江戸の娯楽のリアルな裏側について、超おすすめ本
「ちょっとまて、昔の人たちの生活、とくに仕事終わりの娯楽が楽しそうだぞ」。江戸の庶民の楽しみは娯楽への消費だった。当時は寿命も短いし、出世に期待してないし、資産があってもすぐ火事で燃えるし、貯金をしてもしょうがなかった。その日暮らしが正しかったのである。だから、娯楽で遊ぶのが正道であった。ガチで「宵越しの銭を持たなかった」らしい。うん、超楽しそう。
人生を通じて「遊びが足りない」と感じる社会人(僕もそうだ)は、ぜひこの書籍を読んでみてほしい。確実に「なんか遊びにくわしくてオモロそうな人」という印象を与えられるだろう。その印象は人生においてめちゃくちゃ役立つ。性格も少し明るくなるんじゃない?
著者は歴史家の安藤優一郎さん。あの名著『江戸の間取り』でおなじみの安藤さんだ。本書では江戸の娯楽、すなわち博打(ギャンブル)、グルメ(すし、そば、てんぷら)、色街、芸能(寄席、歌舞伎)、お祭りのリアルについて紹介してくれる。いまも昔も、非合法チックな香りがすることほど娯楽レベルが高いことがわかる。その一つ一つについて、詳しく知ることは現代の人間を理解することの助けにもなるはずだ。
紹介したい話はたくさんあるけど、なかでも僕の大好きな歌舞伎の話を紹介したい。当時、歌舞伎は金がかかる遊びで庶民にとって高嶺の花であった。江戸の街の経済的な活発さを表すこんな言葉がある。
歌舞伎を演った芝居町は、今でいう億単位の金が消費された場所だそうだ。しかし、芝居だけで千両に達したわけではない。その周辺の飲食店、見せ物小屋、矢場など芝居を中心とするエンターテイメント・エリア全体で千両の金が消費された、称した。今のYouTubeじゃん。
歌舞伎役者は現代のインフルエンサーである。歌舞伎役者は女性に大人気であり、それに引きずられて男性にも人気を博した。芝居を嫌いな女性はおらず、女性を嫌いな男性はいないので、当然と言える。当時の流行の発信地は歌舞伎であり、役者のセリフや衣装が流行を牽引した。歌舞伎は現代のテレビやネットにあたるメディアであったのだ。
歌舞伎役者はあまりに影響力が強いので幕府にも目をつけられた。天保の改革の際、江戸歌舞伎のシンボルであった七代目市川團十郎が華美な生活に耽っているとして、江戸を追放されたのだ。YoutubeのアカウントがBANされたようなものだ。政治が介入するほどの強い影響力があったのだ。現代であればアパレルブランドを設立して一年で数十億の売上を作れるだろう。
そうそう、著者の安藤優一郎さんは僕の推しである。試しにWikipediaで著作リストを見てみよう。以下は長いリストのうちほんの一部であるが、明らかにテーマがかた苦しくないことがわかる。遊び心にあふれた方であろうことがわかる。ぜひ一回お茶でもしたい。
『大江戸の飯と酒と女』朝日新書 2019
『江戸の不動産』文春新書 2019
『百万都市を俯瞰する 江戸の間取り』彩図社 2019
『春画でわかる江戸の性活』宝島社〈TJ MOOK〉、2021年
さらにWikipediaには安藤さんの不祥事について書かれているがこれもおもしろい。詳細については触れない。もはやネタであろうが、遊び人っぽさがあって僕は好きだ。
ちなみに、先に紹介した天保の改革のテーマは「質素倹約」だった。人々の生活が華美に流れたせいで社会が乱れた、との認識だったためだ。そこで風俗の取り締まりや贅沢に規制が強化された。
その結果、消費が萎縮してしまい、米屋など生活必需品以外すべての売上が下落した。特に高級品である呉服屋は売上は激減。新しい建物への投資も減ったため、大工や鳶や職人の稼ぎも減り、娯楽や遊興に費やされるお金も減ってしまった。さらに人通りも減ったことで景気が悪化して人々の不満はどんどん溜まっていった。為政者にセンスがないのである。
結果的にこの改革は失敗したわけだか、遊びを知らないような面白くないリーダーに政権を任せると生きるエネルギーを奪われてしまうのも、今も現代も変わらないことなのだとよくわかる。みんなで金使って遊んでエネルギーを奪われないようにしようね。
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