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【春からはじまる冬眠日記 12】ポストに届いたホットケーキ

2020年5月19日

ポストを開けると、分厚く、ずっしりと重いレターパックが入っていた。差出人は、関西に住む友人だ。

なにか本でも送ってくれたのかな、と開けてみたらホットケーキミックスが一袋。国産小麦にバターミルクをつかった、よつ葉のおいしいやつだ。子どもたちに宛てた手紙には、太陽の塔と通天閣のイラストとともに、「家族みんなでおいしいホットケーキを食べてね」と書かれていた。

子どもは大喜びで、娘は「週末にひとりでホットケーキ焼いて、それをYちゃん(差出人の友達)に送るね!」と張り切っている。「いや、ホットケーキは焼きたてを食べたいだろうから、写真を送ってあげたらいいんじゃないかな?」とやんわり興奮を抑えつつ、わたしも内心はホットケーキを届けたいくらいの気持ちでいっぱいだった。

ニュースではホットケーキミックスをはじめ、小麦粉がスーパーの棚から消えたことを連日のように伝えている。きっと、見つけたから送ってくれたんだろう。店頭でホットケーキミックスを見たときに、うちの子が浮かんでくれたことが、なによりうれしかった。

と同時に、わたしはこんなにリアルタイムで相手への気持ちをさっと送ることができないなぁと、反省もした。

ホットケーキミックス1袋を送りたいと思っても、ついつい「これひとつだけ送っても仕方ないから、ほかになにか一緒に」と考えてしまって、ついついずるずると先送りにしてしまう。だってレターパックにみっちり詰まったホットケーキ1袋、こんなお届け物、見たことない。SNSに「素敵便」のタグとともにあがる写真は、通販をやっていないめずらしいお菓子とかパンや作家もののアイテムなんかだ。素敵便にする必要などないとわかっていても、ついついわたしは、なにか、なにかと躍起になって詰め込まねばと思ってしまう。

思えば両家に送る七五三の写真も、なにか一緒にお菓子でも、と考えながら数ヶ月寝かせてしまったし、親に頼まれていた歯磨き粉(たまたま夫の会社で安く買えた)も、なんと送ったのは半年後。ズボラなくせに、形式や見栄えをとことん気にして、肝心のタイミングを見失うのは、昔から変わらないわたしの悪いところだ。(なんかもう、自分で書いてて嫌になる)

七五三の写真も歯磨き粉も、見たい、使いたいタイミングがあっただろう。ホットケーキミックスだって、今の状況で届いたからこそ、こんな中で我が家のことを思い出してくれたんだ、という嬉しさがあるってものだ。

実をいうと、同じホットケーキミックスはすでにわが家にあった。(あぁ、言ってしまった。ただし子どもは知らない)でも、食べたことのないパンやスイーツが届くより、このレターパックのホットケーキミックスはなによりうれしいギフトだったし、贈り物の本来の意味を教えてくれもした。

この先、今の自粛生活を振り返るときには、このへんてこりんで温かいお届け物のことも一緒に思い出すのだろうな。週末はホットケーキを焼こう。少し先の楽しみがあるって、しあわせだ。


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