萩尾望都と私

わたしは漫画が好きだ。少女漫画はもちろん、一時期はジャンプサンデーマガジン月マガ月ジャン、おじいちゃんが買っていた山口六平太も読めば鬼平犯科帳も読んでいた。ジャンル問わずに何でも読むし、相当漫画好きだと思っている。

その中でも特に萩尾望都が好きだ。卒業論文でテーマとして選んじゃうほど好きだ。

出会いは高校生の頃。新歓公演で萩尾望都原作、野田秀樹脚本の「半神」をやることになり、その練習をするちょっと前ぐらい。部活の顧問が「これ面白いから読んで!」と半ば無理やり押し付けてきた「マージナル」が一番最初に読んだ萩尾望都作品だった。

先生が貸してくれた「マージナル」は、全三巻の文庫になっている新しいものではなく、古めかしい絵が表紙のプチコミックス版。古めかしい絵なのだが、特に2巻と3巻が恐ろしい程に緻密で美しく、しばらく目に焼き付いてはなれなかった。

「人類が生殖能力を失った世界」が舞台。ポストアポカリプス、ディストピア(当時はそんな言葉知らなかったけれど)が大好物だったわたしは設定だけで読む前から興奮が止まらなかった。そして女性は「マザ」と呼ばれる唯一絶対の存在だけ。そんな中で人々は当たり前のように同性愛をはぐくんでいるのだ。

私は中学生の時から、BLが嫌いで嫌いで仕方なかったが(今も文学作品として、その物語を紡ぐための骨組みとしてなら受け入れられるが好んでは読まないジャンル)萩尾望都の描く同性愛はため息が出るほどに美しい。

女性漫画家が男性同性愛を描くのは「抑圧された女性たちを解放するための代替的な存在を描くため」だと、大学に入ってから感じるようになったが、当時はそんなことはもちろん知らない。

ただただ萩尾望都の描く同性愛の姿が自然であり、美しかった。男性の四肢がコマの中で軽やかに動き、その指が他の男性の唇に触れる度、愛の言葉を囁く度。悪いことをしているのかと思うぐらいに、下手なエロ本を読む以上に、ドキドキしたことを覚えている。

そしてSF作家として名高い萩尾望都である。物語の序盤、世界の謎がほんの少しだけ(とは言いながらも非常に根本的)解き明かされるとき、興奮して何故か読んでもいないお父さんに報告したことを覚えている。

「先生がとんでもない漫画貸してくれた。これは眠れない。すごい、やばい。やばいわこれ」

読み出すと基本的には完結するまで眠らない私が、読むのが勿体なくて2時間ぐらい惚けていた。どうすればいいか分からなかった。このまま読み進めていいのだろうか??まだまだ序盤なのに、物語が終わることが怖くて仕方なかった。ずっとこの世界に浸っていたいと思った。恐る恐るページを捲りながら読み進めた。本当に大事に大事に読んで、先生に返す前に3回ぐらい読み返した。

当時の私ならおよそ納得できそうにない終わり方であるはずなのに、「あぁ、良かった。美しかった。この世界はまた始まっていくんだ」と妙に納得し、漫画を閉じることができた。


卒論を書き終えた時、「マージナル」は悲しみや絶望の余韻を残すことが多い萩尾作品の中でも特別に希望を持つことができる終わり方だと気付いたが、本当に美しい終わり方なのだ。是非最後まで読んで欲しいと思う。


大学生になって、「マージナル」をはじめ「残酷な神が支配する」「イグアナの娘」も卒論の課題として選んだため、付箋を貼りながらひとつのセリフに注意しながら漫画を読んだ。そんな漫画の読み方なんてこれまでしたことがなくて、私の唯一の趣味とも言える漫画を純粋に娯楽として楽しめないのではないかと恐れ戦いていたが、なんてことはない。

セリフ、構成、コマ割り、発表年代、、、それら全てに注目しながら読むことで、こんなにも萩尾望都の世界が深く、そして広くなるのかと驚きと喜びを隠せなかった。

卒論だるいwおわらんてこんなんw10日でペペッと書いたわw

と言いながらも、(確かにちょっと辛かったし本当に書くのは10日だったが)ただただ好きなことを調べて、疑問を挙げて、また調べて、、という作業にウキウキ生き生きしていたなぁ、と今になって思う。


そしてやっぱり萩尾望都を特別な漫画家だと思えるのは、野田秀樹の「半神」の存在が大きい。私は愛嬌があってかわいいけれど知的に遅れがあるマリアを演じた。今は見返すことも出来ないぐらいおっそろしい拙い演技をしていると思うが、先輩達が引退して、「今度こそ私たちが中部大会にいく番だ」と張り切っていたし、実際めちゃくちゃ勢いのある代だったと思う(上手い下手はおいといて)。

先輩達がいなくなって、どうすればいいかも分からないけれど、なんとなく必死で舞台を作ろうとした一歩目の作品。作品としての完成度は本当にひっくいけれど、思い入れだけはめちゃくちゃある。あとは普通にこの作品の稽古が始まってすぐに同じ部活の元カレと付き合いだして、稽古の中盤で速攻で振られて、振られてるのにめちゃめちゃ元カレに肩を触られるシーンがあるから半泣きで稽古して、なんかめちゃくちゃ気まずくて死にそうだったっていう苦い思い出があるからただただおぼえてるだけかもしれない。部活が何より大好きなはずなのに、私の恋愛程度でほかの人にも気を遣わせて、気まずくして何をやっとるんだ私は!っていう罪悪感と恥ずかしさもあった。

私の演劇部としての、高校生としての青春がキュッと詰まった作品が「半神」なのだ。


そして私の人生を間違いなく色濃く鮮やかにしてくれているのが萩尾望都なのだ。

萩尾望都に出会って作品との向き合い方も変わったし、何より価値観がグルングルンと引っ掻き回され、柔軟になり視界が開けていくようになった。

何を言ってもネタバレになる気がするから詳しくかけないが、萩尾望都の描く愛は繊細で大胆で幅が広い。絵も描写も美しく、登場人物の指の動きひとつを自然と目で追い、その意味を考えさせられる。

是非皆さんに触れてほしい。

私の愛する萩尾望都。

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