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元教員がパラレルワーカーを経て、起業。先生を巻き込みながら教育メディアコミュニティをつくる。

8年間の教員生活を経て、民間企業に転職。パラレルワーカーとしてのキャリアを築きながら、2016年に任意団体「先生の学校」を立ち上げた三原菜央さん。その後、株式会社スマイルバトンを設立し、教育現場でいきいきと働く大人たちにスポットライトを当てる教育メディアコミュニティとして大きく事業を広げていきました。

これまでの経験は、起業してからの組織運営にどのように活きているのでしょうか。学校という枠を越えてコミュニティを広げる三原さんに、組織づくりで大切にしていることやこれからの展望を伺いました。

ボーダレス・ジャパンとの出会いがきっかけとなり、立ち上げから4年で「先生の学校」を事業化

—— どのような経緯で、「先生の学校」を立ち上げたのでしょうか?

新卒で保育士や幼稚園教諭を養成する専門学校に就職し、教員を務めながら学校広報も担当しました。でも、進路について悩む生徒との関わりの中で、私自身が一般企業の業界や職種についてほとんど知らないことに気づいたんです。

学校以外の社会を知らないまま教壇に立ち続けることに違和感を持ち、その後ベンチャー企業へ転職を決めました。複数の企業で経験を積む中でも教育に貢献したい気持ちは捨てきれず、2016年に会社勤めをしながら立ち上げたのが任意団体「先生の学校」でした。

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—— 最初はプロジェクトのような形だったのかなと思いますが、その後どのようなきっかけで事業化することになったのでしょうか?

「先生の学校」を始めてから2年ほど経ったとき、たまたまボーダレス・ジャパン代表の田口のインタビュー記事を目にしたんです。その内容にめちゃくちゃ感動して、会社のホームページを見ると広報を募集していたので思わず応募してしまいました。内定はもらいましたが、当時勤めていた会社をすぐに辞める予定もなかったため、業務委託の広報PR担当として、ボーダレス・ジャパンに関わるようになりました。

それから私が36歳を迎えるタイミングで、ボーダレス・ジャパンが開催する社会起業プログラム「ボーダレス・アカデミー」に参加しました。干支を3周したところが人生の折り返し地点だと感じ、自分のために人生を使うのはもう終わりでいいなと思ったんです。自分が次の世代に本当に残したいものに力を注ぐことに自分の人生を使っていきたい。そう考えたときに、“起業”という選択肢が出てきました。その後ボーダレスジャパンの仕組みを使って起業し、今に至ります。

起業という選択に踏み出せない方の多くは、「起業は自分がするものじゃない」「自分にできるのかな?」という思いがあるからだと思います。すごく遠くにあるものだと感じてしまうんですよね。ボーダレス・ジャパンでは解決したい社会問題に対する強い思いがあれば、誰でも起業できるような仕組みが構築されていたので、「これなら私でもできるかもしれない」と思えたことは大きかったと思います。

—— ボーダレス・ジャパンでは具体的にどのようなサポートの仕組みがあったのでしょうか?

起業すると法務や経理、労務など、多くの方が今までやったことがないような業務をすべて自分でやらなければいけません。もしくはお金を払って業務委託をするかのどちらかです。ボーダレス・ジャパンでは、そういった業務をサポートしてくれるんです。他にもマーケティングやWebデザインについてアドバイスをくれたりアイデアを出してくれたりするので、最低限の知識でも起業できる仕組みになっています。

「価格の安さは私のポリシー」。誰でも良質な学びが手に入る社会をつくりたい

—— 「先生の学校」の会費は月額450円で、年3回も雑誌『HOPE』を出版されていますよね。低価格なのでなかなか利益が出づらいと思いますが、そのあたりはどう考えられていますか?

実は会員価格に関しては、ビジネス視点では考えていないんです。私自身が感じている社会課題は、自律性が発揮しづらい学校現場の中で先生たちの情熱が潰されてしまったり、その情熱を諦めて馴染んでしまったりする現状があることです。その影響を受けるのって、子どもたちなんですよね。

目の前にいる大人がいきいきと働き続けるためには、「一緒により良い教育現場にしていこう」と情熱を持って語り合える仲間との繋がりを増やすことと、自律性が発揮しづらい職場を突破するような事例を知ることのできる機会だと思っています。そこで、志の似た仲間に出会うことができ、新しい視点を得ることのできる場を教育メディアコミュニティというかたちで立ち上げることにしました。

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価格が安い理由は、フィンランドの教育に影響を受けています。フィンランドは誰でもどんな状況にあっても学べる生涯教育の仕組みが根付いています。例えば50歳のときに弁護士になりたいと思ったら無償で学び直しができ、さらに生活費まで支給されます。

一方で、日本だと高いお金を払わないと良い学びが手に入らないのが当たり前ですよね。学びたいときに学べないことは人の可能性を狭めることにつながり、まさに格差を助長しているのではないかと思います。こうなりたい、変わりたいと思ったときの選択肢が日本は限られているので、なりたい自分になるためのハードルが高いと感じます。そこを解決することによって、大人自身の「こうなりたい」を叶えられる社会になったら、子ども達の挑戦にももっと寛容になると思います。

「先生の学校」の価格設定は、コーヒー1杯分を毎月我慢していただいたら、誰でも良質な学びが手に入るようにしたくて設定している価格です。もちろん有料会員の方が増えれば増えるほど収入は安定しますが、それよりも作りたい社会づくりを優先して事業全体を設計しています。収入は、広告や企業とのコラボレーション、執筆や編集業務を請け負うことで安定した経営を実現しています。

—— 広報や編集のノウハウはどこで習得されたのでしょうか?

新卒で就職した学校法人がかなり広報に力を入れていて、広報責任者を担当させてもらっていたこともありそこでノウハウを身につけました。ベンチャー企業に勤めたあとは大手事業会社に転職し、そこで企業広報や編集のスキルや知識を身につけました。

あとは、実は私自身が出版社に勤めたいと思っていたくらい本が大好きで、複業としていくつかの出版社で広報や執筆、編集の仕事をやらせていただいていました。そういった経験や知識が、「先生の学校」の広報や編集にも活きているのではないかなと思います。

有名な人よりも、現場で頑張る先生にスポットライトを当てる

—— 「先生の学校」を始められた当初は、どのように仲間を集めたのでしょうか?

一緒にやる仲間はSNSなどを通じて広く募集したわけではなく、職場の同僚など本当に信頼できる人たち数名に声をかけ、小さく始めました。教員時代に出会った生徒とは卒業後に関わる機会がなく、「卒業生と一緒に何かやりたい」という気持ちもあったので、卒業生にも声をかけました。当時はフルタイムで会社に勤めていたので、複業の1つとしてやっていました。

—— 今はどれくらいの方が「先生の学校」に関わられているのでしょうか?

社員は私を含めて2名で、あとは業務委託として2名の方に事務サポートをお願いしています。その他、プロジェクトごとに関わってくださっているカメラマンやライターの方が30名近くおられます。そのうち20名くらいはプロボノで、「先生の学校クリエイター(以下、クリエイター)」としてチームに分かれて活動をしています。教員をやりながら関わってくださっている方も半分くらいおられます。

雑誌の取材では著名な方よりも現場で奮闘されている方たちにスポットをあてたいという思いがあります。クリエイターの方にはそのリサーチをしてもらったり、どういう観点でお話を聞いたらいいか意見をもらったりしています。そうやって現場におられる先生たちの声に常に触れながらつくり続けているところは、「先生の学校」の面白さだと思っています。

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—— どのような思いから、教育現場で頑張っている人たちを取り上げているのでしょうか?

私が「先生の学校」を通して実現したいのは、学校現場で頑張ってる人たちがいきいきと働けたり、自分が挑戦していることに自信を持てる状態をつくることです。また教育現場全体に足りないのは、情報共有の場だと思っています。自校でうまくいった取り組みが他校でも役立つ可能性は十分にあります。

また取材をきっかけに、他校とのコラボレーションが生まれたり、出会いのきっかけにもなっているようです。そういった出来事が、現場でもっと頑張りたいと思えるような原動力に繋がることが一番だと思っています。

スタッフとはフラットな関係を築き、自然体で働ける環境が理想

—— クリエイターの方をマネジメントするときに、工夫されていることや気をつけていることはありますか?

まずはこちらが「先生の学校」のミッションやビジョンをきちんと伝えることだと思います。その上で、なぜクリエイターとして関わりたいのかをお聞きします。「先生の学校」に関わってもらうことでその方の自己実現に繋がり、さらに私たちの方向性ともフィットしていれば参画してもらいます。

また、自分の状況が変化したり興味が薄れたりすることは誰でもあると思うので、3ヶ月に1回は必ずクリエイターを継続するか否かをご自身で選択してもらっています。ネガティブな意味ではなくて、人には選択と集中が大事な時があります。集中してやりたいことが他にあるなら絶対にそちらをやったほうがいいと思っているんです。もちろんまた戻ってきてもいい。関わるかどうかを自分で決められるカルチャーを大切にしています。今は関わってくれている先生たちが自主的に勉強会を企画したり、お互いの学校を見学し合ったりと、自然と交流が広がっています。

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—— 1人ひとりが自律して協調的に組織をつくっていくことは本当に重要だと思います。そのようなマネジメントにおいて、どのような経験が活きているのでしょうか?

実は教員を辞めて初めて転職したときは、福利厚生や給料ばかりを気にして会社を選んでしまったところがありました。その結果、自分が本当にやりたいこととは合わない部分があり、再び転職することに。自分を知ること、「自分がどう生きていきたいか」の軸を持たないと、自分らしく生きることは難しいことに気づいたんです。答えは自分の中にしかない。そう気づいてから、最後に就職したのは大手事業会社でした。

その会社は「うちの会社はあなたと働きたいと思っているし、あなたの人生にうちの会社が役に立つなら、ぜひ働いてもらいたい」という考えで社員との関係を築きます。それまでの私は、会社と個人は主従関係にあると思っていました。その会社で働いたことで、会社に対する考え方・見方が大きく変化しました。

今考えると、教員を辞めてから複数の企業に関われたことがよかったと思います。1つの場所しか知らないと、これが当たり前だと感じて組織に違和感を持てなかったかもしれませんが、そうならずに自分にとってどんなあり方・考え方の企業で働くことが自分の強みを発揮して貢献できるか、また自分が身につけたいスキルが身に付くかを、しっかり考えた上で働くことができました。

今は、「自分のプロフェッションを発揮し、安心して共創できる環境か」という感覚を大切にしています。私がスタッフの立場だったら嫌だなと思うことは組織には反映しません。人間として自然な状態で、内発的動機が生まれるような場所で働けることが理想だと思っているので、試行錯誤しながらそんな組織をつくろうとしています。

自分がどうなりたいのかを見つめ、敬意をもって他者と関わる

—— 先生をやりながら社会と接点を持つにはどうしたら良いでしょうか?

まずはサードプレイスになるようなコミュニティに入ってみるといいと思います。私自身「先生の学校」を立ち上げた当時は仕事ではない自分のプロジェクトとしてやっていて、デメリットは本当になかった。唯一時間管理だけは難しかったのですが、ポジティブな依存先が増えたことで本業で上手くいかないことがあっても頑張れたり、別の視点で物事を見ることができました。

コミュニティが苦手な人もいるとは思いますが、会いたい人に会いに行ったり、勉強会に参加するなど、越境体験を増やしてみるといいと思います。

—— 教員を辞めて独立したい方や複業を始めたい方に向けて、アドバイスをいただけますか?

先生に限らず、自己理解と社会理解の両輪を回しながら自己研鑽をしていくことが、自分らしく生きる方法だと私は考えています。楽しそうに働いている誰かの真似ではなくて、本当に自分がどう生きたいかを考えた上で、一歩を踏み出すことが大切だと思います。

そういう相談を受けたときは、「なぜ転職したいのか?」を聞くようにしています。何か後ろめたい理由だった場合は、最初に自分を知ることに取り組んでもらいます。例えば自分の気持ちを書き出してもらうと、最初は抽象的な言葉しか出てこなかったりしますが、それを続けていくと自分の興味関心やつくりたい社会が少しずつ見えてくると思います。

 ——三原さんは教育業界だけではなく、それ以外の業界でも経験されていますよね。教育業界ではないキャリアの方が教育に関わる上で、気をつけておいた方が良いことはありますか?

誰に対しても一旦偏見を手放して、リスペクトの気持ちを持って接することが大切だと思います。全ての人が教育を経験しているからこそ、教育に対しては固定観念を持っていることが多いと思います。でも、目の前の人は一人ひとり違います。まずは相手を受け入れて対話することからだと思っています。

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メディアの影響もあり、先生たちは世間からネガティブな印象を持たれることもあるかもしれませんが、先生も十人十色で一人ひとり違います。私自身は常にフラットに、ポジティブなコミュニケーションを心掛けています。もし「もっとこうした方がいいよ」という強い思いを持って関わる場合は、奮闘している先生の姿を見た上で言葉をかけるとか、そういうことが大切なのかなと思います。

—— 最後に、今後の展望や挑戦したいことを教えてください。

今後はさらに先生方の変容・変革にコミットできるような事業に取り組みたいと思っています。「先生の学校」には現時点で2500人くらいの方に入っていただいていて、情熱を持った先生のコミュニティはできていると思います。一方で、先生の自己変容へのサポートや、それぞれの学校の取り組みを社会に伝えることには十分にコミットしきれていません。

大人たちが幸せにならないと、子ども達にもその状態が影響してしまいます。なので、今後先生の学校に限らず事業展開をしていくと思いますが、軸は大人を幸せにすることです。何歳であっても、どんな状況にあっても、いつからでもなりたい自分になれる社会を目指して、生涯教育の会社として事業を展開していく予定です。

—— 先生たちがいきいきと働けるようにサポートするメディアやコミュニティは新しい取り組みだと思います。学校の可能性がさらに広がると感じました。三原さん、ありがとうございました!

(文:建石尚子、写真:本人提供)

三原 菜央(みはら・なお)
1984年岐阜県出身。大学卒業後、8年間専門学校・大学の教員をしながら学校広報に携わる。その後ベンチャー企業を経て、株式会社リクルートライフスタイルにて広報PRや企画職に従事。「先生と子ども、両者の人生を豊かにする」ことをミッションに掲げる『先生の学校』を、2016年9月に立ち上げる。2020年3月にボーダレス・ジャパンに参画し、株式会社スマイルバトンを創業。



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