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ビブリオテーク

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読んだ本について紹介。紹介するのは、他の人があまり読んでいない本ばかりかと。
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#読書感想文

グローバル・グリーン・ニューディール/ジェレミー・リフキン

6月の21-22日の2日間、デジタル田園都市国家構想について考えるオンラインのイベントを企画、実施した。 さまざまな分野から20名を超えるゲストに登壇してもらい、9つのクロストークセッション(オープニングとクロージングを含めれば11)を行った。 「まちをつくる人を、つくる」というタイトルだったが、デジタル田園都市国家構想が掲げるウェルビーイングなまちをつくるためには、誰かがよいまちをつくってくれるのを指をくわえて待つスタイルではダメで、多様な分野の知見をもった人、さまざまな

ネクスト・シェア ポスト資本主義を生み出す「協同」プラットフォーム/ネイサン・シュナイダー

最初に苦言すると、なぜ「ネクスト・シェア」なんて邦題をつけてしまうんだろう? 原題は"Everything for Everyone"である。 ようは「協同」がテーマであって、それをシェアと呼んでは焦点がボケてしまうように思う。 ネイサン・シュナイダーの『ネクスト・シェア ポスト資本主義を生み出す「協同」プラットフォーム』は、経済の民主化をテーマにする。新自由主義のグローバリゼーションと金融資本主義によった経済システムの結果、気候変動の加速、経済格差による深刻な貧困や生活困

社会的連帯経済 地域で社会のつながりをつくり直す/藤井敦史編著

何気なく気になって手に入れた一冊。買ったときは「社会的連帯経済」という言葉は知らなくて、副題の「地域で社会のつながりをつくり直す」が気になったのだった。正直、そんなに期待はしていなかった。だけど、読み始めて、どんどん惹かれていく。 藤井敦史編著『社会的連帯経済 地域で社会のつながりをつくり直す』。 問題意識は、こんなところにある。 もちろん、コロナ禍はそれを顕在化させたが、そもそも80年代以降の新自由主義がもたらした共=コミュニティの破壊は、経済格差や貧困、孤独など、さ

ボヌール・デ・ダム百貨店/エミール・ゾラ

創造的破壊。破壊的イノベーション。 一時期に比べると、こうした言葉が聞かれる機会は減ったものの、それはむしろ、そういう意識が浸透して当たり前になってしまったからで、古くからあるイマイチな産業を根こそぎにしてしまうような新しい何かを生み出すことを目論む活動は決して減ってはいないのだろう。 メタバース、WEB3、NFTなどが話題になるのは、そうしたことの一例といえる。 けれど、破壊する方はいいが、破壊される側の人びとはたまったものではない。破壊するなというより、破壊されても破壊

ソフトシティ 人間の街をつくる/ディビッド・シム

2020年6月28日のパリ市長選で、現職だったアンヌ・イダルゴ市長は選挙公約に「車を使わず、日常生活を自転車で15分でアクセスできる街にする」という環境に考慮した都市計画政策を盛り込むことで再選を果たした。 多くの観光客が訪れ、交通渋滞も深刻なパリでは、大気汚染のために市民の寿命が6ヶ月短くなると言われている。また、パリ市民の平均通勤時間は45分と言われ、自動車通勤の人も多い。 ただし、自転車で15分圏内で行ける生活空間の確立を目指すこの計画は、脱炭素などの環境面の配慮だけ

パサージュ論2/ヴァルター・ベンヤミン

時代というものは、常に変化していくものだ。 だから、とりわけ19世紀だけが大きな変化の時代だというわけではないのは理解しつつ、ヴァルター・ベンヤミンの『パサージュ論』を読み進めていると、世紀の前半にパサージュという時代の変化を象徴するような工業製品的な街路かつ初期資本主義的な商業施設が誕生し、あてどなく街を徘徊する遊歩者という新たなかたちの人びとの類型が登場したたことも含めて、19世紀というのは、いまの時代につながる大きな歴史的転換点だったのだと、まことしやかに思われてくる

パサージュ論1/ヴァルター・ベンヤミン

街の賑わいとは、いったいなんだろう? 最近、地方のスマートシティ構想に関する仕事に関わるようになって、そんなことを考える機会が多くなっている。 ある街が賑わっているというとき、少なからずその街の経済はある程度まわっていなくてはならないだろうと思う。地域である程度経済が自律的にまわっている状態がつくれていてはじめて、街にもそれなりの賑わいが生じるはずである。だとすれば、街に賑わいをつくるためには、その地域の経済を活性化する取り組みは不可欠だ。 であれば、スマートシティ化を推

パリのパサージュ 過ぎ去った夢の痕跡/鹿島茂

引き続き、年末年始に読んだパリ関連の本の紹介を続けたい。 年末になる前に読み終えた『ニンファ・モデルナ』も含めて、先日、先々日に紹介したユゴーの『ノートル=ダム・ド・パリ』、そして、それを解説した鹿島茂さんの『ユゴー ノートル=ダム・ド・パリ: 大聖堂物語』と、立て続けにパリについての本を読んでみたわけだ。 その中で今回紹介するのは、ひとつ前と同じ鹿島茂さんの本で『パリのパサージュ 過ぎ去った夢の痕跡』。 薄い文庫本なのでさくっと読み終える。 2019年に最後にパリを訪れた

ユゴー ノートル=ダム・ド・パリ 大聖堂物語/鹿島茂

パリの街とその街の代表的なゴシック建築であるノートル=ダム大聖堂。それらへの愛を綴ったのが、ヴィクトル・ユゴーの『ノートル=ダム・ド・パリ』だ。印刷本に取って代わられる前まで、人間の知と思想をアーカイブし人びとに伝える役割を一身に担っていたのが中世までの建築だったことをユゴーは、その作品で伝えてくれる。 そのユゴーの『ノートル=ダム・ド・パリ』を読んだあと、すぐに読んだのはNHKの「100分de名著」から出ている鹿島茂さんによる『ユゴー ノートル=ダム・ド・パリ 大聖堂物語

ノートル=ダム・ド・パリ/ヴィクトル・ユゴー

I miss you paris. そんな思いを感じながら、ついに読んだ。 ヴィクトル・ユゴーの『ノートル=ダム・ド・パリ』。 上下巻あわせて1000ページ強の大作を年末年始またいで。年明けバタバタしていて紹介するのが遅くなったけれど、ほんとに読んでよかったと思えたパリという都市や建築に対する愛情と人びとの心からそれが失われていくことへの失望に満ちた中世の都市を舞台にした叙事詩。 それがユゴーの『ノートル=ダム・ド・パリ』だ。 近代小説の二元論的世界ユゴーのこの作品を読ん

2021年に読んだおすすめの10冊

今年は書こうか迷ったけど、毎年恒例。 2019年に読んだ30冊の本 2020年に読んだ23冊の本 なので、数を抑えて2021年に読んだおすすめ本の紹介を。順不同。 10冊選んでみてわかったが、今年結構読んだ経済の本やサステナビリティに関連した内容の本は、読んでおもしろく勉強にもなったが、ここで選ぶものに含めたいとは思わなかった。あと小説も割合的に多くなっていても、『三体3』のような作品も10冊のなかには入らない。それよりおすすめしたいと思える作品があったからだ。 自分が

ニンファ・モデルナ 包まれて落ちたものについて/ジョルジュ・ディディ=ユベルマン

衣服くらい、人間が着ていたり、きれいに折り畳まれたりしている状態と、雑に脱ぎ捨てられている状態の快/不快の印象が変わるものはないのではないか。 雑に放置された衣服の落ちている場所が家の中ではなく、外の街路だったりすれば不快さは一気にあがる。家のなかにある場合は、誰の脱いだものかがわかるからまだよい。持ち主がわからない衣服が放置されている状態はこの服の中身であった人はどうなったのだろう?と不気味さすら感じる。食べ物が道に落ちてても汚いとは思っても、不気味さは感じないから、放棄

ゴドーを待ちながら/サミュエル・ベケット

もう30年くらい前からいつかは読もうと思ってたサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』。アイルランド出身の劇作家で小説家の1952年の作。初演は53年だそうだ。ノーベル文学者ベケットによる、不条理演劇の最高傑作と呼ばれる作品だ。 ありとあらゆる人に語られてきたこの作品、僕からあらためて語ることなど、そうない。なので、この本を読みながら考えたことをすこし書いてみよう。 僕らにとっては不条理ではないゴドーというゴッドの抜け殻を思わせる響きの名をもつ誰かをひたすら待つエスト

ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀/エリック・A・ポズナー、E・グレン・ワイル

こういう本を読みたかった。 偏った形で保有される私有財産をいかにして格差のないかたちで再配分できるようにするかの具体的なアイデアについて論じられた本を。 エリック・A・ポズナーとE・グレン・ワイルによる『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』は、そんな欲求を満たしてくれる文字通り、ラディカルなアイデアが提示された本だ。 市場の可能性をラディカルに解き放つ一部のものに独占された既得権益をなかなか分配して格差の軽減ができない現代の社会システムを問題視する著者らは、本書で