「そうだ!人事制度を見直そう」と思ったら。見取り図の作成と影響の記述から始めよう~後編~

たなけんです。
3月8日(日)に、このnoteの前編を書いて、それから忙しくて更新できていませんでした。

本当にすみません。ちなみに、3月8日(日)の朝に前編を書いたのですが、その際に、後編は夜に更新します!と言っていました(とんだ大嘘)。

やっとこさ時間をつくることができたので、後編をまとめていきたいと思います。

が、後編に入る前に前編をざっと振り返らせてください。

前編では主に、

・人事制度の見直しには4つのトリガーがある
「1.戦略の変更」「2.法律の変更」「3.社員ニーズとのミスマッチ」「4.その他(セレモニーなど)」
・人事制度は、組織風土・マネジメント力という“土地”のうえに建つ“建築物”で、社員という“居住者”が住んでいる
・会社のつくりたい人事制度をつくるには、「人事制度の見取り図」「影響の記述書」が必要で、そのために「建築物」「居住者」「土地(地質)」の調査が必須である

の点について書いてきました。

後編は、全編の最後に記載した「人事制度の見取り図」と「影響の記述書」をつくるための調査って具体的に何をするのか、調査結果をどうまとめるのか、について書いていきます。

人事制度の見取り図/影響の記述書のための調査とは

人事制度を見直す場合、まず、現状の人事制度がどうなっているか、社員のニーズはどうか、どのような組織風土なのか、マネジメント力はどの程度の水準なのか、をまとめていきます。
ここをまとめることで、人事制度の見直しの目的をより良い姿で実現するために、何をどの程度変える必要があるかを整理することができます。

調査は、前編でも記載した「建築物」「居住者」「土地(地質)」の区分で実施します。
具体的な調査方法を下記しました。

建築物の調査(人事制度の仕組みと運用)

建築物の調査では、その建物が実際にどういう建物なのか、水漏れや漏電がないか、老朽化していないかなどを調査します。同じようなことを人事制度でも実施するのが、ここでの調査です。
人事制度の調査では、大きく「仕組み」と「運用」の2つの側面から調査をします。

仕組みの調査では、どのような思想の制度なのかを明らかにします。具体的には、人事制度のモジュール(等級・評価・報酬)ごとにどのような仕組みになっているかを調べます。

進め方でのポイントは、まずはモジュールに分解することです。コンサルティングでは当たり前の方法ですが、現場ではモジュールを繋げて考えてしまう面があるため、一旦、分けて考えます。
次に、モジュール間の繋がりを確認します。それぞれのモジュールがどのような仕組みでつながっているかを紐解いていきます。基本的には評価結果の処遇反映先(昇降格、昇降給、賞与など)と反映度を見ていけばよいでしょう。

これにより、人事制度の設計思想が分かります。年功的なのか、成果型なのか、能力開発にインセンティブがかかる仕組みなのか、役割の発揮にインセンティブがかかる仕組みなのか、が分かります。

運用の調査では、実際に人事制度の運用の結果として、どのような処遇となっているかを調査します。具体的には、「昇格数(率)、降格数(率)分析」、「報酬水準分析」、「評価分布分析」を実施します。

これにより、人事制度の設計思想どおりの処遇反映となっているかを確認します。
往々にして、成果主義を導入しているのに評価が中心化していて評価結果に差がついておらず、結果として年功序列が維持されているということなどが見えてきます。

居住者の調査(社員の量と質(ニーズ))

居住者の調査では、大きく社員の量と質(ニーズ)の面で調査をします。人材の量と質の分析は、戦略の文脈だと人材ポートフォリオ分析として実施しますが、今回は人事制度の見直しの文脈のため、質の面は社員ニーズの分析となります。

量の面は、人員構成分析、将来人員数の分析を実施します。これをすることで、現状のセグメント別(年齢、勤続年数、等級、役職、パフォーマンスなど)の人員構成を把握することができます。また、将来人員数から重要となるセグメントが分かります。

ここで大事なことは、ニーズが異なるセグメントで区分できているかということです。なぜなら、経営上、重要なセグメントのニーズを正しく把握する必要があるからです。例えば、同一セグメント内でニーズが対立しているような場合、人事制度の見直しにより重要なセグメントに該当する社員の半分が退職してしまうなどの想定外の事象が発生してしまいます。

質の面では、ES調査(従業員満足度調査)、インタビュー調査を通して社員の声を集めます。ここでは、「人事制度への認知の確認」と「セグメント別のニーズの把握」が重要になります。人事制度への意識の高低や期待を押さえることで、人事制度を変えるリスクを把握します。また、社員ニーズでは、どのようなセグメント間で対立が生じているのか、その背景が何なのか、どちらのセグメントを優先した場合の影響度、などを明らかにしていきます。

地質(組織風土・マネジメント力)の調査

建築物の調査、居住者の調査を進めることで、会社独自の価値観や共通言語など、“組織のくせ”の輪郭が見えてきます。地質の調査では、この組織のくせを徹底的に深堀していきます。

具体的には、「行動観察」「インタビュー調査」「質問票調査」の3つ方法を行き来しながら実施します。

まず、これまでの調査から、「どういうときにどういう行動を取っているか」の仮説を立てます。その仮説に基づき、行動観察、インタビュー調査、質問票調査を実施します。どこから実施するかは会社によって異なりますが、3つの方法が独立しているわけではなく、それぞれを行ったり来たりしながら調査を進めることが大切です。

例えば、行動観察から見えてきた内容を踏まえ、質問票を設計し、質問に回答してもらいます。その結果に基づき、再度、行動観察のうえ、インタビューに臨むという感じです。できる限りその組織に所属していない人として、組織のくせを把握していきます。

地質調査に取り組み際のポイントは、「文化人類学者のような気持ちで取り組む」ことです。その組織の行動原理を突き止めるために、組織の複雑性やその組織独特の間をそのまま記述するということが大事になります。そして、組織の状態だけでなく、“なぜ”そうなったのかまで明らかにすることで、つくりたい人事制度の品質を高めることができます。

同じような組織課題を持っている会社でも、その課題が発生に至る過程は組織によって異なります。組織課題の解決には、その課題が発生した根源にまでさかのぼることが重要です。そのためにも、“なぜ”そうなっているかを記述しておくことが求められます。

ただ、組織課題の根源的な治療には時間を要します。そのため、人事制度設計においては、この病巣のようなものがあることを前提に進めなければならないという状態が発生してしまいます(人事制度の見直しだけが目的の場合、必ず生じます…)。だからこそ、人事制度を設計する人には、前編で書いたような、"そこが沼でも生活できる建築物を建てきる技術"が求められるのです。

調査結果のまとめ方

上記の調査結果をまとめたものが人事制度の見取り図と影響の記述書になります。
具体的なアウトプットを見たい!というリクエストがありそうなので、影響の記述書の一部を後でご紹介できればと思います。
(人事制度の見取り図は大して面白くない割に、量ばっかり多いので…)

大事なことは、それぞれの調査から

・「今の人事制度はどのような人事制度になっているか(人事制度の見取り図)」
・「今の人事制度が社員および組織風土/マネジメント力にどのような影響を与えているか(影響の記述書)」
・「人事制度のどの部分をどの程度見直すと社員および組織風土/マネジメント力に意図する影響を与えられるか(人事制度の改定の方向性)」

を明らかにするということです。

人事制度の改定の方向性に関しては、人事制度の見直しの目的によってまとめ方が変わってきます。
例えば、法律対応として同一労働同一賃金がテーマの場合は、「A、B、Cの待遇が不合理である可能性があるため、XXXXの方向で見直す」というようなまとめになります。
一方で、組織変革の文脈では、後述している影響の記述書の内容を踏まえ、どういう方向で、どの程度、人事制度を変更するのかというまとめになります。

もし、この調査をコンサルに依頼する場合は、上記の視点で品質管理してもらうとよいと思います。ただ、調査をしっかりやればやるほど金額が高くなるので、コンサルティング会社に依頼する場合は、
調査のスコープ(範囲)をちゃんと考える必要があります。

影響の記述書のイメージ

影響の記述書とは、建築物と居住者、土地の影響関係をまとめたものです。
具体的には以下のような内容になります。

個人ごとに支給したい給与から等級を逆引きするという人事制度の運用により、“実際の業務内容”と“等級で求められる期待役割”が乖離し、現場のマネジメントとを難しくしている。

会社として環境変化への対応が求められている中、“組織内のゴタゴタ”と“組織能力の欠如”により、スピード感をもって“適切な対応”を実行できていない。その背景には、「悪いのは自分たちではないという空気」と「“痛み”を感じづらい人事制度」があり、構造的に社員の他責思考を強化してしまっている。

人事制度を見直すとなった場合に、そもそもの組織課題に対する人事制度の位置づけと影響をはっきりさせるということです。上記のものは抜粋および原型をとどめないレベルで修正をしているため、これだけ読んでも分かりづらい点はご了承ください。
大事なことは、影響の記述書を作成することで、どういう方向で、どの程度、人事制度を変更するのかという議論を適切にできるかどうかです。

さいごに

実際のビジネスは、真空状態ではありません。
あるべき戦略から、あるべき組織、あるべき人事制度を考えることは大切です。しかし、組織や人事制度は現実世界の話として取り扱う必要があります。

戦略起点で理想的なものをつくっても往々にして機能しません。それは、上述したような影響関係の中に組織も人事制度も埋め込まれているからです。

社員を総とっかえして、新しい人事制度を導入するなんてことは、ほぼありません。あくまで現実の制約の中で取り組むしかないのです。

その中で大事なことは、変えようと思う事は記述すること。記述されたものにしか、意図的な変化を与えられないということです。
記述することで初めて目線がそろい、変革に向けた行動が促されるのです。

人事制度を見直そうと思ったら、“人事制度の見取り図”と“影響の記述書”の作成からはじめてください。

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