これでいい
久ぶりによく晴れた日、僕は川辺を散歩していた。
きれいに晴れた青い空が川面に映っている。
川面に立つさざ波が陽の光を反射してキラキラと光っている。
何日もずっと、薄暗い天気が続いていた。
だからこんなに気持ちよく晴れた日にちょうどいい風に吹かれながらこの場所を歩くことができるのは本当に嬉しくて思わず鼻歌が零れだしてしまう。
遠くから自転車に乗った子どもたちがこっちに向かって走ってくるのが見える。
どの子もみんなどこかの球団のキャップをかぶっているようだ。
「野球の人気ってすごいんだな」なんて、思わず呟いている自分がいてちょっと驚く。
野球、この頃見てないな。
父さんがサッカーばかり見てたから、僕も自然にそうなった。
Jリーグのチームと外国の凄く有名なチームが対戦しているのをテレビ中継で見ていた時、先にJリーグのチームが二点先制したら、それまで涼しい顔をして余裕たっぷりな感じだった外国のチームの選手たちの表情が一変して、一斉に彼らのスイッチが入って、すごい勢いで反撃されて結局Jリーグのチームは負けてしまった。本当に実力というものの凄さを僕は感じた。そうして一流のプロの人たちの意識の高さというものも。
自転車の群れが近づいてくる。
子どもらの顔は皆、内側から輝いていて眩しかった。
でもたぶん本人たちはその輝きに気づいていない。
そうしてそのまま過ぎていく時間の中で成長していく。
振り返ることも思い出すこともない何気ない毎日の中にかけがえのないものが隠れていたことに気づくのはずうっと先のことなのかも知れない。
にしても、気持ちのいい日だな。
遠くから聞こえてくる車の音さえここちよく感じてしまう。
からだが軽い。
心が弾みだすような気さえする。
腕を大きく伸ばして、息を深く吸って吐いて、全身の余分な力を抜いてみる。今までまとわりついていた余分なものが剥がれてくれてすっきりとした気分が戻って来る。
川面はキラキラ輝いていて、その上を渡ってこちら側に吹いてくる冷たい風は僕の髪と頬に静かな緊張感を与えて通り過ぎていく。
こんな日もある。
時々は。
自分のことを縛るものがひとつもない気楽な休日。
特別何にも考えず気楽な気持ちで歩き続ける。
川原には草が茂り、吹く風に揺すられて乾いた音を立てている。
遠くで車が走る音。
川原の草が揺れる音。
川の水が流れていく音。
僕の立てる足音。
風に吹かれて揺れる髪の毛の音。
時々鳥の声。
僕の服に風が当たって立てる音。
はぁ。
リラックス。
リラックス。
こういう日もないと、駄目なんだよな。
うん。
うちに帰ったら熱いコーヒーを淹れてゆっくりと飲もう。
湯船にちゃんと湯を溜めてゆっくりと入浴しよう。
朝干した洗濯物もきっと乾いているはずで、今日一日はすっきりと気持ちよく過ぎていくしかない。
ここまでがんばった自分を褒めてあげよう。
絶対に。
これでいい。
ありがとうございます。 嬉しいです。 みなさまにもいいことがたくさんたくさんありますように。