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庭の草

たくさんの生命をあやめた、唐突に。
それも、生命力あふれる太陽の眩しさの中で汗をかきながら。

雑草。花を咲かすものだってあるのに、少し品種と育った環境が違うだけで、こんなにも生命の扱われ方が変わる。

***

天気のいい日曜日。風もおだやかで、何でもない日ならピクニック日和だっただろうなぁって思った。

うちは、アパートの一階。専用庭がある。ときおり、草をむしり除草剤を撒き、それなりに手入れをしてきた。庭で娘とシャボン玉やボール遊びをしたり、夏にはビニールプールを出したりして。

でも去年の夏。梅雨のような7月と資格勉強で忙しい夏と秋を過ごし、庭をだいぶ放置した。

すると冬の始まりには、天へ真っ直ぐに立つ太い茎が何本か。いずれも「雑草とは呼ばせないぜ」という声が聞こえてきそうな逞しさ。

周辺には無数のドクダミが武士のように生い茂り、召使いみたいなネコジャラシが頭を垂らす有様に。

大半の兵士と召使いは、冬を超えると同時に枯れて色素を失い地面に散らばったけど、あの重鎮は未だに鎮座している。

***

こんなよく晴れた、天気のいい日。外出できないのなら、庭日和でしかない。そして、これからもしばらくこの生活が続くのだから…

私は、軍手と大きなビニール袋を手に庭へ出た。
軍手というものはすごい。装着しているだけで、無敵のような気持ちになれる。庭へ降り立ち、広がる雑草地帯を前に私は武者震いした(気がした)。

「りょ、呂布だー!」と、雑草たちは騒めいた(気がする)。
突然の襲撃に為す術もなく、引っこ抜かれ、もがれる。しかし、重鎮の根は力強かった。地面を掘り返すようにしてもビクともせず、地面との境目辺りでポキっと折れた。

草をむしっていると、何ヶ所かタンポポがあった。
茎や花はなく、根と葉だけ。きっと、これから花を咲かそうと地面に根付いたタンポポ。私はそれを、葉を指に絡め巻きとるようにして根元から抜いた。

こんな場所で、生きてしまったがために。

もし、公園の傍らで咲いていたら?
きっと子どもが「タンポポだよ~」としゃがみ込んで母親に知らせただろう。それもキラキラした顔で。

ふわふわの綿毛が舞い降りたのが、この庭じゃなかったら。これから茎を生やし花を咲かせ、たくさんの子を風へと送り出せたのに。


***

パンパンに、めいっぱいに詰められたビニール袋。
その横で娘が吹き出すシャボン玉は、太陽を反射してとても綺麗だった。

そして、屋根まで飛んで、こわれて消えた。

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