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生きてたから今がある【⑤】

ある女の子の物語
女の子は10歳になっていた
学校ではハーフ成人式として
自分の名前の由来を
親に書いてもらわなければならなかった
女の子はママに書いて欲しいと
なかなか言い出せなかった
なぜなら返って来る言葉が
だいたい想像できていたからだ
提出期限は明日に迫る
女の子はママの顔色を伺い
機嫌の良さそうな一瞬を狙って
『あのね。ハーフ成人式って知ってる?
名前の由来を書いて欲しいんだけど…』
勇気を振り絞ってやっと言えたが
返って来た言葉は想像通り
『由来なんてない』だった
女の子はこれ以上
悲しい気持ちになんてなりたくなかった
だから笑って『わかったー』と言って
名前の由来を自分で考えたという
そして女の子はまたこっそり
心の中で泣いていたそうだ

女の子の誕生日当日
珍しくケーキを買ってくれていた
とっても嬉しくて
夜になるのが待ち遠しかった 
今日は特別な日なんだ
どんなパーティーになるのかなあ?
女の子はワクワクしていた
しかし待っていたのは悲しい現実…
またお酒という悪魔の手によって
目の前でケーキは潰された…
お酒が憎い、あの男が憎い
お酒さえなければ
あの男さえいなければ…

女の子の記憶はそこで消えてしまった
その後何が起きたのか 
全く覚えてなかった
記憶にあるのは10歳の誕生日
ケーキが潰された事実だけ…
名前の由来さえもない…
女の子はたった10歳で
自分がなぜ今ここにいるのか? 
このまま生きていて良いのか?
そう考える事しかできなくなっていた
女の子はこの悲しみと憎しみを
どう乗り越えて行くのだろう?
そして本当はあった名前の由来…
女の子はママの口から聞く事は
できるのだろうか?

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