見出し画像

日本の最東端で、怒声を浴びる

旅先で本気の怒声を浴びたことがありますか?
恥ずかしながら、私はあります。
しかも日本の最東端の地、納沙布岬で。

あれは2016年の6月末の北海道旅行でのこと。
釧路駅から花咲線を乗り通して根室駅へ。
さらに路線バスに乗り継いで納沙布岬まで。
私にとっては2回目となる日本の最東端の地訪問でした。

バスで納沙布岬を訪れるとなると、時間的にはかなりタイトです。
復路のバスの発車までわずか50分ほどしかありません。

うっすらと霧が立ち込め、6月末だというのに肌寒ささえ感じる中で、
納沙布岬灯台、モニュメント群と足早に見て回ります。

画像2


画像2


画像3


残念ながら海の向こうに北の島々の姿を見ることはできませんでした。


帰りのバスの時刻までおよそ10分となったところでバス停へと急ぎます。
ふと、途中の観光案内所のような建物にトイレのマークが見て取れました。
復路のバスも丸々40分以上かかります。
ここでお手洗いを済ませておくのが賢明でしょう。


案内所の正面のガラス戸を横に引いて静かに中へ入ります。
しかしこの時、私は致命的な失敗を犯してしまったのです。

公共施設などの玄関によく設置されている横開きドアには「半自動」のものがあります。
人力でドアを開けると、内蔵されたバネの力でゆっくりと閉じていく仕掛けです。

何を血迷ったのか…
私は案内所のドアをこの半自動タイプのものだと勝手に思い込んでしまったのです。

(半自動のはずだから)ドアを閉じることなく、私はそのままスタスタと中へ入っていきます。
(半自動ではないのだから)当然ドアがひとりでに閉じてくれることなどありません。

その瞬間、鋭く激しい怒声が飛んできました。

「ゴラァ!閉めろやぁぁ!!」

優しい注意の声などではありません。
ドスの効いた完全に本意気の怒声です。
見ると、案内所の職員らしき人がこちらを睨みつけています。

6月末なのに納沙布岬はまだまだ寒く、なんと室内には暖房が入っているようでした。
呑気に南からやってきた私の行為は、この北の地ではまさに言語道断だったようです。

私はまるで漫画のようにわーすみませんわーすみませんとひたすら平謝り。
慌てて横開きのドアを閉じてから、逃げるように奥にあるトイレへ駆け込みます。
半ば呆然と、そしてどんよりとした気持ちで用を足しました。

意を決して、サキホドハドウモスミマセンデシタと呪文のような声を発しながら外へ出ます。
恥ずかしさと申し訳なさのあまり、職員の方の顔はまともに見れません。
そして問題となった横開きのドアを、これ以上ないほど丁寧かつ確実に閉じる作業に努めます。
今度こそは怒られることなく任務完了しました。


復路のバス内の記憶はほとんどありません。
旅先でやらかしてしまった…
しかも完全に自分のミスで…

確かそんなことばかり反芻しながら、気が付いたら根室駅に着いていたような気がします。


あれから色々な場所の旅を続けていますが、怒声を浴びたのはさすがにこの時だけです。

見知らぬ土地の旅は楽しいものです。
しかし、そこは決して住み慣れたホームの地ではありません。
同じ日本でも、気候も違えば人々の考え方や習慣も異なります。

現地の温かいホスピタリティを期待しつつも、
それに完全にアテにして甘えてしまうのは良いことではありません。

うっすらとした良い意味でのアウェイの意識も常に持っておかなければならない。
そう思わせてくれるような出来事でした。

「旅の恥は掻き捨て」なんて言葉は、もう遠い遠い過去の遺物です。


あれ以来、「最東端」とか「納沙布岬」という文字を目にするたびに、
まるで条件反射のように私の背筋はピンと伸びてしまいます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?