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飯能で『トレラン』を走る " 旅先で『日常』を走る ~episode24 ~ 埼玉編 "

前回のあらすじ

五箇山で『世界遺産』を走る

" それぞれの土地には現在進行形の文化やストーリーが必要で、産業も観光もそれを正しく理解した上で広くプレゼンしていった方が健全なのではないか?"

飯能で『トレラン』を走る

2020年、まさに世界中を席巻した新型コロナウィルスの猛威によって、我々人類はかつて経験したことのない日常生活を強いられることとなった。なにしろ、自己隔離状態がデフォルトとなってしまったのだ。
なんだかいきなり主語の大きい話から始めてしまい恐縮だが、この文章を書いている私も、読んでいるあなたも同様に、不可視の脅威の前に今までの日常を奪われてしまった。

「ソーシャルディスタンス」という言葉が急速に市民権を得て、親密な距離感で人と接することが悪とされた。そして、以前とは打って変わって、オフラインで人と会ったり交流すること自体が非日常なこととなった。「目に見えない毒」を恐れるあまり、我々は物理的に分断されてしまったのだ。
とはいえ、私は密を避けるという大義名分で、緊急事態宣言が明け『GoToトラベル』がスタートするや否や地方行脚を再開したのだが 笑。

しかし、私のように風評や周囲の目をほぼまったく気にしない一部の好事家を除いた多くの善良な方々は、オフラインで誰かと会ったり集まったりすることには慎重になっていた。万が一、自分自身が誰かを病気にしてしまったらと考えると、それも無理のない話である。
私が所属している『PLANETS CLUB ランニング部』も同じ悩みを抱えていた。

そもそも、日本各地にメンバーが点在している当クラブは、コロナが猛威を振るうよりも前から、オンラインとオフラインの中間的なイベントを模索し続けてきた。『販売終了になる「明治フルーツ牛乳」を飲むオンラインラン』から始まったこの試みは断続的に引き継がれていった。『すれ違いラン』しかり、『みんなで一緒に家を出るラン』しかり。
こういった一連のイベントによって、つかず離れず絶妙なメンバー同士の距離感が醸成されていった。おそらく、当クラブは最もコロナの影響を受けなかったコミュニティのひとつではないだろうか?と、私は考えている。

とはいえ、時にはオフラインで交流することも必要ではないか? と、メンバーそれぞれが考え始めていた。地方組は仕方ないが、首都圏在住のメンバーの中にもコロナ禍が起こってから入部してきた方々がかなりの人数おり、一度くらいは実際に顔を合わせてみたいという願望は誰にも少なからずあった。普段ZOOM会などで交流しているからといっても、その人のサイズ感だったり醸し出す雰囲気だったり、これらの情報量はやはりオフラインの方が圧倒的に豊かである。
その状況下で、オフラインイベントの開催に向け一肌脱いでくれたのが、当クラブのO部長とAコーチであった。

『飯能でトレランを齧るオフ会』

このたび開催される運びとなったイベント名である。その名の通り、飯能でトレランを齧るオフラインのイベントだ。郊外、しかも山中での開催なので、三密は避けられる。じつは去年から構想が温められていたイベントだということだが、このタイミングで開催するのに最適な内容だ。これなら参加者のご家族も安心してイベントに送り出せるというものだ。実際このイベントは、開催日を2日に分けなければならないほど参加希望者が殺到した。もちろん私もそのうちの一人である。私は2開催のうち1回目、11月3日の方に参加することになった。
イベント開催に尽力されたO部長とAコーチを讃え、皆さま盛大な拍手をお願いします!

ところで、飯能を走るにあたり「前回埼玉県を走ったのはいつだっけかな?」と思い返す。あれは去年(2019年)の9月のこと、偶然にもPLANETS CLUBのオフラインイベントの日のことだった。

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有志の間で、とあるアニメの聖地巡礼を口実とした街歩きイベントが、その日企画されていた。私はそのアニメは見たことがなかったが、川越の街に興味があったので参加することにしたのだ。集合時間は10時だったが、私は早めに行って川越の街を走ることにした。

東武東上線に揺られ8:40分頃に川越駅に到着した私は、駅前のコンビニで着替え、コインロッカーに荷物を預けてさっそく走り出した。


駅前のロータリーを抜け、『クレアモール』という名の商店街を走る。川越駅前から西武線『本川越』を越えて1km以上北に続く、市内最大の繁華街だ。しかし繁華街とはいえまだ朝早い時間帯であり、人通りはまばらだ。もちろん殆どの店はまだオープンしていない。インターロッキングで整然と整備された鋪道を、誰にも気を使うことなく颯爽と駆け抜けた。

クレアモールを抜けて住宅街を500mほど走ると、『小江戸』と呼ばれる川越の昔ながらの街並みが堪能できる一帯に出る。

道の両側に江戸時代後期に建築された建物が林立している。観光客の姿はまだほとんどない。川越という観光地を独占したような心持ちになって通りを駆け抜ける。早朝という時間帯の空気感も相まって、走っているうちにまるで自分が江戸時代にタイムスリップしたような錯覚に陥る。まるで飛脚にでも転生したような感覚だ。

左に寄り道して『菓子屋横丁』を通る。まだ駄菓子屋は開いていなかった。メインの通りに戻り、今度は右に進む。『時の鐘』に差し掛かる。
初代の櫓が建てられてから400年近いそうだ。「半鐘はいけねえ、オジャンになる。」という古典落語『火焔太鼓』のオチがふと脳裏をよぎった。

そのまま直進を続け、川越城に至る。天守閣は現存していないが、美術館や博物館があり、緑も豊かでいかにも城址といった趣きがある。ここを左に曲がってしばらく進むとと氷川神社があるが、後で参加するオフ会での最終目的地となるので、楽しみは後に取っておこう。右に舵を切り、スタート地点である川越駅に戻るルートをとった。

という感じで昨年は川越を走ったのだった。
余談だが、つい最近『小京都』を調べるついでに『小江戸』のことも少し調べた。
全国に数十か所もあり、その由来もバラバラな小京都と比べ、小江戸を名乗る地域は埼玉県川越市・千葉県佐原市・そして栃木県栃木市の三ヶ所がメインで、その他の地域を含めても十箇所に満たないらしい。特に川越は江戸時代から江戸との交流が深く、小江戸と当時から呼ばれていたとのことだ。小江戸歴数百年、年季が桁違いである。

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余談が長くなってしまった。
この時以来の埼玉ランとなり、また今年2月以来のオフ会となる。このオフ会空白期間中にも、私は出張のついでという名目で全国各地を走ってきた。大分や敦賀に暮らすクラブメンバーと走ったりしてきたが、3人以上揃って初めてイベント感が発生することを身をもって実感している。私とあなたとそれを見ている誰か、という構造が肝なのだろう。

2020年11月3日 西武池袋線5番ホームの1号車が停車するあたりで集合し、 8:50発の急行飯能行きに乗車する手はずとなっている。遊びの時だけは10分前行動を厳しく自らに律している私は、8:38に集合場所に到着した。一番乗りだ!

8:45、まだ誰の姿も見当たらない。「もしかして何か間違えてる?」。日付・時間・場所、自分がどこか間違えてるのではないかと不安になり、Facebookのメッセンジャーを開く。そこに記されていた内容を確認する。どうやら、私は間違えていないようだ。ということは、私以外の全員が間違えているのか? そうなると、多数決の論理からしてやはり間違えているのは私ではないか? もしかしたら、私以外の全員はここでオロオロしている私を遠巻きに眺めながら、ヒソヒソと私を嘲笑っているのではないか? 無限に不安になる。

「おそらく私の『誰かと繋がりたい』という願望が、トレランオフという幻を自分自身に見せたのだろう。」と結論付けようとしたところで、目の前に部長が現れた。全身からアンニュイな雰囲気を湛えつつ。
「私が見ていたのは幻ではなかったのだ。」と安堵しつつ、「おはようございます!」と努めて元気に挨拶した。礼儀正しい私。

「コーチは寝坊したので、後続の特急に乗って追いかけて来るそうです。」部長はそう言った。
思い出した。我がランニング部では早朝のイベントをけっこう開催するにも関わらず、部長もコーチも早起きがものすごく苦手だということを。
かつて「大野さんは朝弱そう」と、ランニング部の中で最弱認定されたことがある私は、心の中で小さくガッツポーズをした。I WIN。

そんなことを思っているうちに、ホームには電車が到着した。部長とともに乗り込む。
「池袋から乗る予定の人は他にいるんですか?」と、部長に聞いてみる。ランニング部員は都内西部に在住の方(クラブ内では『多摩県民』と称される)が多く、途中駅から乗って来る方が多数のようだった。
「N山さんという方が池袋から乗ってくることになっていますよ。」と、部長からの返答。Facebookで私と友だちになっている方だ。そのプロフィールからおそらく20代であろうと思われるが、普段ZOOM会で見かけることはなく、どんな方だったかは思い出せない。

部長とこんな会話をしていると、我々の斜め右側の席に座っている方が話しかけてきた。「こんにちは。N山です。」
話してみると、N山さんとは軽井沢のランオフでお会いしたことがあったことがわかった。だからFacebookで繋がっていたのね。N山さんのようにオンラインイベントには参加せず、オフ会でしか交流できない方もかなりいるはずだ。この理由からも、やはりたまにはオフ会を開催した方が良いのだなと、改めて思った。

電車は定刻通り発車した。車内では、部長から昨夜行われたクラブ内のトークイベントの事について、いろいろと聞いていた。人数限定で行われた、久々の公式オフラインイベントだった。2倍の競争率を勝ち抜いて、部長はそのイベントに現地で参加していたのだ。
その他にも部長に聞いてみたいこと、話したいことは山ほどあったが、部長の存在全体から醸し出される『眠い』オーラがあまりにも強烈だったため、おとなしく各自スマホに目を落とすタイムに突入した。

しばらくすると、電車はひばりヶ丘駅に近づいてきた。ここで乗車してくるメンバーが二人いる。電車はホームに入線した。電車を待つ人の姿を窓越しに眺める。いつもZOOMの画面上で見慣れた顔が視界に入った。I崎さんだ。なぜか、本当になぜだか、着流しスタイルでホームに佇んでいた。これから山に入る人の服装にはとても見えないところが最高だ 笑。

電車が停車し、ドアが開く。Aやのさんが乗車してきた。グレーとチョコレート色の組み合わせで、ロングスカートのコーディネートで現れた。この季節に合った、センスの良いチョイスだな、と思った。
というか、クラブメンバーの私服を目の当たりにする機会って、オフ会の行き帰りくらいしかないという、世界の真実にここで気付いた。我々はランニング部なので、オンラインでもオフラインでも、基本は走るための服装なのだ。

なおも電車は進み、所沢に到着した。ここから合流してくる方はY村さん。アニメ部の主力メンバーにして、ランニング部にも所属している。かつてオフラインイベントが活発だった頃、ご一緒する機会が多かった。先ほど書いた川越オフしかり、ランニング部のイベントでは皇居ランしかり。Y村さんがいると一気にその場が明るくなる。
この場に当初漂っていたアンニュイな空気は、もはやここには存在しない。

いよいよ目的地までだいぶ近づいてきた。電車は小手指に到着した。ここから合流するのは、Cよこさん。いつもtwitterやfacebookでの料理の投稿を楽しみに拝見している。なにしろ見るだけで丁寧な暮らしを実現した錯覚に陥り、その後はなにを食べても0カロリーなのではないかと思ってしまうほどだ。お陰さまで、私はこの半年で5kmほど増量した。

一方、Cよこさんからは、気合が入りすぎた挙句、力んで手に持っていたパンフレットを破ってしまった、との報告があった。

そうしているうちに、電車は終点の飯能に到着した。Y村さんによる西武池袋線の車両撮影会やトイレ休憩を挟んで、改札を出た。すると、改札の外にはコーチの姿があった。
ヒーローは遅れてやってくる!そして、我々を先回りしてやってくるのだ。レッドアロー号最強である。

勢揃いした我々は駅前のコンビニで補給食を購入し、駅構内にある『ひだまり山荘』で着替えて荷物を置かせてもらい、トレランの準備を整えた。

そして、駅近くのカラオケ屋の前にちょうどいいスペースを見つけ、我々はコーチの号令のもとに準備体操を入念に行った。なにしろ我々はこれから山に入るのだ。

いよいよトレランがスタート。ただ、山に入るにはここからはまだ距離がある。公道をしばらく走る。安全確保のため、縦一列の隊列を組む。

先頭がコーチ、最後尾が部長だ。私は列の中央より少し前方に陣取りつつ、気になった風景を写真におさめていた。
すかさず、後方の女性陣から野次が飛ぶ。「大野さんがいつも何に興味を示して走っているのか勉強させてもらいます。」的な。背後から強烈なプレッシャーを受けながら走り続けることになる。これも、普段私が身の回りの人たちを面白おかしく文章に書いている報いだと諦めて走り続ける。

いよいよ山道の入口に差し掛った。

まずは天覧山に上る。基本歩きで進む。先は長い。無理は禁物だ。また、どこに敵が潜んでいるかわからない。慎重に進もう。

このあたりが山頂だ。ご覧の通りなかなかの景色だが、これでも標高195mである。

続いて多峯主山に進む。

鎖場がある、急な傾斜の山道を登る。一気に山頂に登ったが、息が上がる。ここで標高271mだ。
ここからは下りに入る。コーチの誘導で進む。若干小走り気味になる。どうやらコーチが道を間違えたようだ。すわ遭難か?
我々は道幅の狭い道のりを進み、開けた広場に出た。どうやら遭難は免れたようだ。しかし油断は禁物だ。子供の頃にTVで見た『川口浩探検隊』では、こういった局面で敵が現れるのだ。

ふと気づくと、右足が無数のひっつき虫的なものに覆われていた。恐るべき自然の驚異だ。

いったん下山して、山中に不自然に造成されている新興住宅地のコンビニで補給タイムを取る。後で知ったのだが、この一帯の山々にはかつて開発計画があり、地域の人たちの反対運動によって計画は白紙となったそうだ。この住宅地は、その開発計画の名残りのようだ。

引き続き、我々はコーチの道案内に頼って公道を進む。適当なところで右折するのが正しいルートのようだが、あらかじめ下見に来ていたコーチの記憶があやふやになっている。おそらく見えない敵による催涙弾かなにかの攻撃によるダメージなのであろう。
ここで部長が「たしかこのあたりで曲がったはず」と助け船を出し、我々は吾妻峡に至った。

ここを越えたら、次は龍崖山に登る。

「左がなだらかな道、右が急な道。さあ、あなたはどちらを選びますか?」
看板が我々に究極の選択を迫る。我々は勇者の集団なので、迷わず右を選ぶ。登山者用の杖が用意されていた。杖を持つ人、素手で挑む人、それぞれの装備でこのトレラン最大の難関に挑む。

そして、我々はついにこの山を攻略した。

充実感に満ちた我々一行は各自杖を手に取り、杖を剣に見立てて勝利のポーズを取った。なぜだかわからないが、ランニング部メンバーの元剣道部率が異常に高いのがゆえの行動であった。

「我々は飯能の山をついに攻略した!」充実感に満ち溢れた我々は、悠々と山を下る。下りきってなおも進むと名栗川に突き当たる。川の両岸がキャンプ場になっている。

ここを越えるとゴールである飯能駅はすぐそこだ。

走り終えた後は、山荘に立ち寄って荷物を受け取り、近所の立ち寄り湯に向かった。

ここはトレランをする人たちにはお馴染みのスポットらしく、なかなかの混雑具合だ。大広間に荷物を置き、大浴場に入る。汗を流し、コーチに筋肉のクールダウンのやり方を教わりつつ、ゆっくりと浴槽に浸かった。風呂あがり、大広間で大の字になってしばしの休息を取る。至福のひととき。

風呂と来たら、今度は飯だ。我々はランチというものを採っていなかった。先ほどの山道の入口まで戻った。ここに、先月オープンしたばかりの『発酵テーマパーク』があるのだ。

カフェ的なスペースでランチをとりたかったのだが、フードメニューはすでに売り切れていた。発酵テーマパークはそれくらい大盛況だったのだ。ここでの食事は諦め、お土産購入タイムに切り替えた。

バスで駅に戻り、駅直結のホテルのレストランで食事にありついた。時刻は18時近い。もはやディナータイムである。


今日のトレランの楽しかったことなどを振り返りつつ、食事を楽しんだ。
食事を済ませた我々は再会を誓い、18:29発の電車に乗って帰途についた。

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久しぶりにオフラインのイベントを経験して思うことは、親密度を増すために「たまには」オフラインも必要だということだ。雑談ができるから、それが主な理由である。
オンラインで集まる時はなにかテーマがあって、その話題から逸れてなにかを語り合うシチュエーションはあまり起こらない。しかも、誰かが発言している時には、他のメンバーは沈黙していることが前提となる。
そうなると、ちょっとした偶然から発生した話題で思わず盛り上がったりすることもあまりなく、親密度が増す機会が制限されてしまう。

また、普段ひとりで走ることがほとんどである私が感じたことは、ひとりで走る時は『どこを走るか』、みんなと走る時は『誰と走るか』が重要になるということだ。今回のトレラン描写の内容がいい加減になっているのも、その表れである。なにしろ他のメンバーが書いたレポートを参照して書いたくらいだ。正直、走ったルートなどろくに覚えていなかったのだ 笑。

そして、ひとりで走る時は周囲に気になるものがあった場合は足を止めて観察することができるが、みんなと走る時はペースを落とさずに観察しなければならない。これが大きな違いだ。その見込み違いで私は盛大に転ける羽目にあったのだ。公道から分岐した舗装もされていない道に、『歩道竣工碑』なるかなり大きな碑が立てられており、つい視線がそちらを向いてしまった故の悲劇である。気を付けたい。

新型コロナウィルスの今後の動向は不明瞭ではあるが、密を避ける大義名分を持って、このようなアウトドアイベントが活発化すればいいなと、心から願うのである。

次回予告

昇仙峡で『紅葉』を走る

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