見出し画像

脱成長コミュニズム

まだ読み途中だけど、これは絶対読んだほうがいい。

そう、声を大にして言いたいくらい、持続可能な社会を問う上で素晴らしく、かつ独自性のある提案をしているのご、斎藤幸平さんの『人新世の「資本論」』だ。

画像1

ひとことで、その特徴を言うなら、斎藤さんはこの本で持続可能性の実現のためには、資本主義を停止させ、脱成長の経済へと移行する必要があると言っていることだ。

『資本論』以降のマルクス

その思考の根底をなすのが、『資本論』以降の著書に結実していないマルクスの思考だ。

晩年のマルクスは資本主義の先に社会主義の発展をみる進歩史観を捨て、まさに協同的な富を共有するコミュニティによる脱成長的な社会の思想をもっていたという。

マルクスによれば、コミュニズムにおいては、貨幣や私有財産を増やすことを目指す個人主義的な生産から、将来社会においては「協同的富」を共同で管理する生産に代わるというのである。これは、本書の表現を使えば、まさに〈コモン〉の思想にほかならない。

この引用にあるとおり、『資本論』以降のマルクスが志向したのは、個人や私企業、各国がそれぞれバラバラに利己的に利潤の追求を推し進めるために、自分以外のものから搾取する資本主義的な成長とは異なる、誰からも搾取することなく協同の富を利他的な姿勢で用いるコミュニティが中心になった社会だ。

それは、ひとつ前で紹介したマックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』でフォーカスされたプロテスタント由来の禁欲的に利潤を追求し続けるよう強いる「資本主義の精神」とは正反対のものだ。

上の引用は、著者の斎藤さんが『資本論』以降の1875年にマルクスが書いた『ゴータ綱領批判』の一節を参照してのものだが、同じ一節を次のようにも解釈している。

この一節全体の意味するところは、コミュニズムによる社会的共同性は、マルク協同体的な富の管理方法をモデルにして、西欧においても再構築されるべきだということではないか。それは要するに定常型経済の原理のことであり、この原理こそが、湧き出るような富の潤沢さを表現するというのである。もちろん、この潤沢さは、何でもかんでも無限に生産するという意味の潤沢さではない。

何でもかんでも無限に生産する資本主義的な搾取に基づく偽りで、持続可能ではない潤沢さとは異なる、潤沢さをもたらすシステムとして、あくなき経済成長を目指す姿勢を完全に捨てた、定常型経済に基づくコミュニティ中心の社会に見出すのが晩年のマルクスだというのである。

マルク協同体

では、この引用に登場する定常型経済のコミュニティのモデルとしてのマルク協同体とはなんだろう?

「マルク協同体」とは、皇帝カエサルからタキトゥスの時代のゲルマン民族社会を広く指す呼称である。

と著者はいう。

それは次の引用にあるように、ある意味、いまでいう地産地消が成り立つ、自治された社会だ。

ゲルマン民族は、土地を共同で所有し、生産法にも強い規制をかけていた。マルク協同体においては、土地を共同体の構成員以外に売ったりするなど、もってのほかであったという。土地の売買だけでなく、木材、豚、ワインなども共同体の外に出すことも禁じられていた。
そのような強い共同体的規制によって、土壌養分の循環は維持され、持続可能な農業が実現していた。そして長期的には、地力の上昇さえもたらしていたというのである。

大事なことは、土地の栄養分を外に持ちこんだり、外から奪ったりすることで、自然の力が枯渇していくようないまの人新世をもたらすシステムではなく、土地を共同体的な富として扱うことで共同体内で資源を循環させ、それにより「地力の上昇」をも可能にするモデルが考えられているということだ。

新しい合理性

著者は晩年のマルクスについて、こんな風にも書いている。

西欧におけるコミュニズムの試みは、持続可能性と平等を重視する新しい合理性を打ち立てるために、共同体から定常型経済の原理を学び、それを取り入れないといけない、とマルクスは言っているのである。

ほかから搾取し続けることでまやかしの成長を追いかけ続けることで、結果として、もうどこからも奪いとることができないくらいに、多くの人々を貧困にし、地球環境を資源も枯渇するし、生存も危ぶまれるほどの気候変動をもたらしてしまう資本主義の成長前提のシステムをストップさせ、マルク協同体のようなモデルをベースに、脱成長の経済システムの構築を目指した晩年のマルクスはいまこそ読むべきものだと思った。

いや、誰もが晩年のマルクスを読むことはむずかしいだろうから、まずはこの斎藤さんの本を読むといい。

労働を抜本的に変革し、搾取と支配の階級的対立を乗り越え、自由、平等で、公正かつ持続可能な社会を打ち立てる。これこそが、新世代の脱成長論である。

これは、ここ最近紹介してきたデヴィッド・グレーバーの『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』や、アビジット・V・バナジー & エステル・デュフロの『絶望を希望に変える経済学 社会の重大問題をどう解決するか』で展開される問題のひとつの出口を示してくれている。

さあ、四の五の言わず、みんな読んでみよう!




基本的にnoteは無料で提供していきたいなと思っていますが、サポートいただけると励みになります。応援の気持ちを期待してます。