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うつわマガジン2019

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2019年10月の記事一覧

サンマのようにおよぐな

サンマのようにおよぐな

多くのブースに行列ができ盛りあがる中で、芸祭の焼きそば屋台の鉄板にはカバーがかかり、立ち上がるソースの香りはなかった。

「大雨で上がったりだ、泊まる」という短いメール。息子が芸祭の焼きそば屋の店長だというので、売り上げに貢献しに行くか。いや、親なんて来たら限りなくうっとうしいよね。迷いながらも向かった学園祭。

焼きそばのカケラさえ売っていなかったのは、メンバーの失態で営業停止(卒業生のわた

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土鍋メメント・モリ

土鍋メメント・モリ

「作品は数でなく人よ」
「人と人のつながりなんよ、たまちゃん」

俯瞰できる今になって、視認性をもって正解が見える。作家にとってギャラリーとは売るための場所でなく「親」である。ギャラリーのオーナーを偲びながら、そんなことを考えた。

「親」という字は「位牌」を「見る」という成り立ちをもっている。昨晩の偲ぶ会では、位牌ならぬ作品や作家の周囲にからむ人やものごとを見た。「ほれ、これなんよ」と、しび

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湖と山とパン

湖と山とパン

スイスとフランスの両親をもつ友人マガリーは三日月型の「レマン湖」にとけようとするオレンジ色の空を臨みながら言った。「ジュネーブ湖」とか「ローザンヌ湖」と土地を限定される名前で呼ぶことを望まないの。

あの山が、ほら25年前にいっしょに行った山。語尾をひゅひゅんとあげて彼女がしゃべる。母が住むのはあっち。父が生まれたのはあっち。出会ったのはちょうど真ん中よ。

国境は目には見えない。けれどしゃべる言

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「おかって」の思い出

「おかって」の思い出

「おかってから入って!」そこからお邪魔することは、ちょっと特別あつかいしてもらったような悦びがこども心にあった。

両親の東京の実家にも、おかってがあった。祖母に「おかってから取ってきて」といわれ、しのび足で入った空気はひんやりしていて。北側に位置していたのではないかな。

「弓道」の世界では、右手を「勝手」と呼ぶ。自由に使える右手、料理する女性が自由に使える場所=「おかって」という言い伝えが、諸

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欠けないうつわ

欠けないうつわ

ないまぜにしない

旅する土鍋でまわるイタリアで「苦手」という言葉をあまり聞かない。「勉強が苦手」「料理が苦手」などと言わず、「勉強がきらい」とか「料理がうまくない」と明らかな主張をする。

だからこそ、自分が得意なものを、みんなにさせようなんて、ないまぜな暮らしもない。

欠けたら埋めあおう

苦手でも、うまくなくても、そのぶんみんな得意なものが必ずある。苦手ではないけれど「できない状況」も

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「ねこ」と「さんま」

「ねこ」と「さんま」

言ってたっけな、「ねこ」が。
最近、地道に耕している人のものを盗んで、なんでもわかっている素ぶりをする人が多いねって。吾輩は猫である「ねこ」は、おさんの三馬(さんま)をぬすんだとき、胸がつかえるほど辛かったものだから、それがどんな気持ちがよくわかる。

今年はさんまが不漁だ。身はやせていて、捕獲量も激減しているという。気候温暖化はしんしんと迫っている。水温上昇で魚群が北方海域に移ったこと、それと隣

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冷えても温かくてもおむすび

冷えても温かくてもおむすび

いちにいさんと転がして、お米の粒がひとつぶひとつぶ見えるくらい、ふんわりとむすぶのが好き。土鍋とセイロで蒸せばホカホカ。あらためて。おむすびありがたやと思う。

ケイタイに一日中鳴っていた警報。音量マックスなのですね、仕事も映画も中断するくらい。我が家は自宅待機のほうが安全な環境とわかっているけれど。とうとう避難勧告「警告5 全員避難」や「河川氾濫」という文字が届くと、心のなかでザワザワが起こる

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陰翳礼讃の森-3

陰翳礼讃の森-3

人間の創造とは

結果が出てから失敗だとか成功だとか言うことが多いのが気になる。エゴやら利害が関連するのは、社会的な問題だけでなく、整合性なきコミュニケーションが必要なちいさなちいさな世界であるアートにも重なる。

対して、ギャラリー主催公募展のために自由奔放につくった作品、道祖神「やまもりさま」は、整合性なきストーリーを次々と自立歩行でつくりあげていくので楽しい。

旅する空也

旅をして社会事

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陰翳礼讃の森-2

陰翳礼讃の森-2

結んだ言葉

まじないの言葉「あめふれふれ」あらため、いそいで深夜に必至に結んだ言葉は「あめほどほど」。宅急便で届くだろうか。

「やまもりさま」という道祖神的な陶土オブジェをつくり蓼科の森のギャラリーに設置してきたが、ちいさく反省というか、遠隔でやまもりさまに伝えたいことがある。

「あめほどほど」

強い勢力をもつ台風。まじないの言葉「あめふれふれ」が、被害あるほど効いてしまってはいけない

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陰翳礼讃の森-1

陰翳礼讃の森-1

雲は雨を連れて山を越えられなかった。雨の東京からトンネルぬけたら晴天。週末なのに、狐につままれたように静かな初秋が広がっていた。

15キロはあるだろう道祖神のような土の塊である作品をつんで、目的のギャラリー敷地内の森に公募展の作品を設置しにきた。

地元の野菜直販店で買ったおむすびとおはぎを、なんともない水で胃に流す。日が暮れる前に設置を終わらせなければならない。

朝の露を吸った森は、日中は木

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まじめなポルシェ

まじめなポルシェ

最近ようやくって、人生だいぶ経ってしまったのに遅いかもしれないけれど、わかったことがあって。ブログもnoteもとぎれるし、セルフプロモは下手だし。

まじめってなに
「まじめ」と言われたり、自分でもそう思ったりすることはあるけれど、実はそうじゃなくて、隠していることがある。仕事はまじめにするのだけれど。ふと気づいた。「ふまじめ」とか「でたらめ」とかでもない。どこかが、どうも違う。

おちゃらけっ

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