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野中郁次郎・戸部良一・河野仁・麻田雅文『知略の本質 戦史に学ぶ逆転と勝利』を読んだ

野中郁次郎・戸部良一・河野仁・麻田雅文『知略の本質 戦史に学ぶ逆転と勝利』を読みました。『失敗の本質』がすごく好きで、いまもニュースを見たり、仕事をしていたりすると、「ああ、これは『失敗の本質』そのまんまだな」と思うことがときどきあったりするのです。

ところで、『失敗の本質』の最も主要なメッセージは、「過去の成功体験への過剰適応」ということであった。これを本書の問題意識に引き寄せて読み替えれば、日本陸海軍は戦略の本質を洞察せず、日露戦争で成功した戦い方(前述の表現を用いれば、ある特定の情況や文脈で成功を収めた特定の具体的な戦略)に固執したために、大東亜戦争という異なる状況では失敗してしまった、ということになろう。(p.5)

『失敗の本質』の流れを組んで、今回の『知略の本質』は、負けているところからの巻き返しが起こった戦史をテーマとして書かれていました。

そのなかでも、とても興味深かったのは、第二次世界大戦でのイギリスのチャーチル首相が成し遂げたケースとして取り上げられている、バトル・オブ・ブリテン。知らないエピソードばかり。昨夏に、映画「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」を見たくらいです。でも、この本を読んで、「ああ、あのシーンはそういうことか」と思い至ることもありました。

ドイツ空軍による空襲に対して、当時の最新技術であるレーダーを配備した、という話のところもよかったです。

こうして、多くの技術的な問題が未解決の段階で、レーダー監視網の建設が決定され、その実験、開発、配備が重点的に推進されていった。首相になる前のチャーチルは、レーダーの開発をバックアップした政治家の一人であったといわれる。彼は、兵器に並々ならぬ関心を持っていた。
レーダーの技術開発に従事した科学者の間では、完璧さを追究しないことがモットーとされた。すなわち、最良の完璧なものは、決して実現できない。次善のものは実現できるが、使うべきときまでには実現が間に合わない。したがって、三番目に良いものを採用して、できるだけ早くその実現を図るべきである。完璧さを求めないというのは、このような態度を意味した。レーダーの開発およびその実用化は、こうしたプラグマティズムの産物でもあったのである。(p.105)

学校のICT活用についても、これくらいの感じで取り組めないものだろうか、と思いつつ、「いやいや、戦時はやはり特別でしょう」とか。いや、でもコロナ禍の今だって、何ならだいぶ特別だよな…とも思いました。

チャーチルは部下を信頼して権限を移譲し、実際の仕事を一任した。と同時に、彼は部下の仕事ぶりと成果をつねに細かく確認した。
この点がはっきりと示されているのは、バトル・オブ・ブリテンのケースである。チャーチルは空戦に関して全面的にダウディングを支持し、作戦にほとんど口を出さなかった。フランスの配色が濃厚となったとき、チャーチルはダウディングの進言にもとづきフランスへの戦闘機派遣を打ち切った。また、イギリス上空での戦闘が始まると、これに最大限の関心を払い、その帰趨を注視しながら、ダウディングを信頼し続けたのである。(p.179)

チャーチル、すごい、かっこいい。

その後に、政治家、軍人、経営者としてのリーダーたちに関する調査研究から見える、実践知リーダーたちに共通する6つの能力が挙げられていました。いや、書くのは簡単だけど、これはものすごいことだ。6つコンプリートしていなくても、このうちのいくつかを持てるように、そして、足りない部分はチームメンバーに持ってもらう、というふうにしないと、僕には一生かかっても無理だな、と思ったりもしました。

政治家、軍人、経営者としてのリーダーたちに関する調査研究から見える、実践知リーダーたちに共通する6つの能力(p.380-381):

1.善い目的を創る能力
2.ありのままの現実を直観する能力
3.場をタイムリーに創る能力
4.直感した本質を物語化する能力
5.物語を実現する政治力
6.実践知を組織化する能力

さて、明日からまたがんばろう。

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