人口最少県の高校で、地方の学生の仕事観を変える 【「学びを変える」を仕事にする/大山力也】
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人口最少県の高校で、地方の学生の仕事観を変える 【「学びを変える」を仕事にする/大山力也】

砂丘で月面都市を体験できるARコンテンツの実証事業を技術集団と連携して仕掛けたり、シリコンバレーと鳥取をオンラインでつなぐ起業家育成プログラムを行ったり…世界や地域の多様な現場と教室をつなげ、地方の子どもたちの仕事観を変えることに取り組んでいる、大山力也さん。

一教員でありながら、鳥取県が禁止していた高校生のアルバイト解禁を実現させるなど、学校文化を変える取り組みを続けてきた大山さん。どのように個性的な働き方をつくっていったのかを聞きました。

大山力也(おおやま・りきや)
鳥取城北高校教員。神奈川県横浜市出身、幼少期6年間をブラジルで過ごす。早稲田大学院教職研究科、早稲田大学教育学部、早稲田大学高等学院卒。山梨県で私立高校の非常勤講師を経験後、2017年より鳥取城北高校教員として鳥取県に移住。2019年に日本財団地域コーディネーターを兼任。アントレプレナー部顧問、総合探究主任として「学校と社会をつなげる」ことをテーマに日々活動中。


このまま自由に働けないなら、民間企業に転職しようと思っていた

── 教員になられたきっかけを、聞かせてください。

もともと人に対する好奇心が強くて、大学時代はマスコミで働きたいと思っていましたが、子どもたちの卒業旅行引率アルバイトに偶然参加したんです。そこで、「この子をいい感じにしてやりたい」という部分で全員がつながっている場所だな、愛がすごいなと、教師という仕事に魅力を感じたんです。

── 首都圏のご出身ですが、鳥取の高校で働くことにしたのはどういう背景があったのでしょう?

働く学校を選ぶにあたって、”一教員でも何かを変えていけるような環境であるか”は一つの大きな判断軸でした。

それまで都立の中高一貫校、地方の私立高校で働いてきたのですが、職員会議で発言のタイミングも得られず、頑張って提案をしても「他の授業と違う授業をしないように」と反対され、とても押さえつけられてきたんです。

これ以上「こうしなさい」と一方的に指示される職場では働きたくなくて、教師を辞めて民間企業で働こうかと思っていました。そんな時、知人の教育関係者が「先生方がとても元気だ」と鳥取城北高校の採用情報をFacebookで投稿していたんです。

調べてみたところ、一度生徒数が大幅に減少し、アクティブラーニングを採用したり教職員からの突き上げで学校を変革している最中で、生徒数もまた上昇してきている学校であるとわかったんです。

── 自由度の高さ以外には、職場を選ぶ基準はありましたか?

最終的には、すでにおもしろくなっている場所よりも何もない場所で挑戦してみたいと思って鳥取に決めたんです。

例えばお隣の島根県は教育に力を入れていて、その盛り上がりも気になってはいたのですが、周りの誰も行ったことがない場所にあえて行ってみようかなと思って。自由にやらせてくれるのだったら、あとは可能性しかないですから。

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民間企業経験のある副校長のもとで、想像以上の自由裁量権を与えられて

── 実際に働き始めてみてどう感じましたか?

当時の副校長は元は民間企業で働かれていた方で、何においても決断が非常に早かったですね。副校長に話したら、翌日にはたいていの許可が出ます。それまでの経験からは考えられないことでした。

また、地方特有のおおらかさも感じましたね。2〜3年目からの裁量権がこれまでの学校経験からすると“異常すぎる”ほどで、学年主任に一言声をかけさえすれば、ふらっと授業の合間に外部の方々と打ち合わせすることができるんです。

身軽に動けるので、県庁や大学関係者の方々とは授業に有用な補助金が出ると真っ先に声をかけてもらえるような関係性を築けました。機会を作りたくても学校予算だけでは足りないときもあるので、毎年2〜3くらいは生徒と一緒に補助金を申請して活用させていただいています。

── 今は社会科教諭・総合探究主任・地域コーディネーター・アントレプレナー部顧問…と、学校内で個性的な役割を担われていますね。

僕が先生になった当時、不足している教科学習の時間を補うために総合学習の時間を使うことが多くありました。総合の時間が活用されてなくてもったいないので、「自分なりに1年間通しての計画を立てて実践してみたい」と先輩に相談したら、了承してもらえたんです。

そこから成果が認められ、もっと続けてみなよと勧められて、総合探究主任になりました。今年でもう4年目になります。

── 他の教員の方々も自由な環境を活かして、いろいろ動かれているのでしょうか。

中堅の先生方をはじめとして、自らいろんな可能性を探して、どんどん形にしていける方々ばかりです。コロナ禍においても3日で体制を作り、オンライン授業に踏み切ることができました。学校全体として力があると感じています。

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校外に出て、地方と都市部の格差をうめる総合学習の時間をつくる

── 現在は総合探究主任として、どのようなカリキュラムを設計されているのでしょうか。

1年目は「ローカルな学び」というテーマで授業を行います。去年までは私が商店街フィールドワークや地元起業家やフリーランスの方をお招きして仕事観を変える取り組みをしていました。それらをアップデートする形で、今年度からきた頼もしいもう1人の探究学習担当の教員が主導で進める地元スタジアム連携講座を必要に応じてフォローをしたりもしてます。

生徒の世界観が学校の中で完結してしまっていることと、鳥取県と都市部の格差についての課題意識があって、総合学習の時間でそこを埋めていけたらと考えているんです。

鳥取県は情報も中々入ってこないし、遊び場もない。都市部の家庭と比較して経済環境も恵まれているとはいえません。いったい何重苦を子どもたちは背負わされているのだと思っていて。

有名企業の名前を知らない生徒も多いですし、目に見えている範囲の職業しか将来の夢として語られることがありません。実際は、保育士の免許を取ったら保育士にしかなれないわけでも、看護師になったら病院で働くしか選択肢がないわけでもないじゃないですか。「看護×何か」で新しく仕事をつくってもいい。

既存の選択肢からしか働く方法を選べないという世界観をどうにかしたい。自由に動ける環境を活かして、東京や各地の人に会いに行き、起業家や違う地域の方をお招きしています。多様な働き方があることを子どもたちに知ってもらいたいと思っているんです。

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モチベーションに火がつけば、人は本気で学ぼうとする

── 総合学習の時間の中で、子どもたちが変わったなと実感したエピソードはありますか?

1年目に「ローカルな学び」をやったあと、2年目は「グローバルな学び」をテーマに、東京に本部のある認定特定非営利活動法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン(以下、フリー・ザ・チルドレン・ジャパン)さんと連携講座を開催しています。

でも鳥取の高校生たちは海外経験がまったくない子がほとんどなので、「実感がわかない」と言ってきて。団体の方々と相談して、「それならば子どもたちを現地に連れて行きましょう!」という話になったんです。

1人あたりの旅費を17万円程度に抑えたツアーを組んでいただき、学校の予算を確保する時間はなかったので、実費での渡航許可を学校に直談判しました。結果有志の教員4人で、申し込みのあった12人の生徒をフィリピンに連れて行くことができたんです。

そのとき、保護者の方々から「自分たちも含めて家族全員で海外に連れていってやることはとてもじゃないけれど家計的にできない。けれど子どもだけだったら行かせてやれるから、こうした機会を作ってくれるのは本当にありがたい」と言われて。

周辺地域の平均年収は300万円を割っていますし、県が主催するような平均価格40万円のスタディツアーに参加させることは難しかったので、一つ新しい機会を作り出せたのかなと思っています。

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── ツアー中、ツアー後の子どもたちの様子はどうでしたか?

ツアーでは、1日ゴミを仕分けして50円を得る暮らしをしている人々が住むゴミ山のスラム街で安全に配慮しながらホームステイを体験したり、ボランティア活動をしてフィリピンの人々と交流しました。

初めて知る過酷な環境につらすぎて泣き出す子もいましたが、この体験は彼らの心に本当に響いたようで、帰国後にはNGO職員になりたいと言い出す子がいたり、国際系の学部に進学を決めた子もいて、その変化に驚かされました。

特におもしろかったのは、ツアー後のいつもの朝の読書時間に、それまで軽いライトノベルを読んでいたような子たちが、岩波新書『子どもの貧困』を読み出したことで。

子どもたちに「貧困問題とか、もっとちゃんと知らんといけんと思った。先生、どういう本を読んでいいかわからないから教えて」と言われ、僕の家から関連図書を10冊ぐらい持ち込んで貸し出し自由にしたところ、あっという間に取り合いにもなって。

そのクラスは、偏差値で言ったら30〜40の間の子どもたちで、彼らは基本的に本は読まないんですよ。それでもモチベーションに火がついたとき、人って本気で学ぼうとするんだなと気づかされました。

正直、僕もそれまで高校生にそんな大きな変化が生まれるとは信じきれていなかったので、きっかけさえあれば人は本当に変わるんだと、それまでの自分を申し訳なく思いました。価値観や教育観が変わった体験でしたね。

アルバイトを解禁、インターンシップを通して学生の挑戦の機会をつくる

── 地域と学生のつながりについては、変化はありましたか?

これまで高校生のアルバイトは県が禁止していたのですが、当校の教員と協力しながら関係各所と協定を結び、教育的な名目のもとに解禁しました。

当初は教育目的に解禁しようと思ったわけではなく、学生たちの進路相談を受けていたとき、金銭的な事情で私立大学や県外への進学を禁止されている子、親の希望に従ってしまう子がとても多くて、自分で自分の道を切り開くという意味で高校生でも稼げた方がいいだろうと思っての行動でした。

仮に自分が遊ぶためのお金になったとしても、めぐりめぐって親御さんがお小遣いとして渡す費用が減ることが一つの助けになるかもしれないですし、アルバイトを通して地域との関わりが生まれた方がこの地域がおもしろくなるとも思って。

当時の副校長や同僚に相談したところ応援してもらえ、学生にとっても学びと地域とのつながりを得る機会になると県にアピールしたところ、概ね好意的な反応をいただき実現することができたんです。

解禁されてからは、「鳥取ブルーバーズ 」という3人制のプロバスケットボールチームでのインターンシップに生徒を30人ほど送り込みました。チーム立ち上げのクラウドファンディングに挑戦して200万円調達に成功したり、駅前の広場で公式の大会を誘致して開催を実現させたり、すごく活躍していました。

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他には、チームラボさんが鳥取にいらしたときにも40人ほどインターンシップで送り出させていただきましたし、インターンシップから就職につながったケースも生まれました。

── 学生たちをつなげる職場についても工夫されているんですね。

中小企業庁さんと起業家育成プログラムを2年間ほどやらせていただいて、アメリカのシリコンバレーとオンラインで教室を繋いだり、スタートアップ体験イベント「スタートアップウィークエンド」に学生たちを連れていったりもしました。

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先日はNHK主催の番組企画コンペティションに学生が挑戦して1位をとったんですよ。全国に企画した番組が流れるみたいで、とても喜んでいました。

その他、地域の企業やベンチャー企業の方々と学生をつなげたり、バーチャルYouTuberに挑戦したいと言ったら補助金を一緒に取って機材を購入したりもしています。補助金取得に関しては、プレゼンの仕方と人を説得する方法を先日授業で教えたところ、早速試したいと生徒に言われたのでそうした挑戦の意味合いもありました。

子どもたちの才能を社会につなげることが何より楽しい

── アントレプレナー部の顧問もされているとのことですが、そちらも近しい活動をされているのでしょうか。

アントレプレナー部は、最初に配属された地歴部の名称を地域デザイン部に変更して、さらに3Dプリンターやレーザーカッターを使ってデジタルファブリケーション(ものづくり)を行う旧ファ部を合併して生まれたんです。

「ものを作っても外に紹介する機会もなく終わっていることがもったいないね」とその部活の顧問と話していて、管理職も賛同してくれたので、アントレプレナー部に名称を変えて。自分たちが作ったものやまちの人と協力して作った商品を、商店街で売る活動を始めました。

生徒が作曲したCDが商店街のBGMに採用され、新聞やテレビにも取材されて、カフェから演奏依頼がくるようになった子もいるんですよ。もともと自分の世界だけで音楽を楽しんでいた子なのですが、「君の音楽は素晴らしいからうちの部活でプロデュースさせてくれないか」とお願いしたんです。そうやって子どもたちの力が社会につながっていくことが、楽しくてしょうがないですね。

今は地ビールのラベルをデザインして売り上げの一部をインドの子どもたちの教科書代として寄付しようとしていたり、学校の施設を一部リノベーションして3Dプリンターなどを設置したラボを作ろうとしているところです。

── 一般的な日本の高校では大学進学に子どもを嵌め込んでいく傾向がありますが、大山先生はそれにこだわらずに生徒一人ひとりの興味やポテンシャルを引き出すプロデューサー的な役割をされていますね。保護者の方々の反応はどのようなものなのでしょうか。

反対されることはほとんどなく、とても協力してくれますよ。地方の学校で働き始めて感じたのですが、地方では教員に対する住民からの信頼がとても高いんです。生徒たちを地域や街中のあちらこちらに連れて行くときなどは、保護者の方々から反対意見が出るかと身構えていたのですが、今のところそうしたケースは起きていないですね。

むしろ子どもが強い希望を言い出したことをとても喜ばれることが多いです。そうしたとき、子どもの目の輝きって本当に違うんですよね。「うちの子がやりたいことを見つけてくれてよかった」と、保護者の方々も嬉しく思われるようです。

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卒業式では、10年後の自分の姿を思い浮かべて黒板に書き合うこともあるそう

「生徒のため」だけでなく、自分が何より楽しむことを大切にしたい

── お話を聞いていると、教師は天職ですね。

でも、ずっと周囲にも言っていることですが、学校自体は正直あまり好きじゃないんですよ(笑)。外との関係の中でバランスを取りつつなら大丈夫なのですが、学校の中だけにいるとしんどくなってしまう。コロナ禍で外部の活動がしづらくなったときは、教員をやめようかとも思いました。

でも逆にオンラインでつながることが普通になったことで、国連の方と生徒をつないだり、インドのベンチャー企業と生徒がつながる話が動いていたり、想像以上にあちこちとつながれる状態がここ数ヶ月続いています。

先日やっと公表できたのですが、宇宙の体験をつくる技術集団の株式会社amulapo(アミュラポ)と、鳥取城北高校などが連携事業者として、夜の鳥取砂丘を舞台にしたARで月面都市が体験できるコンテンツ制作の実証事業もスタートしたんですよ。

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2021年1月から実証実験を開始して、は実験にご協力いただく合計80名の宇宙飛行士を募集して、無事に満員御礼となりました。地方の学生たちにとって最新のものを体験できる貴重な機会になるので、地方を実証実験の聖地にできたらおもしろいんじゃないかと思っています。

── 生徒たちにとって素晴らしい機会がたくさん生まれていますね。

高校生世代には、これからどう生きていこうか考え、向き合う姿に人間味を感じます。「この子はこう働きかけたらもっとおもしろくなるんじゃないか」とか、「こんなに素晴らしい力を持っているのに誰にも知られていないことがもったいない」と動くことで、子どもたちが変化していくことはすごく楽しいです。

でも一番大切なのは、自分が「この方が楽しそうじゃない?」と感じることだと思っています。「生徒のため」より先にその感覚があって、それが学校のためにもなるから続けているだけです。これからも、何より自分が楽しんでいたいですね。

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(文:桐田理恵、写真:平木絢子/本人提供、編集:田村真菜)

私たち探究コネクトは、「ほんものの探究学習を日本中の子どもたちに届ける」ことを目指して、さまざまな情報を発信しています。この記事の作成を含め、活動はサークルのメンバーに支えられています。子どもたちが楽しく学べる未来を一緒につくっていきたい方は、ぜひサークルの一員になっていただけると嬉しいです。










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