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ゲームビジネスの要素を利用したDXによりユーザーエンゲージメントをデザインする的なマーケティング理論を思考している

マーケティングとゲームの交差点というテーマで、ここまで2回に渡り投稿してきてまして、今回で一旦区切りとなります。

第1回は、ゲームのインタラクティブなエンゲージメントデザインには、デジタルマーケティングとの共通点はあるんだけど、ここ最近ゲームのほうでユーザー体験がどんどん拡張されているのもあり、そろそろまた交差するタイミングにきているんじゃないか、という話。

第2回では、本題に行く前に、そもそもエンゲージメントデザインのゴールとは?何を達成するものなんだっけ?というビジネスモデルの話に、一旦立ち返ってみた、という話。

ということで、今回はゲームにて拡張されたユーザー体験をもとに、旧来のゲーミフィケーションをDX時代向けにアップデートしたエンゲージメントモデルを「ゲームビジネス型DX」として、
ゲーム以外の汎用的マーケティングとのフィッティングポイントに落とし込むイメージを持てるところまで、概念抽出してみることにする。

今回ゲームビジネス型DXにおけるエンゲージメントデザインのポイントとしては、大きく2点取り上げた。
①感情に着目したコンセプト
②インタラクティブなエンゲージメントデザイン
それぞれについて、触れていく。

①感情に着目したコンセプト
ほぼこれが全てというぐらい重要なポイントだと思ってて、エンゲージメントデザインをするうえで、「感情」がコンセプトとなり、「インタラクティブ」は表現方法という手法にすぎない。
ただし、両者はセットでなければならなく、どちらか片方ではゲームのエッセンスを利用したゲームビジネス型DXによるエンゲージメントデザインは成立しない。

さて、第1回で触れた通り、ここ数年において、ゲームのユーザー体験は拡張し、様々な感情や欲求を取り扱うになった。

パズドラやモンストでいう所持しているモンスターのステータス的価値はそれまで基本的に学校のクラスメイトなどのリアル世界が中心だったのが(当然SNS等で俺TUEEEすることはできますが)、ゲーム内にて他ユーザーに誇示できる「自己承認」的な感情の増幅や、収集欲やアバターのコーディネイトなどにこだわれる自己満足的な感情の増幅(自己承認の要素もある)だったり、ゲームキャラクター(所持キャラ、NPC)との親密度のような数値による交流ができる要素など、アウトゲーム側にユーザーの様々な欲求や感情に応えるものがリッチに体験できるようになってきました。
それに加え、フォートナイトや荒野行動がすでに遊びというゲームプレイの場だけではなく、ソーシャルな「居場所」として価値を提供しているというケースもあり、今後の発展分野であることは間違いないと思われます。
なお、これらは2000一桁年代のPCオンラインゲーム黎明期から見られたことでもありますが、ゲーム市場の拡大により、より一般的に近づいてきたという認識です。

というように、ユーザー体験がほぼインゲームの「楽しい」のみで語られていたのが、アウトゲームでも「感情」や「欲求」を満たす要素が拡張されてきている。
ゲームは「楽しい」が前提価値だが、世の中の多くの商品やサービスは「利便性」や「機能性」が前提価値となっている。
その文脈でいえば、既存の「利便性」に見え隠れする「感情」に着目してみるのが一つのアプローチとなりそうだ。

例えば、
・エネルギー系のサービスにおいて、「省エネによる節約という利便性」に、「CO2削減による社会貢献意識」という付加価値を加えられないか
・分譲マンションにおいて、「立地などの利便性」に、「マンション内コミュニティとの相性マッチング」という付加価値を加えられないか
・就労不能保険サービスにおいて、「もし働けなくなった時のための補填、という利便性」に、「まずは挑戦してみるというモチベーション」という付加価値を加えられないか
などが、ざっとであるが挙げられる。
当然デジタルなサービスに落とし込むという実現性も重要であるが、発想のアプローチとしては利用可能だと思う。

既にあるサービスでいえばUberEatsは良い例かもしれない。
・調理中や配達中などの家に届くまでの工程をゲージ化
・配達員の位置がマップ上に表示
・配達員とコミュニケーションできる
などにより、「料理を自宅まで届けてくれるという利便性」に、「現在の状況、本当に届くのか、に対する安心感」という付加価値が加えられている。
(このことは出前館アプリと比較すると、わかりやすいかもしれない)

また、ここまでの「利便性と共存するポジティブな感情に着目する」というアプローチ以外には「自分だけのこだわり」という感情も利用可能だと思っている。

ゲームでは、「あつ森」のように自分だけの箱庭であったり、自分の分身であるアバターの見た目や服装を細かくカスタマイズできるゲームはたくさんある。

ゲームでいう、いわゆる「縛りプレイ」も今はYouTubeなどの動画サービスが生まれたおかげで、こだわりのエンゲージメント装置として可視化されている。

また、デジタルではないが、2年前ぐらいに星野リゾート青森屋に行ったときの実体験として、
・まず、部屋に用意されているお菓子が星野リゾート限定のりんごタルトで、実際美味しかったのでお土産に買っていこう思う
・お土産屋に求めに行くと、該当するりんごタルトの横に、お菓子1つあたり2倍ぐらいの価格になる【極】りんごタルト(分厚い)が売っていたので、そちらを購入
・会社の同僚に、「星野リゾート限定のりんごタルトおいしいんだけど、実はそれの極バージョンがあって買ってきたんだけど…」と語りながら、プレゼントする
という一連の行動で気づいたのは、
おいしいタルトに上位版【極】が存在したというストーリーを会社の同僚に語りたいためにお土産を購入した、つまり、ここでのお土産の美味しさはある意味で利便性的価値であり、本当は自分だけの旅のストーリーを他人に語りたい欲求価値を満たすための媒体であって、【極】タルトはその拡張のためのマネタイズだったんだなと。
これもある意味、「自分だけのこだわり」というエンゲージメントデザインといえると思う。
流石の星野リゾート。

※写真上がノーマル、写真下が【極】

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②インタラクティブ
つづいて「インタラクティブ」について。
すでに述べた通り、インタラクティブはあくまでも表現方法という手段である。

①感情
ほぼこれが全てというぐらい重要なポイントで、エンゲージメントデザインをするうえで、「感情」がコンセプトであり、「インタラクティブ」は表現方法という手法にすぎない。
ただし、両者はセットでなければならなく、どちらか片方ではゲームのエッセンスを利用したゲームビジネス型DXによるエンゲージメントデザインとはいえない。

インタラクティブ性はゲームがゲームたる所以、本来兼ね備えている機能だが、様々なデジタル技術の発達に伴い、今までのマーケティング領域にあったポイント獲得とリワード(インセンティブ)の要素だけではなく、ゲームにおける他のインタラクティブな要素も適用できると思っている。

まず、はじめに、ゲームの面白さを構成する1つの本質から触れていこうと思う。
ゲーム内の様々な事象に関するデータをリアルタイムで可視化することにより、意識がゲームに釘付けになる、というエンゲージメントデザインについて。

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これは私が普段プレイしているファイナルファンタジー14のPvPコンテンツのスクショをネットから拾ってきたものだが、この画面上には、
・味方のうち、自分のパーティーと他のパーティーの、残体力及びどのマシーンに搭乗しているかの情報
・戦況を有利に進める要素であるタワーの残体力
・マップにて、プレイヤーの位置を含めた様々な戦況
実はほかにもあるが、少なくても目の前の敵と戦闘しながら、こうした様々な事象のデータについて、可視化されたものを確認しつつ次の行動の意思決定しなければならない。
当然ながら、これらの情報はリアルタイムで変化するが、いくらデジタル技術が進歩したとはいえ、まだリアルの戦争ではここまで可視化はされていないだろう。
ただ、バーチャルの世界では、面白くするためにはどの情報をどう可視化し、どの程度リアルタイムで更新すればよいのか、幅の広いゲームデザインが可能となっている。

いきなり例外的にインゲーム側の切り口から説明に入ったが、アウトゲームでも最近流行りの中国産スマートフォンゲームにおいては、幅の広いキャラ育成要素を用意し、ワンプレイぐらいの短いインターバルにて、キャラステータスを増やすことができるという、リアルタイムに近いテンポ感により、エンゲージメントを高め、離脱防止に繋がっている。

ゲーム以外の例としては、再びUberEatsの登場となるが(とても便利)、
配達員が自宅に向かっているのをマップ上に可視化するだけで画面に釘付けになるのは、リアルタイムによる可視化というエンゲージメントデザインで説明可能であろう。

デジタル庁関連の議論では様々な行政事務のデジタル化による生産性アップが着目されているが、選挙のような国民の行動を促したいイベントにおいて、例えば、各選挙区の投票率をリアルタイムのランキングとして可視化し、現在の選挙報道をアップデートすることで、投票行動に変化をもたらせるかもしれない。

次に「インタラクティブ」について、もう1点の要素に触れたい。
これまで、ゲームでいえばゲームとユーザー、その他のサービスでいえばサービスとユーザーにおけるインタラクティブ性を主に取り扱ってきた。
ここでのポイントはユーザーとユーザー、つまりユーザー間コミュニケーションなどのインタラクティブ性に着目することとする。

まずは、前回の投稿を引用する。

ゲームでいえば、例えば、とある学生スポーツとかで県大会1位と全国1位では全く価値が違うのと同じで、ユーザー数が多ければ多いほど、課金をしてランキング1位を目指す価値が高くなる、
そのため、ビジネスやっている側としても、無課金でもアクティブユーザー数が最優先となる、ということです。

ここではネットワーク効果の下りでアクティブユーザー数の重要性について記載したのだが、もう1点重要な要素としては、他ユーザーが可視化されることでエンゲージメントが高まる、という点である。

ゲームにおいては、ランキングであったり、ギルドのような他ユーザーとコミュニケーションができる場がわかりやすいかと思う。
しかしながら、それをそのままゲーム以外に適用することは難しい。
前者はゲーム=バーチャル世界であるが故のフェアな環境が求められるし(社会的地位などの不公平感がチラつくとエンゲージメントに繋がらない)、後者は前提要件としてそれなりのエンゲージメントの高さが求められる。
となると、ゲーム以外のサービス等におけるユーザー間インタラクションはどのようなものがよいのかとなるが、それは「他ユーザーを意識する程度のものからはじめる」のがちょうど良いのでは、というPoC的スタンスとなる。
例えば、ヘルスケアアプリであれば、同程度の体質や生活習慣、同程度の目標を持つ他ユーザーのフィットネスなどの行動記録が可視化される程度からはじめる。
それにより、エンゲージメントが高くなれば、ペアリングぐらいの強めのコミュニケーション機能を試してみる等のように、他ユーザーへの意識付けは控えめなところからはじめ、状況を見つつ、徐々に強めていくアプローチが落とし込みやすい。

一旦ここまでが、インタラクティブの話でありつつ、
以上において、現状考えている範囲でのゲームビジネス型DXの話となります。

現状、実際にこのような話を様々な企業の方たちとディスカッションさせていただく機会があり、今後はもっと具体的なマーケティングへの落とし込みがイメージできるところまで、語れることができればと思っています。
また、ここで記載した以外にも、まだまだゲームのエッセンスによるエンゲージメントデザインアプローチには引き出しがあります。
以前、ゲームのようなバーチャル世界の事象をリアル世界と比較することで、リアル世界のバイアスが炙り出されるのでは、というアプローチで投稿したことがありますが、それらを突き詰めることで炙り出される何かがありそうな気がしています。


さらに、ちょっとこちらは全く別の観点ということで、、、
DX自体にもいえることだし、ゲームビジネス型DXではなおさらいえることですが、デジタルサービスを当事者として提供することの最大のメリットは、「ユーザーのことを考えることに時間を使うこと」かと思っています。

商材やサービスを販売、運営する当事者であっても、仕事中のほとんどは社内調整に追われてたりするのが実態だったりするので、デジタルサービスであれば「リアルタイムに」ユーザー行動を把握することができるため、その動向に釘付けになり、
釘付けになることで、脳みその大半はユーザーに関することになる。
つまり、エンゲージメントの向き先がユーザーとなる。

そういえば、スマートフォンゲームの運営をしていた時期、新しいコンテンツのアップデートや新商品の販売開始直後は、ユーザー数や売上が伸びるため、リアルタイムで変化するデータに釘付け(毎分単位ぐらいで更新のクリックをしていた)になった体験からこのような話をしたのですが、特に大企業の方の共感を得る機会がありました。
コロナによるテレワーク対応による社内コミュニケーションの希薄化などの事情から共感を得られたのかもしれませんが、
そういう意味で、ゲームビジネス型DXはユーザーエンゲージメントだけではなく、結果的に働き方改革的要素もあるのかもしれない、とも思ったりしています。

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