【ためスモインタビューvol.5】おわら風の盆を受け継ぎ、繋げるーー舘谷美里さん
「胡弓」という楽器をご存知ですか。
胡弓は、三味線を少し小さくしたような形の楽器。実は、お祭りや行事の中でこの楽器を使っているのは富山県だけなんです。
胡弓を奏でる行事の中でも、哀愁漂う音色の中、ぼんぼりを灯した石畳の道を艶やかな踊りで練り歩く富山市八尾の「おわら風の盆」は全国的にも有名です。なんと、人口2000人のまちに20万人もの人が訪れるファンの多い行事なんですよ。
▲おわら風の盆は毎年9月1日から3日間行われる ©︎とやま観光推進機構
今回は、その「おわら風の盆」で有名な富山市八尾に生まれ、おわらの楽器を演奏する「地方(じがた)」として活躍しておられる舘谷美里さんにお話を伺いました。
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◎絶滅危惧種・胡弓奏者として
©︎とやま観光推進機構
ーー富山市八尾(やつお)に生まれ育った舘谷さんですが、「おわら風の盆」にはいつから関わっておられますか。
物心ついた時から27歳までは踊り手としておわらに参加していました。その後、三味線を演奏する地方(じがた)になりました。
踊り子を卒業した時に、楽器を演奏する地方になるか、運営スタッフになるか、おわらを卒業するかの3つの選択肢があり、私は三味線を選択したんです。
ーー舘谷さんの周りでは、どんな形でおわらに関わっている方が多いでしょうか。
実は、おわらをやめてしまった同級生が多いんです。今、おわらは後継者不足に直面しています。そもそも子供の数が少なくなっているので、おわらを受け継いでいく人の母数が少ないんですよね。進学や結婚などで八尾を出ていくと、戻らないことも多いですし。
ーーなるほど。おわらという文化をこれからも守っていくには、その担い手を増やしていく必要があるんですね。
八尾には、越中八尾曳山祭りという大きなお祭りもありますよね。おわらと曳山は八尾の方にとってどんな違いがありますか。
曳山は八尾の「祭り」で、おわら風の盆は「行事」ですね。台風の被害を防ぐことを願って始められたもので、神様をお祀りしていないのでお祭りではないんですよ。
ーーおわらが「静」、曳山が「動」というイメージでしょうか。
そうです。だから人によって好みが違うんですよね。八尾の人でも、曳山が好きな人もいればおわらが好きな人もいます。
越中八尾曳山祭り ©︎とやま観光推進機構
ーー舘谷さんは三味線をいつから演奏されていますか。
中学生の時、週1回のクラブ活動で三味線を演奏し始めました。その後、八尾高校の郷土芸能部に入部し、他の楽器や唄にも挑戦しました。
おわらは三味線・胡弓・太鼓・お囃子・唄い手・踊りからなります。全国高等学校総合文化祭に出場するには、全てが揃っていなければならなかったので、自分でどれでもできるようにしておきたくて。
唄い手が見つかれば私はお囃子、太鼓奏者が見つかれば私は唄、という風になんでもやっていました。
ーーおわらにはいろんな要素があるんですね。
その時唯一できなかったのが、今やっている胡弓なんですよね。左手と右手の動きが大きく違うので、難易度が高く、なかなか手を出せなかったんです。
ーーそんな難しい胡弓を始められたきっかけを教えてください。
三味線奏者は世の中にたくさんいるんですが、胡弓を使う民謡が富山県にしかないこともあって、胡弓の奏者ってほとんどいなくて。誰もやっていないならやってみようと思い、3年前に始めました。
奏者がほとんどいない上に、楽器そのものが絶滅危惧種になっているんです。今、私は富山市岩瀬にある和楽器専門店「しゃみせん楽家」に勤めているんですが、胡弓のレッスンやYouTubeを通じて、胡弓の認知度を上げ、奏者を増やしたいと思っています。
▲胡弓の演奏をYouTubeで発信している
ーー「楽家」には、どんな方がいらっしゃいますか。
小学生から70代まで、幅広い年代の方が三味線や胡弓を習いに来ていますよ。実は、「胡弓をやってみたい」という小学生の女の子の声がきっかけで、胡弓コースを新設したんです。
今後は胡弓の体験会を行って、実際に音に触れ、楽器に触れていただく機会を増やしていきたいです。富山へワーケーションにこられた方も、お気軽に三味線や胡弓の体験をしに来てください。
◎物理的にも精神的にも距離が近いまち・八尾
▲和楽器専門店「しゃみせん楽家」で働く舘谷さん
ーー八尾は「おわらのまち」として全国的に有名ですが、そこで生まれ育った舘谷さんにとって、八尾はどんなまちでしょうか。
八尾はある意味、めんどくさいまちです(笑)。
家が隣接していて近く、地域の人同士の距離感も近いんですよね。物理的にも精神的にも、距離が近い町です。それを面倒だと思う方には、正直移住は向いていないと思います。でもそんな近さを気に入ってくださる人にはぴったりのまち。
近所の大人たちが、地域の子供たちを育てているまちだとも言えます。私が小さい頃、近所の大人から呼び捨てで呼ばれていました。人の家の子だからって遠慮はありません。そういうことに抵抗がなければ、地域で子育てのできるいい場所だと思います。
ーーこれから、八尾という町をどんな風にしていきたいですか。
「八尾を元気にしたい」とずっと思っています。おわらの時期になれば人は集まります。でも、街の人たちが潤っているかといえばそうではなりません。慢性的な赤字で、おわらをするだけで精一杯なんです。だから、観光地としてだけでなく、常に人が出入りをする場所になる必要があると思っています。
八尾に外からの風が入ることで町が変わると思います。移住という形でなくても良いので、八尾にちょっと興味を持ってくださる人がいるだけでありがたいですね。
◎移住者へのアドバイス
ーー八尾に移住したいという方がいたら、どんなアドバイスをしたいですか。
八尾のコミュニティに入るには、地元の一人とまずは知り合うことをお勧めします。きっとその人が、地元の人と繋いでくれます。一旦コミュニティに入ってしまえば、八尾の人たちは温かいですよ。
ーー富山の暮らしの、どんなところが好きですか。
富山は暮らしやすいところだと思います。都会にはない地域のつながりがあるので、観光としてではなく富山で暮らしてみることで、その繋がりの深さを感じてみてほしい。そんな富山の人の温かさがしっくりくる人もいるはずです。
富山暮らしで、新しい世界を体験してもらえたらいいな、と思います。
ーーためスモパートナーとして、舘谷さんは県外から来た方をどんな風にサポートしたいと思っておられますか。
八尾に少しでも興味がある方には、ぜひおわらに参加してもらいたいです。
町全体で行事を続けていくことはもちろん大変なこともあるけれど、それ以上に楽しいものです。観光客としておわらを「見る」のではなく、実際に「やる」側になる。そんな非日常を体験していただけたらと思っています。
そして、逆に住環境や食など、富山県人が当たり前すぎて気づけない富山のいいところを教えてほしいです(笑)。
ーー最後に、誰にも教えたくない富山のオススメスポットをこっそり教えてください。
八尾にある小さな山・城ヶ山です。特に、9月3日の深夜過ぎの城ヶ山が好き。
ーー9月3日といえば、おわら風の盆の最終日ですね。
そうです。おわらの日は夜明け間近まで楽器を演奏したり踊ったりする人が多いので、深夜3時くらいに町のあちこちからおわらの音色が聞こえてくるんですよね。名残惜しむように奏でられる音色を、山の上から聴くのが好きで。
4日の朝にはぼんぼりが全部撤去されているので、「昨日まで本当におわらやっていたっけ?」と思うほどあっという間に日常に戻ってしまうんです。そんなわずかな時間の楽しみ方です。
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©︎とやま観光推進機構
2020年の紅白歌合戦で、東京事変がおわら風の盆をモチーフにしたパフォーマンスを披露したことで、さらに注目を浴びている八尾。
おわらを見たことがあるという方も、参加する立場になると違った「おわら」の姿が楽しめるかもしれません。
胡弓という楽器に興味を持ったら。
おわら風の盆がお好きなら。
地域で子育てしたいなら。
一度、富山へ足を運んでみてください。ためスモパートナーは、あなたの富山ライフを全力でサポートします。
<今回ご紹介した ためスモパートナー>
舘谷美里(たちだに・みさと)さん
「おわら風の盆」で有名な富山市八尾(旧八尾町)に生まれ、物心ついた頃からおわらを踊る。現在は三味線奏者としておわらに参加している。八尾高校に進学し、郷土芸能部の部長としておわらの踊り、唄、お囃子、楽器をほとんど全てこなす。会社員として働きながらも三味線を学び続け、2015年よりしゃみせん楽家のスタッフとなり、三味線や胡弓の先生として、WEB担当者として、そしてYouTube担当者として、おわらや三味線、胡弓を広めるために活動している。
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