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『短編』小さな兄貴。

僕は人を楽しませるのは好きだが、僕がおちゃらけても皆逃げてしまう。

この大きな体が駄目なのか。
それともこの顔の周りから首に背中へ向けての金色の毛がいけないのか。
はたまたこの鋭い牙に大きな手から伸びる爪がいけないのかよく分からない。

僕達は肉食とされ、他の草食動物を食べないと生きていけない。
でも、僕はそんな草食動物と分類される動物達とも仲良く生きたいと思っている。

でも、怖がらせない様に伏せて近づいても、僕に気づいたシマウマは耳をクリクリさせ、首を僕の方に向けて気づくと、尻尾に火をつけられ様に飛び上がり逃げていった。

いつも、そんな時は落ち込んでしまう。

確かに他の肉食動物は生きている草食動物を追って捕まえ鋭い牙で首に噛みつき息絶えた後ご馳走にありついているが、僕は死んだ草食動物を食べるようにしている。

それは、彼らに感謝をすると同時にやはり僕が襲っているときっと仲良くはできないと考えているからだ。

そんな僕だから他の仲間達からは変な目で見られ仲間外れだし、草食動物からは逃げられてしまう。

そんな時だ。

僕が日差しが強いからと、痩せた木の木陰でゼーゼーと息を吐き休んでいると、トゲトゲの体を持ったグレーのネズミが挑発する様に長い鼻をピクピク動かしながら僕を見ていた。

僕の方にピクピク鼻を動かしながら近づいてくると尖った体を丸めて僕の前足をツンツンと突いてきやがった。

「俺は食べてもお前が痛いだけだし、食べても身がついてないから旨くないぜ。一回百獣の王って奴に挨拶してみたくて暑さで伸びてるお前の所に来てやった訳さ。感謝しな。」

僕は暑さで参っていたし、喉がカラカラで水分を失った喉がぺたりとひっつきそうなくらい参っていた。

「ハリネズミさん。折角挨拶に来て頂いたけれども、きみをもてなす事はできないな。今は暑さと喉がカラカラで死にそうなんだ。」

それを聞いたハリネズミはシャカシャカっと体を震わせ針を鳴らすと得意げに「ならついてきな。そんなライオンは見たくないぜ。」っと小走りに駆け出した。

僕はそんなハリネズミの後を追うと、僕一匹入れるくらいの水溜りに案内してくれた。

僕は首まで突っ込むと勢いよく水を飲んだ。
頭の奥まで澄み渡る冷たい水が僕の意識をはっきりさせてくれ、生き返った気分を全身で楽しんだ。

グハっと頭を上げると、水溜りに体をつけるハリネズミがいた。

「どうよ。うまいだろう。ここは俺の隠れ家さ。誰にも教えるんじゃないぜ。」

僕はコクリを頷くとその場に体を伏せた。

ゼーゼーと暑さに耐えていた体が冷やされ頭の感覚が冴えてきた後、僕は今までの事をハリネズミに話し始めた。

「君は僕を百獣の王だと言うけれど、そんな事はなくて、僕はできたら皆と仲良くしたいんだよ。草食動物だって仲良くなれば僕達みたいな肉食動物に恐る事は無いだろう。」

それを聞いたハリネズミは短い尻尾をフリフリしながら答えた。

「お前の考えは草食動物達にとってはいい事だろうけれど、百獣の王に産まれたのだから、食って行かないといけない。お前は一人だからいいけれど、子供がいるお前の仲間は草食動物を狩らないと育てていけないだろう。お前の考えだけで、ライオンの他の奴らの考えを間違ってるみたいな言い方は良くないと思うぞ。」

そう言ってハリネズミは僕の鼻をよじ登って頭に乗った。

「でも、お前の志は分かったよ。なら俺はお前と仲良くなってやってもいいぞ。秘密の水場も教えてやった事だし。一応俺はお前より歳上みたいだから、兄貴分になるな。宜しく。」

僕は初めてできた兄貴を頭に乗せると、嬉しくて草原を全力で走って見せた。

「うぉーうぉー。やめろやめろ。落ちてしまいそうだ。」

僕は木陰に腰を下ろすと目が回っていた、兄貴をフワフワの葉っぱの上に寝かせた。

「兄貴。嬉しくなって調子に乗りました。すみません。」

ハリネズミの兄貴は起き上がるとため息を吐き体を休ませていた。

暫く無言の時間が心地よく過ぎ去った後、すくっと起き上がったハリネズミの兄貴は遠くに何かを見つけ僕の頭に乗ると、あっちへ行けと言わんばかりに僕の頭を針で突いてきた。

僕は支持されるまま歩いていると、「止まって伏せてみな。そして、あっちを見るんだ。」そう言って鼻を遠くに見える茂みの方へ向けた。

そして、その方向を見ると、ライオンの群れが身を潜めシマウマを狙っていた。

地面に一体となってすり足で、少しづつシマウマの群れに近づいている。僕は黙ってそれを見ていた。

すると、なんの前触れもなくライオンの群れがシマウマ目掛けて全力で走り出した。シマウマはそれに気づくと沢山の土煙を上げ四方に逃げ出した。

襲う獲物を1匹に絞ったライオンは連携して1匹のシマウマを囲い始めた。

群れから置き去りにされ、ライオンに囲まれたシマウマは前足を高く挙げ戦闘体制に入っていた。

シマウマの後ろから飛びかかるライオンを皮切りに周りにいたライオン達も一斉に飛びかかった。

シマウマは襲いかかるライオンの群れの隙間を見つけるとそこからヒョイっと抜け出し、走り去っていった。

息を切らしたライオンの群れは肩で息を吐きながらその場に座った。

日が傾き始めたサバンナは少し涼しくなり、ライオンの群れは顔を地面に落としながら帰って行った。

ハリネズミの兄貴は無言で僕の頭を突くと鼻をブンっと振り僕に追えと指図した。

僕はライオンの群れから一定の距離を空け後を追った。

ライオンの群れは岩場に姿を消した。
その時、岩場の影から数頭のライオンの赤ちゃんが出てきた。

ライオンの赤ちゃんは痩せこけていて、呼吸をするたびに肋骨があらわになっていた。

「アイツら何日も飯にありつけてないんだな。飯にありつけないから、体力が落ちてシマウマ1匹も狩れないんだ。そして、子供に飯を持っていってあげれないんだな。このままの状態だと、夜に子供はハイエナの餌になるか、他のライオンの群れに襲われてオスのライオンから子供が殺されるのを待つだけだな。」

僕は草食動物とは仲良くなりたい。
肉食動物も草食動物と仲良くなればいいのにって夢の現実を見せつけられた。

「それでもお前はあのライオンの群れに草食動物とは仲良くなろうって言えるか。」

僕は少し顔を落とすと横に首を振った。

「とてもじゃないけど言えない。僕の価値観を彼らに押し付けるのは行けない事だと思うよ。」

兄貴はそれを聞いた後、僕の頭を突くと

「もう一度言うけれど、俺はお前の考え方は好きだぜ。でも、周りのライオンはお前の気持ちは分かって貰えないかもな。」

「さっ。他へ行こう。」

僕達は暗闇のサバンナを当てもなく歩き始めた。

それから、毎日毎日ハリネズミの兄貴と僕は種族を超えて仲良くなった。まるで本当の兄弟だと僕は思っていた。

しかし、サバンナが雨季を超えて暫く経った頃、雨も降らず湖は干上がり、草木は枯れ果て餓死する草食動物が相次ぎそれを捕食する肉食動物もまた食料を失い餓死するライオン達が増えた。

僕とハリネズミの兄貴も水が飲めず喉はカラカラで水不足に悩まされていた。

「兄貴。ヨダレも出なくなりましたよ。それに腹ペコでどうにかなりそうですよ。」

「そうだなー。俺も意識が薄れていきそうだ。いやー。参ったなー。」

僕達は昼間は動かず木陰で休み、夜のサバンナは冷えるので、洞窟に入って体を丸くし休んだ。

もう、数えるのをやめるくらい雨は降らず、二人とも限界を迎えようとしていたある日。僕は兄貴に弱音を吐いた。

「兄貴。死ぬ時は一緒だよ。もちろん、先に行くことは許さないからね。」

兄貴は横たわり瞑っていた目を半分空けると、

「そりゃー。お前、約束できないな。それにお前は俺がおっ死んだら、俺を食ってほしいくらいだ。」

「それは、できないよ。兄貴。僕は兄貴がおっ死んだら後を追うよ。」

「バカタレ。可愛い弟に追われても嬉しくなんかないや。それに俺はお前が先におっ死んでも後は追わないぜ。お前の意思を伝えにゃならんからな。だからお前も生きたら俺を食って俺を未来に生かすんだ。分かったな。」

僕は薄れ行く意識の中で、うん。とうなづいた。

それから、僕達は昼間になっても洞窟に篭る生活となった。一向に雨は降らず僕達は意識を保つため必死だった。

しかし、ある日。
僕が朝、兄貴っと声をかけるといつもなら目を半開きに開けトゲをカサッと動かすのだがその日はピクリとも動かなかった。

僕は力を振り絞り鼻で兄貴の体を動かすとカチカチになった兄貴の体は枝より軽くなっていた。石ころのようにコロコロ転がる体を僕は追いかけて鼻で兄貴の匂いを嗅いだ。

「兄貴ひどいじゃないですか。先におっ死んのは卑怯ですよ。この先僕はどうしたらいいんですか。」

僕はコロコロした兄貴に語りかけたが返事はなかった。

「本当におっ死んだな。兄貴。兄貴との約束果たしますよ。」

僕はカチカチになった兄貴の体を口の中に入れるとカブリと噛み締めた。

兄貴の血が僕の喉を潤し、兄貴の体のトゲが僕の口の中を傷つけた。

「兄貴。これで僕は兄貴と一緒だよ。」

僕はカラカラで涙が出ないが心にすっぽりと穴が空いた様だった。

僕はそのまま眠り体の中に兄貴を感じていた。

そして、どれくらい眠ったのか、分からないが、僕が目覚めると大量の雨が僕の代わりに泣いてくれているように降り注いでいた。

僕は重い体を上げ洞窟の外に出ると全身で雨を感じた。

「兄貴。もう少し我慢したら一緒に生きて行けたのかもしれないですね。しかし、多分兄貴の体が無かったら僕が先におっ死んでいたかもしれない。兄貴には感謝です。兄貴の生き様僕が繋げていきます。見てて下さい。」

僕は痩せた体をひきづってサバンナに命を探しに行った。


おしまい。

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