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雅楽絵巻『鳥獣戯楽』 楽曲解説その2

楽曲構成と演奏・鑑賞の手引き

◾️序 深山にて

・ 竽:高山の峰を霧が上るように
Ø 気流
・ 笙:天上の鳥・迦陵頻伽の鳴き声。時に翻って宙を舞う
Ø 鳥瞰の視点で物語の展開を誘導する。ときおり動物たちの戯れにフォーカスする (手塚治虫「火の鳥」は鳥獣戯画の視点か?)

◾️第一景 水遊 Mizuasobi

横笛 排簫 箏 方響

鳥獣戯画_水遊

・ 箏:川の水源に近い岩場の渦巻く水流からはじまる。
Ø次第に下流に向かい流れが滑らかになる様子をアルペジオの変化で表す。
・ 笛と排簫:川遊びする兎と猿
Ø 岩場でかくれんぼしたり、鼻をつまんで背面から川に飛び込んだりする光景。音型は上下動し、跳躍感、水泳、飛び込みの緊張と水しぶきを表す。

◾️間奏 薄霞〜夏霞

竽や笙は、絵巻物で時間の経過や場所の移動を表す<すやり霞>の役割を担う

◾️第二景 賭弓 Noriyumi 

箜篌 阮咸 五絃琵琶 四絃琵琶 銅鑼

鳥獣戯画_賭弓

◇賭弓 <夏の戯れ> (宮中近衛府の行事を模す)
・ 箜篌および琵琶群:順に弓を弾き、矢を射る兎と蛙
Ø 楽器の絃を撥や爪でこすりながら、弓がしなり絃にテンションがかかる状態を表す。最後に割撥を奏して、矢を放つ
・ 銅鑼:蓮の葉で作った的の横には狐の審判?
Ø それぞれの矢が放たれるが、なかなか的に当たらず掠っている。(D1) ゴルフプレーヤーのように、どうしたら上手にできるか射手がそれぞれの論を展開する。論より生むが易しと次々矢を放つこととなり、最後に4人同時に放った矢が的中!

◾️間奏 爽籟

笙が象徴する”鳳”は古代文字において"風"を意味する。風は神鳥のはばたきに生ずる。その爽やかな風音に送られて場面は里へ。

◾️第三景 田楽〜相撲 Dengaku ~ Sumou

横笛  簓(ささら)篳篥 大篳篥 メイ 排簫 磁鼓 揩鼓 木鈴

鳥獣戯画_田楽

◇田楽 <秋の戯れ>
・ 横笛2管:里神楽 びんざさらを掲げた蛙の舞とお囃子
Ø 磁鼓は撥、 揩鼓は素手で打つ
・ 於振り:神官風の烏帽子をかぶった猫が現れ、鼠はすかさず見物人の陰に隠れる
・ メイ:続いて、蛙の相撲取りが登場(相撲は神事/秋の季語)

◇蛙の相撲 <晩秋の戯れ>
・ 篳篥族の三管:三匹の蛙を象徴し、この景の最後に大笑いしている輩が、兎との対決に先んじて戯れていたという想定
Ø 塩梅や、押を用いて、相撲の身体性、力の入り具合を表現。
Ø 付点の音型は「はっけよーい」(八卦良い)を唱歌するイメージ
・ 揩鼓:蛙の鳴き声を模すとともに、臨場感を伝える役目
Ø 前半は、太鼓の皮に松ヤニを塗って、指で円形にこする。音高、音量の変化を多様に

鳥獣戯画_相撲

◇蛙と兎の相撲 <本場所> (宮中行事 相撲節会)
・ 揩鼓:相撲太鼓
Ø すでによる連打の中でクレシェンドを効かせ、相撲を煽る
・ 排簫:兎の乱入、問答の後、参戦
・ 大篳篥:蛙の代表 がっぷり四つで一進一退しながら、最後は兎を投げ飛ばす。
Ø カエルの口から発する音声の描写は大変珍しく、以後、絵巻の手法に踏襲されていない
・ 木鈴(クミンの鈴):蛙の笑い声
Ø 前半は掌で鈴をまとめて掴む。最後は、全体を細かく揺らし、投げ飛ばされる兎を見て笑う様を表す。


◾️間奏 =冬霞〜雲中供養鳥獣

・ 竽:雲海のように
・ りん:間遠に、各所から立体的に音が浮かびあがるように 


◾️第四景 法会〜催馬楽Houe ~ Saibara

リン4 読経〜空想中世歌謡 全合奏

鳥獣戯画_法会

◇法会 <鳥獣声明>
・ 読経:蛙の仏に向かって 法会を営む猿僧正。参列者は狐や兎
Ø 般若心経を唱える
・ 箜篌:天上の妙音をうかがわせつつ、変幻して現世に吹く風になる
・ 五絃琵琶:冬に向かう音型(ラ→シ)を意識して
・ 箏:水音が聞こえて、現世(うつしよ)の庭(池)に流れ込む

◇催馬楽 <空想中世歌謡団>
・ 催馬楽:「池の涼しき」は芝 祐靖師への敬意を表し、未来の古典として、般若心経/萬歳楽(笙)とともに合奏する。
・ 読経:般若心経の瞑想から、現実世界へと意識がもどるが如くに、読経が順次「池の涼しき」の歌唱に移り変わる
・ 楽器群:生の営み・躍動を慈しむように妙音を奏でる飛天のイメージ。
・ 楽曲のフィナーレとして、楽器と声による天地共鳴の光景。

◾️使用楽器一覧

竽(U) / 笙(Sho)
篳篥(Hichiriki) / 大篳篥(Oh Hichiriki) / メイ
横笛(Outeki) / 排簫(Haisho)
箜篌(Kugo)
阮咸(Genkan) / 四絃琵琶(Shigen Biwa) / 五絃琵琶(Gogen Biwa)
箏(Sou)
磁鼓(Jiko) / 揩鼓(Kaiko) 
方響(Houkyou) / 銅鑼(Dora) / リン (Rin)
簓(Sasara)
爪鈴(Tume Suzu ) / 木鈴(Mokurei)

※正倉院復元楽器の解説は、下記、伶楽舎の楽器紹介のページをご参照くださいませ
http://reigakusha.com/home/introduction

2021/7/9(金) 21:00 NHK Eテレにっぽんの芸能
(再) 7/12(月) 正午〜 / NHKプラスにて見逃し配信
https://www.nhk.jp/p/nippongeinou/ts/5K1GW1XVN4/episode/te/J1J611W79K/

※楽曲解説(雅楽絵巻『鳥獣戯楽』 楽曲解説その1)へ
https://note.com/tamami_tono/n/n825540c5a3f8/

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