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【対談企画】日本人は重量級で世界一になれるか?(後編)

フルギアベンチプレス120kg超級選手の藤本竜希さんをゲストに招いて行った、日本パワー競技界の2人の重量級選手によるスペシャル対談。今回は後編をお届けします(前編はこちら)。

競技の才能とは?


ーー競技をするうえで才能についてどう考えていますか?

藤本 これはベンチプレスに限ったことではなくて、才能という言葉を使うなら、あらゆることが才能だと思います。努力できる才能、継続できる才能、僕がたまたまベンチプレスを好きになったこともある意味、才能ですよね。ベンチプレスの何が好きって、理論的に説明できることもありますが、最終的に「好きなものは好きでしょ」って感じですから。そして、ベンチプレスがここまで好きになれてなかったら、ベンチプレスがここまで強くなれてなかったとも思います。そういう広い意味での才能の話がひとつありますよね。

村上 藤本さんが言うように、その競技を好きになるというのは、やっぱり大きな才能だと思います。僕もこの競技が好きで、どこまで行けるのか試してみたい、という気持ちが根底にありますから。

ーー狭い意味での才能の話でいうと?

藤本 そうですね。やっぱり才能と努力の比率がどれくらいか、という議論は当然ありますよね。正直な話をいうと、才能という要素はすごく大きいと思います。才能があった上で、正しいトレーニングをして、継続する力というのを加えて、強くなっていくんだと思います。感覚として、才能の占める割合は6割くらいあるんじゃないですかね。ただ、目指す場所によるとは思います。ベンチプレスを400キロ挙げたいと言っても、みんなが努力して、全員が達成できるとは思いません。でも、ベンチプレスを120キロ挙げたいという話なら、たぶん99%の人は努力で達成できると思います。

ーー藤本さんが考える自身の才能とは?

藤本 僕は400キロを目指していますが、そこで自分に才能があるとしたら、身長が177センチあることは恵まれていると思います。これは世界で見たら小さいほうですが、日本人の歴代重量級選手の中では、ちょっと大きいほうに入るんです。身長が高ければ、その分、体重を増やせます。そこは有利なんだろうなと思います。あとは、もともとは小柄だったけれど、ここまでなんとか体重を増やせたということは、これもある程度は才能があったということなんでしょう。一方で、僕の場合、体重に対する基礎筋力的なものが秀でているわけではなく、そこは人並みです。
あとは、才能とは違いますが、ベンチプレスを始める前に、器械体操をやっていたんです。だから、もともと身体が柔らかくて、理想の動きを最初からとれました。これは偶然ですが、ラッキーでしたね。

ーーベンチプレスは白人が有利とよく言われますが、その点はどうですか?

藤本 やはり白人の人たちは有利だと思いますよ。世界大会で白人の選手に会って握手をすると、僕の手が包み込まれるんですよね。彼らの手がでかくて。だから冷静に考えたらこんな人たちに勝てないなと思うんです。でも、勝ちたいから、そうは言っていられない部分はありますよね。たとえば、一つの要素で負けていても、それだけでベンチプレスが負けるとは限らないですから。

ーー具体的にはどういうことですか?

藤本 僕が目指しているサムナーは、世界記録を持っていて、身長193センチで、体重が180キロなんですね。客観的にみれば、力の強さでは勝てるわけがないです。でも、僕にあって、サムナーにないものを探してみると、ひとつはノーギアを強くしていくこと、もうひとつはベンチプレスの基本的な技術の部分を磨くこと、この2つで強くなれば、出し抜ける可能性が出てきます。一方、サムナーにあって、僕にないものを探してみると、身体の大きさと強さ、そしてさっきも言った体幹や下半身の強さです。だから、そこの差をなるべく縮めていくということですね。

ーー技術というのはさきほど日本人が得意だといっていた部分ですか?

藤本 そうですね。

ーーそれは同時に海外の人も学ぼうとしているんですよね。藤本さんがサムナーに教えると向こうに力が付いてしまいませんか?

藤本 実際、サムナーとメッセージのやりとりをしていたら、急に記録が伸びた時期があったんですよ。すごい後悔してます(笑)。

最新情報の入手方法


ーー藤本さんは日本に住んでいて技術を身につけやすいのと、英語を使えるので英語圏での情報を得やすい、という2つの利点があるんじゃないですか?

藤本 大きく利点になっていると思います。たとえば、日本に生まれて英語が喋れなかったら、トレーニングに関する部分の情報が遅れてしまうと思います。アメリカに生まれて日本語が喋れなかったら、ベンチプレスの技術は今のレベルにはなっていなかったと思います。そういう意味では、すごく今は恵まれているポジションかもしれません。

ーートレーニングに関する情報が英語圏で進んでいるというのは研究論文を読むのですか?

藤本 論文とかまでは直接見ないです。Youtubeをみて、こういう結果が出てる、となっていたら、ああ、そうなんだ、と思っちゃいます。自分で引用論文を確かめにはいかないです。でも、そもそも日本に比べて英語圏は人口が多くて、トレーニング割合も、トレーニング人口も多いです。フィットネスが一大産業なので、その分、情報も多いですよね。

ーー村上さんは最新情報はどんなふうに集められていますか?

村上 僕は英語はあまりわからないので、理学療法士さんや研究者さんが海外の論文をまとめたような日本語のサイトを読んで、情報を仕入れたりしています。

藤本 たぶん、最終的に入ってくる情報自体は変わらないかもしれないんですけど、英語で調べていたほうが楽というか、入手しやすいとは思います。ピンポイントで探さなくても、入ってくる感じはします。

村上 日本の場合、英語の論文を理解できる専門家が翻訳したものを読む、という流れになるので、ピンポイントになるし、数も限られますよね。重量挙げとかマニアックな分野だと、日本で英語圏の情報を調べられる人がそもそも少ないです。

日本のベンチ技術はなぜ凄い?


ーー日本が優れているベンチプレスの技術ですが、フルギアに限った話ですか?

藤本 ノーギアも高いと思いますね。国として、平均値として高いです。国際大会に派遣されている選手団をみても、技術が優れているのは圧倒的に日本の選手団です。

ーーどうやってそういうものが培われたのですかね?

藤本 レジェンドの児玉大紀さんが強過ぎた、というのがまずあると思います。そんなに身体がでかいわけでもないし、筋力は強いんですけど、それにしてもなんであんなに挙がるんだろう、となったときに、あの技術だ、とみんなが注目をし始めて、研究が進んだようです。

村上 やっぱりレジェンドがいるとその人を見習おうと思いますよね。

藤本 なりますよね。児玉さんが一人で引っ張っていった感じなんじゃないですかね。

村上 重量挙げの場合はレジェンドがいないんです。だから、誰かを真似するときも、みんなバラバラなんですよね。指導者もそれぞれ言っていることが真逆だったりします。だから、僕はいろんな意見を聞いて、自分に合ったものをチョイスしていきました。だいぶ試行錯誤がありましたよね。海外をみると、中国とかロシアとかは、統一的な指導基準のようなものがあるように見えます。それに合わないものは除外する、選手自体も除外する、という。でも、そういう指導が日本にあれば、合わない選手にとっては最悪かもしれませんが、強化指定選手の部分でいうと、一定の確率でいい選手が生まれるようになる、とは思います。

藤本 ハマる選手がいるということは、その理論自体が完成されたものになっている、という証拠でもありますよね。ベンチプレス界でいえば、児玉さんのフォームを真似しようという人も多いんですけど、彼のもっと本質的な功績は、74キロ級でも、フォームを完璧にしたら300キロを挙げられるんだ、という希望をもたらしたことです。児玉さんの存在自体が、フォームの重要性と可能性を証明しているんです。もちろん、これは僕が勝手に思っていることですなんですけど、そこから「技術って大事なんだな」と日本のベンチプレス界が方向付けられたんだと思います。

村上 重量挙げの世界でも、日本記録が更新されると、後輩はいけるんだな、と希望を持てるようになります。世界的にはドーピングが横行していますが、ナチュラルでもこうやって記録を伸ばせるんだなと実感できることは大きいですよね。

藤本 そう思います。児玉さんがたとえば、150キロの体重で、430キロとかを挙げる選手だったら、選手層も今とは違ったかもしれないです。ベンチプレスを強くするには「やっぱりサイズなんだ」ということで、今より重量級選手が増えていた可能性もあります。

ドーピングをどう考える?


村上
 藤本さんはノーギアで260キロを挙げていますよね。ナチュラルの世界記録はどのくらいですか?

藤本 IPFのノーギアの世界記録は300キロです。

村上 ドーピングで引っ掛かる選手はいますか?

藤本 世界記録の300キロを挙げた選手と直接、話したことがあるんですが、彼も一回、ドーピングで引っ掛かってはいるんです。でも、風邪薬の影響だったということで、僕個人は彼はナチュラルなのかなと思ってます。

村上 そうなんですね。ドーピングという話題でいうと、ライフタイムドラッグフリーという議論もありますよね。

藤本 たしかに。

村上 たとえば、高身長で痩せている人が、短期間だけドラッグで体重を増やした場合、それだけでもトレーニング的にはだいぶ時間短縮になりますからね。

藤本 その後に薬が抜けたといっても、そこで使ったアドバンテージは大きいですよね。

村上 僕は人生で一回でもドラッグを使ったことがある人は、アンチドーピングの大会には出て欲しくないというのはあります。確信犯で使ったような人は、という意味ですが。

藤本 それは同感です。重量挙げの場合はちょっと難しいですけど、パワーリフティングはIPF以外にも団体があるんです。そっちはほぼ薬が公認(黙認?)なんですよ。だから、ドーピングしている人は、そっちに出ればいいという話です。

村上 USPAという団体でしたっけ?

藤本 そうです。あの団体だと、ノーギアのベンチプレスで355キロとか挙げる人がいるんですよ。

村上 クレイジーですね。

藤本 はい。体重200キロとかですね。でも、それはそれとして、僕はリスペクトを持っています。禁止薬物を使った人同士が競って1位になった人は、すごいに決まっています。自分だったらやらないとは思うんですけど、少なくとも、ズルをしてアンチドーピングの大会に出ている人たちとはまったく違います。ルールに則って競っているわけですから。

村上 重量挙げはとくにオリンピック種目という部分もありますから、ドーピングは許されるべきではないと思います。

藤本 重量挙げの場合、それで生計を立てている選手もいるじゃないですか。国によっては、それで家族を養っている人たちもいて。ズルをしてはダメだ、という正論だけでは撲滅しきれない構造的な問題もあるのかなと。

村上 重量挙げでは、国による組織的ドーピングがほとんどだと思います。個人の罪というケースはあまりなくて、国がやらせている気がします。旧ソ連圏の国の中には、怪しいところがありますよね。チーム全員が検査に引っかかったケースなどもあるので。パワーリフティングは個人でドーピングする人が多いんですかね?

藤本 そうですね。日本人選手でもたまにいます。日本人選手で、僕らと同じ文化的背景を持つ人で、薬物禁止の大会でドーピングしてしまうのは、人としてアウトだとは思います。うっかりとかならまだ仕方ないですが、確信犯的にやっている人は、何も信用できないなあと思います。スポーツの場以外でも、関わりたくないですね。

村上 僕もそう思います。日本というのは、世界的に見ても、ダントツで、アンチドーピングの意識が高い国だと思います。

藤本 社会的制裁が強いですよね。だから、ちょっと損得を考えられる冷静さがあれば、絶対、競技とかやめて、Youtubeで力持ちキャラになるほうがいい。そっちのほうがリスクがないですよね。そこでなぜアンチドーピングの競技に出てきちゃうのかなと思います。

村上 Youtubeのほうがお金になりますよね。

藤本 ドーピングしているかを公言しなくてもいいし、強い強いと評価して言ってもらえて、お金にもなる。それはそれで異論がないですし、ありだと思います。

自分に合ったトレーニングの見つけ方


ーートレーニングをこれまでやってきて、大きな失敗とかありますか?

藤本 大きな失敗は今までないかもしれないですね。もうちょいうまくできたな、という小さなことはありますが、遠回りしたからこそわかったこともあると思うので。まあ、トレーニングの初期に、ちょっと量をやり過ぎて、関節を痛めてしまったというのはあります。でも、それくらいですかね。そんなに大怪我もしていません。

ーーそれはプランニングを慎重にやったり、周囲の助言をうまく取り入れているからですか?

藤本 そうだと思います。僕の場合、フルギアで370キロを挙げるまで、ほぼノンストップで来れているんです。13歳で始めて、16歳で370キロを挙げています。そこに行くまでのプロセスはそんなに考えていないというか。ひたすら猪突猛進という感じでやっていたら、行けちゃったんですよ。でも、そのあと4年間、記録が伸びませんでした。20歳に380キロを挙げて、ようやくちょっと記録が伸びました。13歳から16歳までに200キロくらい記録が伸びているんですけど、そこに至った思考プロセスよりも、20歳で10キロ伸ばしたときのほうが、はるかに深いものが必要でした。

ーー何が変わったんですか?

藤本 13歳から16歳までは何も考えずに、やれるだけやるトレーニングをしていました。でも、そこで記録の伸びが止まったときに、ようやく考えてトレーニングができるようになりました。後から考えて、13歳から16歳までの何も考えないトレーニングが無駄だったかというとそうではないし、あれだけの量をこなしたからそこまで到達できたのかなとも思います。でも、今の自分があれと同じ無茶をしても、伸びないんですよね。その辺を分けて考えられるようになったのは、スランプとかも経て、今までと変えなきゃいけないと思えた結果です。自分に合わないトレーニングというのも、やってみて、伸びないという結果を出してみないことには、わからないものですよね。だから、トレーニングにおいて大きな失敗というのはないですね。

ーー記録が伸びなかった4年間はどんな時期だったんですか?

藤本 まずは受験でそれどころではなくなってしまいました。それが一番大きいです。受験が終わって大学に入ってからは、今度は一人暮らしを始めて、自炊して、という新しい生活に慣れるのに大変で、トレーニング以外の要素が大きかったです。トレーニング的なことで何を考えたかといえば、トレーニング量を減らしました。トレーニングがそれまでほどできないと薄々わかってきたので。筋肉量が増えて、扱う重量が増えてきたことに比例して、身体が負うダメージも多くなっていたんです。マックス練習をする場合でも、マックス100キロの人が100キロを持ち上げるのと、マックス200キロの人が200キロをやるのでは、身体のダメージは当然違うんですよね。

村上 いつくらいに気づいたんですか?

藤本 これに気づいて実践し始めたのは、18歳くらいですかね。17歳で140キロを超えていたので、すでに今と変わらないくらいになっていました。ノーギアも240キロとか上がっていました。でも、そこから伸びなかったんです。当時はそこまで明確にはわかっていなかったですが、今振り返ると、完全にやり過ぎでしたね。

ーー医学部での勉強との両立で時間がないというのも影響しましたか?

藤本 うーん。でも、僕が仮にプロとして活動して、ベンチプレスしかしなくていい、となっても、トレーニングとしてのベンチプレスの量は、そんなに大きく変えないかもしれないです。もちろん、回復に当てられる時間がちょっと増えるので、やる量はちょっとは増えるかもしれませんが、あまった時間は技術練習に当てますかね。

村上 そこは僕も同意見ですね。「重量級あるある」なんですけど。扱う重量が増えてくると、それだけ練習時間は取れないですよね。回復にかかる時間も、軽量級とかの何倍にもなるので。

藤本 村上さんがずっとトレーニングしてていいよって言われて、じゃあ、1日8時間スクワットしたら強くなるか、というと、そうではないという話ですよね。

村上 頑張っている高校生とかに、今は練習時間は負けますね。軽量級でいえば、社会人になっても、ずっとやっている人がいるんですけど、重量級はそうはいかないです。関節とかの負担が大きいし、単純にこなせなくなってきます。

藤本 しんどくなってきますよね。

村上 でも、その空いた時間で藤本さんが勉強しているというのはさすがです。

藤本 いえ、そんなずっと勉強しているわけでもないんですよ(笑)

大会後はどうしているか?


ーー大会が終わったあとのオフの期間はどうされていますか?

藤本 ベンチプレス的なオフというよりも、あくまでベンチプレスを最優先にしないオフという考え方で、筋トレはサボってもいいやくらいにして、ベンチプレスで犠牲になっていたことを楽しむ期間にしていますね。おもにお酒を飲んでます。

村上 楽しそう(笑)

藤本 お酒が本当に好きなんですよ。

村上 飲みましょう。

藤本 好きですか?

村上 けっこう好きですよ。日常的には飲まないですけど。

藤本 ぜひ飲みましょう。それこそ、努力の話になりますけど、僕はお酒は自制しないと飲んでしまうんです。けっこう飲んでしまうので、試合前とかに飲むと体重が増えてなくなるんですよ。食事をまともに摂れなくなって、朝ごはんを抜くとかになってしまいます。この間の全日本選手権のときは、3ヶ月くらい禁酒しました。

村上 僕の場合、オフシーズンはあまりないです。でも、神経系の疲労はそう簡単に抜けるものではないんで、試合が終わったあとは、高重量を触らずに、筋肥大期に当てています。

藤本 競技的に考えたら、絶対にそうするのがベストですよね。僕もお酒は飲まないと思います。

村上 重量挙げは立て続けに国内試合、国際試合があるんです。昔は大会数が少なかったんですけど、最近はオリンピックの予選がいくつもあって、それに出ないと選考の対象にならないということもあって、増えています。ひとつ終わって、すぐ3週間後にまた試合があったりします。そうなると、100%のパフォーマンスを出すのはそもそも難しいですよね。そういうときは、試合後のオフはとらずに、ガッツリ練習してますね。

藤本 大変そうですね。僕の場合、試合と試合の間隔がすごい長いんですよ。年間、全日本選手権と世界大会の2試合だけというペースです。だから、オフをしっかりとっても、回収できるというか。本当はそこまでオフをとるべきではないと思うんですけど、神経系からの疲労の回復とかという意味では、プラスにはなっていると思います。

試合に出られないときは?


ーー藤本さんは今年の全日本で記録を更新して380.5キロを挙げましたよね?

藤本 はい。本当は今回の世界大会に行けていたら、けっこうチャンスでした。ただ、学校からはコロナ禍で海外への渡航を原則禁止されています。大学に入ってから、世界大会にはまだ1回しか出られていないんです。それが成田で行われたときです。成田だと、5日間くらいの休みがあれば大丈夫でした。今、医学部の4年生で、来年の1月から病院実習に入ります。それに伴い、一般の人よりコロナに対する制約が厳しくなる可能性もあり、状況はより難しくなりますね。

ーーそれは残念ですね。

藤本 はい。でも、出たいんです。ようやく、世界大会で優勝争いをできるかなあ、というくらいの実力になってきているので。ベンチプレスの競技特性的には、まだピークの年齢ではないんです。ジュニアというカテゴリーがあるくらいで、むしろまだ不利といわれている年齢です。本当に一番強くなるのは、30代前半とか言われています。ただ、競技をするときに、自分の社会的な環境要因もあります。仕事をしながら強くなれるかとか。そう考えると、今のうちに一回、優勝しておきたいというのがありますよね。

村上 試合に出られないとつらいですよね。僕も2020年は大会がなくて、試合できないとなって、モチベーションは落ちました。

藤本 僕も2020年の世界大会が中止になったときは、モチベーションがすごく落ちました。でも、僕らの競技のいいところで、数字はどこで出しても数字。だから、400キロを挙げたいなというのがすごくありました。今年でいうと、世界大会はたぶん出られないことはわかっていましたが、じゃあ、全日本選手権で400キロを挙げてやろうと考えて、モチベーションはすごく高く保てました。次は2月に全日本があります。それが来年の世界大会の選考になるわけですが、はっきりいって、それも行けない確率が高い。でも、400キロ以上を挙げたいというのがあるので、モチベーションは今から高まっていますね。

村上 観客の前でやるとモチベーション上がりますよね。コロナになって無観客試合が増えたんです。僕は観客の前でみんなを沸かせたいというか、そういう気持ちが強いんで、そこのやりがいは喪失していますね。一般的に、パワーリフティングの試合のほうが重量挙げより観客が多い印象があります。アメリカの大会とか、みんながわーっとなるじゃないですか?

藤本 そうですね。フルギアベンチプレスの世界大会があんな感じの雰囲気なんですよ。自分が試技をするとき、知らない人までわーってやってくれます。そこで注目されているんだなと思うと、力が出ますよね。

今後のこと


村上 パワーリフティングはそうやってショーとして成り立っているんだなって羨ましくなります。重量挙げは関係者しか来ていないんじゃないかなと。

藤本 重量挙げはパワーリフティングに比べて潜在人口が少ない気がしますよね。筋トレしている人は、だいたいスクワット、ベンチプレス、デッドリフトはやる。でも、筋トレしているからといって、クリーンアンドジャークとスナッチをやるとは限らない。

村上 そうなんです。だから、国家レベルで強化ができる国が勝ってしまいます。海外では公務員リフターとか、そういう人たちがばかりです。日本では学校教育で部活動としてやっているだけです。一方、パワーリフティングは商業化されて、社会人リフターがいっぱいいますよね。

藤本 そうですね。

村上 社会人重量挙げ選手がほとんどいないから、コミュニティもないんですよね。だから、パワーリフターさんにかまってもらっているんです(笑)。

藤本 重量挙げでお金をもらっている人はどのくらいいるんですか?

村上 警視庁、自衛隊、ALSOK、いちご株式会社、あとは国体のプロ選手がいます。それくらいですかね。それが社会人の競技人口のすべてで、ほかにアマチュアでやっている選手がいないです。

藤本 状況としてはまったく逆かもしれませんね。パワーリフティング界はアマチュアの選手しかいない。トップレベルになっても、直接的なお金は入ってきません。だいたいがジムオーナーとかですよね。

村上 最近、藤本さんはパーソナルコーチングを始めているんですよね。

藤本 はい。初めてお金を頂いて人に教えるという経験をしています。記録が伸びた方から「ありがとうございます」と言ってもらえたりすると、すごく楽しいと感じるんですよね。このまま卒業して、医療を仕事にするのであれば、それにベンチプレスの感じを絡めていけたら楽しいだろうなと。たとえば、医師免許を持ったパーソナルトレーナーとして活動するとか、病院をやりながらジムをやるとか、もいいですよね。楽しそうですよね。

村上 治すだけでなく、強化もする。

藤本 リハビリとかの話で思うのですが、70歳くらいの方でも、自重スクワットできたら、劇的に怪我が減るよな、と。そういうことをメインでもしやっていけたら、話としてはちょっとつながってきますよね。

村上 整形外科の先生とかになるんですか?

藤本 まだそこまで深くは考えていませんが、希望としては整形外科に行きたいなあと思っています。医学部にいってよかったなと思うのは、実際に、検体で解剖をさせていただいて、筋肉の走行とかも実際に見られたんです。こうした経験は、競技をしているだけではできなかったことで、有意義でした。大胸筋がどこにあるとか、そういう大きな筋肉は誰でも知っていますが、背中の菱形筋(りょうけいきん)はどうなっているとか、小さいところ、深部の筋肉などを実際に見てみて、ああ、こうなっているんだなあ、と。自分が複数の軸を持っていると、学びに相乗効果がある気がします。

村上 そうですよね。藤本さんには病院にパワーリフティングジムを作って欲しいです。

藤本 病院の屋上にパワーリフティングジムとか。

村上 そこで重量をバーンと落として。

藤本 はい。ドロップ可能なジムにしますので(笑)

村上 いいですね(笑)

ーーありがとうございました。



対談プロフィール


藤本竜希(ふじもとりゅうき)
ベンチプレス120kg超級選手。21歳。身長177cm、体重140kg。7歳から10歳までをアメリカで過ごし、14歳からベンチプレスを始める。北海道札幌南高校卒業後、旭川医科大学に進学(現在4年生)。フルギア全日本選手権120kg超級を3連覇(2019年、2020年、2021年)、フルギア世界選手権ジュニア120kg超級優勝。現在、フルギアベンチプレス380.5kgの日本記録保持者。twitter→@hokkaidosuper
note→note.com/benchpress

村上英士朗(むらかいえいしろう)
重量挙げ109kg超級選手。26歳。身長178cm、体重135kg。13歳で重量挙げを始める。富山県立滑川高校卒業後、日本大学文理学部に進学。全日本選手権109キロ超級でを2連覇(2018年、2019年)、IWFワールドカップ優勝(2019年)。現在スナッチ190kg、ジャーク231kg、トータル416kgの日本記録保持者。



編集協力:BRIDGEWORK

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