見出し画像

[散]#01 Lubok Verlag(ルボーク フェアラーグ)について

わたしが「Bücher-machen (ビュッヒャー マッヒェン)」、すなわち本と生きることについて想うとき、そこにはライプツィヒを拠点とする出版社・Lubok Verlag (ルボーク フェアラーグ)がある。版画プリントそのものを束ねたアートブックは、絵面のおもしろさにとどまらず、インクのピグメントそのものの色彩や手にした瞬間に鼻をつくインクのにおいなど、ほかではまったく見ることのない、 ユニークな魅力に溢れている。わたしは2014年ころから、Lubokのアジア圏での活動をお手伝いするようになった。Tokyo Art Book Fairをはじめ、香港、中国、台湾などでのアートブックフェアへの出展、また代官山蔦屋書店をはじめとする書店への卸販売やポップアップ企画などを重ねるうちに、縁あって、2020年には武蔵野美術大学版画専攻の特任講師になった。

Lubokを主宰するのは、アーティスト・Christoph Ruckhäberle(クリストフ・ルックヘバーレ)だ。クリストフは1972年ドイツ・ミュンヘン郊外プファッフェンホーフェンに生まれた。1991から92年にはカリフォルニア芸術大学に留学、2002年にライプツィヒのアートアカデミー・Hochschule für Grafik und Buchkunstにてマイスターシューレ(MFA)を修了、その後ドイツにおけるコンテンポラリーペインティングの潮流「新ライプツィヒ派 (Neue Leipziger Schule)」の拠点となった紡績工房跡地のアート施設・Leipziger Baumwolle Spinnerei(シュピネライ)にアトリエを構えた。その近くにはNeo Rauch(ネオ・ラオホ)、Martin Kobe(マーティン・コーベ)、David Schnell(ダビッド・シュネル)、Tilo Baumgärtel(ティロ・バウムゲルテル)らがいる。

クリストフの作品形態は、絵画にはじまり、版画、彫刻、壁画、床面装飾など、自由自在に変化する。その綜合に「建築」ということがあると、わたしは考えているが、それについてはまた別の機会に書きたい。クリストフの個展はベルリン、ロンドン、パリ、チューリッヒ、コペンハーゲン、ブリュッセル、ニューヨーク、メキシコシティなど、世界中で開催されており、またコンテンポラリーアートの殿堂・SAATCHI GALLERY(サーチギャラリー)にも作品が収蔵されている。

クリストフのパートナーでLubokのマネージャー・ヘンリエッテは、子鹿のような外見で、頭の回転が速くさばさばとした性格だ。わたしはLubokの書籍を好きなのと同じか、もしかしたらそれ以上に、ヘンリエッテのことが好きだ。ヘンリエッテは、クリストフから「一緒に出版社をやろう。一緒に世界中のアートブックフェアを旅しよう」と口説かれた、らしい。そのような物語が、Lubokの出版活動のスタートにある。こんな話しも聞いた。クリストフは納得できる版画を刷り上げる技師をみつけることが出来ず、自分の友だちに「印刷修行をさせた」らしい。


この”友だち”こそがクリストフの片腕、1958年製Albert-Frankenthal(アルベルト・フランケンタール)社製・Präsident(プレジデント)というレタープレス機を使い倒すプリント技師・Thomas Siemon(トーマス・ジーモン)だ。わたしがトーマスのアトリエ・carpe plumbum(カルペ・プルンブン)を訪ねた時は、慣れた手つきでデンマーク人アーティスト・TalR(タルアール)の新刊『Mädchen in 3D (メディヒェン イン ドライ デー : 三次元の少女)』の表紙を印刷していた。トーマスの凄さは、機械が動かなくなった時に発揮される、とも言えるのかもしれない。その日も用紙の送りにトラブルがあった。トーマスは機械をぐるりと一周しながら、あっちこっちを叩いて開いて閉じて原因を見つけていた。部品交換が必要な場合は、細かな部品の設計図面も自らが引くこともあるという。

画像1

Lubok Verlag、それはクリストフを筆頭にヘンリエッテとトーマスが、三人四脚で歩んできた人生そのものので、そのことがわたしには眩くて、Lubokの書籍を手にすると、いつも夢見心地な気持ちになる。クリストフが友人らと運営する映画館・LURU KINO(ルルキノ)の内装に使われている壁紙を日本に送って欲しいとお願いしたら、それを印刷したのもトーマスだと聞き、わたしはまた驚いた。


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
4
建築の写真を撮るアーティストです。ドイツ・ライプツィヒの出版社Lubok Verlagのお手伝いが転んで、むさび版画の特任講師になりました。2020春に版元「建築の建築」を設立、写真集『建築のことばを探す 多木浩二の建築写真』編集発行しました。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。