。
ネ:ファムファタル的な感じがよかったですね…狐さんの性癖が垣間見えるのがまたよいです…(ねっとりとした笑い)

教:『狂将と炎剣』は、ものすごく粗削りなんだけどもしかしたらすごい才能なのかもしれないと感じさせる力はあった。
武:尺がもっとあれば…と思いました。短編に収まり切る話ではないというか、話を膨らませて中長編に仕立て直せば大化けしそうな予感はします。
ネ:『狂将と炎剣』はもっと伸びて欲しいんですよね…!!!この作者さん、これがカクヨムでは一作目みたいなんですよね。
教:ああやはり。
武:そうみたいですね(他の作品がなかった覚えがあります)。
ネ:多分、たくさんSFを読まれる方なんじゃないかと思ったんですけど。
教:だろうと思うね。語彙力はすごい。

教:ちなみに、私が(賞には推さないけど)インパクトを感じたのはあと、『夢見るフランス人形』と『テキーラ・ウルフが死んだ。』の2作。
ネ:おー。『夢見るフランス人形』、耽美的な感じよかったです。多分音楽に造詣の深い方みたいですね。
教:でしょうね。サウンド的な美しさがあるんだよね……BGMが聴こえるというか……ところで。さっきからずっと迷ってたんですが、『ゴロちゃん先輩が死んだ』に銅賞出します?
ネ:みんなの心の0.5票分×3人で銅賞にはなってもおかしくはないと思いますw納得感あると思います。
武:確かに…ツイでも結構反響あった気がします。
教:うむ。では、『ゴロちゃん先輩が死んだ』滑り込みで銅賞受賞。

 ※ここでようやく全ての受賞作が決定しました。そしてさらに偽物川トークが続きます。

ネ:では、追加で語りたい作品を挙げていきます。『見送る沙耶』『十三回忌』『水竜の涙』『押すと何処かで誰かが死ぬボタン』『(死が二人を分かつまで、)煙草を吸う』『オフィーリアの残像(原題=メメント・モリ)』『透明の指輪に口付けを』。まず、『見送る沙耶』から
教:洞田さんのやつか。
ネ:ですです。すごい優しい作品ですよね…死がテーマでこうゆう切り口の作品が来るのすごい意外性があってすごいよかったです。死すらも自然の一部、って確かに!って思いました。お二人はどうでしたか?
武:「紅茶って人が作るけど、葉っぱは人が作るわけじゃない。そりゃ今は栽培してるけどさ、一番最初は勝手に生えてきたはずなんだよね」の部分が好きですね。茶葉だけではなく色んな栽培植物に言えることですし。
教:優しい雰囲気を持ったいい作品ですね。
ネ:そうなんですー。洞田さんの作品はいつも”自然に”自然に軸足が置いてあって、すごいと思います。
武:今自分たちが口に入れている穀物や野菜も元々は全然違う姿で自生していたことに想いを馳せました。


ネ:わかります…忘れちゃいけない大事なことだと思いました。そして次、『十三回忌』。
教:ここまで言及してないと見せかけて、第二回のピックアップに出してるんだよね。
ネ:そうでしたー!!!(無事きょうじゅにも刺さっていた…!)
武:十三回忌もよかったですね。死者の残した呪縛とその克服の話ですよね。
ネ:いいですよね!はがちさんの講評読んで刺さってるの見てニコニコしました笑 これわたしの中では『ゴロちゃん先輩が死んだ』と同じカテゴリーで、誰も悪い人が出てこないのにつらいっていう。
武:小説がうめぇー!と呻きましたね。
ネ:うまいですよね!なんか詰将棋を見てる感じでした。お姉ちゃんのこと好きなのに両親のことも好きだから取られて嫉妬してるの、非常にわかりというか…普遍的なつらさみたいなのありますよね。しかも死んでしまったが故に何も言えない…つらい。次、『水竜の涙』いきます。

教:これもピックアップしたやつだ。最終ピックアップの一本目。暗いんだけど、優しい話。
ネ:それですね!!!!!(パァンと膝を打つ)優しいんですよね…和風ファンタジーと悲劇っていう藤原の性癖に刺さりました…
武:「何で竜の子どもが死んだことになってるのか分らんかった…」→「教授さんの講評にバッチリ答えが書いてあった…」という事故を起こしてしまいました。
ネ:www わたしもお二人のみて事故に気が付いたのありました…あるあるです!
教授:私も「よくわかんなかった」って講評したやつ結構あるからな。
ネ:きょうじゅ結構ずばっと切っててすごいと思ってました笑
武:事前の談合禁止(※書き切るまで互いの講評を見ない、見せないルール)だったので分からない部分は素直に分からないと書いてますね。
教:うむ。三人に読ませて一人が「わかんなかった」って返してくるの、これも重要なレスポンスの形だと私は思ってる。
ネ:うわーーー!!たしかに!!!!!!!!!大事ですね…
武:確かにそうですね…
ネ:『メサイアコンプレックス』はメサイアコンプレックスは講評にもちょろっと書いたんですけど、Twitter見て本人のご回答をカンペしてしまいました。パルテノンさん小説力はめちゃ高なので、そこのギミックみたいなのが分かりやすければ賞レース入ったと思うんですよねーーー。説明不足感はたぶんあるんですけど、文章力も高いしそこで表現されているエモもめちゃ好みなのでよかったです。
教:パルテノンさん、すごい凝ったレビュー文を書く方なんだよね。
ネ:ですね!!!イサキさんの金閣寺に確かnoteで結構な分量の講評書いててなんか書く方も受ける方もすごいなって思ってました。剣豪の試合を見ているような感じ。

教:分からんと言えば実は『カノン』が解読できていない。作者のやっていることの半分も俺は理解してないと思う。それでも凄さが分かる凄い作品ではあるんだけど。
ネ:わたしもたぶん解読はできてないと思います笑 あの作品で書かれているエッジの効いた死のイメージがすごいかっこいいなーって思って一票入れました。
武:四季と死期がかかっているのが小粋でしたね>『カノン』
ネ:それはがちさんの見て初めて理解しました笑
教:長文のセルフ解説が欲しい、正直。
ネ:確かに!!!草たんの小説は自己陶酔してない、突き放している?というか俯瞰しているけれど文章に込められた詩情がたっぷりって感じで好きですね…(伝わって)

教:では次、でかいさんの『押すと何処かで誰かが死ぬボタン』。
ネ:でかいさんまた作風広げられましたね!!
武:凄く計算されて書かれてて知性を感じましたね…ああいうホラー好きです。
教:トリッキーな作品だった。
ネ:わかります…!!!すごいですよね…メスガキとかゾビとか書いていたのに、するっとこういうの書けちゃうのほんとすごいとしかいえない。
武:ホラーって「主観的な恐怖は客観的な喜劇である」をどうにか克服しないと怖がってもらえない(例えばシャークネードは作中人物にとっては恐怖そのものでも視聴者にとってはトンチキ映画)分野だと思ってるんですけどあれは妙なリアルさでちゃんと読み手を恐怖に引きずり込んできました。あと最後のギミックで二重に嫌な気分にさせてくるのも上手いホラーって感じでした。
ネ:「KUSO創作者」から音速で「小説家」になっちゃったでかいさんの背中が遠いです…またKUSOも書いてくださいね!!!楽しみにしてますので!!!

教:次は『(死が二人を分かつまで、)煙草を吸う』。よいBL。
ネ:よいBLですね。
武:素敵なBLでしたね…
ネ:エンタメ作品としての読みやすさとか程よいダークさと尖り具合とかがあって、完成度高いなーって思いました。よかったですね…賢者のキャラ造形もすごいすきです。
教:王道的な、ハーレクイン的エピローグ。
ネ:よいですね…心行くまでイチャコラしてほしい…
武:ちょっとエロティックなところもあって好物でした。
ネ:えっちでしたね!!!!!(自重しよう…)次、『オフィーリアの残像(原題=メメント・モリ)』。よかったですよね!!!

教:俺が一番めちゃくちゃな講評を書いたやつ。講評のノリがこれだけ「偽教授杯」なんだよな……
武:ペガサス流星拳賞で草生えました。講評のノリが明らかに変わってて面白いです。
ネ:きょうじゅの講評いま読んできましたww面白かったですw若いからこそ美しい死、ってそんな考え方があったのか…ってビックリしました。
教:坂口安吾がどっかで書いてたな。美しすぎるから二十歳までに死ななければならない娘、みたいな話。
ネ:ナツメさんの作品はいつもとても上手いんですけど、切り口がものすごい鋭利って感じです。傍観してたら観客席までなんか鞭が飛んできてビックリするような、傍観者ではいられなくなるような迫力と知性を感じます。そしてこの作品がペガサスってきょうじゅに言われるまで気が付きませんでしたww確かにペガサスだ!!!
教:今回、講評でペガサスって言葉使った作品が3つ。これと、『天使の笑顔』と『生環』。

ネ:『天使の笑顔』、天使がなんか色っぽい感じですね。
武:天使くんめちゃ好きです。
ネ:武さん好きそう!!
教:俺も武さんが好きそうだなと思った。
武:ミステリアスかつ不安を煽る美少年…素敵…不安を煽るってのは読み手が何処かざわざわしてしまうといった意味です。
教:美しさというのは禍々しい。
武:美しさは怖さなんですよね。
ネ:たしかに…………深い……天使の美しさがどこか作り物めいているような不穏な美しさなんですよね……それを薫らせるのが上手かったです。
武:羽毛のように柔らかいようでいて氷のような冷たさが底に隠れている感じがするんですよね。
ネ:ああー上手な表現です。『生環』はどうでしたか?ネはすごい‟哲学”って感じでした(こなみかん)。
教:直球でメメントモリしてる作品でしたね。ゆえにペガサス。

ネ:『透明の指輪に口付けを』。ネの性癖にぶっ刺さった二大作品でした、これと『コーム・レーメ』。
教:タイトルに示されているモチーフがどこまでも美しい……。
武:人間の方の指輪はすぐ消えるけど神様の方は消えないっていう対比がいいですよね。有為転変の人間と不変の神という部分にそのまま被さってくるのが。
ネ:え!そうでしたっけ!エモい!!!!!!!人と神という断絶が悲恋の哀しみを際立たせていてめっちゃめちゃ好みOF好みでした…悲劇と悲恋だいすき……基本日常でほのぼのしている感じなのがまた良いですよね…哀しみが際立つというか…
教:こんなことを言うのもなんだけど、双子とロリババアが出てくる時点で、俺を狙い撃ちにしているのかと思った。それくらい「性癖」。
武:なるほど主催者スナイプ。
ネ:そうなんですかね!笑 ご本人のコメントを待ちましょう…笑

教:『タキシードミー・マーメイド』。推した三作品の重みづけは等しいのだけど、私情を言えば一番大賞取って欲しかったのはこれ。
ネ:おおーーー。本物川風味が一番ある作品な気がします。
武:タキシードミーという言葉の意味をこれで知りました。
教:ふつうまず知らんよね。
ネ:私もー。
教:ガーリーな文体でかつ文学性が高いのもレベル高かった。
ネ:モチーフとか世界観が美しかったですね。
教:絵的な美しさならトップだった。死魄が人魚となって宙空を舞う。この幻想よ。
ネ:絵的な美しさ!たしかにそうですね!!すごいです。
武:死を悲しむという感情の鮮度というような命題もよかったです。
ネ:主人公の勢いがあるのよかったです。
教:ぶっちゃけ、主人公も人魚になって終わりかと思ったけど、そんなヌルいところに着地しない。強い。
ネ:主人公の生命力すごかったです笑

教:さて、だいたい語り尽くしましたかね?
武:そうですね。
ネ:ネは大満足です!作品数も丁度よかったですし。
教:三時間。語りましたね。それだけの企画だった。楽しかった。では、お二人にご協力いただく作業はこれで全てとなります。ありがとうございます。おつかれさまでした。
武:お疲れ様でした。
ネ:お疲れ様でした!!ありがとうございました!

終わりに

 というわけで、ここまで読んでいただいてありがとうございました、主催の偽教授です。構想からずっと数えると丸四ヶ月以上を費やす、長いイベントとなりました。正直もう面白いことを言う元気も残っておりませんのですが、とりあえず一つだけ言っておくと、「第三回」については現状、予定も構想もありません。やらないと決めたわけでもありませんが。

 では、参加くださった皆様、評議員のお二方、読者の皆様、まことにありがとうございました。機会がありましたら、また別の機会に。アデュー。


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