見出し画像

『太陽を盗んだ男』の感想

ずっと気になっていた『太陽を盗んだ男』を見た。

1979年公開の日本映画。

この映画を一言で言うと「典型的しらけ世代の情熱を失った数学教師が自宅で原子爆弾を作り、国家を脅迫する話」だ。随分とぶっ飛んだ話のようだが、実際原子爆弾はそれなりの科学的知識と材料さえあれば誰にでも作れてしまうらしいから、それなりに現実的な話なのかもしれない。プルトニウムさえ手に入ればの話だが。

この映画、公開当初はそれほど興行が振るわなかったそうだが、年々ジワジワと評価され、今では「日本映画史に残る作品」とまで言われるようになった作品だ。ちなみに、同年公開の『ルパン三世 カリオストロの城』も当初は興行的に振るわなかったものの、今ではすっかり定番アニメ映画の一つになっているから不思議なもんである。


僕はこの映画を『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』がきっかけで知った。伊吹マヤの通勤シーンで使われている音楽がなんだかとっても胸に引っかかって、後に調べたところ、この曲がもともと『太陽を盗んだ男』の山下警部のテーマソングだった、という事を知ったわけだ。


庵野監督は他にも『ナディア』の曲を『ヱヴァQ』で使ったり、『シン・ゴジラ』で『エヴァ』の曲を使ったりしているので、劇伴に対する柔軟性がある方なんだろうなと思うが、それはあくまで自分の監督作品の中での話で、制作の上でも物語の上でもほとんどつながりのない作品の劇伴を使用するというのはかなり思い切った話である。

仮に僕がこの先映画を制作したとして、何気ないシーンで『檄!帝国華撃団』を使用したらどう思うだろうか?つまり、そういうことである。

ちなみに『シン・ゴジラ』のクライマックス、ヤシオリ作戦のシーンと『太陽を盗んだ男』のクライマックスの対決のシーンは、どちらも北の丸公園の科学技術館の屋上が舞台なので、庵野監督はよっぽどこの映画が好きなのだろうと思う。

そう言った経緯があり、その上、ジュリーファンの僕としては見ない理由のない映画だったのだが、何となく見る機会を逸し続けていたところを、今日とうとう見たわけである。

そしてその感想なのだが……


うーん。これはヤバい。すごく好きなタイプの映画だ。

まずジュリーがめちゃくちゃかっこいいんだ。無気力で何も目的が無いように見えて、胸の奥には世間への怒りとかうっぷんとかあきらめとか、そういうフラストレーションが煮えたぎっている。とにかく、世間に一泡吹かせてやろうという思いが強い。それだけのために行動している。何となく『タクシードライバー』のトラヴィスに通づるところもある。ヤバい男の色気を身体に纏わせている。

この時のジュリー、なんと今の僕と同じ31歳である。これは参った。完全に勝ち目がないよ。1ミリたりともね。


主人公の性格同様、映画全体のムードも、どこか淡々としている。アクションシーンが派手だったり、映像がかなり凝っていたり、映画的な派手さはあるがどこか静かで、もの悲しさを感じる。

特にジュリー演じる数学教師・城戸が自宅で原子爆弾をDIYするシーンは、本当にただ淡々とその作業の行程が映し出されているだけである。
一応、城戸が授業中に原子爆弾の作り方を解説しているシーンなどが間に挿入されたりはするが、まるでジュリーが本当に原子爆弾を作っている様を撮影しているように見える。

プルトニウムの加工中に缶ビールを飲みながらナイター中継を見たり、原子爆弾の完成を喜んで一人でボブ・マーリーを聴きながら踊ったり、「原子爆弾を作る」というとんでもない行為が、生活の中で行われる普通の事のように描かれている。

登場人物が自分の気持ちや心情を語るシーンもほとんどなく、本当にあっさりとしている。でも、そのあっさり感がその時代の空気感とか、世相とか、そういうものを感じさせる。昭和の最後に生まれ、令和に生きる今の僕をその時代の一部にしてくれる感じがした。

途中のカーチェイスが無許可だったり、皇居でゲリラ撮影をしていたり、かなり危険なスタントをしていたり、そういう無茶苦茶さが城戸の「静かに危険」な雰囲気とマッチし、映画全体をヤバいものにしているような感じもする。


菅原文太演じる山下警部はほとんど赤犬ことサカヅキである。城戸とは違い、「国家の犬」として生きる真っすぐな男である山下警部は、いかにも戦中世代と言った硬派な雰囲気を持つ。
自分の身体よりも組織としての目的の遂行を優先するような男である。城戸とは正反対だ。

そんな二人が2時間27分というそれなりの長尺の中で何度もぶつかり合う。まるで自分が生まれた時代を背負うように、運命に引き寄せられるように二人は戦う。その様子がまた淡々と描かれているのが、かえって鬼気迫っていた。
特にクライマックスの直接対決は気迫が凄かった。凄すぎてしばらく忘れられなさそうな光景だった。子供だったらトラウマになってたな。


あとはヒロイン・沢井零子役の池上季実子がめちゃくちゃかわいかった。
いや、ちょっとびっくりしたね。僕が物心ついたときには既に「2時間ドラマの人」のイメージが定着していたので……あんなにかわいらしいお嬢さんだったとは……。


そんなわけで、『太陽を盗んだ男』は是非見て欲しい映画です。
今ならNetflixで観れますから。何ともいい時代ですな。

ところで僕、この映画もそうですがデヴィッド・ボウイの『世界を売った男』、『地球に落ちてきた男』みたいな『○○した男』構文に非常に弱いんです。なんか、こう、グッとくるよね。これの元ネタって何なんだろうか。ご存知の方、是非教えてください。




皆様から頂いたご支援は音楽、noteなど今後の活動の為に使用させていただきます。具体的に言うとパソコンのローンの支払いです。ありがとうございます。