屋台の匂いに風鈴を読む。

今日の夕飯は焼鳥にした。
いつも行くスーパーの道中にある地元の小さな焼鳥屋さん。
民家の一部がお店になっていて立ち呑みもできるらしい。
越した時から買いに行こうと話していたが、営業時間とすれ違いで、なかなか行けていなかった。

『H-i!(はぁーい)』
渋いおばあちゃんが出てくると予想していた。
が、英語っぽい発音のフランクな挨拶で現れたのは、ガテン系(これは友人による形容詞、私はガテンの意味をいまいち分かっていない)のダンディーなおじさまだった。
顎髭に白髪が交じり始めていている。

テイクアウトで2人前のオードブルを頼もうとしたが、前日予約が必要だったらしい。
友人の提案で、単品で串を全種類2本ずつ購入した。
学生は消費税を無視してくれるらしい。
特に確認もなかったので、とりあえず学生という事で税金は回避した。
お店の目の前は高架下。
出来上がるまでそこで待っていた。

後輩のバイクが、バイトに行くのを見かけた。
私も友人も、バイト先が休業中で仕事がない。
不安と退屈とエネルギーの発散不足は、最近の私たちをしっかりと苦しめている。
夕飯が焼き上がったことを告げる声。

初老のお兄さんはキャベツも付けてくれた。
『はーい、手ぇ出してー。』
と、言われるがままに手を出すと、カウンターの中からアルコールスプレーで消毒してくれた。
繊維も取って、健康に気を付けてね、と。
人情のある接客も相まって、いっそうハンサムなお兄さんに見えた。
にしてもアメリカンな人だった。
たぶん純日本人だと思うが、ハーフと言われても違和感はない。
海外生活の経験がある雰囲気。
まぁ、勝手な想像だが。

コンビニでビールを買って帰る。
さっそく食べた。
旨かった。
焼鳥はスーパーのお惣菜で買うことはあるが、やっぱりその道のものは一味違う。
部屋の中が屋台の匂いになる。
この感じも含めて、焼鳥だ。
そういえば、今年は屋台には無縁なのか。
花火大会とか、これからの季節の楽しみはおそらく潰れる。

せっかく商店街の近くに住み始めたから、6月になると毎週末催される夜市も、ずいぶん楽しみにしていた。
残念だ。
りんご飴も唐揚げも、はしまきも電球ソーダも、今年の思い出には姿を見せないだろう。
そういう夏は、どういう夏になるのか。
その前に梅雨が来る。
果たして梅雨さえまともに来るのかどうか。
あまり落ち込む方に考えても詰まらない。

風鈴が売れる。

こういう風に想像したらどうだろう。
みんな軒先やベランダに風鈴を出して、重なる風鈴の音が、世間と個別の屋根とを繋げる。
私たちが一般に思い浮かべる風鈴も、もとを辿れば寺の風鐸から来ている。
なにも無根拠な主張ではないのだ。
風と共にやってくる災いから、私たちを守る魔除けの「舌」である。

虫も増え、常夏の気分が熱波に乗ってやって来る頃。
いろいろな風に吹かれるがままの生命たち。
その微小に、澄ました顔で呼び掛ける音は、渾然一体。
今と昔さえ分別しない。