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ひきこもり報道に希望すること

 以下は、「薬物報道ガイドライン」を参考に、ひきこもり報道に「こうあってほしい」と望むことをまとめたテキストです。


【望ましいこと】

・ひきこもりの当事者や家族、支援者などが、報道から強い影響を受けることを意識する
・ひきこもりは個人の要因のみならず、家族や社会などの複数の要因が複雑に絡み合って起こる「現象」であるという視点
・ひきこもりの「異常さ」よりも「まともさ」に焦点をあてていく姿勢
・社会的に排除され、孤立している当事者の苦しみや困難に寄り添う姿勢
・支援としては、医療機関のみではなく、ひきこもり地域支援センターをはじめ、さまざまな公的相談機関、居場所、自助グループ、家族会などがあることを知らせ、時間はかかっても「リカバリー」は可能であると伝えること
・リカバリーはすなわち就労ではない。当事者が主体性や自己肯定感を回復していく過程のことである。リカバリーにおける居場所や対話の重要性を強調し、そのためのルートは複数あることを強調すること
・ひきこもりに関わろうとする人は、当事者に批判や強制なしに関わり、十分な信頼関係を作ることが第一歩であることを強調すること
・当事者の取材をする場合には、まず時間をかけて当事者との信頼関係を作り、当事者の人権、尊厳、プライヴァシーに配慮した丁寧な取材をすること
・取材に際しては取材契約書を作成して同意をもらうこと。また、取材終了後でも同意撤回が可能であることも書面で保証すること
・テレビ出演などを依頼する場合、演出目的で演技やセリフを強要しないこと
・番組でのひきこもりの解説者は、ひきこもり支援に現場で取り組んでいる、立場や所属の異なる二人以上の専門家、もしくは当事者に依頼すること

【避けるべきこと】

・「背を丸めて部屋の隅でうずくまっている」「散らかった部屋で肥満した男性がネットゲームにはまっている」といったネガティブなステレオタイプを使わないこと
・ひきこもりが自己責任による問題行為、あるいは精神障がいである、といった偏見を与えないこと
・事件を起こした人にひきこもり歴があったとしても、そこを強調しすぎず、ひきこもりが犯罪に結びつきやすいという先入観を与えないこと
・ひきこもり当事者は加害者、家族はその被害者という単純な図式化を避けること
・いわゆる自立支援ビジネス(暴力的“支援”団体)の活動を肯定的に報道しないこと※
・自立支援ビジネスのスタッフを「ひきこもりの専門家」として扱わないこと
・就労や経済的自立のみが解決策であるかのような報道をしないこと
・本人抜きで家族の訴えのみを放送し、「年老いた両親を苦しめる困った子ども」といった誤った印象を強化しないこと
・ひきこもり歴のある著名人を、「犯罪から更正した人」のように扱わないこと。もと当事者であっても、現在の当事者を「甘えるな」などと批判する権利はないことに注意
・家族の献身や恩師の一言で回復したかのような、美談に仕立て上げないこと。リカバリーの道のりは単純な美談化はできない


※ 自立支援ビジネスとは:民間団体で、ひきこもり当事者の家族の要請を受けて、暴力的な介入を行う団体が増えています。具体的には以下のような手口が知られていますが、いずれも合法性が疑われる手法です。

・当事者の同意なしに自宅を訪問し、時には強引に自室に入り込み説得や説教、恫喝などで当事者の尊厳を傷つける。
・自室に入る際にドアを破壊するなどの暴力を振るう。
・強引さに折れた当事者を半強制的に車に乗せて寮に連れて行く。
・逃げないように携帯や財布などの所持品を取り上げて、長期間軟禁状態に置く。
・数十万〜数百万円という高額の料金設定。
・これまで問題を起こして報道された団体としては「赤座警部の全国自立支援センター」、「ワンステップスクール伊藤学校」、「あけぼのばし自立支援研修センター」などがあります。


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