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アパレル事務所の一角で始まった、子どもたちのクリエイティブな居場所「ASOMANABO(アソマナボ)」

大学教授による科学実験や、元劇団四季のメンバーによる表現に特化したプログラムなど、他にはない個性的な習い事が集結したクリエイティブスペース「ASOMANABO(アソマナボ)」。「カラフルな居場所」「面白いオトナとの出会い」の2つを軸に、活動しています。

2018年に世田谷区の三軒茶屋で始まったアソマナボ。大人の服や子ども服のデザイナー兼ディレクターで、アソマナボ代表を務める大澤麻衣さんに、設立までの経緯や工夫、これから目指す未来についてお聞きしました。

面白いオトナとの「出会い」をつくる

—— はじめに、どんな経緯でアソマナボを立ち上げることになったか教えてください。

私には3人の子どもがいるのですが、長男には学校の学び方が合っているように感じたけれど、次男はそうではないような感じがして。2人ともすごく面白くて良い子なのに、次男は褒めてもらえる機会が少なく学校という社会での評価が低いように感じたんです。「それって何だかつまらない世界だなあ」と違和感を感じました。

それで、本当は面白いのに評価されていない子に何ができるか考えるようになりました。大人になるといろんな種類の職業があって個性を尊重されるのに、学校ではそうじゃない。学校以外で子どもたちの個性が大切にされる、カラフルな居場所があればいいなという思いでアソマナボを立ち上げました。

もともと今の建物はアパレル事務所として借りていたのですが、今は1階と2階を、習い事業務とアパレル業務、時間で分けてシェアして使っています。

—— それぞれの個性が大切にされることが活動の軸になっているのですね。

いろんな個性のある子どもたちが集えることに加えて、「仕事を楽しんでいるオトナに会ってほしい」という気持ちも強くて。面白いオトナが創る素敵な世界に出会えたら、子どもたちは自分の好きなことや学びたいことを創造していけるのではないか、と思ったんです。

立ち上げの際は、クリエイティブで愛のあるオトナに声をかけていきました。例えば、アートディレクターの方にはアート教室、雑貨デザイナーの方には手芸教室をお願いして、一つひとつのプログラムをつくっています。

面白いオトナと出会う中で、子どもたちには「これが私!」と思えるような、自分にとって大切なものを見つけてほしいです。

—— 面白いオトナとの出会いが必要だと感じられた原体験などはありますか?

私自身、10代前半までは出会える大人が限られていて、自分がこういうライフスタイルを送りたいと思えるような面白いオトナを見つけられなかったんです。でも、10代後半のときバイト先で出会った社長は「楽しいことをしたければ、自分で仕事を創ればいい」という考えの人で、自分でゼロから仕事をつくっていました。

その姿には、大きな影響を受けましたね。「仕事って自分で創ればいいんだ」と初めて知りました。

楽しく仕事をしているオトナと出会うことで、子どもたちが将来のイメージを深めることができたり「一歩進んでみたい」と思えるきっかけになったりすると思うので、そんなワクワクする出会いをたくさん創っていきたいですね。

本業を持つプロがナビゲートする、個性的なプログラム

—— 具体的に、どんなプログラムをやっているのか教えてください。

アソマナボには多様なナビゲーター(講師)たちが運営する、他にはない特別なクラスが集まっています。一人ひとりの個性に寄り添ったプログラムで、遊びを通して子どもたちの創造力と表現力を引き出します。

プログラムには、手芸・絵画・工作・デザインなどが学べる数種類のアート教室があります。他にも、科学実験教室や探究型学習塾、プログラミング教室、リトミック教室、英語教室、音楽・身体表現教室、料理教室を行っています。講師を務めるナビゲーターは、デザイナー、教育ジャーナリスト、大学教授、システムエンジニアなどで、個性豊かなメンバーばかりですね。

例えば人気のプログラムに、アートとデザインがテーマの表現型プログラム「アートデザインラボ」があります。ナビゲーターを務めているのは、現役デザイナー、アートディレクター、臨床美術士などプロの現場で活躍する講師たちです。

このクラスでは、世界にひとつだけの記念写真をつくるカリキュラムがあります。まず「なりたい自分」や「行きたい場所」など、子どもたちの頭の中にある自分の「夢」をスケッチ。その後に「なりたい自分は、どんな格好をしてる?」から考えて身につけているコスチュームをつくっていきます。

画用紙やリボンなど、100種類以上の素材から好きなものを好きなだけ使ってコスチュームをつくった後は「なりたい自分がいる世界」を工作で表現。箱庭が完成したら、自分でつくったコスチュームを着て撮影に臨みます。写真データを箱庭写真に合成したら完成!発表会では、みんないきいきと自分の世界観を話しています。

—— 通っている子どもたちや保護者の方から、これまでどんな反応がありましたか。

不登校の子で、「学校はつまらないけれど、ここは楽しい」と、アート教室はじめ、複数の教室に積極的に通ってくれている子たちがいます。

今は、フリースクールに通いながら、アソマナボにも通ってくれているみたいで、アソマナボが、彼、彼女たちにとっての、楽しい学び場所、居場所の1つになっているのだととても嬉しいです。

他にも、「これまで何をやっても合わなかったけれど、アソマナボのアートは一生懸命するんです」と保護者の方から声を寄せてもらったこともあって。「ここだけはすごく楽しそう」「子どもに合っている」と言われることが多いです。いろんな子どもたちにとって居場所になっていることを感じられて嬉しいですね。

声をかけているのは、クリエイティブで愛のある人

—— 面白い大人やナビゲーターがたくさんいることが、1番の魅力なんだろうと思います。

3人のナビゲーターからスクールを始めたのですが、協力してもらえるナビゲーターが増えて、今は30〜40人が力を貸してくれています。

お願いしているのは、講師が職業なのではなく、アソマナボ以外の場でクリエイティブな本業をしている方ばかりです。プロとして活躍している人に定期的に会える場所ってなかなかないですよね。

—— どのようにナビゲーターの方々と出会っていったのですか。

「この人だったら愛情もあるし、プログラムを一生懸命つくってくれそうだな」と思う方々にこれまで声をかけてきました。

自分で出会いに行くことが多いです。イベントで会って声をかけたり、ホームページやSNSを見てDMを送ったり。「この人を子どもたちに会わせたい!」「この人がプログラムをつくったら絶対に面白くなる!」と自分の感覚を大切にして、クリエイティブで愛のある方々にナビゲーターをお願いしていますね。

—— 「クリエイティブで愛のある人」に込められた思いをお聞きしたいです。

クリエイティブな方にナビゲーターを担ってもらっているのは、クリエイティブな方は自分で0から1をつくったり1を3に変えたりできて、その姿を子どもたちに見せてくれるからです。

クリエイティブな方と一緒に時間を過ごすことで「こうやって創っていくんだ」「何かを生み出すときはこう考えていくんだ」と子どもたちは感じられると思うんですよね。

愛のある人というのは、優しくて人に何かを与える余裕のある人ですね。アソマナボにいるのは、子どもたち一人ひとりを大切にしてくれるナビゲーターです。

スクールは単発ではなく子どもたちが何回も継続的に通うものなので、「こうするのはどう?」「こうやったらもっと面白くなるね」とお互いに話しあえるということも大切にしています。

企業や行政とのコラボも手掛け、届けられる子どもを増やす

—— 服飾から教育へと異業種に飛び込んだわけですが、難しさを感じることはありますか。

もともと、ライフスタイルにあわせて働き方を変えてきたし、新しいことをやってきたんです。洋服の仕事をする前は、CM制作会社に勤務したり写真を撮ったりしていました。とはいえ子どもを産んで、撮影の仕事に時間をあわせて行くのが難しくなって。洋服作りなんて未経験だったところから、周囲に声をかけて洋服づくりを始めました。

教育分野でいうと、スクール事業だけで経営を安定させることは、正直難しいですね。ナビゲーターの先生たちにちゃんと利益が還元されるようにしたいし、とはいえお子さんが複数おられる家庭や複数の習い事をしている家庭のことを考えると、利用料を高くしすぎるわけにはいかない。

今は、スクール事業以外に企業や行政とコラボしてイベントやプログラムをつくったりコンサルティングをしたりする「デザイン事業」も展開しています。子どものクリエイティブや学びに関する企画やコーディネート、PRを行っていますね。デザイン事業でも「面白いオトナとの出会い」を届けることを大切にしています。

—— 具体的にはこれまでどんなことをされてきましたか。

去年の夏は、「いろんな職業を知って、体験してもらいたい!」という思いで、フリースクール「GIFT SCHOOL」さんとキッズメディア「TIAM」さんとともに、3日間のサマースクールを開催しました。アートやサイエンス、映像業界からナビゲーターをコーディネートし、実際にそうした仕事を体験できるワークを行いました。

他にも、世田谷区のコワーキングスペース「三茶WORK」さんにご協力いただき、10代の中高生を対象にした進路相談プログラムを企画しました。これもやっぱり、進路に悩む子どもたちに「いろんな未来や選択肢があることを知ってもらいたい!」という思いからです。エンジニア社長や美容師、公務員など、学校では出会えないさまざまなオトナたちと子どもたちの接点をつくりました。

また、工事中の世田谷区役所に設置される仮囲いで何かできないか、と世田谷区さんから相談されて、境界のない社会の実現をコンセプトに「ART WALL PROJECT」も実施しました。

当日はアソマナボのスクールで講師を務める壁画ペインターすまあみさんを迎えて子どもたちと一緒にアート作品をつくり、データ化により横断幕となって、区役所の整備工事中の真っ白な仮囲いを彩りました。掲示していたそのアートは、SETAGAYA PORT YOUTHとコミュニティメンバー、世田谷区立玉川福祉作業所の方々の手によってアップサイクル製品としても生まれ変わりました。

あちこちとコラボできるようになったのは、協力してくれるナビゲーターが増えてきたのが大きいです。歌を歌うプログラムなら「元劇団四季のメインキャストがいます」と言えて、庭に関するプログラムなら「庭師の方がいます」と言える。クライアントの需要に応じたナビゲーターとプログラムを提案できるようになっていっています。

地域の大人みんなで、子どもたちの成長を見守っていく

—— 最後に、これから目指す未来についてお聞きしたいです。

今は三軒茶屋のアソマナボを中心に活動していますが、いろんなオトナがいて子どもたちが過ごせるような、楽しい居場所を別の場所にもつくりたいです。

また、今はスクールとして月謝をもらっているわけですが、金銭的に余裕のない家庭の子どもたちにも開かれた、誰でも来れる場所や機会もつくっていきたいですね。どうしたらそんな場を実現できるか、世田谷区さんはじめ、色々な方に相談しています。

アソマナボの拠点を増やすというより、同じ思いを持っている方々と一緒にそんな場所をつくっていけたら嬉しいです。子どもたちの本当の居場所がいろんなところで生まれたらいいですよね。地域の中に子どもを見守る場所が増えてほしいです。

—— どうしたら地域の中にそんな場が増えるか、具体的にイメージされていることはありますか。

アソマナボのご近所の方々にも、面白い方はたくさんいるんです。実際に、お菓子屋さんの保護者の方に「料理教室をやってもらえますか?」と声をかけたら「子どもが大きくなったからできるかも」と言ってくれたんです。子どもの成長を一緒に見守っていくことに興味を持ってくださる方が地域に既にいるのは嬉しいですね。

保護者だけでなく、ゆくゆくは街の人にも入ってもらって、どうやって面白いことができるのか、アイデアを共有できるような場をつくりたいです。アソマナボのように本業を続けながらも、子どもを見守る人が地域に増えていけば、子どもが安心できる場所がどんどん増えていくと思うんです。

いつか、NPOなどをつくっていくことも考えています。自分らしい道を進むきっかけを見つけられるような場を、これからもみなさんと一緒につくっていきたいですね。

(文・田中美奈)


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