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『向井秀徳っぽい歌詞を自動的に作ってくれるマシン』を作ってみた

みなさん、こんばんは。髙橋多聞と申します。

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『オールジャンルオタクシンガーソングライター』という、世界で私しか名乗っていない肩書きを名乗っている者です。
簡単に言うと曲を作って、それを歌っているオタクです。よろしくお願い致します。

さて、『シンガーソングライター』と言っている以上は私も曲を作って、それを音楽配信サービス等でリリースさせてもらっているわけですが、大変深刻な悩みがありまして、それは……

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いきなり関係者の皆様全員が一気に不安になるようなことを書いてしまいましたが、曲を作るのって難しくないですか?難しいんですよ……。

音楽は『リズム』『メロディー』『ハーモニー』の3要素から成り立っていると言われています。
まず、この3要素を考えるだけで鼻血が出そうなくらい難しいのですが、これがさらに歌(歌曲)となるとそこに『歌詞』という要素が乗っかってきます。

歌詞、つまり『言葉』です。『音』と『言葉』です。なんかもう、明らかに使われている脳みその領域が違いそうじゃないですか?無理じゃね……?

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しかし、世の中のミュージシャンの皆様はそんな無理ゲーをサラッと当たり前のようにやられているわけです。
すんげ~~~~な~~~~~~。


さて、この流れでなんとなく察することができるかと思いますが、実は僕は「歌詞」を書くのが何より苦手です。
自分のことを卑下するような文章なら何万字でも書くことができるのですが、センチメンタルでロマンチックな歌詞とか、自分が書いたそういうのを読むと穴を掘ってまで入りたくなるタイプの人間です。「もしかしてこの仕事、向いていないのでは?」と最近になって薄々感じております。

そんな僕が「この人が書く歌詞は本当にすげえなぁ~」と思っているミュージシャンの一人が向井秀徳氏です。

◆向井 秀徳(むかい しゅうとく)
ミュージシャン。1973年、佐賀県生まれ。
1995年、福岡県でロックバンド『ナンバーガール』を結成。1999年のメジャーデビューから2002年の解散まで唯一無二の存在感を発し続け、その独特な世界観は日本のロックシーンに大きな影響を与えた(その後、NUMBER GIRLは2019年に再結成し、音楽シーンを大いに沸かせた)。
また2003年には『ZAZEN BOYS』を結成。ロックにとどまらずジャズ的なアプローチやエレクトロニカを取り入れるなど、常に進化を続けているアーティストである。ラーメンと酒をこよなく愛す。

向井秀徳氏の書く歌詞は、この世の中の本質を抉り出す鋭い刃物の様でありつつ、センチメンタルかつスリリング、そして難解でコミカル、いや、なんかもう言葉では説明しきれないので、とりあえず一度こちらの動画をご覧ください。

いかがでしょうか。
『本能寺で待ってる』ですって。いきなりすごいですよね。

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友達から「本能寺で待ってる」なんて返事が来た日には色々と不安になるかと思いますが、この言葉を向井氏が唸るように発すると「うおおおおおおおおお!!!!!????」って感じでめちゃくちゃテンションがブチ上がりますよね。そんな凄まじい言葉の力を持ったミュージシャンなんです。向井氏は。


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ああ、僕にも向井氏みたいな歌詞が書ければなあ……。なんとかならんかなあ……。

例えば、『向井秀徳っぽい歌詞を自動的に作ってくれるマシン』とかがあればいいんだけど……。そんな都合のいいもん無いよなあ……。


待てよ……?


無いならさ……。


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作ればいいんじゃね?



ということで、今回は『向井秀徳っぽい歌詞を自動的に作ってくれるマシン』を作ってみようと思います。
『お前もアーティストの端くれなら自分の力で勝負しろ』『お前にプライドはないのか』などというご意見がどこからか聞えてきた気がしましたが、良いものを作るためならば手段を選ばないのもまた『アーティスト』と言えるのではないでしょうか。

肝心の作る方法はまだ全然考えていないのですが、「人間が想像できることは人間が必ず実現できる」と彼のジュール・ヴェルヌも言ってますし、たぶん何とかなると思います。



はて、何かいい方法はないかなあと考えていたところで、ふとこんなことを思い出しました。

『デヴィッド・ボウイはカットアップという手法で歌詞を作っていた』

確か中学生の頃に読んだデヴィッド・ボウイの『スケアリー・モンスターズ』のライナーノーツにそんな一文が……。

カットアップとは:
ある文章を一度切り刻んでから、ランダムに再構築して新しい文章を作る表現技法のこと。

なるほど……ということは……

向井氏の歌詞を切り刻んで並べ替えれば、向井秀徳っぽい歌詞を作ることが出来るのでは?

果たして上手くいくかどうかわかりませんが、とりあえずやってみましょう。物は試しだゼ!!!


最初に思いついたのが『5W1Hゲーム』です。
5W1Hが書かれた紙を箱に入れて、一枚づつ引いていくやつですね。
とりあえず、思いつく限りの『向井ワード』を書いて、一枚ずつ引いてみましょう。

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今回は文章が作りやすいように【いつ・どこで・誰が・何と・何をした】の形式で作っていきます。

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では、このゴミ箱を改造して作った『MUKAI BOX』に紙を入れて……。

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う~ん。

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ほい。


出来ました。

では、早速ご覧ください……。それがこちら!!

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【月夜の晩】の【KABUKIMACHI】で【天狗】は【ヘンタイ】に【視姦される】
いきなりとんでもないものが出来てしまいました。『天狗』とは何かのメタファーでしょうか?

ダメダメ。もう一回。


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【赤いキセツ】の【ションベン横丁】で【Tombo】は【アイツ】に【刺される】
ドラマ『とんぼ』の最終回???


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【夕暮れ時】の【スーパーマーケティングマーケット】で【女】は【ポテトサラダ】を【見ていた】
これはただの「夕飯を軽めに済ませようとしているOLの話」じゃないですか?

という感じで何度か繰り返したのですが、結果はいまいちパッとせず……。
なんというかそれなりに向井秀徳感は出ていますが……「殺伐」が足りないというか……。ちょっと面白い感じになってしまうので、もっと本格的な方法を考えなければならないようです。


そこで用意したのがこちら。

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NUMBER GIRLとZAZEN BOYSのオリジナル・アルバム、合わせて9枚です。
これから、この中に収録されている103曲から向井氏が使っている言葉をすべて抜き出し、リストアップしようと思います。
こうやって文字にしただけで既に無謀な感じが出ていますが、まあ半日も頑張れば何とかなると思います。


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と言うことで、始めま~す。


……


― 12時間後


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あれ……?


……


― 2週間後


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待って。ぜんぜん終わらないんだけど。


……


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みなさん、改めましてこんばんは。髙橋多聞と申します。

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向井秀徳っぽい言葉をリストアップしていたらいつの間にかに2021年になっていました。
え、お正月、もう終わったんですか!?

ということで、有益なんだかそうじゃないんだかよくわからない年末年始を過ごしてしまいましたが、その甲斐あって向井氏の書く歌詞を完全にデータ化することに成功しました。

これはほんの一部ですが、こんな感じになっています。

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103曲の中に登場した言葉はなんと2793個。何回にもわたって登場するような言葉はひとつにまとめているので、実際には10000個近くの言葉が登場していたようです。途中、意識がない時間もあったのではっきりとしたところはわかりませんが。

よく「英字新聞を読むために必要な語彙数は2000~3000字」などと言いますが、海外の方が向井秀徳の世界を読み解くために必要な語彙数も同程度だということが判明しました。海外の向井ファンにとっては残念なお知らせですね。

また、先ほど「完全にデータ化」と言いましたが、何度も入力ミスをしましたので、ぶっちゃけそんなに正確じゃないと思います。でもそれはこの際もういいです。


さて、せっかく一か月もの期間を費やして表を作成しましたので、一体どんな言葉が多く使われていたのか、一部を皆様にご紹介しましょう。

こちらです。


◆『くりかえされる諸行無常 よみがえる性的衝動』
Diggy-MO'と言えば『ア アラララァ ア アァ』、向井秀徳と言えば『くりかえされる諸行無常 よみがえる性的衝動というくらい、ファンからするとお馴染み過ぎるフレーズですね。
てっきり「全部の曲で言ってるんじゃないか」と思っていましたが、意外や意外、登場曲数は全体のわずか10%でした。

◆笑う
一番多い動詞は『笑う』でした。これは結構意外な結果ですが言われてみれば確かに、という感じですね。
ちなみに二番目は『見る』でした。なるほど。

◆俺
栄えある登場回数第一位の言葉は『俺』でした。
向井さんの歌詞は自分自身と向き合うような内省的なものが多いので、それは納得ですね。
全103曲中、72曲に登場。総登場回数は195回でした。圧巻。



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ということで、向井氏への理解がぐっと深まった感じがするので、僕も外見を向井氏に寄せてみました。いかがでしょうか。はい、形から入るタイプです。よくわかりましたね。

本当は半ソデのYシャツがいいかなと思ったんですが、近所の服屋さんで「半ソデのYシャツをください」と言ったところ「冬なのでありません」と言われてしまいました。そりゃそうだ。


さて、次に考えるべきなのは、これら言葉の数々をどのように組み合わせていくかですね。

『ボタンを押すと液晶に向井ワードが表示されるマシン』『自動的に歌詞を生成してくれるAI』『言葉の向井秀徳っぽさを争う対戦型カードゲーム』など、さまざまな方法を考えたのですが、どれもこれも実現する技術・知識・資材ともに僕にはありませんでした。もっと勉強しておくべきだったなあ。

ということで最終的にたどり着いたのがコレ。

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サイコロです。
サイコロを振って出た目の番号に対応する単語を表から探す。それだけです。
「マシン」から始まって最終的に「サイコロ」にたどりつくとは。何とも情けない気持ちになりますね。
まあ、でも僕は北海道民なので、サイコロにたどりついたのはごく自然な結果なのかもしれません。

一応ルールは厳密に決めたのですが思ったより複雑になってしまったため、大変恐縮ですがここでは省略させていただきます。簡単に言うと「出目の組み合わせで、それに対応する番号を割り振られた言葉を表の中から選ぶ」という感じです。小学生が休み時間にやってる遊びみたい。

それではさっそく始めましょう。


まずは、サイコロを2つ振って、ピックアップする言葉の数を決めます。

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10ですね。

つまり10個の言葉の組み合わせで一文を作るということになります。じゃあこれから10回もサイコロを振るのか。意外と手間な作業だ。

そして、結果はこうなりました。

1. 1-15 夜
2. 1-24 食う
3. 6-44 ながら
4. 3-31 言う
5. 5-11 自分
6. 2-53 探す
7. 5-36 毎日
8. 4-31 匂い
9. 4-12 続ける
10. 1-15 夜

つまりこういうことになります。

『夜 食いながら言う 自分を探す毎日 匂い続ける夜』

なるほど……。
言葉の正確性と配列のランダム性が合わさって、先ほどの『5W1Hゲーム』よりも雰囲気が出ている感じがしますね。これは行けるかもしれないぞ……。

ということで、これを何度か繰り返しまして、出来た歌詞で曲を作ってみました。
ご査収ください。

SHINJUKU TOCHO

立ちこめるバイブレイション やみくもに平和武装 0.5秒で染まる新種の花
ゆれている熱病 俺 すっぽんぽんで苦笑い Frustration in my blood

※新宿都庁 俺 劣情 エロチックガール

かどかわされたションベン声に 岡崎蝉男が徘徊 桃色体温ハイテンション
ドドメ色のジョン・ベルーシ 空港通り ワニ殺し 全くもってなんの感傷もない

※復唱×2

ご覧いただき、誠にありがとうございました。

いかがでしょうか。本物より幾分ポッチャリしているため迫力不足は否めませんが、向井氏の雰囲気は出ているのではないでしょうか????


……でも。

でも、なんというか……これは……。


確かに、ある意味では成功と言えるかもしれん。
しかし、なんやろうか、この胸の中に広がるざらざらとしたキモチは…。

足りん…。
何かが足りん…。

それはやっぱりタマシイなのだろうか?
俺はタマシイを失ってしまったのだろうか?

ここ、冷凍都市で繰りかえされる狂った営み
その神経細胞がうごめきあっとーカンジが足りん。全くもって足りん。

感情の消失 でも生の実感 それだけは持っとこうと前進し続ける俺

社会のマドは開きっぱなし 念で固めた泥のカタマリ

毎日 大体狂って不思議 俺の目玉が見る景色


……あれ!?

今……なんか言葉に向井秀徳感が……。


もしかして……。

向井秀徳っぽい歌詞が……出来ている……!?


出来ているかどうか そんなこと俺はしらん

今なにやってるかすらわからん それでもやってくる夕暮れ時間

必ず終わりは来る。 終末の予感 びりびり来る直感

生き恥さらし 瞬間的にとても悲しい

冷凍都市の暮らし 行方知れずのアイツ いつの間にか姿くらまし


……あれ!!??

……あれ!!!!????


……どうやら1か月にわたって、毎日向井氏の歌詞を凝視し、曲を耳の穴かっぽじって聞き散らし、ライブDVDは削れるまで再生し、それをくりかえし続けている間に僕の身体に向井氏の言葉の数々が染みついていたようです。

そう、歌詞を作るために必要なのはマシンなんかではなく、タマシイだったのです。そんなミュージシャンとしての基本中の基本をすっかり忘れてしまっていたことを僕は気づかされました。

俺はそんな自分を恥じている 頭ん中がサァーとなるあのカンジを今味わっとる。

しかし結果的に、この試みによって僕は一番大切なことに気づくことが出来たのです。
そして向井秀徳氏が伝えようとしていることを、本当の意味で理解したようなカンジがするのです。

それはつまり、俺自身が『向井秀徳っぽい歌詞を自動的に作ってくれるマシン』になったっちゅうこと。

だから俺は自らの言葉に自信を持とう この世の所業もよーくわかっとう

祝杯をあげよう 密造したハードリカーを水色のグラスに入れて一気に飲みほそう

今夜の晩酌のお相手はサイボーグのオバケ

パンツ一丁で踊れ ヤマアラシに乗っかって


バーカウンターはあちらにございます。

それでは皆様、

乾杯!

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あ、お酒飲めないんですよね。僕。

(おわり)



◆オマケ◆
せっかくなのでリストアップした言葉を元に『向井秀徳ガチャ』を作ってみました。
冷凍都市にヤられ、身も心も疲れ果て、そんなときにポチっと押してみてください。
この世のすべてを何も知らずとも、生の実感だけは持っていけると思います。これで君も向井秀徳だ!!


皆様から頂いたご支援は音楽、noteなど今後の活動の為に使用させていただきます。具体的に言うとパソコンのローンの支払いです。ありがとうございます。