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学校を立ち上げるべく、オーストラリアで研究中。探究ナビ講座卒業生・一戸恵梨子さんのいま。

学びを探究するメディア「Q」が紹介しているラーンネット・グローバルスクールの「探究ナビゲータ講座」は、子どもが好奇心のアクセルを踏み、探究心や学習意欲をより高めて行く接し方や方法論について学ぶ場です。

教育実践者や保護者をはじめ、経営者やアーティストなど多様なメンバーが参加するナビ講座。これまでに800名以上の卒業生が、ここでの学びや出会いを、家庭や教育現場、職場などそれぞれの現場での実践につなげています。

ナビ講座の卒業生は、どんなアクションやチャレンジをしているのか。今回は「学校を立ち上げる」ことを企て、オーストラリアの大学院で学んでいる一戸恵梨子さんに話を聞きました。

これまではMCやレポーターなど、教育とは無縁とも思える仕事をしてきた一戸さんですが、お子さんの教育について考えるうちに「学校をつくりたい」と考えるようになったそう。その根底にある想いを、聞きました。

一戸恵梨子(いちのへ・えりこ)
1984年生まれ。青森県出身。日本社会事業大学社会福祉学部卒。「いっとちゃん」の名で親しまれ、MCやレポーターとして活躍。2013年に女児を出産し、育児中。現在はオーストラリアに留学し、教育学・社会福祉学を学んでいる。

ー 今日はよろしくお願いします。まずは、ナビ講座を知った経緯や参加された理由を教えてください。

一戸 :もともと、マイクロスクールやオルタナティブスクールに関心がありました。直接的な理由は、子どもの学校について考えていく中でラーンネットのことを知り、マイクロスクールの先駆けをつくった炭谷さんがどういうことを考えているのか、どういう人なのかを知りたかったことが1つ。もう1つは、自分と同じようにマイクロスクールやオルタナティブスクールに興味をもっている人たちと繋がりたかった。

小学生の頃、学校が好きじゃありませんでした。たまたま私が通っていた学校の隣がインターナショナルスクールで、そこでは生徒たちは芝生でゴロゴロしながら授業をして本を読んだり、帰り際にマクドナルドに寄って帰ったりしてて。その反面、公立小学校に通う自分たちはランドセルを強制され、寄り道は禁止されている。「どうして同じ小学生なのに、こんなに違うんだろう」と。もしかして私は海外の学校にいった方が楽しいのかなって子ども心に思い、高校でオーストラリアに1年留学しました。

大人になってから教育について具体的に考え始めたのは、子どもが生まれてからです。子どもの進学のことを考えるようになり、地元の小学校についての情報収集をしたり、子どもと一緒に学校見学に行ったりしました。そうしてみると、自分がいた30年前と、学校が全く変わっていなくて驚きました。むしろ、子どもへの管理が強まっている印象もあって。

もちろん、中には良い先生がたくさんいるというのも分かります。良い先生に当たれたらラッキーですが、くじ引きですよね。自分がコントロールできないギャンブルに、自分の子どもの人生を預けるのは怖いと思ったんです。

面白い学校はないのかと探している時に、偶然ラーンネットのことを知りました。「こんな学校があるんだ、面白いな」と思いましたね。そこから情報を得て、学校の設立を目指す人向けのオンラインサロン(TCS理事長の久保一之さんが主宰される『学校を創ろう!』)に参加してみましたし、ナビ講座にも参加することにしました。

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ー 実際に参加してどうでしたか?

一戸:講座という名前なので、「こういう時はこう共感しましょう」「こういう言葉を言いましょう」というスタイルの講義だと思ってたんです。あんなにロールプレイするとは思っていませんでしたが、すごく良かった。ロールプレイをすることで、ナビゲーターの一番大事な部分である「知る・感じる」のプロセスと効果を実体験できました。

今の大人って、意外と「共感してもらう」という体験をしてこなかったんだなと思います。だから、ロールプレイで実体験しないと「共感すること」でどれだけ相手や自分の気持ちが変わるのか、分からないかもしれません。

特に覚えているのは、面白いゲームをやっている時に、「そろそろ宿題をやる時間だからやりなさい」と大人に言われる子どもの役をやった時です。「もうやめな、宿題やる時間だよ」と大人役の人に言われても全然聞く耳がもてないのに、「なんのゲームをやってるの?すごい面白そうだね」と言われると、そのあとの言葉がすっと入ってくる。それが凄く印象的で。これは誰に接するにも大事なことだなって思います。

子どもだけでなく、部下や夫婦の関わり方の基本でもありますよね。子どもであろうと大人であろうとひとりの人間であることには、変わりないので。ナビ講座で学べるのは、人間対人間のコミュニケーションの根幹に関わることに近いかなと思いました。対人間の接し方を見直すってことだから。子どもに関わる人だけでなく、どんな人が受けても面白いんじゃないかなと思いましたね。

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ー 今後、学校を作ることを考えているそうですね。

一戸:そうなんです。自分の子どもの学校について考えることを通じて、日本の教育にはあまりにも選択肢がないことを痛感しました。自分の子どもを既にあるマイクロスクールに入れて「はい終わり」っていうこともできるんだけど、それだと根本的な解決になりません。だったら、選択肢を増やすことに自分の労力を使っても良いのかなと思って、学校を作ることを考え始めたんです。

最初はリアルスクールを作ろうと思って、物件を見に行ったり、どこがいいんだろうと考えていました。小学生が電車に乗って通学して、駅から歩いても負担にならず、できるだけ多くの子ども達が選択肢として取り入れられる場所ってどこなんだろう…と。そこをつきつめていくと、結局高額の学費を払える人が多い世田谷区や港区に行きついてしまう。そうすると、すでにその辺には私立の学校がたくさんあって、裕福な人ばかり選択肢が多くなるというジレンマにはまってしまって…。

「そもそも教育の選択肢がたくさんある人達のために、私は学校を作りたいのだろうか」と自問自答しましたね。裕福な人だけが質の高い教育を受けられるのではなく、様々な境遇にあるより多くの子どもの選択肢を増やしたい。

私自身、裕福な家庭で育ったわけではありません。小学校の時に行きたいと思ったインターナショナルスクールも、例え受験して合格していたとしても、経済的な理由で無理だったと思います。どうしても海外での教育を諦められず、高校時代はオーストラリアに留学しましたが、それも奨学金で行きました。

今は、オンラインスクールであれば、より多くの子ども達の選択肢を増やせるのではと考えています。オンラインだったら学費を下げられる。もしリアルスクールだとしたら、奨学金があれば良いのかと考えていますが、奨学金を用意するのは簡単ではありません。家庭が裕福でなくても入れる仕組みを作りたいなと思っています。

ー オンラインスクールというと、具体的にはどういうものになりますか?

一戸:このオンラインスクールという発想は、高校時代に留学していたオーストラリアの経験から考えたことなんです。留学中にオーストラリアを一周する旅行をしていて立ち寄った砂漠地帯で、ラジオ放送で義務教育の小学校をやってたんです。そこではオパールが取れるので、オパールの採掘の仕事をしている方がいるんですね。そこにラジオ局があって「ここは学校なんだよ」と言われて驚きました。

詳しく聞くと、内陸部では病院もなければ学校に通える距離でもなく、授業をラジオで放送しながらやっていて、それが義務教育として認定されているのだと教えてもらいました。子どもの写真や名簿もあって、名前を呼んだり「誰々今日来てる?元気~?」とか「今日は誰々の住んでる地域は雨が降ってるみたいだけど、どう?」とラジオで話しかけながら、授業をやっている。一方通行ながらも温かみもあって、すごく印象的でした。

それが今はオンラインになっているらしいんですね。そしたら多分、双方向のコミュニケーションになってるんじゃないんじゃないかという期待があって。すごく面白そうだなと思ったんです。

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ー 学校を作るために、今後はどういう活動をしていかれるのですか?

一戸:オーストラリアの大学院で研究する予定です。家族も一緒に、引っ越す感じですね。

アメリカではオンラインの小学校が既にあるんです。オンラインの教科書があって、問題にクリックして応えて、最後に課題を提出すると先生からフィードバックが送られてくる。昔ながらの通信教育をオンラインにしただけで、一方通行な感じですよね。でも今なら、オンライン会議のようなシステムを使えば、相互にコミュニケーションしながら授業を受けられるはず。そういう関係性の中で、義務教育でどこまでできるのかを探りたいと思っています。

ー 家にお金があってもなくても、その子の環境や個性に合わせた形で柔軟に教育を受けることができる、新しい形の小学校になりそうですね!わくわくします。

一戸:でも一方で、「小学校1年生が親の手助けなしでオンラインで授業が受けられるの?」という疑問もあります。「何歳からだったら出来るのか?」「親の手助けは何歳くらいまで、どの程度必要なのか?」とかを調べたいなと。キャンパスはもたずに授業はすべてオンラインで行うことで注目されているミネルバ大学がありますが、それは大学生でITリテラシーも高く、授業への参加意欲も強いから実現出来ているのだけかもしれない。

そういうリアルなところを、研究しに行きたいと思っています。その結果、オンラインでのデメリットが大きすぎるようであれば、やはりリアルスクールを作ることも選択肢にありますね。双方のハイブリッド型のスクールもあり得ると思っています。

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ー オーストラリアは、他にも面白い教育政策があるんですか?

一戸:オーストラリアは、州ごとに公立小学校の制度も、予算の使い方も全然違うみたいなんです。全体的なシステムとしては日本のようにスクールゾーンがあり、「ここに住んでる人がこの学校に入る」ということは決まってるようです。

オーストラリアでは、すべての小学校の情報が掲載されているウェブサイトがあるんです。共通学力テストのようなものをやっていて、その結果がどうなっているか、どういう特色があるか、そこで全部公開されています。なので、入りたい小学校のスクールゾーンに住むことで、子どもが受ける教育を選択できるという風になっていますね。

私たち家族が行くのは南オーストラリア州。オーストラリアの中でも一番教育に力を入れている州らしく、公立でも学校ごとにさまざまな特色があります。子どもの人数は1クラス20人から25人くらい。先生や保護者だけでなく、ソーシャルワーカーや地域のボランティアスタッフなど、多様な人が学校に関わっています。

娘の通う学校は移民が多いこともあって様々な言語のスタッフがいて、たとえ日本語を喋る子が1人であっても日本語を喋れる大人を配置してくれます。教育にすごく予算を割いていて、みんなが喜んで公立小に子どもを入れるという雰囲気。そこに行くことで、公立小でどこまで出来ているのかというのも、見てみたいですね。

ー オーストラリアでの体験を経て、どんな形のスクールを創られるのか、とても気になります。またスクールが開校したら、ぜひ話を聞かせてくださいね。

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(文:齊藤香恵子、写真:玉利康延、編集:田村真菜)



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