台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-趙德胤《診所》」
今週15日、クローズアップ現代で「ミャンマー潜伏1000日の記録 “見えない戦場”はいま」が放送された。アウン・サン・スーチー氏が政権を握り、2010年代中盤からの民主化が軍によるクーデターで一気に暗転したのは2021年、3年前のことだ。民主化を求めて行動する映画監督によって撮影され、先月日本で公開されたドキュメンタリー映画『夜明けへの道』を軸に、ミャンマーの現状を伝える内容だった。
5/10から始まった台湾国際ドキュメンタリー映画祭TIDFでは、ミャンマー出身の趙德胤(ミディ・ジー)監督による《診所》の他、注目プログラム(焦點單元)としてミャンマー作品が合計26本上映された。以下にミャンマープログラムの予告動画を紹介しておく。
さて趙德胤(ミディ・ジー)監督は、劇映画もドキュメンタリーも撮る。《挖玉石的人》(2015)、《翡翠之城》(2016)は、どちらもミャンマーの翡翠採掘場を記録したものだったが、今回の《診所》(2023)の舞台はヤンゴンのクリニックだ。
本作は、医師でありアーティストでもある夫妻の営むクリニックにやってくるヤンゴン市民とその診察の様子に始まる。
二人の医師を訪ねてくるのは、破傷風、不眠症、幻覚、幻聴など、さまざまな症状を抱えた患者たちで、日本や台湾でいう「クリニック」に対するイメージとはかけ離れた医療資源の下で治療が行われている。
「この薬は夕飯のあと飲むんだよ。明日の夕方、また薬を受け取りに来なさい」といった発言からは、患者自身では到底、薬の管理ができる状況ではない、ということが見て取れる。
撮影されていた患者の数は、1人や2人ではない。はるかに多くの数の人たちが、日常生活に困難を抱えている。こうした精神的な症状をもたらしているのは、政情不安であることは、想像に難くない。
そうした中で、医師の夫は「映画を撮りたいんだ」と友人に自らの構想を語り、主演の役者探しに回る。一方の妻は、突如として絵筆を取る。その後、夫の撮影した映画は、ミャンマーの映画祭で上映された。会場で観客とのQAシーンでは、元軍人の観客が自身の正当性を訴えるが、それには答えない。予告編で二人が討論しているのは、そのシーンだ。
後半、ヤンゴンのレストランで食事をする二人は、テレビを通じてスーチー氏の演説を観るシーンが出てくる。どうやら、国際的に批判を浴びた2017年のあの演説の様子ではなかったか——
本作で見せるのは、ミャンマーの日常がどのように営まれているのか、である。そして、壊れかけている人びとの、一人ひとりの心と体を、必死に支える医師たちの葛藤が見えてくる。
改めて民主化への道のりの厳しさを感じると同時に、とにかく誰もが安心して眠れる日が一刻も早く訪れるよう、心から願うばかりだ。
そして本作は、台湾国際ドキュメンタリー映画祭TIDF2024で「再見真實獎(TIDF Visionary Award)」を受賞した。受賞作は5/19に台北3か所で再上映されることになっており、本作は5/19(日)16:20〜、光點華山で上映予定だ。