見出し画像

ゼロから学ぶ中国企業【テンセント Tencent】 第1回 テンセントって何をしている会社?

テンセントホールディングス(Tencent Holdings、以下テンセント)という会社をご存知でしょうか?

2004年に香港で上場したこの中国企業は、わずか15年の間に全ての日本を含むアジア企業を抜き去り、世界の時価総額トップ10企業入りを果たし、現在は時価総額世界第7位にまで躍り出ました。(下グラフの赤線)

画像9

グラフ:2000年から2020年の世界トップ10企業の時価総額推移(Excelで作成)。月次、米ドルベース。サウジアラムコはデータ未入手のため除外しています。また、比較のためトップ10企業ではありませんが、日本企業で時価総額1位のトヨタ自動車を記載しています。(グラフ下部の黒線)

テンセントにはたくさんの呼び名がある

「企業時価総額アジア1位(2020年6月時点)」、「中国最大のSNS運営会社」、「世界最大のゲーム会社」、「中国の電子決済システムの2大巨頭」と、その凄さを示す呼び方は様々です。また、中国三大インターネット企業を示す「BATの“T”」でもあります。

テンセントの全貌は一言では表しづらい

いくつもの呼び名がある一方で、その全貌を一言で表現するのが難しい会社とも言えます。

テンセントの歴史はまだ20年を超えたところですが、数多く幅広い事業を行い、目まぐるしい変化と成長を続けてきました。

このマガジンでは、世界の話題の中心に上がることも多い、このテンセントをゼロから学んでみたいと思います。この記事では、その第一歩として、数ある事業を順に紹介していきます。次回以降、それぞれの事業や業界を学びながら、少しずつテンセントという会社を紐解いていきましょう。

1. テンセントの基本情報

テンセントは、中国深セン市(香港に隣接する都市。GDPは上海、北京に次ぐ中国第三の都市)に本社を構える企業です。設立は1997年、2020年で23年目を迎える比較的新しい会社です。

会社は、パソコン用インスタントメッセンジャーのQQを提供する会社として創業し、モバイル向けのサービスを開発しながら大きく発展しました。

2.テンセントって、何をしている会社?

テンセントの事業は大きく分けても6つある

テンセントの主な事業は、大きく分けても6つもあります。しかし、これらの事業がバラバラに存在しているわけではありません。また、ビジネスとしての大きさや業界での強さもそれぞれ異なります。

今回は、テンセント自身がアニュアルレポートの中で表示している、下の歯車の図を見ながら、テンセントの事業とその関係を学んでいきたいと思います。

画像1

 2.1 コミュニケーション&ソーシャル事業

最も大事な事業は、コミュニケーション&ソーシャル事業

はじめに、歯車の図の中心には一際大きな青い歯車があります。これはコミュニケーション&ソーシャル事業といい、WeChatとQQという、2つの巨大なSNSを運営しています。この事業こそ、テンセントにとって最も重要な事業なんです。

SNSとは?:SNSは、日本で利用されているものでは、Facebookや、LINE、twitter、instagramといった、個人の識別されたアカウントを基本単位として、それをつなぐ様々な機能を有するサービスを指します。

WeChatとQQ、中国で最も利用されるSNSサービス

画像3

テンセントは、中国で最も利用されているインスタントメッセージSNSである「WeChat」(中国発音でWeixin ウェイシン)を運営しています。また、主にモバイル端末で利用されるWeChatとは別に、パソコンでよく使われているQQというインスタントメッセージサービスも、運営しています。

WeChatは、私達日本人がイメージするなら、LINEに近い、ショートメッセージ(インスタントメッセージ)機能を主とするSNSです。

WeChatのユーザー数は2020年の初めの時点で11.5億人と公表されており、巨大な中国のほとんどの人が利用しています。また、QQも7億人のユーザーを有しています。

テンセントの歴史はQQから始まった

テンセントは1998年に創業し、インスタントメッセージサービスであるQQでビジネスをスタートしました。まだ、中国人の100人に1人しかパソコンを持っていなかった頃のことです。

QQは大きく拡大し、テンセントは2004年に香港証券取引所で上場しました。テンセントにとって、コミュニケーション&ソーシャル事業は祖業と言えるものです。

WeChatは中国での生活で欠かすことのできないサービスになった

中国在住の人から言わせると、今の中国でWeChat無しに生きていくことは難しいと感じるそうです。コミュニケーションも決済も生活サービスも、WeChatがその中心にあるからです。

WeChatは、11.5億人のユーザーを有するという数字以上に、現在の中国でのビジネスや生活に欠かすことのできないサービスであり、その社会のWeChatへの依存度は計り知れないものがあります。

11億人のユーザーが生み出すデータが、大きな価値を生み出す

そして、11億人のユーザが生み出す膨大なデータは、それ自体がテンセントに非常に大きな価値をもたらします。購買行動や位置情報と言ったあらゆるデータが、新しい価値を生み出す源泉になるからです。

実は、コミュニケーション&ソーシャル事業はテンセントの1番儲かっている事業ではありません。しかし、上でお話ししたように、その歴史や社会的影響力、会社にもたらされる価値という点で考えれば、やはりこの事業は、テンセントの中心に位置する大きな歯車、すなわち中核の事業といえます。

 2.2 オンラインゲーム事業

Tencent Gamesは、世界最大のゲーム会社

画像5

みなさんは、テンセントのゲーム事業が、世界最大級のゲーム会社だと言うことをご存知でしょうか? (1位を争うのはソニー傘下のソニー・インタラクティブエンタテイメント。) 日本では伝統的な任天堂やソニーなどのゲームメーカーが主流ですので、ご存知の方は少ないかも知れません。

テンセントのオンラインゲーム事業は、なぜそんなに大きいのか?

テンセントのオンラインゲーム事業が、世界最大である理由の一つは、まず中国市場での大きなシェアが挙げられます。しかし、理由はそれだけではありません。今回は、テンセントが提供している代表的なゲームとともにその理由を紹介します。

世界でも代表的な開発会社に出資している

テンセントは、2010年以前から世界的に有名なゲーム開発会社にいくつも出資をしています。例えば、

League of Legendsを開発したライオットゲームズ(Riot Games)

League of Legendseは、eスポーツとしても有名で、世界中で月間アクティブユーザー数1億人を超えたオンラインゲーム、「League of Legends」を開発したライオットゲームズは、テンセントの100%子会社です。

画像2

このほかにも、「フォートナイト」を開発したEpic Gamesを始め、数十のゲーム会社に出資をしています。

もちろん、テンセント自身もゲームを開発しています。ソーシャルゲームと呼ばれる簡単なものや、近年では「王者栄耀(おうじゃえいよう)」といったオンラインゲームが非常に有名です。

中国で販売するために、ライセンス契約を結んでいる

上記のように出資している会社以外にも、テンセントは数多くの有名なタイトルについてライセンス契約を締結しています。政府の許可が必要で、市場への提供が難しい中国市場に、開発会社がアプローチすることをサポートしています。ライセンス契約の内容を見ると、「モンスターハンターワールド」や、「リネージュ」シリーズなど、日本でも耳にする有名タイトルが並びます。

2019年には、任天堂のNintendo Switch の販売ライセンスも取得しています。

このように、必ずしも自社開発のみではなく、大きく、速くビジネスを展開しています。

テンセントで1番大きな収益を有する事業

オンラインゲーム事業は、テンセントの事業の中で最も収益を上げている事業でもあります。Facebookをはじめとして、広告収入に頼りがちなSNS業界において、高い収益力を持つゲーム事業をもつことは、ビジネスモデル上も大きな優位性を持ちます。

 2.3 フィンテック(電子決済)事業

キャッシュレス社会先進国を支えるWeChat Pay

画像5

テンセントは、WeChatの機能の一つとして、WeChat PayというQRコードによる電子決済サービスを展開しています。

Paypay、Line pay、メルペイと多数のサービスが乱立する日本とは異なり、WeChat payと、競合のアリババグループが運営する支付宝(Ali pay) の二大サービスで、巨大な中国市場の8割のシェアを有しています。

2010年頃でも、中国ではクレジットカードやチャージ式の決済カードの普及率は非常に低い状態にありました。そのような背景もあり、QRコード決済は爆発的に浸透し、現在では中国内の電子決済取引全体の大部分を占めています。

フィンテック事業は安定した収益の柱に成長した

WeChat Payは、加盟店とユーザー、銀行をつなぐサービスと言えます。加盟店がWeChatにより代金を受け取る際に、手数料を得ています。

電子決済取引は拡大を続け、市場における地位も、もはや揺らがないでしょう。このため、非常に安定的な収益を出し続ける事業と言えます。

 2.4 メディア事業

モバイル生活を支える、あらゆるメディアに展開

画像6

テンセントは、動画配信、音楽配信、電子文学、映画など、あらゆるメディア事業を有しています。しかも、それぞれが中国で第1位または上位のシェアを誇っています。

メディア事業は、テンセントの収益の中では小さな割合

メディア事業の主な収入は、動画配信や音楽などのアプリへの広告収入や、会員収入などです。しかし、その収入は会社全体の4%ほどに過ぎません。上に示したたくさんのメディアを全て合わせてもその程度しかないんです。

中国の各メディア市場は、まだ発展途上

同じエンターテイメントでも、ゲーム市場に比べると、動画や音楽市場は中国の中ではまだ小さな市場です。もともと政府によるコンテンツの管理が厳しいことに加え、海賊版などの著作権の問題などにより、市場としての成長は遅れていました。

しかし、モバイルインターネット環境の進化と、規制の整備により、市場として急激に成長を始めています。テンセントのメディア事業も、規模の限界はあっても、今後成長が見込める分野といえるでしょう。

 2.5 クラウドサービスとアプリ開発を支える公共サービス

画像8

これまで紹介してた事業を見ると、テンセントの得意分野は、基本的に消費者向けのビジネス(B to C)であると言えます。

ただし、近年ではいくつかのB to B分野にも挑戦を始めています。その代表的なものが、クラウドサービスです。

クラウドサービスに多額の追加出資をして、アリババを追いかける

中国では、アリババグループが先行していましたが、2020年5月に、テンセントも今後5年間で5000億元(約7兆5000億円)を投じると発表しており、本格的にアリババを追いかける構えを見せています。

この他、モバイルセキュリティや、A.I開発支援など、モバイル環境やアプリ開発を支えるサービスも提供しています。

 1. 6.新規事業への投資

最後に、冒頭の歯車の図にはまだ記載がありませんが、テンセントは様々な会社に投資をし、新しい事業にも手を伸ばしています。

代表的な投資先だけでも以下のような会社があります。

画像9

これらの多くは既に米国や香港の証券取引所に上場しているような有名な会社です。

近年はEコマース企業への出資も拡大

特に近年の特徴としては、ライバルのアリババの本業であるeコマース業界へ徐々に拡大しようとしているのが見て取れます。拼多多(Pinduoduo)や快手 など、国内でも有数のシェアを有する進行のECサービス企業に出資をしています。

2. まとめと、このマガジンの目次

テンセントは中国のモバイル生活の大部分を支えている

この記事では、テンセントの行なっている事業をまずは一通り見てきました。非常に沢山の事業を行なっていることが感じられたのではないでしょうか?

SNS、ゲーム、電子決済、メディア、さらに新しい投資と、テンセントの行なっている事業を眺めてみると、中国人のモバイル生活の、かなりの部分をテンセントがカバーしていることが分かるかと思います。

浮かび上がる疑問とこのマガジンの目次

テンセントが行なっている事業はなんとなく分かりましたが、まだまだ分からないことはたくさんあります。例えば、

なぜ時価総額アジア1位にまでなったのか?

なぜテンセントはトヨタ自動車の3倍もの時価総額がつけられているのでしょうか?それだけ資産を持っているのでしょうか?、きちんと利益は出ているのでしょうか?、それとも期待優先のただのバブルなのでしょうか?

どの事業が儲かっているのか?成長力を持っているのか?

数多くの事業のうち、どの事業が稼ぎ頭なのでしょうか?その事業は、これからも成長しそうなのでしょうか?それとも、政治の影響を受けて利益を大幅に減らしてしまうのでしょうか?

このマガジンでは、こんな問いに答えることが出来るよう、ゆっくりと記事を追加していき、テンセントを理解する一冊のマガジンにしていきたいと思います。

このマガジンの目次(予定)

1.テンセントの全体像
 - テンセントホールディングスって何をしている会社?
 - テンセントホールディングスの決算分析
2.テンセントの各事業の決算分析  - ソーシャルネットワークサービス事業の決算分析
 - オンラインゲーム事業の決算分析
 - 電子決済サービス事業の決算分析
 - メディア事業の決算分析 3.各業界の基礎知識
 - ソーシャルネットワークサービス業界のお仕事
 - オンラインゲーム業界のお仕事
 - 電子決済サービス業界のお仕事
 - 動画配信業界、音楽配信業界のお仕事 4.まとめ
 - テンセントホールディングスの時価総額は高い?安い?
 - テンセントホールディングスのまとめとこれから

ゆっくりと記事を追加していく予定ですが、アジアで1番注目されるこの企業を、少しでも読み解けるマガジンになればと思います。

よろしければ、どうぞお付き合いください。

----------------------------

この記事やマガジンを気に入ってくださったら、ぜひ↓から「スキ」「フォロー」してください!

----------------------------












この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?