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【感想文】タイタンの妖女/ヴォネガット

『カボチャの炊いたん』

現実には存在しない架空の事柄を、さも存在しているかのように真実味を交えて徹底的に説明することで笑いが生じることがある。

どういうことなのか、「タイタンの妖女」を例に以下、説明する。

【架空の現象①】
作中の随所に現れる「時間等曲率漏斗」という現象について、その原理を本文から引用すると、要するに、

<<この宇宙には、そこへいけばどっちのパパもむこうのパパがなにを話しているのかわかるような、そんな場所がいくつかある。いろいろなしゅるいの真理が、きみのパパの太陽時計の部品みたいに、ぴったり一つになっている。そんな場所のことを、クロノ・シンクラスティック・インファンディブラム(※注:時間等曲率漏斗)という。>>P.17

という原理である。
なるほど、と思った。

【架空の現象②】
ラムファードと愛犬カザックが実体化する原理について、P.283の内容を私なりに整理すると、要するに、

「土星は太陽を公転するから、らせん軌道が描かれ、この場合、ラムファードと愛犬は、実は波動現象だから、太陽とペテルギウス間にあるらせんの中で両者に扮したパルス信号が往復し続け、さらに、これと全く同じ波形のタイタンが”らせん“の軌道をさえぎるタイミングに限って、ラムファードと愛犬は上手いことやってタイタンの上に実体化して出現する」

という原理である。
そら実体化するわ、と思った。

【架空の宗教について】
ラムファードが主催する <<徹底的に無関心な神の教会>> という宗教の指針は、

<<人びとをいつくしめ、そうすれば全能の神はご自分をいつくしまれる>>P.193

ということらしい。
蓋し、金言である。

【架空の科学技術について】
「シュリーマン呼吸法」とは、

<<真空あるいは有害大気内で、ヘルメットないしは他の荷厄介な呼吸器具を用いずに、人間を生存させる技術>>P.159 のことで、「ヒョウロク玉」を服用すると、<<血流はこの酸素を、肺をつうじてではなく、小腸壁をつうじて呼吸する>>

とあり、宇宙だけど小腸呼吸すればセーフというのは、なかなかどうして理に適っているではないか。

このように、生真面目かつ強引な理屈というものは、あまりの馬鹿馬鹿しさに笑えてくることがある。
いずれにしても、本書はヴォネガットによる壮大なスケールの宴会芸だと考えて差し支えはない。

といったことを考えながら、大戸屋という飲食チェーン店で「チキン母さん煮定食」という品を注文したところ、臆病な母親を煮込んだものが提供された。

以上

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