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プロトの輩

もう何十年も帰っていない故郷の新杉戸駅には友達の他所くんが迎えにきてくれていた。

僕の家族がはじめてこの街に越してきた半世紀前からある、駅前の泉書房がまだあった。書店のおばさんが僕のことを覚えているらしい。他所くんのドローン車の中でもう一人の旧友と一緒に、今ある近所の本屋の話になった。出版不景気の中で、本屋は今でも立ち読み者の憩いの場になっているのであろうか。

ドローン車は直接両親の住むマンション(今では光輝く尖塔の群れになっている)には向かわず、裏道のハイウェイを音もなく高速移動して見知らぬ駅前を通る。位置からそれが南流川駅だと運転者にいうと、この前のオリンピック(結果的にはパンデミック騒動で中止になった)で、サイバー化された駅なので見せたいと言われた。駅のプラットホームは高層化され、かなり高い位置にある。その下には現代アート的な有機的でアブストラクトな彫像群が、昔ロータリーがあったあたりに屹立している。ドローン車はその周りにポツポツと建つクローム・メッキのマンションの塔をかいくぐる。

こんなに発展した都市で母はどうやって生きているのだろう。歩道でママチャリというわけにはいかないだろうというと他所くんは、「意識高い系のシニアの人たちは、パンデミック後ほとんど外に出ない。出たとしても小型の自動運転ドローンから外に出ないそうだ。最近では格安でポータブルなマルチメディア機器を身につけ、スポーツ、コンサート、その他のイベントに行ってくれるフリーターがいるので、マンションの中からでる理由がない。買い物も出前もそうだ。金を稼ぐためには外に出て、病気や事故に遭うリスクを背負うプロトの輩に身を落とさなければならないが、消費者は家からでることはほとんどない」と説明してくれた。それでは運動不足にならないかと聴こうと思った所で意識が途絶えた。


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