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【学校は選べる】 01.高学歴夫婦は、本質的な学びができるマイクロスクールを選んだ

子どもがいきいき過ごせる環境で学んでほしい——。それは、保護者の共通した願い。でもそのためには、自分でいろんな選択肢を探して、試して、あれこれ試行錯誤していく必要があるのも事実です。

「学校は選べる」特集では、「そういった選択肢もあるんだ」と思えるような学校選びの工夫や、その選択にいたったストーリー、学校選びで大切にしていたポイントを紹介していきます。

今回お話を聞いたのは、一人息子を東京コミュニティスクール(以下、TCS)という全日制マイクロスクールに通わせていた、港区在住のSさん・Kさんご夫妻。それぞれ小学校・中学校から大学まで一貫の私立校に通っていたお2人でしたが、子どもに選んだのは全校で16名(当時)の誰も知らない小さなスクールでした。

「自分で考え、切り拓いていく力を養う」のが夫婦の教育方針

——まずはTCSに出会ったきっかけを教えてください。

K(母):息子が2歳の頃、私の弟が「小学校を選ぶのはまだ遠い話だけれど、すごくいい小学校が神戸にあってね」と探究型スクール「ラーンネットグローバルスクール」のことを教えてくれたんです。関係の学校が東京にもあるらしいので見に行ってみようと、軽い気持ちで説明会の申し込みをしたのが最初のきっかけでした。

今は中野のビルが校舎になっていますが、当時はまだ東高円寺の小さな一軒家を校舎にしていて、目の前まで行って少し怖気付いたんです(笑)。でもせっかく来たんだし話だけでも聞いて帰ろうとTCS創立者の久保一之さんと3人でお話したら、私も主人も「すごい学校だ」ととても感銘を受けて。

そこから文化祭などの行事を見学したり、先生や子どもを通わせている保護者の方のお話も聞かせていただいたりして、最終的にTCSへの入学を決めました。

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——息子さんを託す決め手となったのはどういうところですか?

S(父):僕は一目惚れだったんですよ。最初の説明の日に1〜6年生までのテーマ学習の表を見せていただいて、本当に素晴らしいなと感動して。社会寄与や意思表現などいろいろな領域のテーマを学んでいくのですが、自分も受けたいしうちの社員にも受けさせたいと思うようなものでした。

K(母):私は初代校長先生だった市川力先生とお話したり、他の学校も見学してから決断しました。市川先生のような素晴らしい先生から直接教えていただけることが魅力でした。

また、「自分の頭で考えて判断し、切り拓いていかないとこれからの社会は生きていけない」とつくづく感じていました。そうした中、答えのないことを常に模索し続けるTCSの教育の在り方は素晴らしいと思ったんです。

——なるほど。Sさんも、そうした教育方針には共感していましたか?

S(父):はい。僕らは2人とも大学までの一貫校に進学しています。学友たちも、教育環境はもちろん、家庭環境や友人環境も似通っていて、ある意味で同質な世界に生きていました。けれど意図せず、夫婦ともにそれまでとは異質な世界に就職することになりまして。

僕は、学友のほとんどが金融か商社に進む中で、一人だけしかも外資系の広告会社に入社したんです。同期はみんな帰国子女で2〜3ヵ国語話せて、彼女とフランス語で喧嘩をしている。これまで出会うことのなかった衝撃的な光景でした。10カ国以上で暮らしてきた人や、すごい貧しい世界を見てきた人などの中にいて、自分はこれでいいのかなと思い始めました。

その後、会社をやめてレストラン起業のためのチャレンジを始めました。このときはじめて自分で進路を決めたんですよね。皿洗いをいくつかの店でやったあと、アメリカの調理師学校に留学して、35歳で自分の店を麻布十番に出しました。

一方で妻は、霞が関の省庁に就職しました。周囲は東大出身の人たちばかり…という中で、周りに追いつこうとすごく努力して、激務で体調を崩した時期もありました。省庁を辞めて海外の大学院に進学し、いまは自分の会社を立ち上げて仕事をしています。

僕らが学生の頃は、先生の授業を寝ながら聞いて、テストの前日に徹夜で勉強して100点がとれれば親は大喜び。見るからに一夜漬けでやっているのに学校も何も言わない。ほぼ全員がエスカレーターで大学まで進学して、いつのまにか”高学歴”と呼ばれるようになる。誰も学ぶことの本質は見ていなかったように思います。

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社会人になってこれから何を勉強していけばいいのか改めて向き合ったとき、「これまで自分はなんにも学んでこなかったんだ」と実感しました。そうしたこともあり、教育の方針に関しては「自分の頭で考え、判断し切り拓いていく力を養う」ということで一致しているんです。


学年は1人だけ? 少人数で社会性が育つか、入学前には不安も

——TCSに感銘を受けたとはいえ、一般的な学校との違いに悩まれた部分もあったのでしょうか。

K(母):当時のTCSは各学年1〜4人程度で、息子の学年も直前まで息子1人の申し込みだったんです。最終的には女の子2人の申込みが決まったのですが、「さすがに学年に1人はかわいそうだから、もし1人だったら違う学校に通わせようか」とは言っていました。

S(父):少人数制に関しては「社会性が育まれないんじゃないか?」とギリギリまで不安にも思っていて、他の学校の説明会にも行きました。でも、どこも「こんな立派な教室や校庭があって、夏にはここに行って、こんな授業があって」とハードの説明ばかりに感じてしまった。

僕が気になっていたのは、「それを誰が担当するのか?」という部分ですが、それは教えてくれないし、もちろん先生を好きに選ぶこともできない。

一方でTCSの場合はどなたが教えてくれるのか明確に分かっていました。TCSも今は校長先生が替わり、新しい方向に向かってさらに良い学校になっていると思っているのですが、市川先生のあの熱量と考え方は本当に素晴らしかったですね。

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——少人数制への不安は、入ってみても変わらずありましたか?

K(母):そこは杞憂に終わりました。息子は一人っ子なので、突然兄姉がたくさんできたような感じで。普通の学校では同級生同士が競い合いライバル心が育つように思うのですが、TCSでは上級生や下級生と協力しながら成長します。

当時は全校で16名だったので、全学年合同で探究学習をしたり、他の代と一緒にいろいろやる環境でした。上の代に助けられて、次は自分が下の代を助けて、お互いが協力して物事を進めることを覚えていったようです。社会人になって仕事をする上でも、周囲との協力関係を築くことが基盤になりますので、少人数制についてはとても良かったと思っています。

——非一条校(学校教育法の第1条に掲げられている教育施設にあてはまらない、認可外の学校)であることに対しては、不安はありませんでしたか?

S(父):全くなかったですね。僕は昔から天邪鬼なところがあって、人と違うことをやるのがかっこいいなと思う人間なので。

K(母):私も全然気にならなかったです。非一条校に通っていても公立の小学校にも在籍しますし、受験して中学から一条校に行くという選択肢もひらかれています。

——授業も参観されたのでしょうか。

K(母):授業はよく見に行って、探究学習がいかに難しいかを私たちも学びました。数式や漢字を教えることは一定のトレーニングをした先生だったらできますが、探究学習はその時々の生徒の反応や学びの過程をみながら個々の子どもの力を引き出さなきゃいけないので先生は本当に大変なんですね。市川先生の探究の授業はしっかりと子どもに向き合い個々の力を引き出していて、“探究学習の神様”みたいに感じました。

また、TCSの先生方が親の目を意識して動いていないところが印象的でした。例えば普通の学校の音楽会などの行事では子どもに規律正しく振る舞わせ、親が「ちゃんとしている」と感じる世界を作りたがりますよね。その考えがTCSには驚くほどないんです。「急いで育てよう」と思っていないから、うまくいかなくても介入しない方が子どものためになると判断すれば本当に放っておくんですよね。


「学校を好きでいてくれる」のは、親として1番幸せ

——TCSの6年間で、息子さんはどう成長されていったと感じていますか?

S(父):息子は1年生のころから、金曜に家に帰ってくると「学校が終わってつまらない」と言って、月曜の朝にはすごく楽しそうに登校して。ほぼ無遅刻無欠席で6年間を過ごしました。自分の通っている学校を好きでいてくれているというのは、親としてみれば一番幸せで素晴らしいと感じることでした。

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一方で息子は、子どものころから人との摩擦を避けるというか、例えば友だちがおもちゃを引っ張り合っていても絶対に参加しない。この13年間、彼が怒っているのを僕は一度も見たことがないんですよね。

2〜3歳のころは人前に出るのも嫌がり、母親の後ろに隠れることも多く「引っ込み思案なのかな?」と心配していました。小学校に上がってからも5年生までは上級生の下でいつも笑っていて、「いい子ね〜」と言われるような子どもだったんです。

でも6年生に上がって、彼の活躍を見て実はすごくリーダーシップがあるんだなと思いました。怒るという形式をとらないだけで、我慢せずに人に言いたいことはしっかり言えるんだなと知りましたし、そうして発言していても周りに信頼されていると感じます。

——中学では、21世紀型の思考力を測るとされた少人数入試枠で、合格を果たされたと伺いました。

K(母):息子の第一希望校は彼の偏差値より高いところで、4科目入試枠では4回続けて落ちました。でも最終日の論文とグループディスカッションの試験枠で合格できたんです。

S(父):入試に落ち続けた3日目の夜にはさぞかし落ち込んでいるだろうと心配していたのですが、その21世紀型試験枠で息子の強みを評価していただくことができ、TCSでの学びが活かされました。

——中学に進学されて、息子さんは楽しそうにされていますか?

S(父):「高校生のうちに1年間の海外留学をしたい」と本人が希望していたこともあり、その留学制度がある中高一貫の私立校に通っています。学校は楽しそうですが、ラッキーなんだと思います。まだ彼がTCSにいた頃に卒業生が来て、「進学先の中学校が、TCSとは全然違う。もう行きたくない」と話しているのも聞いたことがあったので。

たとえばTCSだと授業中に全然関係ないことを質問しても、「いいね、今の質問」と拾ってくれるんですよね。でも普通の中学校でそうした質問をしても、「今そういう時間じゃないから」と取り合ってくれないことが多いようです。中学は妻が色々頑張って探してきてくれたので、彼女の選択肢が息子に合っていたのだと思います。

K(母):担任の先生にも恵まれ、学力だけではなくリーダーシップ育成などのアプローチもしていただいているようです。あと息子の話を聞いていると、授業ではグループワークや議論も多いようで、一方通行型の授業は少ないように感じます。

小規模なTCSのときには叶わなかった沢山の友人もでき、中学生活をもとても楽しんでいます。

小規模だからこその密度が、親の人生にも貴重な体験に

——最後に、TCSの6年間を振り返ってみての今のお気持ちをお聞かせください。

S(父):息子がこれだけ成長できたのはTCSのおかげで、市川先生や久保さん、素晴らしい教育者の方々と出会えたのはとてもラッキーなことでした。あとは、僕個人の人生としてのTCSの存在価値が非常に大きかったです。

音楽会では親父バンドをやったり、学芸会や山登りなども全部参加しました。TCSは、発表会に行って自分の子どもの発表だけを見て帰るのは禁止なんですよ。1〜6年生全員の発表を聞かなきゃいけない。

すると、スピーチで泣いちゃった子が成長してたり、普通の学校で辛い思いをした子が幸せそうになったり、感動的な瞬間があるんです。親も泣いちゃうし、自分も「一緒にがんばりましょうね」とか泣いちゃって、小規模だからこそ親同士の関わりも濃くて。

そんな6年間で自分の人生が本当に豊かになって、TCSには感謝をしています。他の子の成長がまるで我が子のことのように感じられ、人生の感動が増えました。

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——一番記憶に残っているエピソードはありますか?

S(父):市川先生のスピーチで一番忘れられないものがあって、「12歳で子どもを完成させようとは欠片も思っていない」という話です。

「あなたたち親は、『子どもをこうしたい』とか『12歳ではこうなっていなきゃいけない』とかそれぞれの尺度で思っているかもしれない。けれど、12歳で子どもは完成しない。親が思っている狭いところに子どもを押し込んだら、もうその後は伸びない。自分は子どもが伸びるための大きい器を作るために、毎日子どもに教えてきた」と語られていて、本当にその通りだなと思ったんです。

「もう中学2年生ならこれくらいできるだろう」とか、子どもに対してつい言っちゃうときもあるんですが、それは親のとても狭い尺度の中の話なんですよね。

K(母):主人と同感で、私個人としても、TCSでは素晴らしい経験をさせていただきました。私はまちづくりの仕事をしているのですが、本当に教育とまちづくりは似ていると感じることが多く、私にとっても学び多い6年間でした。

いま、中学での彼の姿を見てもTCSに行かせてよかったと本当に思っています。

ただ一方で、息子が探究することの意味や面白さをどこまで理解しているのか、どこまで探究学習を身につけているのか分かりません。まだまだこれからと感じます。学び続けることが人生の究極の目標だと思うので、TCSで育ててもらった探究の芽を伸ばしていってほしいと思います。

息子の卒業式での久保さんからの贈る言葉がとても重みがあり、印象に残っています。一言でいえば「はじめる人になりなさい」というお話でした。「はじめる人」は、当事者意識を持って最後までやり切る人だと思うんです。

何かを新しく始めると周囲からの文句や批判を受けたりと色々大変ですが、始めた人間はそれをやり抜かなければならない。「TCSを卒業したら、自分の好きなことを探究し続けてそれを仕事にしたり人生を豊かにしていって欲しいが、きみたちにはそれ以上に望んでいることがあるのだ。始めてやり抜く人になりなさい。」というメッセージだったと思っています。子ども達にどこまで伝わっているかわからないですけれど、そうしたTCSでの一言一言が今でも心に残っています。

——お話をお聞かせいただき、本当にありがとうございました!

(文:桐田理恵、イラスト:yone. 、編集:田村真菜)

●息子のDくんのインタビュー記事もぜひあわせてご覧ください。




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