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谷郁雄の詩のノート3

まだ梅雨入りは少し先のことですが、アジサイの花が咲き始めています。咲いてはじめて、おやこんなところにアジサイの花が、と気づきます。花それぞれに色がちがって見飽きることがありません。アジサイの葉っぱにはカタツムリがいたものですが、いまは彼らの姿を見かけることはありません。わが家のベランダにいるアゲハ蝶のサナギが蝶になり、空へと旅立つ日も間近です。


「コーヒーカップ」

誰にも
読んでもらえない
手紙のように
君はひとりぼっち

ひとりで食べ
ひとりでお風呂に入り
ひとりごとを言って
ひとりで笑って
ひとりで眠る

朝になっても
やっぱり
ひとり

けれど君は
おそろいの
コーヒーカップを
大切に持っている

ひとりの日々を
二人で
なつかしく
思い出す日のために


「プロフィール」

プロフィールに
ずらりと
並べられた肩書

そこから
分かることは

その人が
肩書を集めることに
情熱を傾けてきた
人間だということ

中身は
からっぽのままで


「財産目録」

他人を
傷つけて得た
小さな成功よりも

みんなで
ともに大笑いできる
大失敗を目指したい

財産目録は
楽しい思い出と
たくさんの笑顔


「紅茶」

十センチ
背伸びすると
世界が
ちがって見える

けれど
ぼくは
逆のことを
やってみた

ヒザを折り曲げ
背を低くして
ガスコンロの前に
立ってみた

そうか
妻はいつも
こんな近くで
ガスの炎と
戦っていたのか
湯気の熱さに
耐えていたのか

ぼくは
背を元に戻して
やかんの熱いお湯で
紅茶を淹れた


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