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旅する土鍋 「詞の旅②」

「皿の中に、イタリア」(著 内田洋子)

ご存知のかたも多いだろうこの本、カラブリア出身の三兄弟の魚屋と筆者の出会いと、料理や食材を介した人との交流がシズル感たっぷりに書かれている。内田洋子氏のイタリア関連本はいくつか読破したが、特段、この本は両手の指では足りないくらい読んだ、というか旅に何度も持ってゆく。ぼろぼろになったり、読み終わったものを旅先で譲渡したり、そんなことから何度も買い直してまた持ってゆく本が数冊あるので、少しずつ書き留めておこう。

列車の旅では、車窓を眺め、映画のように面白い人間ウォッチングをし、時に眠り、時にスケッチしたり本を読む。本にペンを入れてはいけないと子どものころ習ったが、オトナであるいま「たび本」(度々+旅)と命名して、本に直接メモを入れる特権を愉しむ。

イワシやらシラスやら弱い魚の食べ方

にぎやかなシーンを、彼女は冷静な視線で見つめ、詞にする。巷がよく賛美するイタリアの華々しい料理やイタリア人の明るさでなく、その裏の、本当のイタリアを。

写真のページ「カチュッコ」の話とか、イワシを大量に揚げる話とか、おなかが鳴るにちがいない。そして、必ず、揚げたイワシとシラスが食べたくなるのだ。

写真は「サルデ・イン・サオール」(風味あるイワシ料理)。ヴェネト州の伝統料理で、両親がヴェネト出身である師匠とつくったもの。揚げたイワシ、タマネギ、レーズン、特筆すべくはおいしい松の実を手に入れること。これらを甘酢でマリネする。タマネギの甘さをじっくり引き出すのがコツ。

「サオール」とは、ヴェネト方言で「風味/サポーレ」を意味し、ヴェネツィア共和国のゲットーに住んでいたユダヤ人がイワシが大漁だったときに料理し安息日に食べたとか、別の説では、漁師の保存食だったともいわれている。

実際、写真の一品も、海辺のちいさな魚屋でイワシを入手したものを、その日に揚げてしまい、翌日、友人があつまる食卓に出そうという魂胆だった。一晩じっくりしみこんだ甘酢と、しっかり冷えた白ぶどう酒が合わないわけはない。転がりたくなるほど無上の佳味である。

弱い魚シラスのカラブリア料理も、またいつか。



INFORMATION

我妻珠美 陶展 -秋を炊く-
Tamami Azuma
Ceramic Art Exhibition

Ecru+HM(Ginza Tokyo)
2018年11月16日~24日
※21日休廊
東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル4F




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