野戦・攻城戦・籠城戦

戦い

マーケティングでは、“マーケティング戦略“というように“戦略““戦術“といった表現が頻繁に使われる。“実戦“という表現も使われる。

ビジネスにつき“戦“の一字を嫌う向きもあるが、企業が営利を追求する団体である以上、利益は勝ち取らなければならない。

利益が多ければ、殆どの問題は解決する。が、利益が無ければ、死ぬしかない。会社の死=倒産である。

こうしてシビアに考えると、やはり「戦い」といっていい。戦いに勝ち、戦利を得るのみ。

“戦略“にしても“戦術“にしても、戦い方については諸説様々あるが、ここでは、筆者独自の視点で“戦い方“を3つに分類してみよう。

攻城戦

城へ攻め入る攻城戦は、契約という首級(しるし)を獲るために企業の許へ赴く企業間取引の営業に喩えれば分りやすい。

野戦

自分の城でも相手の城でもない、外のフィールドへ出て戦う野戦は、今の季節なら、石焼いもの移動販売が好例。

大都市のタクシーも野戦型のビジネスである。俗にいう「流し」で乗客を確保する。

さお竹屋も、屋台のラーメン店も、キャッチ・セールスも、デート商法(笑)も野戦である。

野戦には野戦の戦い方があるが、本稿のメイン・テーマではないので割愛。

籠城戦

籠城戦は、小売店が典型的であろう。この“籠城戦“が本稿の主題である。

ありとあらゆる店舗が、自分の城に籠(こ)もって戦う籠城戦にあたる。店舗を構える販売店は勿論のこと、温泉などの宿泊施設も、飲食店も然り。

戦場は、牙城。※牙城=将軍旗(牙旗)を立てた城。

こもって戦わざるを得ないゆえ、攻城戦や野戦のような攻撃型ではなく、専守防衛=お客さんが来るのを待つしかない。

だからといって「こちらからは攻められない」という理屈は通らない。籠城戦には籠城戦の戦い方がある。

それは、プロモーション戦略におけるチラシや、価格戦略における割引などの戦術レベルでは決して取り返すことのできない“戦略“の領域にある。

ひと言でいえば、お店か商品の魅力に尽きる。


もう少し分りやすく問うなら、

「あなたのお店は、お客さんが交通費をかけてでも、わざわざ買いに来るお店ですか?」

ということであり、

「あなたのお店は、お客さんが移動の時間を費やしてでも、行きたくなるお店ですか?」

ということである。

堀と柵と壁

店舗の場合、お客さんに来てもらって初めて“対価“という現金を得られる。

単純な話だが、来てもらわないことには、お金が入ってこない。

ということは、動かざる店舗である以上、顧客には、

1 そこへ行くために必要な移動 経 費 の負担

2 そこへ行くために必要な移動 時 間 の負担

3 そこへ行くために必要な移動 労 力 の負担

以上3つの負担が伴う。

負担、すなわち苦痛。雨天に売上が落ちるのは、この為ゆえであることは容易に理解できよう。


ということは、商品の確かさといった4P戦略(および各々の戦術)は勿論のこと、お客さんが苦痛に思わない(あるいは楽しくなる)ような移動力と移動費と移動時間を、店側が用意しない限り、これ以上の増客は望めない。

「お店の側が?」

そう、お店の側が、である。

なぜならば、お金を持っているのはお客さんであり、そのお金をどう使おうがお客さんの自由だからである。

支払う側(お客さん)自ら、3つの障害を取り除いて来店するなど、ごく一部の人気店を除き、有り得ない。

現金という売上が欲しかったら、欲しい側が障害を取り除かねばならない。

売買のために必要な3つの苦痛が取り払われたとき、やっと、対価を受け取ることができる=売上になる。

以上の3つは籠城戦における“堀“と“柵“と“壁“のようなもので、これら3つの障害が売上を阻んでいる。障害は、取り除かねばならない。

障害を取り除く方法

“堀“と“柵“と“壁“という3つの障害を取り除く方法は9つもある。

その一つが快適性。

旅客機のファーストクラスや、新幹線のグリーン車を例示するまでもなく、人は“快適”という付加価値にお金を払う。

ということは、たとえ、お金を払ってでも、また来たくなるほど快適な店舗にすると良い。

椅子の座り心地は?店内の香りは?温度・湿度は?テーブルの広さ・高さは?

トイレの快適性は?店内の明るさは?広さは?軽飲食は?空間演出は?…等々

チェックすべきポイントは幾らでもある。


あなたの店舗が『また来たくなるほど快適な店舗』かどうかは、顧客の視点で眺めてみる他ない。あなたの席ではなく、顧客の席に座って眺めてみよう。

重要なのは、できる範囲で、一つ一つの要素にこだわりぬくこと。何故ならばあなたが見逃している細部に至るまで顧客には見えているからである。

あなたが「予算の範囲からすれば、椅子はコレで良い」と思っていたとしても、顧客は、競合の、もっといい椅子に座った経験があるかも知れない。

だとすれば、比べられてしまう。もし、劣っていれば、それも「あそこはダメ」という小さな一因に含まれてしまうのである。チリも積もれば山となる。

だから、椅子ひとつにでもこだわってみる。

トイレは、たとえばウォシュレットにこだわってみる……絵にこだわってみる。

もちろん、トイレを気に入ってもらいたくないのであれば、ただ清潔であれば良い。(不潔なのは論外)

快適性によって障害を取り除くとは、以上のようなことである。

籠城戦で戦う経営

籠城戦は、店舗のみの戦い方だと思ったら大間違い。

弁護士や税理士、社会保険労務士、司法書士といった士業はもとより、病院や歯科医院、ゴルフ場やボーリング場といった遊戯施設、美容院、フィットネスクラブ、水商売、果ては「過疎で住民=税収入が減るばかり」と嘆く地方公共団体まで、
     お客さんが来るのを待ち焦がれる すべての業態に当てはまる。

待ち受ける籠城戦だからといって、攻められないことはない。籠城戦であっても、攻められる。

戦い方を知らなければ、知れば良い。知っているなら、やれば良い。

知ろうともせず、やろうともしないのに、微笑む幸運の女神が何処にいよう?

           Offense is the best defense

籠城戦にしても、野戦にしても、攻城戦にしても、攻め方がある。攻め方さえ知れば、攻められる。
ならば、攻めて、攻めて、攻めまくろうではないか!

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