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今年の運を使い果たして十勝のどインディーズバンドに会いに行ったら、一生の宝物ができた

突然だが、みなさんは好きなアーティストやアイドル、あるいは役者さんなど、追いかけている人、いわゆる「推し」はいるだろうか。

もしいたら、ちょっと想像してみてほしい。

実はその人が、どこにあるのかもよく分からない田舎に、スタジオなり稽古場なり自分だけの拠点を持っていたとしたら。

そして、ある日突然、みんなをそこに呼んであげるよって言い出したとしたら。

……いやいや、まず田舎の拠点ってなんやねん!という感じだろうか。

仮にそんなものがあったとして、そんなプライベートなところにファンが行けるわけなかろう。馬鹿なこと考えてないで仕事しろ!とでも言われてしまうだろうか。

だが、そんな「んなわけ!」をやってのけた人たちがいる。

それが、ZION(ザイオン)というバンド。わたしの愛するバンドだ。

2020年に東京で結成された5人組なのだが、その年に北海道・十勝に拠点を移動。古民家を自分たちで改築して作ったスタジオ、通称『ホワイトハウス』でワールドクラスロックを目指して活動している、自称「どインディーズバンド」である。

これだけでもいろいろ濃すぎるのだが、なんと彼らが拠点のホワイトハウスでライブを、しかも、そこまでお客さんをバスで案内するミステリーツアーを開催するというのだ。

彼らと出会ってから、奈良から札幌までライブに行くようになったし、いつか絶対に十勝にも行ってみたいとは思っていた。が、十勝どころか拠点そのもの⁉しかも、バスツアーまで。

とはいえ、さすがに大人数を入れることはできないので、参加できるのは1日40人×2日の80人限定。どうせ外れると思ってほぼ宝くじの気分でチケットに申し込んだところ、なんとまぁ、当選してしまうという。

いやいやいや。こんなの、もう今年の運は全部使い果たしてしまったのでは……

そんなこんなで、ただただ幸運が重なって、思いも寄らない形で憧れの場所に行けることになった。

結論から言うと、何もかもが贅沢で幸せすぎる最高のツアーだった。これは一生の宝物だ。なんてったって、バンドの拠点とゆかりの地に足を運ぶことができたのだ。

そういうわけで、ここではその思い出を綴りたい。少しでも宝物のお裾分けになれば嬉しい。

長くなりそうなので、お付き合いいただけるようならお茶でも飲みながらゆっくりと。聴ける方は、よければこのアルバムなどお供にどうぞ。


楽曲を生んだ十勝の風景

「どんな事があるかは当日までのお楽しみ」だという謎多きツアーは、真っ昼間の帯広駅からスタートした。

集う選ばれし40人。

緊張感に包まれる中、登場したのはギタリストの櫛野(くしの)さん。「緊張してるひと〜(挙手)」の第一声に、ちょっと気持ちがやわらぐ。

この日はギタリスト兼ガイドとしてずっと一緒にバンドゆかりの地をめぐり、ホワイトハウスまで案内してくださった。

ツアーでまず嬉しかったのが、ZIONの楽曲を生んだ景色が見られたこと(写真を撮りそびれた…泣)。

駅からしばらくバスを走らせると、都会の装いのある景色からだんだん建物と人が少なくなり、増えてゆく緑。気がつけば、目に入るのは遠くに連なる山々と一面に広がる緑の大地。そして、どこまでも続く青い空。

日々、盆地と都会を行き来しているわたしには、それはそれは新鮮な景色だった。

そして、車内に流れるバンドの楽曲。

あぁ、そうか。この曲たちは、この風景の中で生まれたんだ。
そう思うと、目が潤んだ。

十勝生まれの曲たちを、いつかその風景を見ながら聴きたい。その夢が叶った瞬間だった。

バンドの作品が並ぶ道の駅 ピア21しほろ

さて、ツアーで最初に立ち寄ったのは、道の駅ピア21しほろ

なんとここ、ZIONのCDが買える唯一のお店なのだ。オンラインショップもあるので全国から買えはするが、道の駅でCDとは……。いったいどうやって思いついたんだろうか。

道の駅に並ぶ作品たちは、まさに十勝の名産品。この光景が見たかった。

そしてこの日は、玉ねぎ染めのバンドTシャツも販売されていた(写真の下の方)。廃棄野菜を使った衣服染めの活動をしている地元のグループとコラボしてつくったのだそう。

地域のいろいろな人たちとつながりながら活動していることが感じられる場所だった。

メンバーいちおしのソフトクリームが食べられるレストラン カントリーパパ

分かりにくい写真でごめんなさい…

次のスポットは、カントリーパパというレストラン。創作活動の合間、ここに休憩に来ていたそうだ。赤っぽい壁に白い屋根のカントリー朝の外観がかわいい。

ここでメンバー大絶賛のソフトクリームが食べられるということで、着くやいなやカップのソフトがお出迎え。

カップが主役みたいになってしまった…

さっそく口に運ぶと、たしかにめちゃくちゃおいしい。ミルクの味わいってこれのことを言うのか……!と思わされる味だった。

そして、周りを見渡せば、緑の芝と木々と青い空。こんな素敵な風景に囲まれて食べるのだから、味もひとしおだ。

ちなみに、ここで飼われていたラバ(だったと思う)のはなこちゃんの声がバンドの楽曲の中に入っているのだとか。残念ながらもうお亡くなりになってしまったそうだが、まさか楽曲制作にそんなかわいいゲストがいたとは。

改めて、ZIONの曲にはいろいろな十勝がつまっているんだなと思う。

バンドの聖地 然別湖

次が、ホワイトハウスに辿りつく前の最後のスポット、然別湖。ここはバンドの諸々によく登場する場所だ。

最初のアーティスト写真はここで撮られているし、湖畔や凍った湖の上でライブをしたことも。メルマガや動画などにもたびたび出てくる。おなじみの場であり、聖地ともいえる場。

着いた瞬間、
あぁ、あの景色だ!
と胸が高鳴った。

山と湖の景色に神秘的な雰囲気を感じつつ、妙に馴染みのあるような感じもして(写真だけはたくさん見てきたので)、なんだか不思議な感覚。

この場所を知ったときからずっと来たかったので、今回この景色が見られて本当に嬉しかった。おまけに、アーティスト写真と同じ場所で集合写真を撮るという貴重な体験まで。

ただ、写真を撮ってトイレに行ったら終わってしまったので(笑)、またゆっくり来たい。

本拠地『ホワイトハウス』

さあ、いよいよ。いよいよ本拠地のホワイトハウスへ。車内でこの場所に拠点を移すことになった経緯を聞き、高まる気持ちの中、ついに到着。

ここからはスマホ電源OFFのため、写真は1枚もなく……なので、各スポットで配られたお手紙に描いてあったイラストの写真を。

ホワイトハウス(の絵)

スタジオにしたというので(そしておそらく名前のせいで)勝手にめちゃくちゃでかい建物を想像していたのだが、本当にこのイラストのような「お家」という感じだった。

さて、到着後、まずはお庭で超豪華ディナー(ディナーがついていること自体が贅沢)。メインメニューはなんと、ベーシストの佐藤さんがプロデュースしたカレー

ホワイトハウスでの活動中、バンドのごはん係を担っているのがこのお方。カレーを中心に、いつもおいしそうな写真がメルマガやインスタに上がる。それを見るたびに、「いいなぁ、わたしも食べたいなぁ」と思っていたら、それが叶ってしまうという。

しかも、給食みたいに器を持って並んで取りに行ったら、ご本人がよそって渡してくれるなんて。こんなことがあっていいのか。

もちろん味もめちゃくちゃおいしくて、なんかもう夢中で食べてしまった。これが家で食えたなら……グッズとしてレシピ売ってくれてもええんやで?なんて勝手なことを思っていた(厚かましい)。

ほかにも前菜にバーニャカウダ、ローストビーフなど、地元の食材をつかったメニューがたくさん。写真を撮れないのが惜しいぐらいおしゃれなご馳走だった。

ほんとにいいんですか、こんなにしていただいて……

・・・

さて、ここまでだけでも十分濃密な内容なのだが、本番のライブはこれから。濃すぎる。

時間になると、ガラス張りのテラスからホワイトハウスの中へ。ツアーのプレゼント(!)として頂いたルームシューズに履き替えて部屋にあがり、並べられた木の丸イスに座って待つ。

中は、スタジオといっても機材だらけの無機質なものではなく、木のぬくもりを感じるような雰囲気。タペストリーがあったり、バッファロー(たぶん)の頭の骨の装飾があったり……アメリカの田舎の家みたいなイメージなんだろうか。

いろんなこだわりが詰まっていそうだなぁとか、ここで曲づくりをしているんだなぁとか思いながら、あちこち見回していた。

そして、いよいよ始まるライブ。

一人ずつメンバーが登場。ここを拠点にしているとあって、いつになくのびのびしているように見えた。すっかりここがホームなんだなと。それが伝わる空気感だった。

ライブについて書きたいことはいろいろあるのだが、ここは一番印象に残っていることを。

それが、Yowamushiという曲でのこと。

ZIONはもともと東京で結成されたバンドということもあり、楽曲の中には東京で生まれたものもある。そこから十勝に拠点を移し、はじめて最初から最後まですべて十勝でつくったのが、この曲だそうだ。

そんな話を聞いたからか、イントロがはじまると、この日見た風景が、まるでアルバムを一枚ずつめくっていくように一つひとつ頭に浮かんできた。

そうして聴いているうちに、さらに遡って、この日ここに来るまでにあった諸々のことが思い出され、気がつけば目には涙がにじんでいた。

ZIONの曲を聴いていて、とりわけライブで聴いていてよく感じるのが、余白があるということ。

情報が詰まりすぎていないというのだろうか。いろいろなことに思いをはせることができて、自分の中にある嬉しいことも楽しいことも、そして辛いことや悲しいことも、何もかもをのせていくことができる余白がある。そんな感じがする。

そして、この「余白がある」という感覚が、この日見た十勝のあの広々とした風景と重なった。

どこまでも広がっていく空と大地。

のびのびとした自由を感じさせるその景色が、聴き手がいろいろなものを思い描くことのできる余白を生んでいるのかもしれない。

だからこそ、ZIONの曲を聴いていると、いつもいろいろなものが込み上げてくるのかもしれない。

そんなことを感じさせるライブであり、ツアーだった。

他にもあんなこと、こんなこと、たくさんあったけれど、楽しい時間というのは早いもの。あっという間に最後の一曲まで終わってしまった。

さすがにアンコールとかはないのかな……と思っていると、「焚火するか!」の一言。ちょっとしんみりしていた場がぱっと明るくなった気がする。最後は庭に出て、みんなで焚火を囲みながら、本当に本当のラスト一曲。

こうして豪華すぎるライブは幕を閉じた。

・・・

ライブが終わってから、帯広駅までのバスの中も、十勝から帰る間も、そして、これを書いている今も、なんだかずっと不思議な余韻の中にいる。

あれは本当にあったことなんだろうかと、今でもちょっと信じられないような。でも、たしかにわたしはあの場所に行った。それは間違いない。

そんな、夢のような時間だった。
これはもう、一生の宝物だ。

こんな最高に贅沢で素敵な企画を考えてくださったZIONのみなさん、そして、ツアーの企画や準備、運営に携わってくださったすべてのみなさんには、どれだけ感謝してもしきれない。本当にありがとうございました。

そして、ここまで読んでくださった方にもお礼を伝えたい。一つひとつ思い出を噛みしめて書いていたら、えらい長くなってしまった。拙いなりに、今回のツアーやZIONというバンド、そして十勝の魅力が少しでも伝わっていればと思う。

それでは……正直、余韻に浸っていたくて書き終えるのが嫌になってきたのだが、この辺で。いつかまた、この場所を訪れることができる日を夢見て。

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