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【書評】『だから、もう眠らせてほしい』安楽死を熱望する人は何を思うのか?

「苦しんで死ぬなら安楽死したい」「他人に迷惑をかけないよう、からだの自由がきかなくなったら安楽死したい」そんな声をよく聞く。その気持ちはよく分かる。僕も「年を取ったら安楽死が認められているスイスに旅行に行き、3,4日観光して、そのついでに安楽死しちゃおうかな」と軽く考えていた。また、なぜ日本では安楽死の議論がほとんどなされないのだろう、と不思議だった。

ところが本書を読んで、スイスであってもそう簡単に安楽死できないことがわかった。僕のように安楽死について関心はあるけどよく知らない人にぜひ手にとって欲しい。

本書は事実にもとづき、個人が特定されないように30%ほど設定を変えたフィクションだ。著書は患者の心と身体をケアする医師だ。患者と対話し、希望をくみ取り、治療方針を決め、終末期の苦痛をやわらげるケアをする。いつ延命治療を止めて家に帰すべきか、もう永遠に目覚めないよう薬で眠らせるべきか、答えのない問題に正面から向き合う。

安楽死が認められている国はスイス、オランダ、ベルギーなどだ。安楽死の許可を得るには自殺ほう助団体(ライフサークルが有名)の会員になり、多くの条件を満たす必要がある。医師の診断書をはじめ多数の書類が必要でただ自殺願望があるだけでは門前払いをくらう。

安楽死には2つのパターンがある。ひとつは積極的な安楽死。医師が薬を投与し、直接的に命を縮めるパターンだ。もう一つは医師による自殺ほう助。医師が薬を処方し、患者が自分の意思で服用するパターン。

安楽死は、尊厳死とはまた少し意味合いがちがう。尊厳死は消極的安楽死とも呼ばれ「延命効果があまりないのに苦痛をともなう治療を、本人の意思で止める」ことを指す。いわば自然死だ。

本書に登場する吉田ユカ(37才)は末期がんで回復の見込みがなく、治療法は存在しない。心身ともに耐えがたい痛みがあり、スイスでの安楽死を希望している。ユカは「日本では安心して死ねる場所がない」と言った。

家族も彼女の意思を尊重している。書類と資金も用意した。しかし、安楽死の許可を得ることが出来なかった。それほどハードルが高いのだ。彼女のスイス行きは叶わなかった。

「安楽死が認められた患者は、生きる希望がわいてくる」ものらしい。矛盾するように聞こえるだろうか。でも、想像して欲しい。身体の自由がなく、治療する方法がない。家族に迷惑をかけたくないのに安楽死が認められない、と追い詰められた気持ちが、安楽死が許可されたことで解放されないだろうか。

もういつでも安楽死できることがわかったので、どうせならもう少しこの世界を見てみるか、と思うのも不思議ではない。出口が見えると解放されるのだ。日本で安楽死を議論する前に読むべきオススメの一冊だった。


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