「先生!Google翻訳使っていいですか?」

怒涛の12連休となったGWの課題が続々と提出されてきました。

課題の一つが「休校期間中の自分の生活」または「休校期間中の発見」について,プレゼンかスピーチかレポートで発表するというもの。

この課題,レポートにしろプレゼン・スピーチにしろ中2とは思えないほど長い文章を書けている(話せている)子が複数人いました。
彼ら(の多く)は機械翻訳を使って,日本語で書いた文を英語に変え,そのままコピペしているのです。

機械翻訳の使用は禁止していない

僕は今回の課題で機械翻訳の使用を禁止していません。それはそもそもこの課題を課した最大の目的が,生徒のことをよく知ることだったからです。書きたいこと・言いたいことを最大限表現してもらうことに重点を置きました。

でも,やはり実際に機械翻訳にかけられた提出物を見ると,たまに全く意味の分からない文になっていることがあります。
その原因は大抵,翻訳前の日本語のクオリティにあります。
日本語自体が文法的に間違っていたり,曖昧な表現を使ったために本来の意図とは違う英訳をされたり。

そこで,いっそのことGoogle翻訳で上手に翻訳してもらえるような日本語を作る練習をしてみよう,と思いました。

動機は主に3つ。
① 「英語らしい文構造」みたいなものを体験的に学べるかもしれない
② 日本語と英語の特徴の違いを感じてもらえるかもしれない
③ なんか楽しそう!


Google翻訳に上手く訳してもらえる日本語の文作り(授業案)

GW明け初回の授業で,ある生徒のGW課題のレポートを紹介しました。
その生徒は,オンライン授業により中学生が目に疲労を感じているだろうと考え,
実際に同級生にアンケートをとって,その結果をまとめ考察していました。

章構成も,仮説に始まり,方法・結果・考察と,中2にして既に研究レポートの型をマスターしています。

だからこそ,意味が伝わらない英語に翻訳されてしまっている部分が勿体無い。
というわけで「田中くん(仮名)の日本語を直して,完璧な英語に翻訳してもらおう!」というテーマで,
3箇所の文法ミスを抽出し,その原因となった日本語をどう直せば良いか生徒に考えてもらいます。
(Zoomのブレイクアウトルーム機能を用いて,3~4人のグループを作ります)
各班で一つずつ改訂版の日本語を考えて,Zoomのチャット欄に書いてもらい,
その中のいくつかを実際にその場でGoogle翻訳にかけて見せるつもりでした。

以下に,授業で取り上げた日本語文と,文法的・意味的誤りを含んだ翻訳結果をお見せします。
また,続けて田中くんの言いたかった内容を整理し,翻訳結果の誤りを簡単に解説します。

【1】
そのうち,54%の7人が疲れる,疲れないは,46%の6人でした。
→ Of these, 54% were tired of 7 people, and 46% were not tired.
アンケートに答えた13名のうち54%にあたる7人は「(目が)疲れる」,46%にあたる6人は「疲れない」と答えた,と言いたいわけです。
しかし英訳を見ると,「54%の7人」が通じていないようですし,「6人」については消えてしまっています。


【2】
未来の大人が眼鏡,コンタクトばかりの人となってしまう危険性がある。
→ Future adults will become people who only wear glasses and contacts.
今の子ども達が目を酷使すると将来みんな視力を落とし,メガネやコンタクトをした人ばかりになってしまうと言いたいのでしょう。
しかし,英訳の方を見ると,  "people who only wear glasses and contacts”ということで「メガネやコンタクトしか身につけない人」。
言い過ぎかもしれませんが,全裸にコンタクトorメガネという大人達になるということになってしまいます。


【3】
では,中学生は,実際に目が疲れた場合どんな対処方をしているのか,実際に投票してくれた人(小学校の友達)に聞いて見ました。
→ Then, junior high school students asked the person who actually voted (a friend at the elementary school) to find out what to do when the eyes were actually tired.
田中くんは疲れたか否かを訊くだけではなくて,疲れた場合どう対処しているのかまで調査しました。
しかし英文を見ると明らかに間違っています。調査をしたのがjunior high school studentsになってしまっています。
調査対象のはずの彼らが急にaskの主語になっていて,僕が最初にこの文を読んだ時には思わず「え?」と呟いてしまいました。


Google翻訳に上手く訳してもらえる日本語の文作り(実践)

この授業,発想としては自分好みでした。それだけに自分の授業力のなさが本当に悔やまれます。

【1】
まず【1】に関してはあまりやり方・求められていることが理解されておらず,
ブレイクアウトセッションでもグループによってはほとんど話していないところもありました。
メインセッションに戻った後もこれといって意見も出なかったので,僕が見つけた上手くいく一例を見せました。

画像1

ここでは「54%の7人」と言った時の「の」を前後を等価の情報として並べているマークだと捉え,「,つまり」を挟みました。
すると6人という数字も含めてしっかり元々言いたかったことが伝わる文になりました。

【2】
次に2つ目,ここでは先ほどよりは活発に話し合いが行われたようで,生徒からの提案もありました。
生徒から提案された日本語は,「将来の大人はコンタクトやメガネをかける人になるリスクがあります」
それをGoogle翻訳にかけてみると,"Adults in the future are at risk of becoming contacts and eyeglasses wearers."
元々の翻訳文でonlyの位置が問題となり,大きな意味的誤りが生まれてしまいましたが,彼はそのonlyを生み出している「ばかり」を消すことで誤りのない文を作ろうとしたのです。
一つの合理的な判断だと思います。

かわむらからの一例はやはり「ばかり」の位置を変えた,(そして何故かその「ばかり」を「だけ」に変えた,)以下の文です。

画像2

授業準備の段階で何故「ばかり」を「だけ」に変えて,どこか不自然なものにしてしまったのかは正直不明なのですが,
とりあえず「ばかり」や「だけ」,英語で言えば”just”や”only”の位置は文全体の意味に大きく関わりますよ,という話をしました。

【3】
最後に関しては授業の残り時間が足りなかったため,グループワーク無しでお題と一例を発表してしまいました。

画像3

ただこの例は個人的には非常に気に入っていて,田中くんの文「では,中学生は,実際に目が疲れた場合どんな対処方をしているのか,実際に投票してくれた人(小学校の友達)に聞いて見ました。」から,「中学生は」の直後の読点を省いただけとなっています。
つまり,機械翻訳は主語述語構造の不明瞭な日本語の文において,読点をその構造分析の手がかりにしているということになります。
この,読点一つで翻訳結果の主語述語関係を大きく変えてしまうという例が何人かの生徒の印象に深く刻まれていれば嬉しいなと思います。
だからこそ、人と話すという過程を十分に取れなかったことは反省せざるを得ない…。

この授業を通して伝えたかったこと

授業終盤にある生徒が「なんか国語みたい」とチャットで発言してくれました。
僕にとってこれは褒め言葉です。「言葉」について,母語・外国語×機械翻訳みたいな枠組みで学びたいという授業でした。

また,機械翻訳で英語に正しく訳されやすい日本語を考えることは,結局以下のような言葉の精密な使用を可能にする手助けになると考えています。

・主語・述語関係を明確にする
・熟語を文(正確には「節」?)にする
・修飾・限定の関係を明確にする
・「だが」「ですが」を逆接以外で使わない
・「ので」を因果関係以外で使わない

まだこれらの全てを教えたわけではないですが,授業の構想段階の楽しさと実践段階のミス故の辛さが共存が辛くてリベンジしたいので,また今年度か遅くても来年度には再挑戦したいなぁと思います。

また,この実践の動機としてこの3つをあげました。

① 「英語らしい文構造」みたいなものを体験的に学べるかもしれない
② 日本語と英語の特徴の違いを感じてもらえるかもしれない
③ なんか楽しそう!

結論から言えば,どれも不完全燃焼…。

①と②ついては一部生徒の発話から,①「主語が明確」②「日本語は曖昧」「母語だから適当でも分かっちゃう」ぐらいのことは引き出せました。
③については,生徒の様子は(Zoom上なので把握は難しいですが)頭を使った疲労感と慣れないことをやらされた疲労感,どちらとも取れるような感じ。僕は僕であまり上手くいかなかったな,というネガティブな気持ちで授業を終えてしまいました。

書いてて思いましたが,こりゃ単元にするべきでした。

アイデア◎ / 授業力×

まず今回の授業は,授業者として反省すべき点が多いです。
あまりなれないタイプの活動で,しかもグループワークを伴うので,オンラインでは厳しいかなぁと思いながらも,どうしても提出直後の課題をそのまま授業の題材にしたい気持ちが強くてこのタイミングでやりました。
しかし,何人かの生徒らは何をすればいいのか分からないまま1回目のブレイクアウトを終えてしまいました。
ただ,この前に別の例を見せてやることを明確にするという時間があったかといえば,それは到底無理でした。(単元にしろ)

GWの宿題も含めて,あまり優しく手厚い支援を自分はしていません。
「まずはやってみな!」の精神でやらせることが多いです。
「出来た!」という喜びを感じる前に「難しいな」と感じてほしいと思っている部分があるんだと思います。
(今後の更なる実践でより深く自分の教育観・授業観に迫りたい)

ただ,そういう授業の難点の一つだと思いますが,生徒のネガティブな発言がどうしても気になります。

最近,友達とお喋りしたいとか授業に口出ししたい系の何人かの生徒が自分でZoomのミュートを外して,いつでも話せるようにしています。
教室でも彼らはクラス全体に聞こえる声で自分の気持ちを吐露したり,教室の反対側の友達と喋ったりするタイプの子なんだろうと思います。まだ会ったことないけど。
自分も年度(クラスの雰囲気・クラス内の立ち位置)によってはそういうことをするタイプだったので気持ちはよく分かります。

ただ,この手の生徒はどうしてもネガティブな発言が目立つ印象があります。
「難しいなぁ〜」とかは全然気にならなくても,「分かんねぇよ」と言われると…。
この日の授業は数人の生徒が「分かんねぇよ」モードに入る時間帯があり,それを全体に聞こえる状態で言われてしまったのでちょっと辛かったです。

ただ,授業の終盤にその日のまとめに繋がるような発言をしてくれたのも彼らでした。
「塾の先生も言ってたんですけど,日本語と英語は概念が違うから,そのまま訳そうとしても上手くいかない」
「最初から機械翻訳っぽい日本語を作っちゃえばいいんだ」

これらの発言は彼らの授業全体での発話の1~2割程度に過ぎませんが,この1~2割のために8割以上の(不要な?)発言を極力咎めない我慢が必要なのかもしれません。

いずれにせよ,時間配分や課題の見せ方も含めて,非常に反省点の多い授業でした。
アイデアは好きだっただけに悔しいです。

今後の機械翻訳使用

今回の授業で最後に以下のことを伝えました。

機械翻訳を正確に使えることも一種の「外国語運用能力」だと僕は思います。
ただ,今回の授業があったことをいいことに,何をするにも機械翻訳を使うのはやめましょう。
テニスのボレーがめちゃめちゃ上手い前衛のスペシャリストは確かにかっこいいけど,
日々の練習で周りが何をしていようと自分はボレーの練習しかしないというのは変だよね。
機械翻訳のスペシャリストになりたければそれは構わないけど,
こちらから「今は違うよ」「今回は機械翻訳無しね」と言う時は,自力で頑張ってください。 

この締めの言葉をどれぐらい素直に受け止めてくれるかは分かりません。
実際,リモートで授業や課題をしている間は機械翻訳の使用を強制的にやめさせることは不可能です。
ただ,教師からのメッセージとしては明確に伝えておくべきかな,と。

今年は中間テストの通常通りの実施が恐らくできません。
代替課題としてレポートなどを課すことになると思うのですが,「授業をしっかり聞いていないと難しい課題」にすることが各教科で統一される予定です。
これを読んでくださっている英語の先生方に一つ問いたいのは,「『授業をしっかり聞いていないと難しい英語の課題』とは何か」です。

その答えは自分も今ここで明確に出すことはできないので今後の記事で書ければ,と思います。

レポート等の課題となれば恐らく機械翻訳を使わせないことは非常に難しいと思います。
そもそも,英語のレポートを書くのに機械翻訳に一切頼ってはいけないというのも実際おかしな話だと思います。
英語の先生になるぐらい英語をやった人なら誰もが機械翻訳も頼りながら何かを書いたりしたことがあるのではないでしょうか。

そういうモヤモヤがありつつ,「機械翻訳にかけときゃいい,楽勝」とだけは思われたくないなという想いからの授業でした。

オマケ: 事前に想定していた授業の流れ

この実践を更にブラッシュアップして追実践していただける方がいると信じて,一応授業の想定を簡単に整理しておきます。
そもそもこれを実質35分のオンライン授業の中でやろうとしたことが無茶だったか…。

① 田中くんの書いたレポートの内容をザッとおさらい
② 「田中くん含め多くの提出物の中に機械翻訳にかけたと思われるミスがあったよ」「もっと上手に機械翻訳を使えるようになろう」
③ 活動の流れを説明 (スライドをスクショ→ブレイクアウト→メインセッションで提案→実際に確認。こちらも答えを用意していることは言わない)
④ 田中くんの日本語と誤って訳された英語【1】を紹介
⑤ ブレイクアウト(3~4人のグループ)→メインへ帰還→班で出たアイデアをシェア
⑥ 実際にgoogle翻訳にかけてみる (画面共有かスライドに投影)
以降,【2】【3】についても④~⑥を繰り返し,最後まで終わったら,こちらから締めの言葉。(上掲)

正直想定通り行かない部分も多く,そもそも想定が緩すぎたことがよく分かります。
是非,より慎重な想定をした上で追実践をしていただければと思います。
そして,その実践の成果をお聞かせください。

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